表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
補修人、相良修司は蚊帳の外  作者: 久慈望
第七話 凍結
80/144

神樹は勇者に力を与える

 魔王軍との戦いは凄惨を極めた。


 人の住む集落はほぼすべて魔物に支配されており、ロルクス一行はそれら村や町、大型都市を一つずつ攻略していった。


 ロルクスの剣が光り輝き、魔物たちを切り捨てる。レナーリアの力により強化されたドランザが闘気を纏い、大群を蹴散らす。


 その三人が円滑な立ち回りが行えるよう、サリスが魔法で集団を分断し、あるいは広範囲魔法で足止めをする。


 もちろん、人々すべてを救うことはできない。奴隷となった人々は体と心に深い傷を負い長く生きることはできなかったし、侵攻から逃れた人々もまた食料の不足による飢えや疫病に苦しめられていた。


 それでも彼らの力は人々に勇気を与えた。


 魔物たちが根絶やしにされると、残った若者たちが力を合わせ、集落の再建を始めた。


 再度の侵攻を防ぐため、ロルクスが魔を退ける結界を張る。レナーリアは聖職者として傷ついた人々の治療にあたり、ドランザは建物の再建を手伝う。資材の運搬や大人数のための調理には、サリスの魔法が役に立った。


 集落が立ち直るある程度の目途が立つと、ロルクス一行は出発する。


 基本的にはこの繰り返しだった。


 サリスはある時ロルクスに聞いた。


「その結界というのは、どこで教わったんですか?」


「これかい? 三人で旅に出た時に森に迷い込んでしまってね。その時に大きな木のある村にたどり着いた。すると木がぼくに教えてくれたんだ」


「何度聞いても分かんないんだなあ。木が喋るか? 普通」


 ドランザが言う。


「あんたと違ってロルクスは特別なの。おそらくあの木は、伝承に残る神樹。つまり、神の御意志が彼を導いているってことよ」


 レナーリアはうんざりするように言う。このやり取りは何度もなされてきたことなのだろうとサリスは思った。


「どうなのかなあ。でも、神樹の言葉を聞いてから、結界の力が発現したわけだし、ぼくは受け入れているけれどね」


「しかしなあ、例えばなんだが、その力ってのはもともとロルクスに備わってたもので、でかい木を見てなんかひらめいたってことも考えられるよな」


 ドランザが一人で納得してうなずいている。


「どれだけ木を喋らせたくないのよ。まあでも確かに、ロルクスの身に起こっていることは私たちには理解できないことの方が多いからね。私はそれを神の導きと解釈しているけれど。ま、こんなことあんたにはわからないでしょうけれどね」


「最後の言葉は余計だろ」


「ほんとのことじゃない」


 二人の喧嘩が始まっているなかで、ロルクスは考え込んでいた。


「どうしたの?」


 サリスが聞くと、ロルクスは顔を上げて笑顔を作った。


「いやちょっとね。神という存在がぼくの行動を示している。そんな感覚は確かにある。でもそれって、ぼくは操られているだけということではないだろうか」


「どういうこと?」


「ぼくのこの行動は、神の意志なのか、自分の意志なのか、時々区別がつかなくなるってことさ」


「ロルクス、でもあなたは自分の考えてここに居て、行動してるじゃない。どうしてそんなことを言うの?」


「いや、この力を持ってしまったら、きっとみんなも同じようにするはずだよ」


「だったら私たちは? 私たちの行動も操られてるっていうの?」


「そんなことはないよ。君たちは君たちの意志で魔物と戦っている。だからぼくは君たちと旅ができて嬉しい。君たちが居なかったら、ぼくは旅を続けられなかったかもしれない」


 そう言った。その顔はひどく寂しそうに見えて、サリスは何も言えなくなってしまった。


◆    ◆    ◆    ◆


 いくつもの魔王軍の拠点を制覇し、次の集落に向けて森を抜けようとしていた時、それは起こった。その時の彼らは、魔物と戦っているうちに森に入り込みすぎていた。


 森の中は薄暗いうえ、足元は悪く、馬車を移動させるのに苦労していた。


「あれ?」


 サリスの杖が反応する。北西に引っ張られるようにして、勝手に杖が動いていた。


「どうした?」


 ロルクスが声をかける。


「杖が勝手に……」


「そうか……」


 サリスの見たルクスの表情はとても悲しげであった。


「皆、サリスの後ろについていこう」


 ロルクスが言うと、


「なんだ? 神のお導きってやつかい?」


「ちゃかさないの!」


「わかりません、でも、この先に何かがあるんだと思います」


 サリスは道をそれ、道のない木々の隙間を進む。


 ロルクスほか二人は馬の手綱を木の幹に結び付け、軽い結界を張ってから、彼女の後を追った。


 サリスを先頭に、一行は杖が示すままに道なき道を進んだ。


「なにか……ざわざわする。あと息苦しい」


 レナーリアがつぶやく。普段理知的な彼女にしては、ひどくあいまいな言葉であった。だが、サリスもまた、同じ感覚に襲われていた。


「私は魔法の研究を続けていて、気づいたことがあります」


 サリスは杖の示す方角に意識を集中しながら言葉を続ける。


「魔法とは使用者の体から湧き上がるものではなく、世界に在る力の流れを利用するものです。私が魔法が使えるのも、力の素が世界に満ちているから。仮にこれを魔素としておきますが、それがこの森には充満しています。しかも杖の示す方角に進めば進むほど濃度が高くなっている」


 皆、その言葉に賛同も否定もしなかった。それぞれが、サリスの言葉の意味を深く噛みしめている。魔物との過酷な戦いを通じて、世界の真理の一つである魔素の存在を、言葉ではなくその身で感じていたからだ。


 しばらく歩き、やがて開けた場所に出た。そこには巨大な木がそびえたっていた。


「これが……神樹?」


 サリスは杖を握りしめ、ベラーナの言っていたことを思い出す。


「ああ、そうだ。ぼくたちがかつて見たものと同じものだ」


 ロルクスが言う。


「なんど見てもすげえよなあ。ほかの木とは明らかに違うもんな」


 ドランザは大きく体を反って大樹を見上げていた。一方レナーリアは無言で神樹の前で跪き、祈りを捧げていた。


 ロルクスからため息が聞こえた。


 それを聞き取ったのはおそらくサリスだけだった。


「ぼくが行こう。ここで待っていてくれ」


 ロルクスは一人で神樹へと向かい、木肌に触れた。神樹は淡い光を放ち、ロルクスに伝播し、彼の体も淡く光った。


 時間にして数分の時が立ち、ロスクスは三人のもとへと戻った。


「神からの啓示は得ましたか?」


 レナーリアが尋ねる。


「うん、どうやら新たな力を得たらしい」


 ロスクスが答えるとドランザが、


「すげえ、見せてくれよ!」


 と目を輝かせていた。


「どうやらこれは魔王のために取っておくべき力のようだ」


「まじかよ。残念だなあ」


「神からの力をあたら使うものではないの!」


 レナーリアがドランザを諌める。


「でもよお……」


 ロルクスが心の底から悲しんでいることに、サリスだけが気づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ