#03 女神・王太子 (別視点)
* 女神の視点 *
< ステラシオンの天界 >
私はマホを客室に案内したあと退室して、鏡の部屋に向かいます。
鏡の部屋に入ると中は漆黒の闇、奥にある大きな立ち鏡の縁だけが白く光っています。
歩いて鏡の前に立つと、自分の姿が映りました。
疲れた顔をしているわね。
しばらくすると鏡全体が白く光り、地球神ネモウス様の姿が映りました。
「ネモウス様、今回の件は心から謝罪いたします」
「宇塚井真帆はどうしていますか?」
「無事に保護しました。今は天界の客室で休んでいます」
「それはよかった」
「マホさんがステラシオンを見て廻りたいそうです。滞在の許可をお願いいたします」
「・・・・・・わかりました。宇塚井真帆のステラシオン滞在を許可します」
「ありがとうございます」
「ですが、宇塚井真帆は救世主ではありません。義務の押し付けは、しないでください」
「はい、心得ております」
「そちらの問題は、そちらで解決してください」
「はい」
「それから、宇塚井真帆が滞在する際、生活に困ることがないように手助けをお願いします」
「承知しました」
「もし、宇塚井真帆が地球に帰りたいと申し出たときは、連絡をください」
「はい」
「最後に・・・異世界召喚の魔道具は、どうなりましたか?」
「ひとつは破壊しました」
「・・・・・・わかりました。それでは宇塚井真帆の件、よろしくお願いします」
「かしこまりました」
鏡からネモウス様の姿が消えました。
再び自分の姿が鏡に映ります。
はあ・・・
今日は色々あって疲れました。
私は鏡の部屋を出ました。そしてリビングに向かい、ソファーに座ります。
私にもっと神力があれば・・・
神力は信仰に比例する。信仰者の少ない現在、かなり神力が弱くなったわね。
そろそろかしら。
もう時期バーチェ王国の王城に着くころね・・・・・・眷属が・・・
* * * * * *
* 王太子の視点 *
< バーチェ王国の王城、王太子の執務室 >
国王陛下は軍議中で、魔法使い召喚の件は王太子である私に一任されている。
「宰相、一体どうなっているのだ?」
「心から謝罪いたします。殿下」
「謝っただけで済む問題ではないぞ」
「はい・・・」
「召喚成功の報せを聞いて駆けつけてみれば、魔力を持たない小娘だと言うではないか?」
「はい、魔道具で確認しました」
「その後、檻に入れた小娘が姿を消したそうだな?」
「はい・・・」
「魔力を持たぬ者がどうやって檻から抜け出すと言うのだ?」
「わかりません」
「まだ城内にいるかもしれん。探し出せ」
「はい、すでに被召喚者の捜索を開始しております」
「召喚の魔道具はどうした?」
「壊れました」
「何故だ?」
「わかりません」
「調べろ。すぐに魔道具を直せ、大至急だ」
「はい、失礼いたします」
宰相が退室した。
「どうしてこうなった?」
私は頭を抱えた。
戦争だ。すべて戦争が悪い。
あのバカ貴族が陛下を唆したせいだ。
私は戦争に反対した。陛下に進言出来るのは息子である私だけだ。
しかし陛下は聞く耳を持たなかった。戦争は必ず勝利すると陛下は言った。
作戦を立案したのも、あのバカ貴族だった。
作戦の第一段階は、我が国の工作員を送り込むことから始まった。
隣国のラキーバは我が国の北側にあり、国境は川が流れている。そして石橋がかけられている。
我が軍は冒険者や商人に扮した工作員を送り込み、少しずつ戦力を整えた。
そして荷馬車を改造した戦闘馬車を作り、電撃戦を開始、敵の国境兵を制圧して勝利した。
一報が入った城内では歓声が響き渡った。
陛下の横に立つバカ貴族の自慢げな顔が今でも目に焼き付いている。忌々しい。
しかし勝利したのは、緒戦だけだった。
その後、敵は橋を破壊、我が軍の救援や物資の輸送が困難になった。
急遽、小舟による補給に切り替えたが敵はゲリラ戦を展開、小舟は襲撃され、多くの兵や物資を失った。
そして対岸にいる我が軍の部隊は孤立、しばらくして敵の援軍に包囲され部隊は壊滅した。
その後、敵軍は川を船で渡り南下、国境近くにある我が国の街を一つ占領した。
我が軍は後退、前線を下げるのは、やむを得なかった。
現在、戦争は小康状態になっているが我が軍の劣勢は明らかだ。
我が国は軍を再編成中だが、敵も軍備を整えているだろう。
敵が進撃を開始するのは時間の問題だ。
そして戦況を好転させるための異世界召喚も失敗、どうしてこうなった?
コンコンコン。
「伝令です」
「入れ」
「城の上空にドラゴンが現れました」
「なんだと・・・」
何故ドラゴンが城に・・・
「すぐに行く。兵を集めよ、攻撃してきたら応戦せよ」
「了解」
窓から外を見たがドラゴンは見えない。
私は執務室出て、外に向かって走った。
いやな予感がする。最悪だ。タイミングが悪すぎる。
どうして次から次へと問題が起こるのか?
私は外に出て夜空を見上げた。
そこには、月明かりに照らされた巨大なブルードラゴンがいた。
羽ばたきもせず、空中に静止している。
なんだあれは? 目の錯覚なのか? あまりにも巨大すぎる。
こんな巨大なドラゴンがこの世の存在するのか?
「愚かな人間どもよ、聞け」
「しゃべった・・・」
「我は龍神、女神ステラ様の眷属である。お前たちは異世界人召喚の禁忌を犯した。故に我は女神の代行者として天罰を下す。覚悟せよ」
天罰? ばかな・・・何をする気だ?
ドラゴンの前に青白い光の玉が現れ、少しずつ大きくなる・・・まずいぞ。
「攻撃開始、矢を放て。魔法士も攻撃せよ」
矢は届かない。魔法攻撃は効果があるようには見えない。
あの火の玉が城を直撃すれば・・・
逃げるか・・・どこへ・・・
そうだ、城の地下室・・・あそこなら・・・
私は地下室を目指して走った。そして一瞬だけ後ろを振り返った。
巨大な光の玉は目前だった。
「ちょっと待て、あ・・・うわー・・・・・・」