別れの言葉
目を覚ますと、私はベッドに寝かされていた。
猛烈な痛みが体を襲い、身動きが取れなかった。
私は死んではいなかったのだ。
「やあ、お疲れ」
声のした方向に、痛む体を動かし向けると、そこにはサガラが椅子に座っていた。私は何かを言おうとするが、声が出ない。体の力すべてが抜けきってしまったかのようだった。
「ああ、無理はしなくていいよ。ここを離れる前に最後に挨拶をしておこうと思ってね」
サガラは依然と変わらぬ口調で話す。それが私にとっては嬉しかった。
「まさか夢とは思っていないだろうけど、君はこの村を、いや、世界を救った。あまり実感はないだろうけどね。力を手に入れた瞬間にいくつかの知識が流れ込んだできただろう? それは本当のことなんだ。君は魔物を倒すために力を与えられた。そして君は倒した。本来なら君はその役目を終えた後、命を失うはずだった。行き過ぎた力は周りを滅ぼす可能性があるからね。仕方のないことなんだ」
私は頷く。
力とともに頭の中に流れ込んできたものの正体を知る。ではどうして私は死んでいないのだろう。そしてなぜ、サガラはそのことを知っているのだろう?
「これははるか昔から続いていることなんだ。数百年に一度、この村にバグが、ああ、あの魔物のことだね。魔物が現れて災いをもたらす。そのたびに魔を退ける力を与えられた英雄が現れて打ち倒す。なぜそのようなことが起きるのか。それはぼくにもわからない。それは世界の修正力のようなものかもしれない。大きな負から生まれた反動で、正の存在を生み出し、バランスをとる。世界には創造主を超える未知の不具合が起きるものなんだよ」
サガラの言うことはわかるようでわからない。だが、私のことなど知ったことではないというように彼は続ける。
「普通に考えるなら大本となるバグを修正するべきだ。だがその歪みはあまりにも大きく、修正した結果別の不具合が起きる可能性がある。だからずっとそのままにしているわけだ。ぼくがここにやってきたのは、その結末を見届けるため。バグが正常に収まるのを確認するためにやってきたわけさ。そこで君と出会ってしまった」
そこで彼はため息をついた。
「本来であれば、君はあの場で死ぬはずだった。ぼくの使命はバグが正常に起きて、元の状態に落ち着くまでを監視することだ。仕事を終えた英雄は死に、世界の調和は保たれる。体が消滅するか、消滅がうまくいかなければ、ぼくが英雄を修正する。つまり、君が生き残った場合、ぼくは君を消さなくてはならないというわけだ。けれど、ぼくは君と話しすぎてしまった。見逃せなかったんだね。こんなことをしてしまってよいのか、ぼくにはわからないけれど、やってしまったからには仕方がない。ぼくは最後に忠告するためにここに来た」
そしてサガラは、真剣な表情で私を見据えた。
「一度発動した力は、君の意志で自由に使用できる。しかし、もう決して力は使ってはいけない。ぼくの力で一度だけ君の体を安定させたけれど、次にあの力を使ったら、君は確実に死ぬ。力が暴走してしまったら、ぼくが今度こそ君の息の根を止めなくてはならなくなる。それはしたくない。だから、決してぼくの言葉を忘れないでくれ、そうすれば、君は寿命を全うするまで生きることができるはずだ」
彼はそう言って立ち上がった。
「これを置いていくね。出来れば使われることがないことを願っているけれど」
サガラは私の枕元に小さな四角い紙を置いた。
必死の思いで首を動かしてみてみると、そこには、
補修人 相良修司
と書いてあった。
「もう行くよ。くれぐれも、ぼくの言ったことを忘れないようにね」
サガラが言うと同時に、扉が開き、スサナが顔を出した。
彼女はしばらく動きを止め、瞬きするぼくを見つめていた。
「トーマ!! 目を覚ましたんだね!!」
彼女が駆け寄ってくる。私は体の力を振り絞って頷いた。
「無理しないで! 先生を呼んでくるね!」
踵を返し、転びそうになりながら走って部屋を出ていくスサナを、私は見送った。
そして、気づいたときには、サガラの姿は消えていた。
私は枕元の紙片を見ようと首を動かした。
すると紙片もまた、彼と同じように消えていた。
私はスサナが戻ってくるのを待ちながら、サガラの言ったことを思い返していた。
第五話、完。
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