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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第17章 ワルプルギスの夜の宴編
109/200

祭りはいつだって不穏なものを運んでくる

【あらすじ】みんなで春の夜の祭りを楽しんでいます。


【登場キャラ】

クタニ:主人公。ボッチの末に転生して家を買ったが騙されて10億の借金。魔女たちに創作物が売れた。

ルルドナ:月の意をからできたハニワから生まれた少女。


ヒルデガルド:伝説の魔女。クタニの家の前の持ち主。若い少女の姿をしているが推定何百歳。


魔女たち:ヒルデガルドの友人たち。赤青緑がいる。みな若い魔女。


ケイロン:襲ってきたが和解。


酒とパンは意外と合う。


チーズも肉も魚もある。


俺らには季節を節目を楽しむ時間が必要だ。


だってそうしないと生きている実感がわかない。


騒げばいいんじゃない。


皆が、楽しめることが必要なのだ。


**

――と俺は外から眺めて思う。


……そう、俺は孤立していた。

炎の揺らぎの向こう側では、皆が思い思いに語らい、笑い、パンを頬張っている。


でも俺は――少しだけ距離を取って、それを眺めていた。


売れた作品。小さなハニワ。金貨の袋。


孤独ではない、でも……この世界に“混ざれていない”のは、俺だけかもしれない。


「これでも店長なんだけどな……」


でも、まあ――悪くない。


俺の作った作品が、売れたから。小型のハニワが、売れたから。


異世界に来て、初めてまともに売れた気がする。


常滑さんも喫茶店用の陶器買ってくれるっていうし。


ほくそえみながら魔女たちが支払いとして渡してきた金貨の袋を眺める。すごく価値があるらしい。


「だけどもう少し売りさばきたかったなぁ」

日本のお祭りを想像していたから、屋台で自分の焼き物を広げている俺は完全に空気を読めていないやつになっていた。


戦いで壊れていた屋台をせっかく直したのに。


「はぁ」


ため息をついてレンガパンにかぶりつき酒で流し込む。


転生しても空気が読めないなんて、俺は本当にバカだなぁ。


――でもまあ孤独じゃないのはわかっている。


「何一人でニヤついているのよ」

ルルドナが声をかけてきた。広場の中心の炎が彼女の顔に魅惑の陰影を作り出す。


「いやあ、これで借金も少し減るなあと思ってさ」


金貨の詰まった袋を持ち上げて見せる。


「そんな棚ぼた的な利益に頼ったらだめよ」


「そうだけどさ。あと、ルルドナがよくなったのもうれしいよ」


「うん。だけど、気になるのよね……」


「何が?」


「私、前より弱くなっているかも」


「前って、魔王モールでの戦いから?」


「うん……。寝起きだったのもあるけど、ケイロンの体を真っ二つにするくらいの気持ちで攻撃したのに」

ルルドナが弱っててよかったなケイロン。


「そういえば、師匠が思ったよりずっと繊細だって言ってたな」


「美しくて可憐で繊細なのは間違いないけど……」

いや間違いだと指摘したい。


「だけど、気になるのよ。なんか……“考えすぎてる”自分がいる気がして」


彼女は視線をパンに落とした。

まるでそれが、“前は感じなかったもの”に思えているように。


俺らの話を聞いていたのか、魔女ヒルデガルドが突然よってきた。

「安心しなさい、弱くなったわけではない。病気でもない。まあそのうち気が付くよ」


「師匠。もったいぶらずに教えてくださいよ」


「可能性となるきっかけがいろいろありすぎるから、はっきりとは言えないんだ。どちらにせよ……」

めずらしく歯切れが悪い。さみしい目。


「進むことをやめてはいけないよ」


そのとき、魔女はほんのわずか、春の夜の空を見上げた。


「この世界は、少しずつ……ずれてきている」


魔女の思わせぶりな言葉に、意外にもまっすぐにルルドナが言う。

「止まるつもりは、ないわ」


赤い少女の言葉に少し目を見開いた魔女。

「……なら安心だ。もちろん、強さを保つには日々の鍛錬は必要だけどね」


魔女が珍しくまっとうなことを言った瞬間、――悪夢が舞い降りた。


〈ゴォォォ!〉

焚火が大きく揺らめいた。


いつの間にか、濃い闇が、凝縮していた。


――怪物の影。いや、それは一瞬の形の錯覚。


それは不気味な、混沌を詰め込んだかのような。見上げるほどの巨大な影。空間が大きく揺れる。


焚火が不自然に歪む。不吉な陽炎のような。


空気そのものが、――歪んだ。


風が吹きあがり、巨大な風のうねりが聞こえ、火の揺らぎが、逆流したように見えた。

その瞬間。

「さがれぇぇーッ!!」


魔女ヒルデの声が響いた。

彼女がなりふり構わずに俺たちの前に出たかと思うと、その両手から光の陣がいくつも展開される――が、全て闇に“吸い込まれ”、崩壊した。


〈ズザァァーー!〉

次の瞬間、闇そのものに吹き飛ばされる魔女。


最強ともうたわれる魔女が、紙切れのように吹き飛ぶ。

そのまま屋敷の奥の崖にたたきつけられる。


一瞬過ぎて――誰も、何も、動けなかった。


暗闇に、“形を持たない”巨大な影があった。


それが、俺がこの世界で初めて味わった――

”理解不能な恐怖”の原型、だった。

襲ってきた闇は一体……?


2025.6.7 やや修正しました。


感想・コメントお待ちしております!


2025.8.15 主人公の一人称を俺にして、それに合わせて各所書き直しました!

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