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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第17章 ワルプルギスの夜の宴編
111/198

月へ還りゆく魔女、本当の時間

【あらすじ】ワルプルギスの夜の宴をしていると、突如、”混沌の闇”が襲ってきた。圧倒的力の前になすすべのない一同。魔女が命を代償に時空魔法で追い払うが……。


【登場キャラ】

クタニ:主人公。魔力なしの転生者。家を買うが10億の借金を負う。雑貨屋を開業し店長をしている。創作物に特殊効果が表れる。

ルルドナ:月の石の創作物から生まれた少女。重力魔法が使える。

スラコロウ:体の硬さを気にしているスライム。特殊な解呪魔法を使える。雑貨屋一のインテリ。


ヒルデガルド:ワルプルギスの昼と呼ばれる伝説の魔女。クタニの家の前の持ち主。

魔女:赤い魔女、青い魔女、緑の魔女の三人がワルプルギスの夜の宴のためにきている。


混沌の闇:突如現れた、闇の塊。魔女ヒルデガルドは何か知っているようだが……。

***

古い歌が好きだった。


賢者が残した古い歌

勇者が残した古い歌

隠者が残した古い歌


嘘がない世界

謀りがない世界

裏切りがない世界


求めるは、ただ真実。


どの歌でも、歌うのは

真実とは――月。


ああ、やっと私は

そこへ辿りつけるのか。


***


――枯れ枝が静かに地に落ちるように、魔女は倒れた。


混沌の闇が夜空に消えたとき、

俺らを縛っていた魔力が解けて、ようやく体が動くようになった。


慌てて駆け寄り、魔女の身体を抱き起こす。


「……!」


その姿は、しわが刻まれた老婆になっていた。


「あまり見るな……醜いだろう?」


つばの広い魔女の帽子を深くかぶり直し、顔を隠す。


「……そんなことないですよ。飛び切りの美人です」


魔女はかすかに微笑んだ。


「ふふふ。最後に、良い弟子をもてて幸せだったよ……」


皆が立ち上がり、やってこようとするが、俺は静かに手を上げて制止した。


きっと見られたくないだろうから。


それに、この魔女にとって、……俺は特別な存在だから。


「最後だなんて言わないでくださいよ……」


「いや、最後だ。命を代償にしたんだよ」


気づけば、頬を伝う涙が止まらない。


「私なんかの最後には、もったいないくらいの涙だ……」


俺は首を振った。


「らしくないですよ、そんなこと言うの」


「いや、これが私さ。どれほど強い魔法を操れても、自信なんてない。ただの弱い存在だ……」


「そんなこと……。ほら、今だって、老婆のコスプレ魔法をしているんでしょ? 趣味が悪いですよ……!」


魔女は静かに笑った。


「そうだったら、良かったんだがね。この衣装は、初めて独り立ちした時に着ていた服だ。部屋の奥からスラコロウくんが持ってきてくれたんだよ」


「え……?」


スラコロウが静かに転がってきた。


「ああ。本を読んでたらとんでもないことになっていてな。気がそれてる間に衣装を渡したのさ」


魔女が力なく微笑む。


「スラコロウくん、ありがとう。おかげで全力が出せたよ。それに、私の蔵書をよく読み込んでくれたようだね。皆にいろいろ教えてやってくれ」


「ああ……!」

スラコロウが力強く返事をする。彼は俺よりずっと大人だ。

その返事のあと、三つの影が近寄ってきた。


「ヒルデ……!」


仲間の魔女たちがそっと近づく。


俺は顔を上げて、すがるように言った。


「そうだ! あなたたちなら、魔法で……!」


赤毛の魔女が悲しそうに首を振った。


「ごめんなさい……。私たちにはヒルデのような魔法は使えない。それに魔法で命を代償にしたら、どんな方法でも救えない……」


「そんな……!」


緑髪の魔女が口を開いた。


「でも……私たちの魔力を使えば、彼女の時間を少しだけ止められるわ」


その言葉に、ヒルデが必死で叫ぶ。


「そんなバカなこと、やめろ……! 私の数時間のために、君たちの数年を犠牲にすることになる!」


青髪の魔女が穏やかに微笑んだ。


「いいのよ、ヒルデ。あなたはいつも一人だった。あなたが何年分もかけて得た知識や魔法を、私たちはあなたから教わった。……これはお返しよ」


三人の魔女はそっと顔を隠し、魔法の光をヒルデガルドに放ちだした。


――そのとき。


〈グオオォォーーン!〉


不意に、不気味な声が響き渡った。


スラコロウが警戒したように叫ぶ。


「きたぞ……! 混沌の闇が残した“残留体”だ!」


夜空から、黒い怪鳥がゆっくりと旋回しながら降りてくる。

その姿はまるで闇を凝縮したようで、闇そのものが羽ばたいているようだった。


スラコロウが緊迫した声で解説する。


「あれは残留物キメラ……! 混沌が残した魔力の残留体だ。普通の魔法は通用しない。かなり強敵だぞ!」


「そんなの、どうすれば倒せる……?」


スラコロウはさっさと茂みに転がり隠れながら言う。


「呪いを喰らったら手伝うぜ。それまでは頑張れよ!」


「おいっ……!」


俺がツッコミを入れたが、茂みから返事はなかった。


ルルドナが俺の隣に立ち、静かに言った。


「細かいこと気にしている場合じゃないわ。来るわよ……!」

ヘルキメラは混沌の闇の残留物ですが、非常に強敵です。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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