小休止
「暗くなってきたな……」
サガラは言って、立ち上がった。
シャルが話し始めて随分と時間が経っていた。
ただでさえ鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた空間である。日が沈んでしまえば、手の届く場所さえ見えない暗闇に包まれることだろう。
「この事件についてどう思う?」
シャルが訊く。
「どう思うって、君の捨て身の行動が新たな力を引き出したって話だろ? 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれってやつだね」
シャルは後半の言葉を理解できなかったが、聞かなかったことにした。
「出来過ぎた話だ」
「そうかい? 良い話だと思うけれど」
「ではなぜ、王都から離れた町に、わざわざ彼らがやってきたと思う?」
「さあ? 金を欲しがってたみたいだし、遠征にでも来てたんじゃないか」
「違うよ。彼らはぼくの命令によりエレアを襲ったんだ」
「なるほど?」
聞き返しながらサガラは神樹に向かって歩く。
「王都で気を失ってから目を覚ました時、すでに準備は終わっていたんだ。追い詰められたぼくは我を忘れて新しい力を生み出した。自分の力を認識してはいなかったけれど、ぼくは生まれたばかりの力を使って、彼らを都合のいい操り人形にしたんだ」
話を続けるシャルをよそに、サガラは神樹に触れた。
すると神樹は淡い光を放ち始めた。
「これで明るくなった」
「それはどういう……」
シャルは夢から覚めたように、サガラの動きを追っている。
「まあいいじゃないか。それとも今日はもうやめておくかい?」
「いや、全部話してしまおう。ではければ、ぼくの気が晴れない」
「じゃあ頼むよ」
「ぼくは王都で彼らを操り、そしてエレアを襲わせた。今ならわかる。心のどこかで、男としてエレアの心を奪うことはできないと分かっていた。だから、彼女を追い込む必要があった。強いぼくの姿を見たらエレアの心も変わるかもしれない。そう考えたんだろうね。自覚こそしていなかったけれど、エレアを傷つけようとしたのはぼくなんだ。なんてひどいことをしてしまったのだろう」
「でも、誰も傷ついてはいないのだろう。その少年たちは、多少怪我をしたかもしれないが」
「ああ、確かに死にはしなかった。母が来てすぐに、近くの町の詰め所に報告され、彼らは捕まった。そのあとはどうなったのかわからない。でもぼくは、自分の欲望のために彼らを利用したことに変わりはないんだ」
「しかし、触れた瞬間ならまだしも離れた場所で予定通りの行動を起こさせるなんてすごい力だ。そんなことは上位の魔術師だってできないだろうね」
「自分でもわからないよ。あんなことができるなんて知らなったし、やろうとも思っていなかったんだ。しかし結果的に、すべてはぼくの思い通りになった」
「エレアさんの気持ちは変わったかい?」
「事件があって、彼女のぼくを見る目が変わった。明らかにぼくを信用するようになり、数値も読み取れるようになった。愚かなぼくはただそのことばかりを喜び、王都の寮に向かう日まで、彼女との時間を過ごそうとしていた。けれど……」
そこでシャルは黙ってしまった。
沈黙が続き、サガラは神樹から離れ、元の場所に座った。
「それで?」
サガラは話の続きを促す。
「……現実は甘くなかった」
そしてまた、シャルは話しはじめた。




