#04 天界
ここは・・・客室・・・だよね?
演劇の幕間で召喚されて、異世界へ・・・
そして今は天界にいるんだよね? 夢じゃないよね?
外は・・・少しだけ明るい。もうすぐ夜明けだよね。
ウチ、魔法使いの格好でそのままベッドで寝ちゃったみたい。ブーツも履いたままだよ。
汚しちゃったかな?
「清浄」
これできれいになったはず。
まずはトイレ・・・
*
ここのトイレも丸い穴だけのトイレだった。
鑑定したら仕組みがわかった。魔道具だ。
*
トイレから出たあと、お風呂を見る。
バスタブがあるだけでシャワーは付いていない。お湯は魔道具で出すみたい。
次は備え付けのキッチンも見てみよう。
コンロは魔道具。ここでは電化製品の代わりに魔道具を使っているらしい。
ステラさんに魔道具の作り方も教えてもらおうかな。
食器は・・・・・・戸棚の中にあった。調理道具もある。
冷蔵庫は・・・・・・ない? 食材ないのかな?
ダイニング横のキッチンに行けば何かあるかも。行ってみよう。
*
ダイニングに入ると自動で照明がついた。魔道具だけど、なんかハイテク。
メイドゴーレムに聞いてみよう。
「食材ありますか?」
返答はないけど、動き出した。ウチもついて行く。
「ここ?」
壁? 戸棚かな? 取っ手がない。どうやって開けるのかな?
触れば開くのかな? 触ってみよう。
あ、これストレージだ。
食材、調味料、調理道具、食器などが入っている、いわゆるパントリー。
あとはレシピを検索してみよう。
アーカイブ、レシピ、検索・・・
んー、微妙なレシピが多い、焼くとか煮るとか。
でも美味しそうなレシピもある。でもあまり普及しいないみたい。
情報通信の未発達な上、レシピは秘匿されていることが多いらしい。
宮廷料理や貴族の秘伝料理、先代から伝わる伝統料理、一部の集落で食べられている郷土料理など。
それらは客をもてなす特別な料理で、レシピは門外不出になっている。
広く知られてしまえばありふれた料理になるよね。
レシピの具体例は、カツレツ、パンケーキ、プリンなどのレシピが宮廷料理にあった。
スパゲッティは無いが、ショートパスタにソースをかけた郷土料理はある。
水で溶いた小麦粉に具材を混ぜて焼く、お好み焼きモドキの家庭料理や米を使った料理、ピラフなども存在する。
ステラさんは普段何を食べているのかな?
しょうがない、何か適当に作ろう。
ウチはパントリーから色々出して調理を始めた。
2体のメイドゴーレムがこっちを見てる。顔はないけど、なんかやりにくい。調理を学習しているのかな?
*
大体出来た。料理は自分のストレージに入れた。
あとはコーヒーが飲みたい。パントリーにあるかな?
あった・・・でもこれ、いわゆるコーヒーチェリーだ。焙煎していない。
紅茶にしよう。
ウチはホットミルクを茶葉に注ぎ、紅茶を淹れた。
「おはよう、マホ。いい香りね」
ステラさんが起きてきた。
「ステラさん、おはようございます」
「自分で朝食を作ったの?」
「はい、一緒に食べますか?」
「頂こうかしら」
「いま準備します」
あとはパントリーからフォークを出して・・・あれ? 無い? スプーンはあるけど。
「ステラさん、フォークはどこですか?」
「ふぉーく? 何のことかしら?」
まさかフォークがない? 異世界ならあり得る。
「スプーン以外に食事の道具はありますか?」
「・・・ないわね。いつも手で食べているわよ」
やっぱり・・・しょうがない、ウチも手で食べよう。
「朝食はテラスにしましょう」
「はい」
テラスに行くと、ステラさんがテーブルとイスを用意してくれた。
庭園を眺めながらテラスで朝食、なんかオシャレ。
ウチはテーブルに料理を出す。
朝食のメニューは、フレンチトースト、ベーコンのソテー、キャッサバの素揚げ、サラダ、ミルクティー。
「美味しそうね・・・食べましょう」
「はい・・・いただきます」
「自分で作ったのに、気を使う必要はないわよ」
「日本ではいつもこうしてます」
「そうなの?」
「はい、調理した人や、農家、お店、糧になる生き物に対する感謝の言葉です」
「感謝の言葉・・・」
「食後は、ごちそうさまと言います」
「すばらしいわ。それなら私も・・・いただきます」
ぱくぱく・・・
「私はお茶から・・・」
ごくっ。
「美味しい・・・ミルクで淹れるお茶ね、考えたこともなかったわ」
「地球では、わりと普通の飲み方です」
ぱくぱく・・・
「卵を付けたパンも甘くて美味しいわね」
「ウチも好きです。地球では朝食によく食べます」
ちなみにパンはバゲットを切ったもの。
「ベーコンの調理法は普通だけど、このお芋を揚げた料理は初めてね」
「実はウチも初めて食べました」
「そうなの?」
「はい、モチモチして美味しいですよね」
日本ではキャッサバがあまり流通していないから、食べてみたかった。
キャッサバがあれば、ウチの好きなポンデケイジョやタピオカが作れるので、楽しみ。
「この野菜は火を通していないのよね?」
「はい・・・生野菜は食べませんか?」
「下界で生野菜を食べる習慣はないわね、食中毒の可能性があるから」
「なるほど」
今回のサラダは、レタス、トマト、玉ネギ、キュウリ、チーズを使ったレシピ。
マヨネーズはないので、オイル、ビネガー、塩コショウで味付けをした。
でも、直に手で食べるのがものすごい違和感。クリーン魔法で手をきれいに出来るから問題ないけど。
「ステラさんは普段どんな料理を食べているんですか?」
「最近は料理していないわね。いつも世界樹の実を食べているわ」
「そうですか・・・それならここでお世話になっている間はウチが料理を作ります」
「お願いするわ。他にも地球の料理たくさんあるのよね?」
「はい」
「楽しみね」
ウチの趣味は料理だけど、普段料理をするのは母なので、ウチが作るのはお菓子ばかり。
でも、ネットで気になったレシピはスマホに保存している。
レシピはたくさんあるから問題ない。
そうだ、スマホ・・・
電池がそろそろなくなる。魔法で充電できないかな?
食事が終わったら、ステラさんに聞いてみよう。
*
朝食が終わった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま、美味しかったわ」
「ありがとうございます」
「ところで、これから魔法を教えるつもりなんだけど、どうかしら?」
「はい、お願いします」
ウチは清浄魔法で食器をきれいにした。これも魔法の練習。
食器はメイドゴーレムが片付けてくれた。
ウチはストレージから魔女帽子を出してかぶった。
「最初の魔法は何がいいかしら?」
「教えてほしい魔法があります」
「何の魔法?」
ウチはスマホを取り出した。
「これを充電したいです。魔法で出来ますか?」
「じゅうでん? 手に持っているのは何かしら?」
「スマホです」
「ちょっと見せて」
ウチはスマホをステラさんに渡した。
「鑑定・・・・・・すごいわ、これが地球の技術なのね・・・」
ステラさんはスマホを凝視する。
「解析・・・・・・繊細で精密、精巧で緻密、工芸品というよりは、芸術品ね、すばらしいわ」
ステラさんの解析は続く。
「この機械の中を流れているのが電気、そして動力の源がここね・・・もうちょっと見せて」
「はい」
「この機械自体もすごいけど、それを動かす命令書と術式がすばらしい、感激だわ」
命令書? 術式? OSとアプリのことかな?
「ありがとう、返すわ」
ウチはスマホを受け取った。
「すばらい技術ね。魔力で作動する魔道具とは設計思想が違うけど、魔道具製作の参考になったわ。これを作った人は天才ね」
最初にスマホを作った人は天才です。ライフスタイルが一変したからね。
「充電出来そうですか?」
「やってみましょう。まずは雷魔法から教えるわ」
「はい」
ウチは、スマホを充電するため、雷魔法を教わることになった。