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補修人、相良修司は蚊帳の外  作者: 久慈望
第六話 魔王
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魔王の住まう城

 王都の遥か北、国境が不自然に窪んだ場所に、その城は立っていた。


 周囲は魔素に包まれ、凶悪な魔物が跋扈している。


 明確な法則により循環しているダンジョンとは違い、魔素により強化された魔物たちが独自の生態系を構築する魔境。その中心にある巨大な建造物は、かつて魔王城と呼ばれていた。


 地上の支配を目論む魔王が住まう城。魔王城はおよそ千年前、人々の恐怖の象徴としてその名を轟かせていた。城は周囲の魔素を引き寄せる機能を有し、現在まで人の立ち入れぬ特殊な環境を作り出している。


 かつて人と魔は争った。


 それは争いというにはあまりにも一方的であったかもしれない。魔王城から無尽蔵にあふれ出る魔物たちが人の存続を脅かし、人が持つ豊かな生活や文化は破壊し尽されてしまった。


 もちろん人々は、ただそれを見ているだけではなかった。


 強大な魔物の軍団に対抗するために、人々はそれまで有していた技術を集結し発展させた。現在では失われた技術も多いが、人々は国境を越えて技術を共有し、戦うための武器とした。


 人は魔物と戦うためにあらゆる方法を模索した。


 戦わなければ生き残れない。


 そのような過酷な環境のなか、人は生きるために結束し、種そのものの力を高めなくてはならなかった。


 例えば魔術。


 当時は明確な技術体系も存在せず、ただ魔法と呼ばれている不思議な力でしかなかったものを一つの体系としてまとめ、誰もが学ぶことができる技術に転換した。魔法は魔術として生まれ変わり、魔物を効率的に殺すため、より強大な力を行使する方法が編み出された。


 結果的にそれは、魔王軍による魔術師狩りを招くことになり、未来ある多くの魔術師が犠牲となったが、王都成立後の魔術学院で使われている基礎理論のほぼすべてが、この時期に提唱され、現代魔術の礎となっている。


 錬金術や紋章術の理論が構築され、一握りの天才がその力を振るい、現在まで伝えられる技術の源流となったのもこの時期である。


 一方で人は戦闘技術を高める必要性にかられ、剣術や弓術、格闘術など互いに争うために使われた技術が、魔物を倒すために磨き上げられ革新的な技、そして、教育手法を発展させるに至った。


 聖職者に関しては祈りの技術というものは存在しないが、組織編成と教義の統一化が図られ、魔を退けるための独自の戦闘技術の開発や支援手法が確立されていった。


 人は自らを高め、存在をかけて魔と戦ったが、それでも、魔物のその無限ともいえる数に押し負け、次第に数を減らしていった。


 そこに現れたのが、勇者と呼ばれる存在である。


 勇者は他を圧倒する剣術を体得していただけでなく、勇者のみが使えるとされる神から賜った奇跡の術を身に宿していた。彼の出自は定かではない。現在でも歴史家の間で議論となるが、血筋も特定されず、村の普通の少年であったとされている。


 勇者がどのような経緯で奇跡の力を手に入れたのかは不明だ。突如として現れた勇者は、その時点での地上最高の魔術師、戦士そして聖職者とともに魔王と戦ったとされている。


 彼らはたった四人で、世界のありとあらゆる戦場で魔物をなぎ倒し、その拠点を握り潰した。魔物の拠点群は瞬く間に攻略され、彼らはついに魔王城へと足を踏み入れた。


 魔王城で何があったのか、その記録は残されていない。


 勇者とその仲間たちが、その後どうなったのかも不明だ。


 しかし、人類は魔物の脅威から救われた。


 人はそれ以降も魔物に脅かされることはあったが、かつてのような血で血を洗う争いには発展しなかった。


 勇者という存在が現れ魔王を滅ぼした。


 わかっていることはそれだけである。


 さて、その魔王城だ。


 魔王は勇者一行以外、誰も見たことがないとされるが、少なくとも魔を支配した存在は消えてしまったらしい。


 その証拠に、魔王城は現在も北の山奥にその姿を現してはいるが、魔物があふれ出てくることも、明確な指示系統を持った侵攻も行われてはいない。


 歴史は何も語らない。


 あるのは静まり返った城と、伝説があるばかりだ。


 いつしか人々は魔王城の存在を忘れてしまった。魔素が満ち、作物も取れず、魔物ばかりがはびこる辺境に人が立ち入ることもなかった。


 あれから千年以上が経った。


 魔王不在の人の世は栄え、人と人との争いの果てに大国オルディスが生まれ、やがて王都アストリアが成立した。


 王都の威光のもと、世界は長い平和の時代を迎えていた。

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