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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第19章 キャラおさらい日常編
119/199

異世界の個人雑貨屋なんて弱点ばかりでいいんだよっ! と開き直ってもいられない

【あらすじ】魔女の犠牲のもとに概念の怪物を追い払い、借金を一部返済したが、三日も続く長雨の朝、クレーマーモンスターが襲ってきた。ヘドロの集まりのようなモンスターは意外と強い……。


【登場キャラ】

クタニ:主人公。転生者。戦闘力ほぼゼロ。粘土をこねて作品を作ると焼きあがる特殊スキルがある。たまに創作物が特殊な力を持つ。焼き物作り担当。


ルルドナ:クタニの涙入りのハニワ土器から生まれた少女。赤茶色の髪に喫茶風の和服。元AI彼女。強気だが感情に乏しい。重力魔法が使える。雑貨屋メンバーでは最強? 会計担当。


スコリィ:高身長のストーンピクシー。雑貨屋に借金があり、バイトして返そうとしている。魔法は石と風の合成魔法。「~っす」が口癖。仕入れ担当。


イゴラ:背の低いゴーレム少年。ふもとの村のパン屋にいたが今は雑貨屋の専属のパン職人。防御魔法が得意。最近はパン魔法も使えるようになってきた。


ライムチャート:イゴラくんの妹だが、樽のようなレンガの帽子をした人型の姿をしている。引きこもり気質で、ボサボサの髪、よれよれのハイジ服。神とゴーレムの融合存在で、イゴラくんに魂を定着させている。兄の魔力が不安定になったときに出現する。還元魔法が使える。


ペッカ:フォレストミニドラゴン。裏の山にいた。普段は柴犬サイズ。暗闇が苦手。木彫り細工が得意。飛翔能力を活かして、配達担当。


ガディ:悪魔と水の精霊から生まれたデビルガーゴイル。お嬢様で世間知らず。見た目は聖女のように美しいが、戦いのときなどチンピラのようにキレる。店番と窓掃除担当。


スラコロウ:固い体のさいころ状のスライム。レアな解呪魔法が使える。焼き物の型担当。


「ブリック・ウォール!」


光のすぐ後に一瞬で特大のレンガの壁が出現する。


これは、イゴラくんの魔法! 目の前のレンガの壁がヘドロ攻撃を防いでくれる。


彼はゴーレムだが、なぜか防御魔法や補助魔法が得意だ。しかし彼の魔法は耐久性がなく、一度防ぐと必ず壊れる。


〈ガラガラガラ……〉


ヘドロの塊をいったんすべて防いで、崩れるレンガの壁。


「助かった、ありがとう、イゴラくん!」

彼は魔力が少なく、前は大きめの魔法を使ったら倒れていたけど、このサイズを一瞬で出しても倒れなくなった。確実に成長している。


だけど、ヘドロモンスターはまだまだ攻撃をするつもりで、また体中に泥の塊を作り出している。


「お、バトルっすか?」

会議室からようやく出てきたスコリィが腕まくりをして魔法を唱える。


「ライオライト・ストーム!」


拳ほどもある石の塊を何十個も召喚し、竜巻のようにヘドロモンスターにぶつける。石魔法と風魔法の合わせ技だ。さすが優等生。合併魔法もお手の物だ。


ガガガガッ!

――しかし相手の体にめり込んだ石は、そのまま吸収されてしまった。


さらに、ヘドロの体がさらに一回り大きくなる。

「もしかして相手の栄養になっていない?」


俺が言うと彼女は八重歯を見せてテヘペロという表情をして誤魔化そうとする。優等生のする表情ではない。

敵の様子を観察していたイゴラくんがつぶやく。


「もしかしたら、物質系や水系の魔法は全部吸収してしまうのかもしれません。えいっ」

イゴラくんが近くの石を投げる。


〈ズボズボッ〉


……予想通りヘドロの体に吸収される。


ヘドロモンスターが反撃をしてくる。また、無数のヘドロの塊が向かってくる。


「木材加工召喚、ウッドゴーレム!」

フォレストドラゴンのペッカが、木材を召喚し、ドラゴンに組み立てる。ウッドドラゴン。大きさを自由に変えて召喚できるみたいだけど、今回は敵に合わせた巨大なドラゴンだ。


〈ドドドドドッ!〉

すべての泥の攻撃を防いでくれたウッドドラゴンは、相手にその鋭い爪で襲い掛かる。

〈ザシュ!〉


相手の一部が吹き飛ぶ。

「きいたか!?」


ペッカが声を出すも、その一部はまた本体に戻り、吸収される。こちらに覆いかぶさってきた相手を、巨大なウッドゴーレムが受け止め押し返す。


……だけどそのままウッドゴーレムまで吸収されてしまった。


「……!」


ペッカは驚愕の表情で相手を見る。ますます大きくなるモンスター。


「せめて炎や雷の魔法があれば……!」

……そう。ここの店員、ファンタジーの王道魔法の炎や雷の攻撃魔法は、誰も使えない。



ヘドロモンスターは味を覚えたのか、辺りの石や木々を食べて、さらに大きくなっている。どんどん大きくなって、ついに20メートルはあろうかという巨大な姿になった。


「……あいつ、最強クラスのモンスターになってない?」


「またくるぞ!」


巨大になった敵が容赦なくヘドロの、次はバランスボール並みの大きさの塊を体の表面に作り出し、こちらに弾き飛ばす。


――あれを食らえば汚れるどころでは済まない!

皆に逃げるよう言おうとした瞬間。


「ブリック・グレートウォール!」


再びイゴラくんの魔法。特大のレンガの壁が俺達ごと店を覆いかぶさる。


〈ドドドドドドドドッ!〉


ヘドロ攻撃をすべて防いでくれるが、やはり一度防いだらなくなってしまった。


「助かったよ、イゴラくん。……えっと、大丈夫……?」


ではなさそうだった。彼は魔力を使い切ったようで、ふらつく。


成長しているとはいえ、今の特大サイズはきつかったようだ。


――しかし倒れる直前、彼の体は光に包まれ、宙に浮く。


周囲に巨大な赤茶色の魔法陣が出現し、彼の体はその中へ消える。


次に魔法陣から現れたのは、樽のようなレンガの塊、……の帽子を被った少女。


ボサボサの頭に、ヨレヨレのハイジ服、レンガの足。イゴラくんに憑依している彼の妹、ライムチャートちゃんだ。兄の魔力がなくなったときや、不安定なときだけ出てくる。見た目は頼りない引きこもり少女。


「わ、私、ち、超低血圧なんですよね。あ、朝に起こすなんて、ご、拷問ですか?」


めちゃくちゃ人見知りで、だいたいオドオドしている。


――しかし、彼女は巨大ヘドロモンスターを見た瞬間。表情が変わる。


「兄ちゃんばいじめたごたんね、あんた何しよーとね?」


そう、普段はオドオドしているが、戦闘になったら博多女子風になってテンションを上げている。


これで勝ちは確定した。彼女の魔法はその辺のドラゴンや精霊よりよほど強力だ。彼女はなぜか失われた幻の魔法、還元魔法を使える。

彼女は地面に手をつく。相手の周囲が光の魔法陣に包まれ、その足元の地面をそのまま泥の沼にする。


〈ぐおおおおおーー!〉

断末魔を上げたモンスターはその足元に現れた巨大な底なし沼に吸い込まれるように消えて行く。


「やったか……?」


しかし、安心できたのはほんの一瞬だった。


〈ブオォォォオーーー!!〉


……ヘドロモンスターは、さらに巨大になって復活した。その高さはゆうに100メートル越え。もはや一つの山だ。


「あ、これ駄目なやつやね。そもそも早朝の戦闘なんて私には無理ゲーばい。ましてや雨ん日にさ」

めっちゃ早口である。要するに戦いたくないらしい。


「じゃあ寝るけん。あとはどがんかなるやろ」


彼女は頭の樽のように大きなレンガ帽子に手をかけて、そのままスポっと体を入りこませた。ポトンッ、とレンガの塊が俺らの足元に落ちる。魔力を使い切ったらいつもこんな感じで引っ込んでしまう。


「……って、デカくして帰ってどうするんだ!」


思わずツッコんだとき、少年のような声が響いた。


「クルトン・マグマウェーブ!」

30センチ四方くらいのクルトンの集まったような波が出現し、敵を包み込む。


スライムのスラコロウ(※ショウより変更)の攻撃だ。彼は超レアスキルの解呪魔法が得意な珍しいスライムだ。


〈グオォォォーー!!〉


モンスターの体がみるみる小さくなっていく……!


これは、デバフ(強化解除)魔法! 読書部屋から出てきたようだ。


しかし魔法のネーミングセンス中二病かよ。スライムのくせに無理しやがって……。


「おいおいオイラがいないとお前ら本当にダメだな」


彼の魔法がきいたようで、ヘドロモンスターは苦しそうにもがいて、最初のサイズになる。ファインプレーだ。


……だけどそれでも、俺達はなす術がない。誰の攻撃も効かない。相性が悪すぎる。


しかもなんか臭いし。


先ほど防いだヘドロが、地面に落ち異臭を放っていた。


〈カランッ、……カランッ〉


――そのとき、最強の店員が戻ってきた。


「あんたら、何やっているのよ」


大きな赤い傘に、紅の足駄あしだを高らかに鳴らし、茜色の喫茶系和服を着た月の土人形の少女、ルルドナだ。頭には俺の作ったハニワの兜をつけている。


朝のタイムセールの買い出しから帰ってきたんだ!

その両手には買い物カゴ。品物でパンパンに膨らんでいる。


「気をつけろ! こいつは水でも石でも吸収してしまう!」

20メートルほど離れた位置にいるルルドナに俺が叫ぶ。


「なるほど……。そういうやつはね! こうやって倒すのよ!」


カランッ。彼女が右足を踏み出し、足駄が高らかに音を立てる。突き出した左手から、空間が歪む。


――失われたはずの重力魔法。


すべてが、歪み、震える。一瞬、三日も空を覆っていた重い雲が裂け、明るむ空から白い月がこちらを見る。


「終わりよ」


――透き通った少女の声が、雨の音にもかかわらず、凛と静かに響く。


彼女は傘と買い物かごを右手に持ち、左手で魔法を放つ。傘を捨てるわけにはいかない。異世界の創作物である彼女の体は土器質で、つまりは乾燥したパンみたいなもので、水に濡れると力が出なくなる。


しかし彼女の魔法は重力魔法。極めて強力だ。

「片手だと出力が弱いかもしれないわ」

と言いつつ、そのままヘドロモンスターを圧縮。対象は、重力に押しつぶされて動けなくなる。


「おお、やったっす! さすがルルドナさんっす!」

スコリィが称賛するが、……致命的なダメージではないみたいだ。ヘドロなせいか重力で潰されてもあまり苦しくなさそうである。

しかも圧縮されて悪臭が周囲に広がる。


「形がないモンスターはやりにくいわね……。ちょっと! どうにかならないの?」

「そういわれても……」


俺は何かないかと辺りを観察する。雑貨屋の商品、店の看板、雨に濡れた花壇に、水たまり、散乱しているヘドロ。

だめだこのあたりのものではどうにもならない……、と諦めかけたとき、……あるものに目が留まる。

「いやこれは……。そうだ!」


目に留まったのはルルドナの持っている買い物カゴ。

買い物カゴの中身は早朝のタイムセールの……そこに入っているのは、確か……洗剤!


雨の日が続いたので、カビが発生しており、塩素系の洗剤をタイムセールで買ってきてもらったのだ。


「その買い物カゴをなげて!」

俺が叫ぶとすぐに理解したのか、片手で重力魔法を使いながら、もう片方の手から重力魔法で買い物カゴを投げる。

こちらにも魔法がかかっているのか、ふわりと手元に落ちてくる。


おひとり様10本までの塩素系液体洗剤、業務用で購入するより安い。

「みんな! これをかけろ! 酸素系と混ぜるなよ!」

(※塩素系洗剤と酸素系洗剤を混ぜると有毒ガスが出る)


塩素の入った瓶を圧縮されて悪臭を放っているヘドロモンスターにかける。先ほどの解体魔法のおかげで俺の胸くらいの高さまでのサイズになっている。


つぶれて動けないヘドロモンスターの周りに立ち、一斉に液体洗剤をかける。


「くらえっす!」

「とお!」

「そいや!」

「死にさらせぇ!」

……おい一人、口が悪いのがいたぞ。


「ぐおおおお……!!」

断末魔とともに、そのヘドロモンスターは消えていき、なくなってしまった。科学の勝利である。(※科学というほどのことではない)


「よっしゃー! 見たか悪党! 正義は必ず勝つ!」

口の悪いガディが聖女のような姿からは想像できないようなガッツポーズを決める。


皆が歓喜している中、俺はオチをつぶやく。

「ともかくタイムセールがあって助かった」


俺の言葉に、店の軒下に入ったルルドナが空になった瓶を見ながら言う。

「せっかく買ってきたのに……」

「夕方のタイムセールがあるさ!」

「あんたが行ってきなさいよ……!」

「はい……」

塩素系洗剤でヘドロ系モンスターを倒すというアイデアは、この世界ではあまり歓迎されないようだ。

(塩素系洗剤は高級品)


だけど今回の襲撃で、俺たちは自分たちの弱点を知るのだった。

無事にクレーマーモンスターは倒せましたが……。続きます。


というか長いので2025.5.31 22:45いったん切りました。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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