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クレーマーは入れ代わり立ち代わりやってくる

助けを呼ぶ声のもとにいきますが、次は何が起こったのでしょう?

「え、誰」

声の主は当然スコリィだったが、店番をしている初めて見る顔に驚くルルドナ。彼女はフード越しでしかスコリィを見たことがない。だけど説明している余裕はない。「説明は後」と僕は客の前に出る。


「どうかしましたか?」

「あなたが、店長ですか。店があると思ってきてみたら、食べ物を売っているじゃないですか」

つばの広いとんがり帽子に、カマキリの目ようなサングラス、分厚いマスク。


「え。だめなんですか?」

僕は売ってある食べ物に視線を向けて、質問する。


「そうですよ! 衛生管理許可がいるんですよ! 許可証を何処かに貼らないといけません!」

金切り声を上げるおばさん。


「どうすれば許可もらえますか?」


「今からもらっても罰金ですよ! そんなことも知らないなんて! 経営者失格でしょ! 麓の警察署の横の建物でもらえます。罰金もそこで支払うのよ!」


「では、今から向かいます。罰金も払います。教えてくれてありがとうございます。これはお詫びです。もちろん無料です。どうぞ」

僕は昨日作った自慢のハニワ人形を渡してにやりと笑う。


クレームおばさんは明らかに動揺していた。

「な、何この、不気味な人形……。ゴーレム?」


僕が近くによって力説する。

「すごく良い品でしょ! この腕の曲線美! 目のくぼみ! 口の歪み!」

息を荒くして僕は詰め寄る。


「いいから、早く許可証をもらってきなさい! ほら、財布持って」


ルルドナに尻を蹴られてしかられる。「は、はい」と不意打ちを食らった僕は情けない返事をして出かける準備をする。


「じゃ、じゃあ、私はこれで。明日、また見に来ますからね!」

クレームおばさんは動揺した様子で立ち去った。


「あの人、転生者かな。ものすごく日本人ぽい」


「さあ? 正義中毒にでもなっているんでしょ。どこの国にも、どの世界にもたくさんいるわ。あまり相手にしたらよくないわ。いいからはやくいってきなさい」


ルルドナは僕より随分と慣れた感じだった。


**

「異世界人がこの村に店を? 冒険じゃなくて、店の経営? 何が目的?」

許可証を取りに行った僕は、役所でつめられていた。こういう空気は本当に苦手だ。現実でも何度もあった空気。結果はいつも悪い。


「ええ、まあ、縁がありまして」

「は? ツテがあったのかい?」

恰幅の良いパープルの不気味なコボルトに問い詰められる。


「転生先がこの村の外れだったので。マリーさんという工具店の人に手伝ってもらったりして……」

「ああ、マリーさんの! そういえばこないだ飲んだとき言ってたわ! 早く言いなさいよ! それならいいのよ! マリーさんはね、私飲み仲間なのよ!」


一気に雰囲気がなごむ。

「まあとにかく衛生講習受けてもらうから、ちょっと時間をもらうよ」

「罰金は?」


「ああ、いいのいいの。別に、お腹壊した人なんていなかったんでしょ? 明日からしっかり守って貰えばいいのよ。異世界人はそういうの知らないだろうし。あんたらの元の世界と違って、こっちはそういうのゆるいし」


「ありがとうございます!」

やはり異世界は人情がある。ちょっと間違ったら、初心者経営者でもいきなり排除される日本とは違う。

「あのこれほんの気持ちです」

僕はハニワの人形を渡したが、担当のパープルコボルトは微妙な顔をしていた。


ーー10分ほどの講習を終えて、マリーさんところへ挨拶にいくことにした。彼女のお陰で穏便にすんだのだから。


**

「そりゃ大変だったねえ。私が最初に注意しときゃあ良かったよ」

「いやでもマリーさんのお陰で助かりましたよ。でもいきなりクレーム言ってきた人、知っている人ですか? 匿名婦人というか、クレームおばさんというか」


「噂では知っているけど私のところには来たこと無いねえ」


「きっと、怖そうな人のところには来ないんでしょうね」


「誰が怖そうだって?」

ぎろりと睨まれる。


「いやいや、間違いました……頼もしい! 頼もしいですよ!」

「ふん。まあどっちにしろ、なめられたら相手がつけあがるからね。店構えをしっかりしなきゃ。屋号は決まっているのかい? 看板でかいのつければそういうのも減るんじゃないのかい?」


「いいですね。看板を付けると風格も出ますし」


「そうそう。ウチで安くにしておくよ。家の旦那がやっているんだけど、腕がなまっちまうし」


「ではよろしくお願いします」

僕はマリーさんに屋号を伝え、旦那さん(ドリーというらしい)に看板を頼むことにした。ちょうど建築やリフォームの依頼の仲介もしているようだった。


立ち去ろうとしたとき、呼び止められる。

「あ、それと。ちょっと待ってな」

「?」


「ほら、これ、月魔力時計。古いんだけど、あんたにあげるよ。開店祝い。うちは新しいもの買ってしまったし」

「いいんですか?」

「いいのいいの。どうせ古くなったら埃かぶるだけだし、月明かりに当てるのも面倒になっていくだろうし」


「……ありがとうございます!」

なんだかんだで、気にかけてくれているようだ。

久しぶりに人の親切に触れた僕は、少し涙ぐみながら何度もお辞儀をして立ち去った。


**(その頃の二人)

その頃、店に残された二人は自己紹介をしていた。

「ルルドナよ。よろしくね」


「今日からバイトをすることになったスコリィです! よろしくお願いします! 今日も可愛いですね!」

推し活をする人は自分が気にいった存在に対する情熱が非常に高い。


「あなたがここにいるってことは、もしかして、月見草のツケをバイトではらうとかそういう展開?」

「はい! 月見草の効果はありませんでしたけど、運命があったから大丈夫です! 可愛い上に賢いですね!」

50万もの借金があるというのに、彼女はとても元気である。運命を感じると無限の力を得るのが推し活である。;;


「効果がなかったって? 何の病気を治そうとしてたの?」

「推し活を辞めることです! でもいいんです」

そう言ってレンガパンに視線を向ける。

「あのパンに何か関係があるの?」


「えっと、流石に勘がいいですね。まあ、でも秘密です。推し活の鉄則です。会って初日で推しの話はするなってね」

「別にいいけど。仕事をしっかりとしてくれるなら」


「仕事でも何でもします! 推し活もできるし!」

「……? どうして? バイト中はバイトしかできないはずだけど」


「ふふふ、第二の推しができたからです! あなたです! ルルドナさん! その質感、動き、声、すべて最高です!」


「へ?」

ルルドナは目を丸くして、ご機嫌の推し活女子を見つめる。

推し活女子は、熱い視線を向けて、半開きになりそうな口元からよだれを垂らすのを我慢していた。

許可証などを得て、バイトも増えてだんだんと店としての体裁が整ってきましたが、どうなっていくのでしょう。

スコリィは口癖「~っす」ですが最初は猫かぶってます。

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