表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第17章 ワルプルギスの夜の宴編
110/198

月を食った魔女、命の燃焼

【あらすじ】敵のケイロンとも和解し、ケンタウロスや魔女たちと宴を楽しんでいたが、突如"混沌の闇"が襲い掛かってきます。魔女ヒルデだけが反応し、特大の防御魔法を使いますが、打ち破られ、吹き飛ばされます。


【登場キャラ】

クタニ:主人公。転生したが魔力なし。魔女のことを師匠と呼ぶ。


ヒルデガルド:伝説の魔女。


混沌の闇:宴の夜に突如やってきた存在。圧倒的な力を持つ。

そうだ。いくら強くなったって、概念の怪物にはかなわない


人が強くなっても魔王が強くなっても


この概念の怪物は、さらに強くなる


概念を超えるほどの力は私にはない。


むなしい、一人の魔女


仲間と修行しても一人で山にこもっても


遠い地に研究に行ってもむなしい


いったいどこに、強さはあるのだろう


***

「師匠ー!」

いつも、ふざけたかんじで、何でも知っていて、あっさりと劣勢をひっくり返す。


そんな存在が。


――吹き飛ばされた。


崖まで吹き飛ばされ、ピクリとも動かなくなる。


混沌の闇は静かにしゃべりだした。


〈下等ナ、存在ドモ……!〉


その声はまるで、闇の憎悪。頭の中に、恐怖が流れ込む。


全員が――その場に倒れこむ。


体が、……立つ方法を忘れてしまったかのようだ。


その闇がまとうのは、混沌の炎。闇そのものがゆらめき、闇を伝える。


あまりに常軌を逸している。


〈オ前ラハ、成功ユエニ、滅ブ……〉


全員、恐怖を前に動けない。

魔力を押さえつけられているようだ。


……こんな時くらい、俺が口を開かねば。

「何を、言っている!? なぜ、攻撃する!?」


〈……。スベテ魔力、吸イツクシタ。ナゼ動ク?〉


「こちとら最初から魔力なしで転生したんだよ!」


だけど、その恐怖で動けない。

冗談かというほどに足が震えている。


〈転生……? チガウ。オマエハ…… 〉


混沌の闇が、わずかに動揺を見せる。


俺は震える手で、ハニワを投げる。

力は入らなかった。願いだけがこもった、弱々しい投擲。


〈コロン……〉


それは、転がっただけ。動かない。


〈……理解デキナイ。オマエ、ソノ存在ガ〉


「あいにくな! 理解できないあおりには慣れてるんだよ!」


俺は試しに、七色に変わったガラスのかけらを投げてみた。


すると……ハニワが共鳴したかのように七色に光りだす。


〈グワングワン〉

光とともに空間がゆがんだ。七色の光とともに。


一瞬だけ、闇を、打ち消したように見えた。ぼんやり光の粒子が漂う。――が。


光が収まると、何事もなかったかのように闇が元の塊となる。

〈……ワカラナイ〉


期待もむなしく、混沌の闇は何のダメージも受けていない様子だ。


(こいつは、何か……次元が違う)ハニワは闇の魔法には強力な効果があったが、こいつは、違う。

闇じゃない。

混沌の何かを、”闇”としてしか認識できないんだ。


次の瞬間、かろうじて上げていた頭を、闇にたたきつけられる。

〈ドゴォ……!〉

地面に頭がめり込む。


「……っ!」


結局、俺なんて転生したとしてもこういう存在の前では無力なんだ。

懸命になっても、どこかで強大な敵にぶつかり、やられる。


あーあ、行動なんて起こさなきゃよかった。何て、無力。


――だけど、意味はあったようだ。


「よく、時間を稼いでくれた」


凜とした、魔女の声が聞こえた。


見たことのない姿をしている。

マントを広げ、杖を掲げたその姿は、まさに大魔法使い。


彼女が両腕を空に掲げた瞬間。


――風が、止まった。


空に、ゆっくりと淡い月の光が満ちる。


その中心に――彼女はいた。

彼女そのものが薄雲をまとったような月のように光を発する。


やがてその口から静かに魔法が唱えられる。

「時空魔法、コスモ・ウラノス」


その声と同時に、月光が渦を巻き、空に巨大な螺旋魔法陣が浮かび上がる。


〈ブォンブォンブォン〉

混沌が、螺旋に吸い込まれるように霧散し……、薄らいでいく。


その魔力に触れ、混沌の闇の怪物が驚嘆の声を上げる。

「……! オマエ、月、食ッタナ……! ソノ体、月デ、デキテイル」


「ああ、……うまかったよ」


こともなげに魔女は答える。淡い光の螺旋が彼女を包んでゆっくりと動いている。


混沌の闇は消える寸前に言い放つ。


「……ワレノ本体ガ生キ返ッタラ、マタ会オウ」


「それはできないな……。この魔法は、自身の生命を代償にしたのだから、もうすぐ、死ぬ」


魔女の言葉に、反応する存在は……ない。


混沌の闇は、少しだけ笑うような音を発し、霧散していった。


こうして、俺らを絶望のどん底に突き落とした混沌の闇は、消え去った。


そして――魔女がゆっくりと、倒れた。

タイトルから何からかけていなくてすみません。


魔女ヒルデの内心の詩を冒頭にのせています。


時空魔法を命と引き換えに使った彼女ですが……。


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!


感想・コメントお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ