雑貨屋の経営会議とクレーマーモンスターはワンセット
【あらすじ】魔女の犠牲のもとに概念の怪物を追い払い、借金を一部返済し、雑貨屋に一時的な平穏が戻ったようだが……。
【登場キャラ】
クタニ:主人公。転生者。戦闘力ほぼゼロ。粘土をこねて作品を作ると焼きあがる特殊スキルがある。たまに創作物が特殊な力を持つ。焼き物作り担当。
ルルドナ:クタニの涙入りのハニワ土器から生まれた少女。赤茶色の髪に喫茶風の和服。元AI彼女。強気だが感情に乏しい。重力魔法が使える。雑貨屋メンバーでは最強? 会計担当。
スコリィ:高身長のストーンピクシー。雑貨屋に借金があり、バイトして返そうとしている。魔法は石と風の合成魔法。「~っす」が口癖。仕入れ担当。
イゴラ:背の低いゴーレム少年。ふもとの村のパン屋にいたが今は雑貨屋の専属のパン職人。防御魔法が得意。最近はパン魔法も使えるようになってきた。
ライムチャート:イゴラくんの妹だが、樽のようなレンガの帽子をした人型の姿をしている。引きこもり気質で、ボサボサの髪、よれよれのハイジ服。神とゴーレムの融合存在で、イゴラくんに魂を定着させている。兄の魔力が不安定になったときに出現する。還元魔法が使える。
ペッカ:フォレストミニドラゴン。裏の山にいた。普段は柴犬サイズ。暗闇が苦手。木彫り細工が得意。飛翔能力を活かして、配達担当。
ガディ:悪魔と水の精霊から生まれたデビルガーゴイル。お嬢様で世間知らず。見た目は聖女のように美しいが、戦いのときなどチンピラのようにキレる。店番と窓掃除担当。
スラコロウ:固い体のさいころ状のスライム。レアな解呪魔法が使える。焼き物の型担当。
――その日はあわただしい始まりだった。
……長く続く雨、経営会議、クレームモンスター。
「それでは経営会議を始めます。経営の神髄について考えよう」
朝の9時。朝の総菜購入ラッシュが終わった後の控室。
――魔女がいなくなってから、皆で集まって会議するのは初めてだ。
店長の俺は、カビ臭い部屋に店員たち(スコリィとイゴラくんとペッカ)を集めて会議をしていた。窓の外は三日も続いているしとしとと降る長雨。
転生して、騙されて家と山を買って、10億の借金を背負った。それでも、つい先日、運良く3億円を返済できた。偶然手に入ったお金だから、余計な事業には手を出さず、返済に回した。そのせいで今はお金がない。
「なんすか藪から棒に」
ストーンピクシーのスコリィが椅子の上にヤンキー座りをしてこちらを睨みつける。夜勤明けの不機嫌な様子が見て取れる。
「この店の理念というか、目標を決めようと思ってね。目標を共有すれば今後ピンチになっても一丸となって戦える」
ため息をつくスコリィ。身長180センチもあろうかという彼女は、ストーンピクシーという変わった種族だ。
「経営の意味とか考える前に、給料上げてほしいっす」
スコリィの場合、給料上がっても借金返済にあてられるだけだが。しかし……鋭い。バイトの給与も上げずに経営理念などあったものではない。直感が鋭いのはピクシーの特性らしい。
しかし俺はごまかす。
「給与交渉は春闘バトルのときだけって言ったでしょ!」
(※春闘とは、日本において毎年2月頃から行われるベースアップ等の賃金の引上げや労働時間の短縮などといった労働条件の改善を交渉する労働運動である。「春季生活闘争」、「春季労使交渉」、「春季闘争」などの呼称もある。wikiより)
言ってないけど。
スコリィは「そうでしたっけ?」と首をかしげる。……こういう素直なところ、アホだけど助かる。
改めて最初の店員である彼女を見る。
八重歯の笑顔がチャームポイントのピクシー。細い体に若草色のロングヘア、へそ出しのジャージのショートパンツを着ている。ピクシー特有の半透明の羽は退化しているらしく、幼児がお遊戯ときにする飾りくらいのサイズで、背中にかろうじて見える程度だ。
「まあ、アタシは推し活に使っちゃうんすけどね」
八重歯を見せて無邪気に笑う。背が高いのを気にしているが、普段は強がって表に出さない。
彼女はピクシーらしく夜行性なので夜勤によく入ってもらっているが、目利きもできるので仕入れも担当してもらっている。
「とにかく、雑貨屋経営の真髄を考えて!」
半ばやけになった俺が机をたたいていう。こういうとき、あの魔女なら、きっと愉快にみんなをまとめることができただろうと、頭の隅で懐かしむと、イゴラくんが手を上げて発言してくれた。
「あの……経営に必要なのは、目標じゃなくて強さじゃないでしょうか」
彼は体の小さなゴーレムだ。150センチくらいの小柄な体。力はあるが、小さくて体力がないことを気にしている。この店のパン職人である。ここは雑貨屋だが色々あってパン職人として働いている。
「いいっすね! 素敵っす!」
スコリィが拍手しながら大きな声で賛同する。スコリィはイゴラくんの意見はだいたい肯定する。
俺はそれを無視してイゴラくんの話を促す。
「ほう、その心は?」
「強さには、力や魔力の強さだったり、意志の強さだったり、色々ありますが、経営にもその芯となる強さが必要だと思います」
みんな一瞬しんとなる。
……何かもうここで終わりそうなくらいしっかりした意見が出てしまった。
彼は魔法学校では学科優等生だったらしい。立派な返しを思いつかずに俺が言いよどんでいると、続く言葉があった。
「いやまて。それでは店として力強い理念のみあればいいのではないか? 経営力や戦闘力など後からついてくる」
という意見を言ってきたのはフォレストドラゴンのペッカ。正式名はやたらと長かったので忘れた。彼は緑色の肌に立派な羽のついた、柴犬くらいのサイズの子どもドラゴンだ。コモドドラゴンではない。
最近一人暮らしを始めたドラゴンで、裏の森にいた。暗闇が怖いらしく、夜勤は絶対に入らない。
「一理あるな。だけどそれは強いドラゴンだから言えることかもしれない。一つの重要な意見として保留しておこう。他に意見のある者は?」
調子を取り戻した俺はまるで大講義室で白熱授業をしているトップ大学の哲学講師のようにふるまう。
……誰も何も言わないので自分で続ける。
「……いいか、よく聞いてくれ。ある哲学者はこう言った。『満足な豚であるより、不満足な哲学者でありたい』と。この言葉の解釈をだな……」
ドヤ顔でお気に入りの言葉を口にしたとき、運命が空気を読まず割り込んできた。
「てんちょーさーん!」
店の売り場から助けを呼ぶ大きな声。
皆で店の売り場に出ると、店番をしていたガディが半泣きで店の入口からこちらを見ていた。
彼女は悪魔と精霊の娘で、種族はデビルウンディーネだ。その肌は滑らかなガラス細工のようで、顔は聖女のように美しい。わが店の看板娘だ。ただ、世間知らずのお嬢様で、……たまにチンピラのようにキレる。
「このお客様、何か不満があるようで……」
店の前には、2メートルほどのヘドロの山に腕が生えたようなモンスターがいた。
ガディが何か聞き取ろうとしているがうまくいかないらしい。
ボゴボゴボゴ……、とノイズのような声を発している。
彼女は懸命に耳を近づける。四大元素精霊の母を持つので魔力は絶大だ。水に浸かると体力を全回復するので、無茶なシフトをしてもらっている。
「ガディ嬢、それは客ではない! クレーマーモンスターだ!」
ペッカがすぐに叫ぶ。ガディとペッカは伝説の生き物同士のせいか、意外と仲が良い。
にしてもクレーマーモンスターって、そのまんまクレームを言うモンスターかよ。
「グワァァァ、……コノ店、湿ッポイ……! 店長ヲヨベ……」
クレーマーモンスターが言う。湿っぽいのは俺の気質だからクレームされても困る。だけどこの店を侮辱するのは許さん……!
ていうか目の前にいるのに、店長だど気が付かれていない……?
「このモンスターは、クレームを言って、自分を正当化して、店を壊す気です!」
イゴラくんの解説! ありがたい!
続けてイゴラ君が解説をしてくれる。
「雨が続いて、腐っている奴らが集まりモンスター化したんだと思います!」
もう三日も降り続いている雨だ。その空気は確かに、何か不吉なものを招いてしまいかねない雰囲気をまとっていた。
……もしかしたらあの魔女なら、こんな雰囲気、一発で吹き飛ばしてくれるかもしれないけど。
腐っている奴らってなんで集まるんだろう。俺は湿っているが腐ってはいない。
「客じゃねえなら、帰りやがれ! ウォーターボール!」
口が悪くなったガディの水魔法攻撃!
雨粒が集まって巨大な水球になり、ヘドロモンスターにぶつかる。水の精霊のガディは、雨の日の戦闘では圧倒的な強さだ。だけど戦闘時は口が悪く性格もチンピラみたいになる。
――しかし相手はその水をすべて吸収して大きくなってしまった。その高さ、もはや5メートルを超えそうなほど。
「おいおい、なんだこいつ?」
俺の言葉を無視し、クレーマーモンスターは反撃といわんばかりに、こちらにヘドロを投げつける!
――まずい、あんなのが店の中に飛び散ったら……、掃除が大変だ!
「やめろ!」
両手を広げ体を張って前に出る。
そのとき、俺らを包み込むように光が広がった――。
さて、ヘドロのモンスターは無事に倒せるのでしょうか?
プロローグとして書いていたやつをリライトしました。
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2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!




