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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第17章 ワルプルギスの夜の宴編
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夕闇の癒しのコーヒーと『衣』から始まる春の夜の夢

(`・ω・´)【あらすじ】(情緒回)雑貨屋前の戦闘も終わり、松倫男準備をしている。ケイロンが初恋の相手がおばちゃんになって落ち込んでいるところに、ミッドライフシティで喫茶店をやっている常滑とこなめさんがきた。(コーヒーはこの世界では貴重品)



(´・ω・`) 【メンバー】


・クタニ(主人公、転生者):戦闘力なし/こねて作った粘土細工や焼き物が特殊な効果あり。土湿布は万能薬っぽい。


・ルルドナ:ハニワから生まれた少女。感情がないことを気にしている、元スマホに入っていたAI彼女。


・スコリィ(ストーンピクシー):「~っす」が口癖。イゴラくん推し。


・ペッカ(フォレストミニドラゴン):住処の森のものは加工召喚できる。


・ガディ(デビルウンディーネ):お嬢様。聖女のような美しさと悪魔のような角をもつ。


・イゴラ(ミニゴーレム):魔力切れで妹と入れ替わって退場中。


・ライムチャート(ゴーレム亜神):人見知りで引きこもりの神とゴーレムの魂を融合した少女。パン作りに参加している。



・魔女ヒルデガルド(ワルプルギスの昼):クタニが買った家の前の持ち主。ワルプルギスの夜の宴に合わせて帰ってきた。コスプレ魔法(劇場型)を使う。主人公に師匠と呼ばれている。


・ケイロン:この回のメインボス。ケンタウロスの中でも賢い。魔王モール4号店ドラッグ部門。魔女と雑貨屋メンバーにやられて、和解。初恋の相手が昭和のおばちゃん風にかわってて傷心中。


・マリーさん:ふもとの村の工具屋の女主人。まさかのケイロンの初恋の相手。コスプレで美人になっているが中身は昭和のおばちゃん。


・留堂:ケイロンの父。中年太りケンタウロス。豪快。


・リヨム:ケイロンの妹。金髪白馬系ケンタウロス。清楚。


常滑とこなめ:ミッドライフシティの喫茶店『ムーンバックス』のオーナー。


常滑さんは黙って、掌を土器のカップの上に添える。

湯気の立ち上るコーヒーが、静かに淡い光を帯びはじめた。


「……飲んでごらん」

カップを手に取った瞬間、湯気がふわりと立ち上り、その中にほのかな光がきらめく。


肩の力が抜け、彼の中から傷が、痛みが、苦しみさえも――ふわりと溶けて、静かに流れ落ちるようだった。


常滑さんは、カップを見つめながら静かに言った。

「癒しってのはな、火と香りと、あとほんの少しのやさしさだよ」


〈ファァァァーン〉


コーヒーを飲む僕たちの周り。香りとともに、光が立ち込める。

飲む人の顔を見つめる常滑さんの立ち姿は、まるで、大教会の司教のようだ。


「私は珍しい、コーヒー魔法の使い手なんだ」

いやだから何それ。


僕の隣でコーヒーを飲んでいた魔女がつぶやく。

「彼のコーヒーは素晴らしい。奇跡魔法に近いね。友人でよかったよ」


僕は思わず言葉が漏れる。

「コーヒーそのものが奇跡なんですよ」

「お、なかなかいいこと言うね。でも彼ほどコーヒーの魅力を引き出す者もいないよ」


「えらく褒めますね」

「そりゃそうだよ。彼は六古窯のヒーラー、常滑なんだから」


六古窯の……!? 思わず振りかぶって顔を見る。30年前、魔王を懲らしめた伝説の勇者たち、六古窯。


「そうか……! どこかで聞いたと思ったら! 六古窯の一人だったのか!」

じゃあ、瀬戸さんや、備前さんと共に魔王と戦っていたのか。


……案外近くにいるんだな。


**

この世界も、転生前の世界も、何が価値とされるかわからないけど、どこでも共通しているのはコーヒーの癒しだ。


ネルドリップを終えた彼は静かにたたずむ。

「都会でも田舎でもあおってくる人間は多い。外ではモンスターも多い。

だが、その心が素直になれば、どんな存在だって、癒してみせる」


森にいた鳥が飛んできて、彼の肩にとまる。

「森の近くでコーヒーを淹れると、鳥が寄ってきてこまるね」

いつも寄ってくるの……?


「……俺にも、一杯くれないか」

森の茂みから出てきたのは、僕とペッカが倒した相手だった。思わず警戒する。


しかしケイロンの声がそれを杞憂と知らせる。

「ファルコナ……! 来ていたのか! すまない、やられてしまった……!」


彼の部下のようだ。

「隊長も……! 隊長、すみません。森でやられずっと寝ていたようです。もう体中から力が出なくて」

「もう力など出なくていい。我々はこの店から商品を仕入れることにした」


「なるほど! それなら素材集めのために、こんなド田舎に来なくてもすみますな!」


「おい、失礼だぞ」

ケイロンがたしなめるが、魔女がそれをかばう。

「気を立てるな。いいじゃないか。今日は祭りなんだから。それにこのコーヒーを自然の中で飲んだら意見も変わるよ」


常滑さんがそっとコーヒーを渡す。

「どうぞ」


「ありがたくいただくが、コーヒーごときでそんなこと……!」 

一口のむ。

「こ、これは……! うますぎる! 自然の中で飲むことを想定されたようなコクと苦み……!」


彼の体が癒しの光に包まれ、みるみる顔色もよくなる。

やがて、彼はあたりの自然を見渡し、コーヒーカップを掲げ大きな声を上げる。


「……田舎サイコー!」

考え変わるの早いな……。同意だけど。


西の空に夕日が沈むのを見ながら、魔女がボソリとつぶやく。

「今年はずいぶんとゆかいな宴になりそうだな」


**

「宴だ」

魔女は指をパチンとならす。そのまま彼女が指さした先。

〈ボウッ〉

少し離れた山に、火がともされる。火がどんどんと燃え広がり、文字が浮かび上がる。


まるで、大文字焼のようだ。


芝刈りって、……これを一人でやっていたのか。そういう情熱が強そうな人だし妙に納得する。


パン体験も落ち着いたようで、体験組がかまどの前にきた。コーヒーが全員にふるまわれる。


コーヒーを飲みながら皆がその火のひろがりを見つめる。

「まったく、無駄なことするんだから」ルルドナがため息をつくが、その表情はとても柔らかだ。


「うわぁ、きれいっすね」スコリィが珍しくしおらしい表情で遠くの火を見つめる。


「ワタクシ火をたくお祭りなんて初めて見ました」ガディも感心したようにみている。


「コーヒー、砂糖入れていいですか?」ライムチャートちゃんはブラックコーヒーに顔をしかめていた。


「いやあ、魔法灯以外の火なんぞ久々ですなあ」とケンタウロスの留堂さん。


「本当、幻想的です」娘のリヨムさんも目を細めてみている。


「……」「……」ケイロンとマリーさんは黙って見つめている。

何か言えよ。お願い、いい雰囲気にならないで。


山のほうでは、じわじわと文字が作られていく。自然の火だからあまり速くはない。


浮かび上がってきた文字は――。

『衣』


コスプレ好き主張しすぎだろ!


「画数多くて大変だったよ」


魔女の言葉に思わずため息が漏れる。

「……でしょうね!」


ルルドナが重ねてため息をつく。

「さすがあんたの師匠ね……そんなとこに全力出すなんて」


「ま、文字なんてなんでもいいんだよ。こうやって遠くからゆっくりその様子を眺めるのが重要なのさ」

つぶやいた魔女の目は、遠い昔を見ているような、静かな光がその瞳に宿っていた。


**

広場の中央に立てかけられた枯れ木の山に、かがり火がたかれる。


気づけば、魔女ヒルデの姿はしとやかな修道女へと変わっていた。

火の揺らぎに浮かび上がるその姿は、まるで神の使いのようで――。


伏せていた目をあげた魔女は、いたずらな小娘のように、荘厳な雰囲気を投げ捨てるかのように宣言した。


「さあ、今宵――ワルプルギスの夜の幕開けだ!」


――こうして、春を祝う“ワルプルギスの夜”が、静かに始まった。

春の夜っていいですよね。


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