立ち上がる勇気
「なるほどね……女性というのは怖いね」
サガラは近くの木の根に座り、顎をこすっていた。
「ぼくは気を失い、気づくとターニャが石のように固まってしまった。家のなかの人々も、村中全員が同じように固まっていた。すべてはぼくのせいだ。それだけはわかる。けれど戻し方がわからない。自分では力を使いこなしていると思いあがっていたけれど、そんなことはなかったんだ」
「それで、ここに?」
サガラが聞くとシャルは自嘲気味に笑った。
「何度か死のうと試してみたけど、情けないね。死ねなかった。自分の罪を見せつけられているようで村にいることが辛く、かといって、村の外に出ることもできず、この場所にたどり着いた。あらゆることから逃げ出して、結局、死ぬことからも逃げている。ぼくは臆病者なんだ」
「ここで何もしなければ、いつか死ぬだろうってことかい?」
「うん、まあ、そういうことになるね」
サガラは立ち上がり、光を放つ神樹を見上げた。
彼は再び神樹に近づき、胸のあたりで手を動かすと、そこに半透明の板が現れる。
サガラは板に向かって何やら指を動かした。
「残念だが、それは出来ない」
「え?」
シャルが彼の方を見る。
サガラがぱっと手を広げると、手元の板は消えた。
「今の話ってさ、その、最後の君が絶望してしまったときの話さ。どれくらい前のことだと思う? 幻覚でも見ているのか、気づかないふりをしているだけなのか、それはわからないけれど、すでに半月以上は経っていると思うよ。君の話だと、飲まず食わずでここにいる。だとしたら、おかしな話じゃないか」
「は? そんな……まさか!?」
「勇者って知ってるかい?」
「勇者? おとぎ話に出てくる、はるか昔に魔王を倒したっていうあの?」
「勇者っていうのはね。もともとは普通の人間だったんだよ。それが、ある時力に目覚め、各地を巡ることで魔王と並び立つ力を得る」
「今の状況と何の関係が……」
「それがあるのさ。勇者はまるで導かれるように、決まったルートを進む。本人は自分で決めた道を進んでいるはずなのに、どうしても通ってしまう場所がある。それが、神樹のある聖域だ」
「神樹……」
シャルは視線の先にある大木を見上げる。
「神樹は特別な力を持ち、選ばれたものしか立ち寄れない。勇者は聖域で神樹と向き合い、そして新たな力を手に入れる。シャル。君は神樹に選ばれてしまったんだ。君の持つ他とは違う力の影響により神樹が起動し、本来勇者に与えられるような恩恵が、誤作動で君に与えられてしまった」
「どういうことだ……?」
シャルの言葉は震えていた。
「君はよほどのことがない限り死ねない体になってしまったということさ」
そしてサガラはシャルに近づく。
シャルは彼の言葉に衝撃を受け、固まったまま動かない。
サガラはシャルの横に屈んで腕を取る。
そして、緩やかで、そして力強い動きで、シャルを引っ張り立たせた。
「うわ!!」
シャルは突然のことでよろめいたが、すぐに態勢を整える。彼の記憶では何も食べていないはずなのに、脚はしっかりしていた。
「ほら立てた」
サガラはシャルの腕を離し、距離を取る。
「今の君は勇者の加護に守られている。だからいくら落ち込んでも状況は何も変わらない。たとえここに凶悪な魔獣がやってきても、神樹の力を解除しない限り君は生き残ってしまうだろう」
「じゃあ、ぼくにどうしろっていうんだ!」
シャルが大声で叫ぶ。自分にこんな声が出せたものかと驚いた。
「結局はさ、気の持ちようなんだよ。村の人たちだって、君が本気で願えば元に戻る。君はただ現実から逃げ続けているだけなんだ」
「ぼくにはできない。何度もやろうとしたんだ。でも駄目だった」
「そりゃ心のどこかで、戻したくないって気持ちがあるからさ。それで、死んで何もかもご破算にしようとしたんだ。ところが、君の命はこの神樹が救った。だから長い間この辺り一帯の時間は止まったままだ。ぼくにいろいろ話してみてどう思った?」
「全部ぼくのせいだと思ったよ。力に振り回されて何も見えなくなっていた」
「それだよ」
「え?」
「君はさ、ぼくに話して、もう十分冷静になっているはずだ。一人で抱えたままどうしていいかわからなかっただろうけど、話してみるといろいろ整理できるもんだよ」
「うん、まあ、それは……」
「だったらやれるさ。それともなにか、村の人をずっとあのまんまにしとくつもりかい?」
「いや、そうはしたくない」
「だったら意識を集中したらいい。話を聞いてると、君は力を制御できるはずだ。村の人が戻ったら神樹のことはどうにかするよ」
「そんなことができるのか?」
「出来るよ。誤作動でしかないからね。でもそれは、君が力を使ってみてからだ」
シャルは目をつぶった。サガラの言っていることに分からないことも多いが、それでも、自分のやるべきことだけは理解した。
シャルは考える。ぼくは力をどう使うべきだろうかと、自分だけでなく、もっと人の役に立つことができたのではないかと。
彼は息を大きく吸って、精神を集中した。
これなら何とかなりそうだと、シャルは思った。
第四話、完。
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