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宇塚井真帆は魔法使い  作者: ゑゐる
8/50

#08 旅

 ここは異世界ステラシオンの天界、女神邸のテラス。

 朝食を食べ終えた。


 「ごちそうさまでした」

 「ごちそうさま、美味しかったわ」


 ウチは魔法で食器をきれいにした。食器はメイドゴーレムが片付けてくれた。


 「マホはこれから下界に行くのね」

 「はい、お世話になりました」


 「私からマホに渡すものがあるわ。一つはこれよ」


 それは木製の杖で、長さは120cm、直径2.4cm、円柱型で飾りのないシンプルなもの。


 「これは世界樹の杖、『始祖の()』から作った特別製よ。折ることはもちろん、剣で傷をつけることさえ出来ないわ」


 ウチは杖を受け取った。


 「ありがとうございます」

 「この杖を使えば、複雑な魔力操作が容易になるわ。それに魔力を増幅する機能があるから強力な魔法が使えるわ」

 「すごいですね」


 「二つ目は、これよ」


 黒いスマホ?


 「私が作った魔道具のスマホよ」


 本当にスマホだった。ウチはそれを受け取った。

 見た目は小さなアーカイブの石板みたい。


 「これで通話やメッセージ、撮影やアーカイブ書籍の閲覧(えつらん)が出来るわ」

 「すごいものを作りましたね」


 ウチは魔道具スマホをポケットに入れた。


 「ウチもステラさんに渡すものがあります」


 ウチはストレージから紙製の箱を取り出した。


 「食べてください」


 ステラさんは箱をテーブルに置いて(ふた)を開けた。


 「これはお菓子ね」

 「はい」


 箱の中は、クッキー、マカロン、チョコレートが入ったお菓子の詰め合わせ。

 ウチは客室でこっそり作っていた。


 「この黒いのは何かしら?」

 「チョコレートです。美味しいですよ」


 ぱくっ。


 「美味しい」

 「これはカカオの種から作ったお菓子です」

 「カカオからお菓子が作れるなんて知らなかったわ」


 カカオはパントリーにあった。

 そしてチョコレートの作り方は、Bean to Bar で見学したことがあるので知っていた。

 Bean to Bar とは、カカオ豆からチョコレートを作る工房のこと。

 見学した経験が役に立った。


 「それから、こちらもどうぞ」


 ウチは2本のガラス瓶をテーブルに置いた。

 透明な瓶の中には、琥珀(こはく)色の液体が入っている。


 「これはカカオで作ったワインです。ウチはお酒が飲めないの試飲はしていません」

 「飲んでもいいかしら?」

 「どうぞ」


 ステラさんはワイングラスを出した。

 そして魔法でコルク栓を開けて、グラスに注いだ。


 ごくっ。


 「美味しい。ブドウのワインとは風味が違うわね」


 どうやら美味しく出来たらしい。よかった。


     *


 「下界に行ってしまうのね」

 「はい、お世話になりました。天界での生活は楽しかったです」

 「私も楽しかったわ」


 ウチは十日間以上を天界で過ごした。充実した毎日だった。


 「ステラシオンで最初に行きたいのはどこかしら?」

 「そうですね・・・ウチを召喚した国が気になるので、行ってみたいです」


 「わかったわ。今のマホ(・・・・)なら大丈夫でしょう」


 魔法を覚えて、護身術も身に付けた。避難方法もあるから大丈夫。


 ウチは魔女帽子をかぶった。手には、もらった魔法の杖。そして自作した鞄を肩から斜め掛けしている。鞄には五芒星のマークがある。

 このマークは宇塚井家の家紋で、「丸に桔梗紋(ききょうもん)」と呼ばれている。宇塚井家の祖先は陰陽師だったらしい。陰陽師の子孫が魔法使いって、どうなのよ・・・


 「それでは、王都に転移させるわね」

 「はい。それでは・・・・・・行ってきます」

 「いってらっしゃい・・・・・・転移(テレポート)


 ウチは、さようならと言いそうになったけど、何か違う気がした。



   *    *    *



 下界のステラシオンに転移した。

 ここはウチを召喚した国の王都、そして街の入口付近。この場所は街の東側にあたり、高い外壁が見える。

 これが異世界の街・・・


 ウチがこの世界ですることは、国を繁栄させたり、魔王と戦うことではない。

 自由気ままに冒険の旅をして、日本では体験できないことをする。それだけ。


 ウチは王都の東門に向かって歩く。

 ん? 街の入口に衛兵がいないね? 

 普通は、通行証を見せろとか、銀貨1枚を払えとか、そういうのがテンプレだと思っていたけど、ラノベだけの話かな?

 まあいいか、おカネ持ってないし。

 おカネは無いけど、金と銀の地金(じがね)はステラさんにもらってある。


 ウチは街の門を(くぐ)って街に入った。


 おおお・・・石畳の道、石造りの建物、屋根は天然石のスレート、窓は木製の鎧戸(よろいど)が多いけど、ガラス窓もある。すごくいい。日本の町並みとは全然違う。

 早速、魔道具スマホで写真を撮る。


 パシャ、パシャ・・・

 シャッター音が少し違うけど、悪くない。


 さて、異世界の街に入ったら、最初に向かうところは冒険者ギルドがテンプレだよね。

 ウチは街の人に場所を尋ねた。


 「すみません、冒険者ギルドはどこにありますか?」


   *


 教えてもらえた。


 「どうもありがとう」


 翻訳魔法のおかげでちゃんと言葉が通じた。

 場所がわかったので冒険者ギルドを目指して歩くけど・・・

 なんだか街に活気がない。王都の大通りなのに人が少ない。こんなものかな?


 冒険者ギルドに到着した。看板の文字も読める。

 ウチは中に入った。

 朝だけど混雑はしていない。ホールと掲示板の前に冒険者が数人いるだけ。

 受付カウンターとその中には数人の職員がいる。

 ウチは女性職員の受付に向かった。


 「登録をお願いします」

 「はい、私はナタリーです。よろしくね・・・登録は銀貨1枚よ」


 ウチは金と銀の地金を1個ずつ取り出して見せた。


 「おカネは持っていないので、これを換金できますか?」


 ナタリーさんは、ウチが渡した地金を手に取って見ている。


 「ええ、換金出来るわ。(きん)の換金は大歓迎よ」


 大歓迎?


 ナタリーさんの話によると、戦争などの影響で情勢不安が広がると金相場が上昇するそうだ。

 そのため、(きん)を高値で買い取ってくれるらしい。

 いわゆる「有事の(きん)

 異世界も地球と同じだね。

 ウチは、ずしりと重い(きん)の地金を全部で4個出した。たぶん1個1kgくらいだ思う。

 それをナタリーさんに渡した。


 「地金を鑑定している間に、登録用紙の記入してね」


 用紙とペン、インク瓶が出された。

 これ羊皮紙だよね。それと羽根ペン。ちょっとかっこいい。

 ウチは、名前や年齢などを記入する。


 バン。


 扉が開く音がした。

 ウチが振り返って扉の方を見ると、男性が急いでカウンターに近づいてきた。


 「ギルミスに伝えてくれ。ラキーバの連中がやって来た」

 「はい」


 受付のナタリーさんは、急いで奥に行ってしまった。



 そしてすぐにナタリーさんを含めて三人出てきた。

 一人は40代で口髭の男性。もう一人は30代の女性? 耳が・・・獣人かな?

 その獣人女性がカウンターに近づく。


 「ラキーバ軍の規模は?」


 入って来た男性に声をかけた。


 「10人くらいだ」

 「少ない・・・先遣隊か・・・」

 「たぶん、そうだと思うぜ」

 「こちらから手を出すなよ」

 「わかってる。冒険者が軍と戦っても、得るのもは無いからな」


 また入口の扉が開いて、4人が入ってきた。女性と男性二人ずつ。カウンターに近づいてくる。


 「私は、ラキーバ王国第一王女カスミ・ウル・ラキーバである。話がしたい」

 「はい、お待ちください」


 王女? (よろい)を着た騎士なのに? なんかすごい人がやってきた。


 獣人女性と口髭男性がホールに出てきた。


 「冒険者ギルドミストレスのアビーと申します」

 「商業ギルドマスターのノーダでございます」

 「お話は応接室で(うかが)います」


 「いや、この場で結構。その方が早く住人に伝わるであろう」

 「かしこまりました。伺います」


 どうやら王女とギルミスがここで話をするみたい。


 「そなたに尋ねる。街の中心にある巨大な穴は一体何か? それと王族の行方(ゆくえ)を答えよ?」





 巨大な穴?

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