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丘の上の雑貨屋と魔王モール  作者: 登石ゆのみ
第16章 魔女帰省編
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ワルプルギスの昼、昼間から酒を飲む魔女も驚く奇跡の再会

(`・ω・´)【あらすじ】襲ってきたケイロンを倒し、和解し、ケンタウロスの父と娘などと一緒に店の前でパン作りをすることになった雑貨屋メンバー。魔女は意気揚々と屋敷の中に衣装を取りに行き、皆のために着替えさせます。だけどケイロン(草野)は負けたところを父親に見られて落ち込んでいるようです。(ネタ回)


(´・ω・`) 【出撃メンバー】

・クタニ(主人公、転生者):戦闘力なし/こねて作った粘土細工や焼き物が特殊な効果あり。土湿布は万能薬っぽい。

・ルルドナ:ハニワから生まれた少女。感情がないことを気にしている、元スマホに入っていたAI彼女。


・スコリィ(ストーンピクシー):「~っす」が口癖。イゴラくん推し。

・ペッカ(フォレストミニドラゴン):住処の森のものは加工召喚できる。

・ガディ(デビルウンディーネ):お嬢様。聖女のような美しさと悪魔のような角をもつ。

・イゴラ(ミニゴーレム):魔力切れで妹と入れ替わって退場中。

・ライムチャート(ゴーレム亜神):人見知りで引きこもりの神とゴーレムの魂を融合した少女。パン作りに参加することになった。


――もっと、高みへ行かねばならない。

私の精神は高みにいるのに、肉体は、まだ地に囚われている。


必要なのは、まずは思考するための静かな環境なのだ。

このまま”下”にいては削り取られる。


人々は――削ることが生きがいになっている。

他者の異質さを削り、上に出る者を削り、飛び出す才能を削って均す。


ああ山奥に籠る方が良い。

計画を立てれば、孤独はおそれるに足らぬ。


……発想はもう、多くの人に模倣されている。

まとめることができなかった責任も、ある。


……遠くに聞こえるにぎやかな声。

ああ、この家は、少しだけ幸せになったのか。

――


****

「師匠、さすがのチョイスです……!」

今日の日没とともに訪れるワルプルギスの夜の宴。参加者全員の仮装が必要なのだ。


師匠チョイスの全員の衣装は次の通り。


・ライムチャート:ドイツの民族衣装

・リヨム:大正の女学生風のフジバカマ

・留堂:祭りのハッピ

・ケイロン(草野):こたつから上半身出して寝転がっている人


ケイロンだけネタ臭が半端ないが……。


傾きかけた太陽の下、皆がパンをこねて、焼いている。

パン焼き窯は僕が即興で作り、木材はペッカが召喚した。ついでにペッカは木材でパンをこねるテーブルも加工召喚した。


珍しく、ルルドナも参加している。

「私、こういうのあこがれてたの。みんなで何か作るの」

その素直な笑顔。もう、強がりは消えている。顔色もずいぶんよくなったようだ。


ケンタウロス父娘、雑貨屋女子メンバーと仲良くパン生地をこねている。

イゴラくんはまだ魔力不安定のようでライムチャートちゃんが出ている。


もっともイゴラくんの焼いたパンは無事だったのだが。


ともかく僕とペッカと魔女はできたパンを次々と焼いて火の番をしていた。


宴も始まっていないのに、パンを焼きつつ酒を飲んでいるヒルデガルド。


「クタニくん、君の土湿布、あまりにきくから魔力があふれてしまうのだが」

冷えピタよろしく、頭にべたっと土湿布を貼っている。


使い方間違っているだけだと思うけど……。


「知りませんよ。にしても師匠、酒臭いですよ」

「何を言っている。私は昼間から酒を飲むから“ワルプルギスの昼”って呼ばれてるんだぞ。ヒルデガルドっていうのもあるけどな!」(※日本語ダジャレネタがでたとき言語の壁は深く考えないでください)

もう出来上がってるの!?


「ネタで伝説のワルプルギスの名をもじらないでくださいよ! しかもダブルミーニングって欲張りすぎです」


「ワルプルギスの夜なんて、ただの春を祝うコスプレ祭りだよ。あーあ、コスプレ魔法使いたいなぁ!」


「それなら、……ケイロン、やっぱり父親の前で情けない負け方をして落ち込んでいるみたいですよ。コスプレ魔法でなんとかできないんですか?」


僕が指さした先には、一人木陰でこたつに入っている(コスプレをしている)ケイロンがいた。その目はどこかうつろである。


「おいおい、私の魔法を何だと思って……ふふ、面白いな。やってみよう!」


次の瞬間、酒臭い魔女は駆け出して、体を休めているケイロンのもとへ。体はともかく、精神的に参ってしまって木陰で休んでいるようだ。さすがに僕の土湿布でも精神までは回復できない。


「ケイロンくん、君の精神を回復させよう! 浜辺のワンピースと麦わら帽少女キング・オブ・メモリアル!」

一瞬で、背格好まで変え白いワンピースと麦わら帽子の少女の姿になる魔女。


空間がゆがみ、記憶の波が押し寄せる――まるで次元そのものが入れ替わるように。

〈シャラン〉

**==**==**


パシャ、パシャ!

水しぶき。少女が無邪気に遊んでいる。目の前にいるのは、幼き少年のケイロン。

浅瀬で前足で器用に相手に水をかける。


「あははは!」

「はははは!」


降り注ぐ光。白い雲、穏やかな風。

さわやかに遊ぶ、二つの影。


一人は亜人の少女だろうか。ケンタウロスではないが。

日焼けをして健康的だ。


その少女は白いワンピースを上品にたなびかせ、浅瀬で水遊びをする。

心から、世界を楽しんでいるような、満面の笑顔。


「ずっと、こんな時間が続けばいいのにね」

「そうだね」

この笑顔を守るためなら、どんな苦労だって耐え抜いてみせる。少年は心にしまった声をかみしめる。


「私たちずっと、一緒にいようね……?」

「うん。ずっと一緒だ!」


二人はまた、水遊びを始める。

潮騒が、ただゆっくりと小さな生命を祝福しているようだった。


**==**==**

〈シャラン〉

空間が元に戻る。

――まさに、次元の違う魔法を見せられている。


ケイロンはうつむいたまま動かない。顔には一筋、涙が。

ぼそりとつぶやくケイロン。

「おい、……魔女よ、本当の記憶も見れるのか……?」

ま、まさか……。


魔女が珍しく驚いた表情をする。

「ふふふ! ごくまれに、ないわけではないがね。まさか本当の初恋の記憶を掘り当ててしまったかな?」

クイッと麦わら帽子をあげた魔女は、少女の姿で薄く笑う。


「ああ、恥ずかしながら、な……」

マジで当てやがった。ていうか典型的すぎだろ。海辺で少女と水かけとか。僕にも分けてその思い出。


「初恋というには、淡く幼い記憶だな」

「いや、初心を思い出したよ」

ケイロンは大人の対応をして背筋を伸ばす。すっかり精神が回復したようだ。魔女のコスプレ魔法(劇場型)も役に立つことがあるようだ。


――しかし、そのとき奇跡が起こった。

〈サァァーー!〉

一陣の風が吹き抜ける。


白いワンピース、赤いリボンの麦わら帽子の女性。幻覚にしては鮮明すぎる。しかし、海辺の少女の面影がはっきりと残っている。


ケイロンは目を見開いたまま、微動だにしなかった。

動かないのではない。――動けなかったのだ。


……。

手を伸ばしたケイロンが誰にともなく問いかける。

「これも魔法の幻なのか……?」


「……?」

しかし女性は首をかしげる。


ケイロンは覚悟を決めた様子で女性に近寄る。

「もしかして、幼いころ、私と……、ケンタウロスの少年と海辺で遊んだことがありませんか……?」


女性は首を傾げ柔らかく微笑む……。しばらくして、何かに気が付いたように目を見開く。


「えっ、うそ……っ! ちょっと待って……。もしかして……」


二人の間に、長い沈黙が流れた。

見つめ合うまなざしに、潮騒の残響すら重なるようだった。


「そうです……! 幼いころ、一緒に水をかけあって遊んだ……!」

期待に声を上ずらせて、ケイロンが女性に近寄る。


「やっぱり! ケンタウロスの……草野じゃん!? やだ〜! いい男になったじゃないの〜!」

……そう、女性の正体は。

――コスプレした工具店の女主人、マリーさんだった。


……昭和のおばちゃんのノリじゃねぇか!

午前中、「気が向いたらコスプレして祭り行くわ〜」って言ってたんだった!

まさか、あれがフラグだったとは。


にしても異世界のコスプレ力半端ないな。体型まで変わって。


ケイロンは、麻痺魔法でもかけられたように固まっていた。

いや、これは魔法じゃない。――現実だ。

こういうことってよくあるんですよね。作者はそんな思い出ないですけど。


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