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【完結済】BL漫画家の私の隣人が、どう見ても異世界から転移してきた王子サマな件について  作者: 水月


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第十三話:異世界の賢者サマ(後)

 黒髪銀縁眼鏡の言葉は、完璧な正論だった。他人の弱点を握り、決して逃がさない。

 やはり主人公格のキャラクター設定である。

 彼のその巧みな策略に、私はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


 シリル憑き鈴村君は、青ざめた顔で力なく頷いている。


「先生……彼の提案は、拒否できません……。ぼ、僕の身体も、これ以上彼の遠隔説教に耐えられそうにありませんし……」


 異世界の王子サマ(真)の護衛に身体を乗っ取られた担当編集者、そして堪忍袋の緒が切れた大賢者様(日本人?)によって、まったく新しい、そして想像を絶するステージへと引き上げられゆく私の日常。


 一切容赦ない提案に、私は抗う術もなく、ただ打ちひしがれるばかりだった。

 漫画家としての未来は、彼の手によって、予測不能な方向へと舵を切られてしまったのだ。


 しかし、それ以上に私の頭を占めていたのは、その容赦ない言葉を吐き続ける、どっからどうみても日本人らしき黒髪銀地眼鏡の男の正体である。ネタは幾つあっても良い。漫画家を生業としている私であるからこそ、此処はしっかりと疑問点を挙げ、解決させておかなければ、のちのち齟齬が出る事になる。


「あの……」


 私は意を決して、スマホとタブレット風の見慣れぬ板(石板?)を操作しながら淡々と指示を出す男に声をかけた。彼の横では、シリル憑き鈴村君が、身体の震えを必死に抑えながら彼の言葉をメモしている。アレクシスはというと、既に厨房に戻っている。


「何でしょう」


 声をかけられた男は、眼鏡の奥からちらりと私に視線を向けた。その一瞬の視線にも、有無を言わせぬ圧力を感じる。


「あの……榊原さん……でお名前合ってます? 日本人……ですよね? なぜ、アレクシスさんと、その……異世界の人と、既知の間柄なんですか?」


 私の質問に、当人はフッと冷笑した。


「ああ、その疑問でしたか。簡単な話です。私は、異世界トリップというものを経験しましてね」


「異世界トリップ!?」


 私は思わず叫んだ。まさか、そんなお約束設定ファンタジー小説のような話が、目の前で展開されているとは。私の隣にいるアレクシスも、異世界から来た王子なのだから、驚くことでもないはずなのに、なぜか現実味がなさすぎた。


「ええ。今から三年と少し前になりますか。気がつけば、私はアレクシス様の故郷、フォルジェ王国にいました。突如として現れた私に、王国は混乱しましたね。彼らは私を『神の使い』などと崇め奉ろうとしましたが、生憎、私は無神論者でして」


 榊原は淡々と語る。その話は、まるでビジネスの成功談を聞いているかのようだった。


「当時のフォルジェ王国は、弱小どころか、文字通り貧乏な王国でした。財政は破綻寸前、国民は疲弊しきっていた。そこで私は、提案したのです。『私が貴国の財政を立て直してやさしあげましょう』と」


 彼の言葉に、アレクシスが口を挟んだ。


「その時、コウは本当に凄かったのだ。 誰もが諦めていた王国の財政を、半年足らずで立て直したのだからな」


 アレクシスは、心底感心したように榊原に視線をやる。彼の言葉は、榊原がどれほどの手腕を持っているかを物語っていた。


「ま、当然です。無駄なものは嫌いな性分でしてね。不要な支出を削り、投資ファンド的なモノを立ち上げ、わずかな時間で彼らの無駄を排除しただけのことです」


 榊原は謙遜するが、その表情には微塵も謙虚さが見えない。しかし、彼の言う無駄――という言葉が、このフォルジェ王国からアレクシスを追い出した要因の一つなのかと、私はゾッとした。


「そして、その過程で、私はお約束のように魔法というものにも開花しまして。両方の世界を自由に行き来できるようになりました。現在フォルジェ王国では大賢者と呼ばれ宰相の真似事をしておりますが、いずれ日本に戻ることを視野に入れ、こちらにも経済活動の拠点を築いておいたのです。リスクマネジメントは基本ですから」


 榊原は眼鏡をくいっと上げ、至極当然のように言った。


「私がアレクシス様の日本への逃亡を手引きしたのは、王国内の権力闘争に巻き込まれて命を落とすのが、『無駄』だと判断したからです。彼には彼の役割がある。しかし、まさか、アレクシス様が、貴女様と理解しがたい師弟関係を築き上げていたとは、完全に計算外でしたね」


 榊原の言葉に、私は深く納得した。彼にとっては、アレクシスが生き延びることが最優先事項であり、そのための最善策だったのだろう。しかし、アレクシスは、少し不満げに口を尖らせている。


「理解しがたいとは失礼であろう。私は『伝説の料理人』として、故郷を救う道を模索しているのだ」

「その模索に、私から提供した資金が湯水のように消えているのもまた事実でございます。そして、その『伝説の料理』とやらが、この世界でどのような騒動を引き起こすか、今回でよく理解いたしました」


 榊原は冷たく言い放つと、再びタブレット風の石板に向き直った。彼の言葉は、常に的確で、そして容赦がない。うん、この榊原という男をネタにするのは少し危険な気がする。なんとなく。私の勘が囁きかけてくる。ぐっとこらえスタイラスペンをそっと下におろした。


 異世界トリッパーの大賢者サマと、異世界の王子サマの出会いそして友情。

 そして、巻き込まれの王道をゆく私と担当編集者シリル憑き鈴村君。

 私のバラ色ひきこもり生活はもはやとんでもない闇鍋に飲み込まれつつ、あった。


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