#06 魔道具
ここはステラシオンの天界、女神邸のテラス。
ウチはステラさんから魔道具の製作を教わっている。
魔法陣が明滅して、魔石が虹色に光っている。
「うまく作動しているわね」
「はい」
「そうしたら、一旦魔石をはずして」
「はい」
ウチは魔石をはずした。
「次は仕上げよ、光の魔法陣を回路に固定させるの」
ステラさんが魔法陣に手をかざす。
「固定」
魔法陣は光を失い、魔導回路の一部になった。
「同じようにやってみて」
「はい」
ウチは魔法陣に手をかざす。
「固定」
出来た。
「あとは充電の付属品を付ければ完成ね」
ステラさんがまた何種類かの材料を出してくれた。
ん? プラスチック?
「これは天然樹脂なの」
プラスチックと同じように使えるはず。あとは電源ケーブルを取り付ければ完成する。
創造魔法でケーブルを作った。あと容器も作ろう。
ウチは金属で魔導回路を入れる容器を作る。大きさは回路より一回り大きいキューブ型。
容器は火魔法を使い、テンパーカラーで色を付ける。
テンパーカラーとは、塗料を使わない金属の着色方法。金属を加熱して表面に酸化膜を作り、
膜の厚さによって色が変わるもの。フライパンの空焚きや溶接焼けと同じ。
ムラがなければ発色がきれいになる。合成塗料や溶剤を使わないので環境に優しい。
容器はメタリックな青を基調にした虹色になった。
あとは魔導回路と巻き取り式のケーブルを収納すれば・・・
「完成しました」
「きれいな色ね」
「ウチもそう思います」
「早速充電してみて」
「はい」
スマホに端子を繋ぐ・・・問題ない。充電マークになった。
「マホが作った魔道具第一号ね」
「はい、ステラさんのおかげです」
「テーブル上の素材は魔道具作りに使えるわ。あげるから適当に使ってちょうだい」
「ありがとうございます」
「ちょっと休憩にしましょう。お茶を淹れるわね」
「はい・・・あ、お茶ならウチが淹れます」
「そうね、お願いするわ」
ウチはキッチンに行く。ステラさんはミルクティーを気に入っていたので、あれも気に入るはず。
さっきパントリーを見たとき、抹茶があったので抹茶ラテを作ることにした。
和食の材料は他にもたくさんあった。うるち米、もち米、ソバ、醤油、みそ、みりん、鰹節、昆布など。緑茶と麦茶もあった。
これなら和食が色々と作れる。異世界なのにどうして和の材料があるのか不思議、まあいいか。
抹茶ラテが出来たので、テラスに戻る。
「どうぞ」
「ミルクティーとは色が違うわね」
「抹茶ラテと言います」
ごくっ。
「さっきと風味が違うわ。これも美味しいわね」
「ウチも抹茶が好きです。今度お茶を使ったお菓子を作りますね」
「お茶でお菓子が作れるの? 楽しみね」
*
お茶と休憩が終わった。
「スマホを充電している間に、便利な魔法を教えるわ」
「どんな魔法ですか?」
「飛行魔法よ」
「いいですね」
「移動が早いし、危険なとき上空に避難すれば安全でしょう」
「はい」
ウチは飛行魔法を教わることになった。
「飛行魔法を教える前に、防御魔法を教えるわ」
「防御魔法・・・」
「空を飛ぶのは普通怖いものよ。防御魔法の結界を纏えば、上空から落ちても怪我をしないわ」
「なるほど」
「安心感があれば、飛行に意識を集中できるはずよ」
「そうですね」
ステラさんはイスから立ち上がった。
「マホも立ってちょうだい」
「はい」
そしてステラさんはウチに向かって手をかざす。すると・・・
ウチの中に2種類の魔力が入ってきた。
「実際に防御魔法の結界を作るわね」
「はい」
「結界・・・・・・私に近づいてみて」
ウチはステラさんに近づこうとするけど・・・
「空気の固まりみたなものがあります」
「それが結界よ。結界は、固くしたり、柔らかくしたり、厚み変えたり、光魔法で色を付けることもできるわ」
「便利ですね」
「形も自由自在よ。やってみて」
「はい」
ウチは柔らかい防護服のような結界をイメージした。
「結界」
できた。一度作れば意識しなくても形状を維持できる。
「次は飛行魔法、まずは空中に浮ぶことからね・・・飛行」
ステラさんが空中に浮かんだ。
「やってみて」
「はい」
こういうのはアニメで見たことがあるから、イメージしやすい。
「飛行」
ウチの体が空中に浮かんだ。
「少し動いてみて」
「はい」
ウチは地上2m上空をゆっくり飛行する。アニメのキャラになったみたい。
「コツをつかむのが早いわね。一緒に空の散歩をしましょう」
「あの大きな木のところに行ってみたいです」
「わかったわ。行きましょう」
「はい」
ウチはステラと一緒に飛行しながら、大きな木を目指す。
*
近くまで来たけど、ものすごく大きい。木というより巨大な塔みたい。
「この木は世界樹なの、地球の単位で言えば高さは650m、幹の直径は50mよ。樹齢は1億年を超えたかしら。でも私より若いわ」
ステラさん、何歳なのかな? 聞くのが怖い。
それにしても大きな木、もしこの木に名前をつけるとしたら、スカイツリー以外に思いつかない。
ウチは浮遊しながら世界樹の枝先にやってきた。たくさんの実がついている。黄色の実が多い。
それに、少しだけど花も咲いている。
「あれ花ですよね?」
「そうよ。世界樹は季節に関係なく花が咲くの」
白く細長い花弁が6枚、まるで雪の結晶みたい。
「黄色の実が多いですね」
「花が散ると黄色の実をつけるわ。熟した実だけオレンジ色になるの。完熟するのに10年かかるのよ」
「完熟に10年・・・」
異世界は地球の常識が通用しないね。
あれ? 周囲の木は・・・
「地上に降りていいですか?」
「降りましょう」
ウチらは地上に向かって降りる。やっぱり・・・
「周囲の木も世界樹ですよね?」
「そうよ、まだ小さいけど」
小さいと言っても、高さ100mくらい。花と実もついている。
それに、きれいな蝶が飛んでいる。
世界樹って一本しかないイメージだったけど、ここにはたくさんある。
「鳥?」
鳥が世界樹の実を取って、飛び去った。
「あれは鳥型のゴーレムなの。完熟の実だけを収穫しているのよ」
人型以外のゴーレム。面白い。
「次はどんな魔法がいいかしら?」
「料理に役立つ魔法がいいです。食材を温めたり、冷やしたり・・・あと発酵に利用する魔法はありますか?」
「あるわよ」
ステラさんはウチに手をかざす。
ウチの中に2種類の魔力が入ってきた。
風? もうひとつは治癒?
「見本を見せるから、鑑定しながら、よく見てね」
「はい」
ステラさんは小さな綿を取り出して、浮遊させた。
「空気を圧縮するわよ・・・・・・圧縮」
綿は一瞬で燃えて、消滅した。
すごい・・・