#07 魔法の応用
ここは異世界ステラシオンの天界。世界樹の近く。
ウチはステラさんから魔法を教わっている。
いま目の前にあった綿が一瞬で燃えて、消えた。
えーっと、なんだっけ? 物理の授業で教わった・・・
「断熱圧縮」
「地球では、そう呼ばれているのね。気体は圧縮すると高温になるの」
今度は水の玉を浮遊させた。
「今度は空気を膨張させるわ・・・・・・膨張」
水の玉は凍り付いて地面に落ちた。
「逆に、気体を膨張させると低温になるの」
エアコンと同じ原理だね。
ステラさんがまた綿を浮遊させた。
「やってみて」
「はい・・・・・・圧縮」
綿が燃えて消えた。
次は水の玉が浮遊した。
「膨張」
水の玉は凍り付いて落ちた。
「問題ないわね。次は発酵に利用する魔法ね・・・こっちに来て」
ステラさんは少し歩き、雑草の茎を折り曲げた。
パキッ。
「治癒」
折れ曲がった茎が元に戻った。
「マホもやってみて」
「はい」
ウチも雑草の茎を折り曲げる。そして・・・
「治癒」
元に戻った。けど・・・
「治癒と発酵は関係がありますか?」
「生体組織や細菌、細胞分裂を促進させるのは、どちらも同じね」
「なるほど」
「そろそろ戻って昼食にしましょう」
「はい、ウチが作ります」
「お願いするわ」
*
ウチらは飛行しながら女神邸に戻った。
「これから昼食を作ります。少し待っていたください」
「作るところを見たいわ」
「わりました」
二人でキッチンに行った。
簡単の料理にしよう。米があったから丼物にする。
2体のメイドゴーレムがこっちを見ている。料理を学習するのかな。
まずは食材を準備して、お米は土鍋で炊く。
次に出汁を取る。鰹節があったので魔法で削った。
「枯れ木と木屑みたいだけど、干した魚なのね」
「はい。鰹節は、地球で最も固い食べ物と言われています。これは削って使います」
ウチはひとつまみの削り節を食べた。
「旨味があって美味しいですよ」
「私も食べてみようかしら」
ぱくっ。
「美味しいわ」
出汁が出来たので、丼用に少し残して、みそ汁を作る。
次は、ご飯にかける具を作る。
スキレットに、出汁、醤油、みりん、砂糖を入れて火にかける。
その後、玉ネギと刻み生姜を加える。
玉ネギがしんなりしたら一旦火を止めて、水溶き片栗粉を入れる。
再び加熱、薄切りの牛肉を入れて軽くほぐす。そして溶き卵を加えて蓋をする。
ご飯が炊きあがった。丼用の器がないので深皿にご飯を盛った。
卵に火が通ったので、ご飯の上にかけて、三つ葉を散らした。
料理が完成。
昼食は卵とじ牛丼、タケノコとネギのみそ汁。
二人でテラスに行った。スマホの充電は終了しているので収納した。
ウチは料理をストレージから出した。
深皿は手に持つわけにはいかないので、スプーンで食べる。
着席したので・・・
「いただきます」
「いただきます」
ぱくぱく・・・
「初めて食べたけど、美味しいわ」
「卵とじ牛丼とおみそ汁です」
「米料理いいわね」
「日本人は炊いたお米をよく食べます。今回作ったのは日本の料理です」
「このスープも変わった風味で美味しいわ」
「おみそ汁の具材は、野菜、キノコ、肉、魚など自由です」
「いいわね」
ステラさんが日本の料理を気に入ってもらえて、ウチは嬉しい。
*
昼食が終わった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま、美味しかったわ」
ウチは、清浄魔法で食器をきれいにする。食器はメイドゴーレムが片付けてくれた。
「私は午後、することがあるから、マホは一人で魔法の練習をしてほしいの」
「わかりました」
ステラさんは、席を立って屋内に向かった。
ウチは午後から魔法の練習を兼ねて物作りをする予定。
異世界の生活に必要な調理道具や加工食材、魔道具、雑貨などを作りたい。
*
最初に調理道具と食器類を作った。色々作ったけど出来ないものが一つだけあった。
それは直火式コーヒーメーカーのマキネッタ。構造がわからないので諦めよう。
でも、エスプレッソマシンの魔道具を作ることが出来た。
他にもアーカイブを利用して色々な魔道具を作った。ブレンダー、泡立て器、炊飯器など。
創造魔法はとても便利、様々なものが作れた。下着やルームウエア、ルームシューズ、家具、寝具など。
ルームウエアはオシャレなものを作った。日本ではジャージかスウェットが定番だけど、人前に出るのはちょっと・・・
着心地が良くて、そのまま寝られて、人前に出てもおかしくないワンピース型のルームウェアを作った。
布団と枕は、真綿で作った。中綿も真綿、絹100%の高級寝具。肌触りがよくて、ふかふか。日本で買ったら、いくらするのかな。贅沢だよね。
物作りで一番大変だったのが、家。
まずワンルームの小さな家を試作して、その後アーカイブにあった図面を参考に家を建てた。そしてハーフティンバー風の2階建てコテージが完成した。
結局、魔法を使った物作りは十日間以上に及んだ。
物作りには化学や物理の知識が役に立った。学校の授業は大事だよね。
物作り以外には、ステラさんから魔法の応用や護身術も習った。
* * *
今日は、天界に来て十日以上が過ぎた朝。
人々が住む下界のステラシオンに旅立つ日になった。
そしてこれからテラスで朝食。
朝食は、焼きたてのパンにグリルしたソーセージを挟み、トマトソースをかけたホットドッグ。
ゆで卵が入ったポテトサラダ、味付けはマヨネーズ。
それと、今エスプレッソマシンでカプチーノを淹れている。
「いい香りね」
カプチーノが出来た。
「いただきます」
「いただきます・・・まずはコーヒーからね」
ごくっ。
「美味しい・・・前に飲んだカフェオレよりも風味が濃厚ね」
ウチは数日前にコーヒー豆を焙煎した。カフェオレとカプチーノが気に入ってもらえてよかった。
ぱくぱく・・・
「これも美味しいわ」
「ホットドッグといいます」
「この一品だけも完成された料理ね」
ステラさんは、次にポテトサラダを食べた。
手掴みではなく、フォークを使っている。
ウチが魔法で作ったフォークや箸は好評で、ステラさんはカトラリーで食事するようになった。
「このサラダも美味しいわ」
数日前にマヨネーズを使ったサラダを出して、ステラさんに絶賛された。
「マヨネーズは、野菜を最も美味しく食べる調味料ね」
「ウチもマヨネーズ、大好きです」
「でも下界では作れないのよね」
「はい、普通の人には生卵を殺菌することが出来ません」
「天界だけの調味料ね」
地球のマヨネーズは昔からあるはずだけど、当時の人は生卵を殺菌しなかったのかな?
インターネットがないから調べられない。んー、謎。
「マホがいる間、毎日美味しい料理を食べられて幸せだったわ」
ウチは和食以外に中華や欧米の料理も作った。
大絶賛だったのが昨夜作ったカレーライス。
おやつも好評だった。ドーナツ、紅茶のシフォンケーキ、タピオカミルクティーなど。
ステラさんは最近毎日タピオカミルクティーを飲んでいる。そのうちに飽きますよ。
「下界で料理を作っても、アーカイブに記録されますか?」
「もちろん記録されるわ」
「わかりました。下界でも料理を作り続けます」
「お願いするわ」
天界での生活はとても楽しかった。
今日から下界での生活になる。ワクワクする。