#02 異世界
ここは天界。庭園の東屋にいる。
ウチは、女神のステラさんから異世界の説明を聞いている。
とても長い説明だった。
要約をすると・・・
いま地上ではバーチェ王国とラキーバ王国が戦争をしているそうだ。バーチェ王国は劣勢で、戦局を変えるため、禁忌である異世界召喚で最強の魔法使いを召喚した。
そして召喚されたのが、ウチ。
つまり、ウチはバーチェ王国に召喚された被召喚者ということ。迷惑な話ね。
でも、どうして魔力がないウチが召喚されたのか、それは、召喚魔道具が欠陥ありの試作品だから。
ステラさんは、起動した召喚の魔道具を破壊、その時ほとんどの神力を使い果たした。
その後、神力が回復したステラさんは、ウチを天界に召喚して檻から救出してくれた。
それから、今回の件でステラさんは、地球の神様にめちゃめちゃ怒られたそうだ。
本人の同意がない召喚は拉致に等しく、犯罪行為であると。
激しく同意。
「ところで、こんなに美味しい果物、初めて食べました。これ何ですか?」
「世界樹の果実よ」
「世界樹・・・」
「あそこに見える巨木が世界樹よ」
ファンタジーな巨木、その果物・・・
卵形で、大きさは洋梨くらい。オレンジ色の皮、果肉は黄色。味と食感は固めのプリンみたいで、バニラのような甘い香りがする。
果肉の中にはアボカドみたいな球状の種が入っている。種の色は乳白色。
「貴重な果物ですか?」
「たくさんあるから気にしないで」
「はい」
「それ、一個食べただけでお腹いっぱいになるでしょ?」
「はい、満足感があります」
「空腹を満たすだけではなくて、栄養も過不足なく摂れるわ。それに疲労回復効果もあるの」
「便利な果物ですね」
「ところで、今すぐにでも地球に帰ることができるけど、どうする?」
「え? すぐに帰れるんですか?」
「ええ、ネモウス様が召喚してくださるわ」
「ねもうす様?」
「地球神のお名前よ」
初めて知ったよ。
「地球の神様が召喚してくれるんですか?」
「そうよ」
「これを食べたら帰ります。いまごろ家族や学校の人が心配していると思うので」
「それは大丈夫よ。元の時間軸に帰れるから」
「え? 元の時間に帰れる・・・・・・ちょっと待ってください」
元の時間に帰れるなら・・・
せっかく異世界に来たんだし、もうしばらくここにいてもいいかな。
「すみません、この世界を見て廻りたいので、しばらくこちらに居てもいいですか?」
「ええ、いいけど・・・帰りたくなったら、いつでも言ってね」
「はい・・・それと、ウチにも魔法って使えますか?」
「ええ、すでに翻訳魔法を使っているわ。他の魔法も教えるわね」
「はい、お願いします」
異世界で本物の魔法使いになれる。なんだかワクワクする。
「もうすぐ夕方になるから屋敷を案内するわね」
「はい」
果物が食べ終わり、ウチらは東屋の席を立ち宮殿のような屋敷に向かった。
屋敷の近くまで来た。建物は大理石のような乳白色の石材で建てられている。
入口は両開きの扉で、開放されている。ウチらは中に入った。
広いエントランス、通路の天井が高い。5mくらいかな。
「ここに住んでいるのはステラさんだけですか?」
「ええ、そうよ」
一人で家事をするのは大変そうね。魔法があるから平気なのかな。
「ここがリビングよ」
中に入った。
「広いですね」
広さは教室二つ分くらいかな。派手な装飾はなく、クラシックな感じ。
窓からは庭園が見える。
間仕切りの向こうにも部屋があるみたい。
「隣の部屋は何ですか?」
「あちらもリビングよ」
そちらも行ってみた。
「この部屋も、すてき」
広さは隣の同じ。インテリアはモダンなデザインになっている。こちらもセンスがいい。
間仕切りを除けば、大きなリビングルームとして使えそう。
「好きな方を使ってね」
「はい」
その日の気分に合わせて使い分けるのがいいかも。
「次を案内するわ」
「はい」
次に案内されたのが・・・
「ここがダイニングよ」
広さはリビングと同じくらい。中央にテーブルが一つとイスが二脚あるだけ。スペースがもったいない。
向こうが・・・?
キッチンの前にメイドさん?
「あれは家事ゴーレムなの」
クラシックなメイド服を着た女性型ゴーレムが二体。
顔がないのでロボットみたい。気を遣わずに済みそうね。
キッチンも広い。ホテルの厨房みたい。
ダイニングの窓際に行ってみた。外に出る扉がある。
「テラスも使っていいわよ」
「はい」
窓の外はテラスになっている。カフェテラスみたいでおしゃれ。
「次を案内するわ」
「はい」
ウチらはダイニングを出て、通路を進む。
いくつかの部屋を素通りした。
気になるけど、ずかずかと聞くのは失礼だと思い、聞かなかった。
次に向かったところは、扉がなかったが・・・
開いた。自動ドアだ。中に入った。
うわっ、何これ?
部屋の中は、床、壁、天井すべてが真っ白。
最初は部屋の広さがわからなかった。
よく見ると高さ15m、直径30m、半球状の部屋になっている。
近未来的で、先ほど見た部屋とはまるで違う。
部屋の中央には、石碑のような黒い石板が立っている。
ウチらは、そこまで歩いた。
黒い石板は幅1m、高さ2m、光沢があって黒曜石みたいな感じ。
「触ってみて」
「はい・・・」
ウチは恐る恐る触った。
「あっ」
びっくりして手を離した。
これが何であるのか、一瞬で理解できた。そして二つの魔法を理解した。
黒い石板に、異世界の白い文字が浮かび上がる。
「アーカイブ」
ウチは異世界の文字が読めた。
「ちょっと使ってみて」
「はい」
ウチは鑑定魔法と検索魔法が使えるようになった。
早速、魔法でアーカイブのことを検索する。
今度は石板に手を触れず、意識を集中して魔法で行う。
アーカイブとは、人が発見した物や創作物等の情報を記録する異世界のデータベース。
例えば、人が発見した動物や植物、人が作った道具や建築物、書籍などの情報が記録されていて、それらの情報を検索できる。
そしてこのアーカイブには、レベルごとにアクセス権限がある。
それは、魔法の習熟度や魔力の大きいによって異なる。
通常、鑑定魔法を使う人のアクセスレベルは1~3、現在の最高レベルは4。
史上最高だった人物のレベルは5。その人は「賢者」と呼ばれていた。
ウチのレベルは8。
最高レベルの9は・・・たぶんヤバイ情報だと思う。知らない方がいいかもね。
「便利でしょう、遠慮なく使ってね」
「はい」
異世界にはインターネットがないけど、アーカイブがあれば色々と調べることができそう。
「次を案内するわ」
「はい」
ウチらはアーカイブの部屋を出た。
「次に案内する部屋が最後よ」
「はい」
どういう部屋かな・・・
「ここよ、中に入って」
「はい」
「ここは客室よ。天界にいる間はここで過ごしてね」
「はい、ありがとうございます」
部屋の広さは教室と同じくらい。テーブル、イス、ソファー、大きなベッド、キッチンがある。
泊まったことはないけど、ホテルのスイートルームみたい。
窓の外は、だいぶ暗くなってきた。
「トイレとお風呂、それからクローゼットの中に部屋着があるから使ってね」
「はい」
「今日はもう遅いから、あと二つだけ魔法を教えるわ」
「はい」
ステラさんがウチの頭に手をかざす。すると・・・
あ・・・生活魔法と収納魔法だ。
「清浄魔法」を使ってみて」
「はい・・・清浄」
肌のベタつきがなくなって、さっぱりした。服もきれいになったはず。
「これをあげるから収納を使ってみて」
ステラさんが出したのは、世界樹の果実が入った器。
「収納魔法」
「要領がいいわ、大丈夫ね。それから、もしお腹が空いたらゴーレムに言ってね。アーカイブにあるレシピなら大抵のものは作れるから」
「はい」
「今日は色々あって疲れたでしょう。ゆっくり休んでね」
「はい、ありがとうございます」
ステラさんは部屋から出ていった。
ウチは部屋の中を見ながらベッドまで歩いた。
そして帽子を脱いでベッドに腰掛けた。
「今日は色々あったなあ」
ウチはベッドに倒れ込み、今日の出来事を振り返った。
そしていつの間にか寝ていた。
ZZZ・・・