カスの♀勇者と導かれし七人の元彼
「こんにちは、私、サキ! 趣味は男の子を遊んで捨てることかナ!」
——ヨシ! 今日も可愛いぞ、サキ!
その日も、彼女は鏡の前で毎日のクソみてえなルーティーンをキメていた。
一見すれば清純派。
友達にもよく童顔と呼ばれる、天然の小悪魔。
何人もの男子を虜にし、飽きたら次々に捨ててきた彼女。
そんな趣味に、罪悪感なんてちょっとしかなかった。
うん。
ちょっとね?
◇
「でも、流石にこんな展開は予想外だったわ……」
突然に放り出された、どこまでも続く真っ白な空間。
そこに設けられた白いテーブル席には、光輝く純白のドレスに身を包んだ、穏やかな笑みの女性が座っていた。
「うふふ、あなたがサキちゃんね。私は女神リューナ。よろしくね」
リューナが優雅な所作でティーカップを置くと、腰まである長い金髪がさらりと揺れた。
「ボクはケロ、女神様にお仕えしています」
側に控えていた小柄な銀髪の少女が、会釈をして女神の対面の椅子を引いた。
座っていい、という事だろう。
「え、えーっと、その女神様が、何の用? あっ! もしかして、勇者として召喚されたってヤツ? 弟の小説で読んだ事あるかも!」
母性で包み込むような女神の柔和な笑み。
女性同士だというのに少しドギマギしながら、サキは乱暴に席へ腰かけた。
——あぁーこのキャラズルいわ。
こらおじさんたまらんわ。
今度試してみよう。
今までと違うタイプが釣れそう。
そんな事を考えながら。
「ええ、そうよサキちゃん。貴女には導かれし運命の七人をまとめ上げて、魔王を倒してこの世界を救って欲しいの。……お願い、できるかしら?」
リューナは前のめりになるように、両手でサキの手を包み込んだ。
「マ、マジかー。イケメンいるかなぁ。おっけ、おっけー。あっ、でも痛いのはヤダからね!」
満更でもない、というサキ。
生来、楽しい事は大好きなのだ。
「大丈夫よ、サキちゃん。貴女には私の加護を授けておいたわ。どんなに刺されてもへいちゃらよ」
——うん? 刺されても?
まあいいや。
しばらく楽しみにしていた漫画の続きが読めないのは残念だが、チート付きなら大歓迎だ。
と、サキはこの時の安請け合いを、すぐに後悔する事になる。
◇
今、サキの目の前に広がるのは、ゲームの中でしか見た事のない、現実離れした光景。
巨大な城、地平線まで続く鮮やかな草原。
そして空を舞う龍の群れ——。
周囲を一望できる高台の祭壇の上でサキを出迎えたのは、見るからに堅物そうなエルフの女戦士だった。
「勇者サキ殿! 女神の神託通り、よくぞお越しになられました! それがしは戦士ミカゲ! 勇者様と七人の御使い様の世話役を仰せつかりました!」
甲冑の隙間からもわかるその引き締まった筋肉は、サキとは対照的に色恋など知らず、ただ愚直に鍛練を重ねた研鑽の賜物である。
しかしサキの目は、祭壇を囲む七つの石碑の輝きに釘付けになっていた。
「えっ、えっ?」
光の中から次々と姿を表す、七人の影。
誰もがイケメンで、それぞれが異なる魅力を持っていた。
だが、サキにとっての衝撃は、彼らの顔がただのイケメンではなかったからだ。
「ケ、ケンイチ……タカヤ……シュウジ!」
どう見ても、サキの記憶に残るその顔は、それぞれがかつて、サキが“遊んで捨てた元彼”達。
「ちょっと待って、なんであなたたちがここにいるの!?」
思わず叫んだサキに対し、七人の元彼たちは一斉に微笑んで見せた。
その表情はどこか懐かしく、同時に意味深で……まるで彼らがこの状況を楽しんでいるようだった。
「サキ……僕たちも女神様から頼まれたんだ」
最初に口を開いたのはケンイチ。
その眼差しにかつての温もりが感じられ、サキの心が一瞬揺れる。
しかし、その背後には他の六人が控えており、それぞれに違った表情を浮かべている。
「サ、サキ殿? どうなされたのです?」
予想外の事態に目眩を覚えてふらついた身体を、戦士ミカゲに受け止められながら、サキはこれから始まる旅路に頭を抱えた。
「な、なんでこうなるの?」
◇
「あらあら、困ったわね」
水晶を通してその様子を眺めていた女神リューナは、その口振りに反してニコニコと満面の笑みである。
「しかし女神様、本当にあの人選で良かったのですか……? ボク、心配ですよぅ……どうにかなるんですかね」
ケロが不満そうに口をとがらせる。
「うん、見つかるといいわね……真実の、愛☆」
遠い目をして拳を握りしめたリューナに、ケロがたじろぐ。
——えっ、魔王は?
とケロは思ったが、この女神の気まぐれは割といつもの事なので、すぐに表情を殺した。
それでも、この女神は一見するとそのおポンチですっとんきょうな行動で、数々の偉業を成してきたのだ。
「サキちゃん、ふぁいとー☆ ふれーふれー、サキちゃーん☆」
——やっぱりダメかもしれないな?
とケロは思った。
◇
「ヘッ、やっぱりサキの事は、オレが側で守ってやらなきゃな!」
「あ、ありがと……?」
鬱陶しくなって別れたタカヤの裏表のないバ…単純さが、今のサキにはせめてもの清涼剤である。
と思えば
「サ、サキさん……。私もまた会えて嬉しい、です……!」
青春純愛ごっこに飽きて着拒したらいつまでもメソメソと影から慕ってくるリュウが、もじもじと乙女のような笑みを浮かべた。
「ヒ、ヒェェ~~……」
その様子を見つめながら、無言で何事かを考えるようにクイ、と眼鏡を持ち上げるシュウジ……。
「なんと、御使い様もみなサキ殿のお知り合いでありましたか! 過去には異なる世界、それぞれの英雄が選ばれたと聞いていましたが……? これも絆という奴ですかな!」
恋愛の機微など塵ほども知らないミカゲは、何もわかっていない。
「あっ、あの女神……ッ!! ま、まぁ勇者だし……やるしかないのかナ?」
彼女の旅は今、始まったばかり……!
誰かこういうの書いてよ!
と思ったけど、誰も書きそうにないので書いちゃいました。
もっと地雷な感じの主人公にしようと思ったけど筆力不足デース。
面白かったら評価してくれると嬉しいぜ。
誰かこういうの書いてよ!(他力本願)