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補修人、相良修司は蚊帳の外  作者: 久慈望
第七話 凍結
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聖地がここにある理由

「――そして私は、ユウカ様からの提案を受け入れました。あの方の力により、私の力は強化され、私は自らの時間を凍結した」


「ロルクス……勇者はどうなったのですか?」


 サガラが聞くと、サリスは穏やかに笑い、立ち上がった。


「ご案内します。説明よりも実際に見たほうがわかるでしょうから」


 サリスは立ち上がり、部屋の奥へと向かった。彼女は手慣れた動作で本棚の本をいくつか抜き、入れ替えた。


 すると、ズズズ、という音とともに、本棚が扉のように開く。


 そこには、地下に続く階段があった。


「こちらへ」


 サリスの後にサガラが続いた。


 地下は小屋と同じように、照明の魔術が使われているようだった。急な階段がらせん状に下に伸びている。


「ここは戦争が終わった後に作ってもらいました。当時アストリアと呼ばれる王都を成立させたばかりの……ファルスさんに相談して。私が領主となったのも、この地をロサドレと名付けることができたのも、すべてあの方のおかげです」


「聖地となった今の状況をどう思っているのですか?」


「聖地……皆、聖地とばかり呼んで、ロサドレの名を使ってもらえないのですよね。でも、聖地と呼ばれるようになったからこそ、私の存在も許されているのでしょうし、仕方のないことです。それに、人が集まる場所になったから寂しくありません。私も、ロルクスもね……」


 そこで階段が終わり、サリスは目の前の大きな扉を開いた。


 ひんやりとした風が外に流れる。


 なぜここに冷気が?


「こちらへ……」


 サリスにいざなわれるままに、サガラが続く。


 狭く簡素なつくりの部屋は“それ”のみで占められていた。


 “それ”は氷漬けとなった勇者であった。安らかな顔で目を閉じて、こちらに向かって直立していた。


「……つまりは彼が、この一帯に満ちる魔素の根源だったというわけですね」


「おっしゃる通り。凍結する時、ロルクスは私の判断を受け入れてくれました。けれど、彼の体はそうではなかったようで、凍結されながらも魔素を吐き出し続けた。結果それが現在まで続いている」


「これは、ユウカの指示なのですか?」


「いえ、それはまったく違う。あの方の強化により、私の魔法は完全なものとなった。凍結魔法はあらゆるものの時間さえ止める。私はロルクスがもう苦しまないように、彼の時間を止め、そして、彼といつまでも一緒にいるために、あくまでも私自身の判断で時間を止めたのです」


「こんなことは間違っている。勇者を閉じ込め永遠とも呼べる時間を過ごすなど、苦しみしかないではないですか。あなたが望むのなら、ぼくの力で……」


 サガラの言葉にサリスは横に首を振った。


「お心遣い感謝いたします。ですが、この生活こそが、私の望んだことなのです。私が望んだのはロルクスとともにあること。あの人は仮に目を覚ましたとしても、苦しみ続けることに違いありません。私はそのような姿を見ていたくはないのです。ならばいっそのこと、すべてを終わりにしてしまうか。それは何度も考えたこと。でも、自己の滅びを望むほど、私は善人にはなれなかった」


「ですが……」


 サガラはうつむく。彼の力ならば、すぐにでもロスクスにかかった魔法を解除し、サリスの不死の呪いから解放することができる。しかしそれは同時に、彼らの生活を破壊することを意味していた。


「私はあなたの力を多少なりともわかっているつもりです、もしもあなたが、これらのことが間違っていると判断されるならば、私はあなたを止めるすべを持ちません」


「ぼくには、あなたの意志を無視することはできない……」


「優しい方ですのね。であればあなたのその判断を受け入れます。ここが戦火にさらされた時も、ファルスさんが私のところへ来た時も、魔術師の方々に聖地と認定された時も、多くの人々が集まってきた時も、私は受け入れた。すべてはなるようになる。ロルクスとともに生きることを決めた以外に、私は自分で決めることを放棄してしまっているのです」


「ではもしもユウカがまた来て、ロルクスの凍結を解けと言われたら?」


「私は受け入れるでしょうね。あなたにも、あの方にも逆らう力を持ちませんし、逆らう気もありません。すべてをあるがままに受け入れる。それが私の決めたことです」


「わかりました。いずれまた来ます。その時、もしも考えが変わっていたとしたら、あなたのために力を尽くしましょう」


「ええ、ありがとう。その時はお願いしますね」

第七話、完。






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