自己否定感からの卒業
お風呂にもスマホが手放せない。SNSを目を皿のようにチェックし、ダラダラと見ていた。
「インフルエンサーのミナちゃんってかわいいな。整形したいかも」
大学生だった純夏は特にSNSを見るのが楽しい。役に立つライフハック、副業、投資、可愛い動物の情報までもある。
一方でSNSは美人でキラキラと成功している人も山ほどいる。純夏のフォロワー数は千人だが、上には上がいて、強制的に世界ランキングに参加させられているような?
「そっか。自己肯定感持たないとダメなんだ。ポジティブにならなきゃ。いい女にならなきゃ」
いつの間にか自分を責めていた。整形して二重にしても満足しない。SNSを見ると上には上がいるから。自己啓発セミナーに出ても、パワースポットに行っても何も変わらない。常に不満がつきまとってしまう。
悪夢も見るようになった。スマホに追いかけられ「自己肯定感もて! 整形しろ! 英語話せ! 投資しろ! 婚活しろ! 副業しろ! ランキングトップになれ!」と怒鳴られた。
「こ、これ、夢?」
目覚めた時は、枕元にあるスマホに恐怖を覚えるぐらいだった。
「そっか。しばらくスマホ断食しよう」
それに気づいた純夏は、毎朝散歩し、手作り弁当を作って大学に通った。授業が終わるとまっすぐ家に帰り、宿題し、ラジオを聴きながらスチレッチトレーニングをして寝る。スマホは連絡を送る時にしか見ないように決めた。
そんな地味な生活をくり返すうちに、悪夢も見なくなるようになり、心も安定し始めた。自分を責めるような自己否定感もなくなり、ちょっとした事でも幸せを感じるようになった。
近所の子供達が紙飛行機飛ばして可愛いなぁと思ったり、電車で疲れて寝言こぼしているOLに尊敬の気持ちを持ったり。
同じ寮のルームメイトにも「純夏、変わった?」と言われるぐらいだ。今度ルームメイトと一緒にプール行くことになった。SNSの「いいね!」よりリアルの付き合いの方が楽しそう。その日のカレンダーに丸をつけ、待ち遠しい。
寮の窓から遊園地の観覧車も見える。純夏はベランダに出てゆっくり動く観覧車を見上げて微笑む。遊園地の中では地味で退屈なアトラクションだけど、今はあまり嫌いじゃない。