月を食った魔女、命の燃焼
【あらすじ】敵のケイロンとも和解し、ケンタウロスや魔女たちと宴を楽しんでいたが、突如"混沌の闇"が襲い掛かってきます。魔女ヒルデだけが反応し、特大の防御魔法を使いますが、打ち破られ、吹き飛ばされます。
【登場キャラ】
クタニ:主人公。転生したが魔力なし。魔女のことを師匠と呼ぶ。
ヒルデガルド:伝説の魔女。
混沌の闇:宴の夜に突如やってきた存在。圧倒的な力を持つ。
そうだ。いくら強くなったって、概念の怪物にはかなわない
人が強くなっても魔王が強くなっても
この概念の怪物は、さらに強くなる
概念を超えるほどの力は私にはない。
むなしい、一人の魔女
仲間と修行しても一人で山にこもっても
遠い地に研究に行ってもむなしい
いったいどこに、強さはあるのだろう
***
「師匠ー!」
いつも、ふざけたかんじで、何でも知っていて、あっさりと劣勢をひっくり返す。
そんな存在が。
――吹き飛ばされた。
崖まで吹き飛ばされ、ピクリとも動かなくなる。
混沌の闇は静かにしゃべりだした。
〈下等ナ、存在ドモ……!〉
その声はまるで、闇の憎悪。頭の中に、恐怖が流れ込む。
全員が――その場に倒れこむ。
体が、……立つ方法を忘れてしまったかのようだ。
その闇がまとうのは、混沌の炎。闇そのものがゆらめき、闇を伝える。
あまりに常軌を逸している。
〈オ前ラハ、成功ユエニ、滅ブ……〉
全員、恐怖を前に動けない。
魔力を押さえつけられているようだ。
……こんな時くらい、俺が口を開かねば。
「何を、言っている!? なぜ、攻撃する!?」
〈……。スベテ魔力、吸イツクシタ。ナゼ動ク?〉
「こちとら最初から魔力なしで転生したんだよ!」
だけど、その恐怖で動けない。
冗談かというほどに足が震えている。
〈転生……? チガウ。オマエハ…… 〉
混沌の闇が、わずかに動揺を見せる。
俺は震える手で、ハニワを投げる。
力は入らなかった。願いだけがこもった、弱々しい投擲。
〈コロン……〉
それは、転がっただけ。動かない。
〈……理解デキナイ。オマエ、ソノ存在ガ〉
「あいにくな! 理解できないあおりには慣れてるんだよ!」
俺は試しに、七色に変わったガラスのかけらを投げてみた。
すると……ハニワが共鳴したかのように七色に光りだす。
〈グワングワン〉
光とともに空間がゆがんだ。七色の光とともに。
一瞬だけ、闇を、打ち消したように見えた。ぼんやり光の粒子が漂う。――が。
光が収まると、何事もなかったかのように闇が元の塊となる。
〈……ワカラナイ〉
期待もむなしく、混沌の闇は何のダメージも受けていない様子だ。
(こいつは、何か……次元が違う)ハニワは闇の魔法には強力な効果があったが、こいつは、違う。
闇じゃない。
混沌の何かを、”闇”としてしか認識できないんだ。
次の瞬間、かろうじて上げていた頭を、闇にたたきつけられる。
〈ドゴォ……!〉
地面に頭がめり込む。
「……っ!」
結局、俺なんて転生したとしてもこういう存在の前では無力なんだ。
懸命になっても、どこかで強大な敵にぶつかり、やられる。
あーあ、行動なんて起こさなきゃよかった。何て、無力。
――だけど、意味はあったようだ。
「よく、時間を稼いでくれた」
凜とした、魔女の声が聞こえた。
見たことのない姿をしている。
マントを広げ、杖を掲げたその姿は、まさに大魔法使い。
彼女が両腕を空に掲げた瞬間。
――風が、止まった。
空に、ゆっくりと淡い月の光が満ちる。
その中心に――彼女はいた。
彼女そのものが薄雲をまとったような月のように光を発する。
やがてその口から静かに魔法が唱えられる。
「時空魔法、コスモ・ウラノス」
その声と同時に、月光が渦を巻き、空に巨大な螺旋魔法陣が浮かび上がる。
〈ブォンブォンブォン〉
混沌が、螺旋に吸い込まれるように霧散し……、薄らいでいく。
その魔力に触れ、混沌の闇の怪物が驚嘆の声を上げる。
「……! オマエ、月、食ッタナ……! ソノ体、月デ、デキテイル」
「ああ、……うまかったよ」
こともなげに魔女は答える。淡い光の螺旋が彼女を包んでゆっくりと動いている。
混沌の闇は消える寸前に言い放つ。
「……ワレノ本体ガ生キ返ッタラ、マタ会オウ」
「それはできないな……。この魔法は、自身の生命を代償にしたのだから、もうすぐ、死ぬ」
魔女の言葉に、反応する存在は……ない。
混沌の闇は、少しだけ笑うような音を発し、霧散していった。
こうして、俺らを絶望のどん底に突き落とした混沌の闇は、消え去った。
そして――魔女がゆっくりと、倒れた。
タイトルから何からかけていなくてすみません。
魔女ヒルデの内心の詩を冒頭にのせています。
時空魔法を命と引き換えに使った彼女ですが……。
2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!
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