#09 冒険者ギルド
ここはバーチェ王国の王都、冒険者ギルド。
ホールでラキーバ王女とギルドミストレスが話をしている。
「はい。十日ほど前、この街に巨大なブルードラゴンが現れました。そしてドラゴンは、こう言いました」
ギルミスは取り出したメモを読み上げる。
「我は龍神、女神ステラ様の眷属である。お前たちは異世界人召喚の禁忌を犯した。故に我は女神の代行者として天罰を下す。覚悟せよ」
え? ウチ、初耳なんだけど・・・
「天罰・・・」
「ドラゴンは青白い火の玉を放ち、王城と周辺の貴族街が消滅しました」
え、マジで? 城が消滅?
「リューガ、紙とペンを」
「はっ」
「ミストレス、しばし待て」
「はい」
「リューガ、伝書鳩を使え、早馬も出せ。今の話、寸分違わず女王陛下にお伝えせよ」
「御意」
「今この街を治めている者はいるか?」
「おりません。役人や警備兵は職務を放棄、一部は街から逃げ出しました」
「了解した・・・現在バーチェ王国の各街を掌握するために進軍させている」
「承知しました」
「今からこの街タウゼンブレッタは、軍の占領下に置く。抵抗する者は厳しく処罰する。よいな」
「仰せのままに」
なんかすごいことになってきた。
「まずは、この街に総督府を設立する。敷地の広い適当な建物はあるか?」
「不動産は商業ギルドの管轄ですので、わたくしがお答えします・・・中央広場近くにいくつかの物件がございます」
「この目で見たい。ギルドマスター、案内を頼む」
「かしこまりました」
「ギルドミストレスも同行せよ」
「仰せのままに」
ラキーバ王国の4人とギルドマスター、ギルドミストレスはホールから出て行った。
「俺は仲間に知らせてくる」
「オレも」
話を聞いていた冒険者たちもホールから出て行く。
ホールにいるのはウチだけになった。
ウチは巨大な穴が気になる。見に・・・あれ? 登録はどうなった?
「ウチの登録は、どうなっていますか?」
「ごめんなさい。これから手続きをします」
王女様の姿を見たら、呆然とするよね。
しばらく待っていると扉が開く音がした。
振り返って見ると、三人の女性が入ってきた。魔法使いかな? カウンターに近づいてくる。
「私はラキーバの国家魔法士カイア。姫様が来られたはずだけど、ご存知かしら?」
「はい、王女様は中央広場近くの物件を見に行かれました」
ナタリーが答えた。
「わかったわ」
「カイアさん、バーチェの魔法使いですよ・・・あれが杖? 木の棒にしか見えない」
「杖も服装もダサい」
別にダサくないし。小さな声で話しているけどウチには聞こえているよ。
「私たちはラキーバの白い三連星よ。覚えておきなさい」
三人は、いずれも銀髪で白い服装、胸に白銀の星をつけている。
「オルガ、マーサ、姫様のところに行くわよ」
「「はい」」
白い三人組は出て行った。
カイアと言う人はまともそうだけど、他の二人はむかつく。
「ギルドカードが出来ました。それと、地金を換金したおカネを渡しますが、金額が大きいので応接室まで来てください」
ウチは応接室に案内された。
テーブルの上には、大量の金貨と銀貨がある。
銀の地金は大銀貨8枚と銀貨4枚、金の地金は大金貨30枚、金貨125枚になった。
大金貨は、ギルドに30枚しかなく、残りはすべて金貨。そのため枚数が多いそうだ。
すごい大金だと思うけど、日本円でいくらなのか全然わからない。あとで確認しよう。
「登録料の銀貨1枚を差し引いてあります」
「わかりました」
ウチは木製のギルドカードを首から下げて、おカネは収納に入れた。
「収納魔法・・・初めて見ました。地金を出したとき、変だと思ったんですよ」
「この魔法、珍しいですか?」
「珍しいです。気をつけてくださいね」
「わかりました」
ナタリーさんは、冒険者ギルドの基本的なことを説明してくれた。
*
「掲示板は頻繁に見てください。依頼以外に連絡事項も掲示してあります」
「はい」
「以上で登録は完了です。頑張ってください」
「はい、よろしくお願いします」
*
ウチは掲示板を見てからギルドを出た。
まずは巨大な穴を見に行こう。
街の中心って言っていたから、外壁とは反対の方向だよね。
ウチは石造りの街並みを眺めたり、お店を素見しながら歩いた。
おカネの相場がなんとなくわかった。銀貨は1枚1000円くらいで、金貨は1枚10万円くらいだと思う。と言うことは・・・・・・
ウチが持っているおカネって、4000万円以上・・・
女子高生が持ち歩くおカネじゃないよね。収納に入っているから盗まれることはないけど。なんか怖い。
大きな建物が見えてきた。屋根の上には丸い輪がある。
建物を鑑定すると教会の礼拝堂だとわかった。
礼拝堂の入口にも丸い輪のシンボルがある。なんかドーナツみたい。
信仰の対象はステラさんのはずだよね。ちょっと行ってみよう。
礼拝堂の前にやってきた。壁がかなり傷んでいる。修理しないのかな?
中に入っても大丈夫だよね?
ウチはゆっくりと扉を開けた。中には数人いる。お祈りをしているんのは二人。他の人は掃除をしているかな?
とりあえず中に入って扉を閉めた。ウチが戸惑っていると・・・
「お祈りでしたら、ご自由にどうぞ」
「はい」
礼拝堂の上から光が差し込んでいる。屋根に穴があいているよ。
床は歩くとギシギシと音がする。この床、抜けそうだよ。
天窓のガラスは半数が割れている。
ウチは中央の通路を奥に向かって歩いた。
途中で、床を補修したところがあるけど、職人ではなく、素人が修理したみたいだ。
ウチは女神像の前で立ち止まる。そして見上げる。
台座の上に、3mくらいでドレス姿の女神像が立っている。やっぱりステラさんだ。
女神像の後ろにある壁面には金色の大きな光輪が描かれている。
どうしよう。お祈りした方がいいのかな。でも作法なんて知らないよ。
適当にやってみよう。
ウチは女神像の前で跪き手を組んで、お祈りをした。
実際にステラさんの前で、したこと無いけどね。
ウチはお祈りを終えて立ち上がった。
「カトリーヌさん、おそうじおわったよ」
「ご苦労様」
あんな小さな子が仕事をしているの?
教会の関係者かな?
4歳か5歳くらいの女の子が二人、それとカトリーヌという名の16歳くらいの女性が話をしている。
「礼拝堂の掃除はこれで終わり。休憩にしましょう」
「うん」
ウチは三人に近づいた。
「教会に寄付をしたいのですが・・・」
「寄付・・・はい、お願いします」
ウチはカトリーヌさんに大金貨2枚を渡した。
「大金貨・・・・・・初めて見ました。しかも2枚・・・・・・」
「受け取ってください」
「ありがとうございます」
「おかね?」
「そうよ」
ぐう・・・
女の子のお腹が鳴った。
ウチはドーナツが入ったバスケットを取り出した。
「収納魔法ですか?」
「はい、そうです」
「初めて見ました」
「ドーナツです。食べてください」
「ありがとうございます」
「それから、教会をことをウチに教えてください」
「わかりました、食堂にご案内します」
ウチらは礼拝堂を出て、孤児院の食堂に向かった。
孤児院の建物は礼拝堂よりもボロだね。ウチらは、中に入った
「ここが食堂です」
部屋の中には三つのテーブルがあります。
一つだけ小さなテーブルですが、小さな子が使うのかな?
カトリーヌさんが棚から陶器のお皿を出してくれた。
「カップも四つ出してください」
「はい」
手を洗ってほしい。水道ないのかな。
「皆さん、手を出してください」
皆さん手を出しました。
「洗浄魔法」
「まほう?」
「うん、手がきれいになったよ」
「すごいね」
ウチはバスケットからドーナツを取り、お皿にのせた。
ドーナツは、オールドファッションで黒糖のアイシングを施したもの。
三人もドーナツを取る。
ウチは飲み物を出した。
小さな子供がいるのでお茶ではなく、ホットミルクにする。
ミルクパンに入ったホットミルクを四つのカップに注ぐ。
女の子二人は大人用のテーブルだはなく、子供用の小さなテーブルにお皿を運んでいる。
やっぱりそっちで食べるのね。
食べる用意が出来た。
ウチは魔女帽子を脱いだ。
「女神様に感謝を」
「めがみさまにかんしゃを」
三人は手を組んで祈りを捧げます。ウチも真似をした。
日本の『いただきます』みたいな感じかな?
ウチらはドーナツを食べ始めた。