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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第20章 魔法学校夏至祭編
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雑貨屋の弱点と魔法学校からの招待状

【あらすじ】魔女の犠牲のもとに概念の怪物を追い払い、借金を一部返済したが、三日も続く長雨の朝、クレーマーモンスターが襲ってきたが無事に塩素系洗剤で倒したが……。


【登場キャラ】

クタニ:主人公。転生者。戦闘力ほぼゼロ。粘土をこねて作品を作ると焼きあがる特殊スキルがある。たまに創作物が特殊な力を持つ。焼き物作り担当。


ルルドナ:クタニの涙入りのハニワ土器から生まれた少女。赤茶色の髪に喫茶風の和服。元AI彼女。強気だが感情に乏しい。重力魔法が使える。雑貨屋メンバーでは最強? 会計担当。


スコリィ:高身長のストーンピクシー。雑貨屋に借金があり、バイトして返そうとしている。魔法は石と風の合成魔法。「~っす」が口癖。仕入れ担当。


イゴラ:背の低いゴーレム少年。ふもとの村のパン屋にいたが今は雑貨屋の専属のパン職人。防御魔法が得意。最近はパン魔法も使えるようになってきた。


ライムチャート:イゴラくんの妹だが、樽のようなレンガの帽子をした人型の姿をしている。引きこもり気質で、ボサボサの髪、よれよれのハイジ服。神とゴーレムの融合存在で、イゴラくんに魂を定着させている。兄の魔力が不安定になったときに出現する。還元魔法が使える。


ペッカ:フォレストミニドラゴン。裏の山にいた。普段は柴犬サイズ。暗闇が苦手。木彫り細工が得意。飛翔能力を活かして、配達担当。


ガディ:悪魔と水の精霊から生まれたデビルガーゴイル。お嬢様で世間知らず。見た目は聖女のように美しいが、戦いのときなどチンピラのようにキレる。店番と窓掃除担当。


スラコロウ:固い体のさいころ状のスライム。レアな解呪魔法が使える。焼き物の型担当。


「本日夕方のタイムセールは僕が行きます」


モンスターを倒すのに塩素系洗剤を全部使ってしまったので、僕が行くことになった。

反省交じりの言葉にルルドナは満足げにうなづく。


「よろしい。三時半から並ぶのよ」


僕とルルドナのやり取りにあきれた様子で、スコリィが頭の後ろに手を組んで言う。


「てんちょー、アホなことやってないで、メンバーのバランス考えたがいいっす。ここのメンバーって、属性が偏りすぎっす」


「え? 属性?」


キョトンとした顔を向けると、隣にいたガディが答えてくれる。


「そうですね。ワタクシも気になってました。水や土、木の魔法、高度な召喚魔法や闇魔法、解呪魔法や重力魔法を使うメンバーはいるのに、火を使うメンバーがいません。ふつうは真っ先にメンバーに加えたいところです」


指摘されて初めて気が付く。


「確かに多様だけど、火の魔法を使えるメンバーがいないな。生活で火を使うとき、みんなマッチ使っているし」


そもそも冒険に出ることを想定してないし、雑貨屋するだけなら、マッチで十分なんだよなぁ。


「だけど、……さ。皆の心の中には情熱の炎があるからいいんじゃないのかな?」


とっさ思いついたことを言ったが、案外うまく言えた気がする。


「人材募集めんどくさいだけでしょ」

ルルドナにツッコミを入れられる。


「ばれたか。というか、ペッカはドラゴンなんだから火を吹いたりできないの?」


「フォレストドラゴンは唯一、火を扱えない、……いや扱わないドラゴンだ。他の種とは品格が違う」

誇らしげに口の端を上げるペッカ。少しは申し訳なさそうにしてほしい。


まあ確かにそうだよね。使えるなら使っているよね。ドラゴンのくせに普段からマッチ使っているし。

手先が器用なフォレストミニドラゴンを見つめる。


よく考えたらミニサイズとはいえ、ドラゴンがマッチ使うってどうなんだ……?


悩んでいるとスコリィが欠伸交じりに言う。


「ふああー。どっちにしてもシフト交代の時間っす。モンスターの件は一件落着したみたいっすから、アタシは帰るっす。会議もどうでもいいっす」



「なんで私のいないときにそんな会議しているのよ」ルルドナに指摘される。


「だって、考えることなんてお見通しでしょ?」

「まぁ、……ね」

そう、彼女は僕の涙からできているから、なんとなく思考パターンがわかるようだ。


ペッカが改めて、という感じで言う。

「会議などはどうでもいいが、弱点を補うことはいいことではないか?」


「『経営者は弱みに気を取られてはならない。強みに集中しなればならない』って経営の神様が言ってたよ」


「もっともだが。異世界では事情がちがうぞ。今回のように襲われたらひとたまりもない。弱点を補う戦略をとるべきだ」


少しだけ経営の知識のあるペッカが僕に注意する。


ドラゴン族は、魔王モール勢力に対抗するため、経営学を勉強したらしい。


僕は顎に手を当てて言う。

「じゃあ炎か雷の能力が使える新しい店員を探す?」


「それなら、炎の魔法が使える料理人が欲しいっす! 肉を一瞬で焼いてくれるやつ!」とワンパク少年みたいに腕を上げるスコリィ。お前帰るんじゃなかったんかい。


僕は肩をすくめていう。

「先日での祭りの売り上げは借金返済に使ったから、料理人なんて雇う余裕はないよ」


だけどメンバーの反応は意外なものだった。

「いや、料理人を雇えば、売り上げアップ間違いないぞ」と興奮気味に言うペッカ。

「ワタクシ、おいしいスープを作れる方がいいです」とお嬢様モードに戻ったガディ。


相変わらず僕の言葉はみんな聞いていない。

久々に重い雲が取れた空を見上げる。


「……新しい仲間、ねえ」


……つい元の世界のことを思い出す。一瞬でも自分が幸せになりたいと思ったら、周りの敵意が降ってくる世の中。子供や女性には優しく、おっさんにはきわめて厳しい世界。


さらに、もっと古い記憶を――。いや、それはやめておこう。


そんなことせずとも確信した。


「……よし、次はおっさんを雇おう……!」


「なんでそうなる!」珍しいペッカのツッコミ。


「うるせぇ! 綺麗で可愛いキャラばかり集まりやがって! 男成分が足りないんだよ!」


綺麗で可愛いという言葉に反応して皆がモジモジして照れだす。


「否定しないんかいっ!」


しかしあきらかに僕だけ標準不細工だ。よくいる不細工だ。若返り転生した僕は20代半ばくらいの姿と体力になっていたが、基本は不細工だ。


――しかも、若い記憶の大半はなくなっており、ほぼ三十過ぎのおっさんになってからの記憶しかない、純粋培養のおっさんだ。


「男なら僕もいますよ」

イゴラくんが慰めの声をかけてくれる。


「一番モテているのはキミだよ……。小さな心優しきゴーレムくん」

「そ、そんなことないですよ」


冷静に考えたらこの店の女性すべてに好かれている。


ペッカが僕の前に出てくる。

「俺様も男だが」


「伝説級の存在は例外だよ。ミニサイズだし。ドラゴンのくせに可愛すぎなんだよ」


「わがままな奴だな」


プイとそっぽを向く小型ドラゴン。周りの女性メンバーがその様子をニコニコとその様子を見つめる。


「オイラたちスライムは分裂して増えるからモテるとか感覚がわかんねえな。高等生物はめんどくっせえなぁ」


あきれたようにスラコロウが言う。お前は同族だと思っていたのに……。


「……いや、もうわかった。……この店に今必要なのは、おっさん! 火の魔法が使えるおっさん! 爺さんでもいいな! 僕中華が好きだから中華料理人がいいな!」


「なんて限定的な……中華の達人がこんな店に来てくれるわけないでしょう? 店長さんって現実を知らなさすぎですね」


箱入り娘のガディが僕を非難する。すべての人間が二重人格だと思っているくせに。


異世界に中華料理が浸透しているのが怖い。華僑の力おそるべし。


「ともかく、火属性魔法の使える中華料理人のおっさん社員募集のビラを配る」

「絶対に集まんないっす!」


スコリィのツッコミをスルーして僕はクールに続ける。

「かつて経営の神様は言った……『コミットメントなしに成果をあげた例はない』と。コミットメント、すなわち情熱だ」


どや顔でいうとペッカがまたツッコミをしてくる。


「情熱の方向間違えてないか?」


「……なんかもうくだらないわね。好きにしていいわよ。……じゃあ、私は寝るわ」


ルルドナが欠伸をする。


……そうだった。彼女は夜行性で、昼間は強制的に眠って、起きているのはせいぜい9時半くらいまでだ。彼女はふらふらと店内へいき、ハニワの土器の中に入り目をつむって固まってしまった。


「じゃ、あたしも帰るっす」スコリィも帰路につく。


「ボクはパンを焼いてきます」イゴラくんのパンはここのメイン商品だ。


「ではワタクシは掃除をして店番しますね」ガディは水魔法で器用に掃除を始める。


「俺様は配達に行ってくるか」ペッカがお昼の配達に向かう。


皆が自然と自分の役割に戻る。……店長である僕の意見を誰も求めていない。


なんて理想的なチームなんだ。リーダーの意見なく持ち場に戻るなんて。さっきの経営会議は何だったのだろう。


みんなが自分の持ち場に戻る中で、なぜか僕だけが少しだけ胸に空白を感じていた。


「……じゃあ僕は粘土細工作りに行くか。手伝ってスラコロウ」

「おう」


店に入る直前、振り返って雲の間から差し込む光に僕は目を細める。

――今日は少し蒸し暑くなりそうだ。



『何をかっこつけているんだ君は』



ふと、魔女の声が聞こえたような気がした。


家のほうを振り返るが、求める影は見えない。


静かな建物と裏山がただ広がっていた。


魔女の残した家。きっと孤独に研究していた彼女を見守ってきた家。


命の時間と引き換えに、この家を、概念の怪物から守ってくれた魔女。


――ここだけじゃない。きっとあのとき、世界も守ってくれた。


彼女はいったいなぜそんな使命感をもっていられたんだろう。その真意は、謎のままだ。


異世界に転生して、粘土をこねながらスローライフをしたいだけだったけど、……きっともう無関係ではいられない。無関心ではいられない。


***

――その予感は当たり、三日ほどして招待状が届いた。差出人は、……魔法学校。

のんびりスローライフはできそうにないとの予感は当たり……、次から魔法学校夏至祭編です。


長かったので分割しました!


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