念願の異世界転移(転生)かと思ったのに……。あれ? 何か違くね?
※このお話は物語冒頭部分だけとなりますので、ご注意ください※
※新規連載作品ではありません※
気が付いたら見たこともない景色が広がっていた。辺りは何処までも続く草原で緑一色。遠くにうっすらと森の様な木の密集地帯が確認できるけど、それ以外に何処という確認ができる物が見当たらない。
「うわぁ!! うっそ!! マジで!?」
そんな声を漏らしてしまうのは仕方ないと思う。
青春を謳歌しようと周りが騒いでいた高校生時代でも、檜和江こと俺は少しでもいい所を目指して勉強に励んでいた。
その努力が実って希望する国立大学に一発合格を勝ち取ると、更に勉強に打ち込む為にいろいろと襲い来る誘惑を全て振り払い――などということが出来ればよかったのだが、大学合格で『タガ』が外れてしまったようで、それまで出来なかったことを貯めこんでいた衝動か、目新しいものに手を出してはのめり込むという事を繰り返した。
元々の性格なのか、何か一つを追求したいという欲望と願望を抑え込むことが出来ず、とことんまで納得するところを見つけ出すその瞬間まで、俺は一直線にそれだけを求め続けた。
そして俺の脳内に残る最後の記憶として、『異世界転移・転生』ものの小説を読み漁っていた時の自分は残っている。そしてそれは大学を卒業するまで5年間という時間を費やす原因にもなったのだが、それが就職活動の妨げになったのか、希望するところにはとことん嫌われている様で、なかなか就職が決まらずそれはおろか内定すらも取れない日々が続いた。
どうにかしなければ!! と思い始めた矢先に決まった会社は、周囲のアドバイスなど一切聞かずに受けた所だったのだが、これが見事にハマった。
ブラックもブラック。もう真っ黒でお先も真っ暗な感じ。
卒業後すぐから勤め始めたは良いものの、先輩は鬼畜すぎる量の仕事を割り振って来るし、就業時間は有るようで無いにも等しい。
休日? もちろんそんなものは取れるのが奇跡的な事で、有給などという言葉はもはや伝説上の存在であった。
朝、始発で会社へと出勤したら、拘束時間の始まりで、終電が終わっても帰宅することは叶わず。会社へ泊まり込みも上等!! な、どうやって生きていたのかも既に記憶から飛んでしまっている生活が続いていた。
そんな毎日を乗り切るための原動力になったのが、大学時代から読みふけっていた小説たちの存在。
現実逃避するにはもってこいなそのアイテムは、もはや必需品といってもいい程、常にカバンの中に一冊から二冊程度は入れて持ち歩いていた。
つまり簡単に言うと、大学に入ったられっきとした『オタ』になってしまったという事。
そんな俺が、気が付いたら見た事のない景色を見ているという状況に喜ばないはずがない!!
――まぁ、ここに居るって事は俺は前の人生で死んだって事だよな……。
現実を見返してみて、それが当たり前の様な生活をしていたのだから、既に『次の人生』を送ることになっていたとしても、それはそれで納得できてしまう。
――ただ、家族……。父さんや母さん……。笑にはちゃんと別れの挨拶をしたかったけど……。
親よりも先に亡くなってしまったという親不孝な息子。そして何も言わず突然存在自体が無き者になってしまった兄を、妹の笑はどう思うのだろう?
考えてもせん無き事。既に俺という存在はそこにではなくここに有るのだから。
「よし!! 考えていても仕方ない!! まずは転移・転生物の定番!! 第一住人探しの旅に出よう!!
むん!! と意気込んで、目覚めた場所から離れ始める。
見渡す限りの草原は、さざ波が打ち寄せているかのように、とても柔らかな風に揺られていた。
歩き始めること数分――。
「はぁ……はぁ……。いやいやさすがに通勤用の革靴ではきついな……」
息を荒げながら膝に手を当てて立ち止る。住んでいた場所とは違って道らしい道はなく、土そのままであり、その上には草がおいしhげっているのだから、歩きづらいったらありゃしない。
――しかし、この格好のままという事は……。俺は通勤する時か帰宅する時に死んだのか?
改めて自分の格好を見てそう思う。就職する時に数着揃えたスーツの一着を身に纏い、手には使い込まれていい感じの色になっているカバン。そして通勤時のぼろぼろになった革靴。
――早いとこ街か人を見つけないとえらいことになるな……。
大きなため息をついて改めて自分の格好を見つめる。
がさ
――ん?
がさがさ
――んん?
その場に立ち止まっていたら、何かがこちらへ向かって移動してきているような気配を感じた。
「お!? 定番のスライムとかかな!?」
ちょっとワクワクしてしまうのは仕方ないと思う。
がさがさ……がさがさがさ
「来た!!」
何があってもいいように身構える。勿論一介のオタである俺が護身術などを会得しているわけは無いので、格好だけではあるけど。
「ん?」
そんな俺の前に現れたものは、なんと二人の人の様な存在だった。なぜ人と確定出来ないのかというと、これまた定番であるその頭部分には獣耳が付いており、俺と予想外に遭遇したからなのか、お知り部分から伸びている尻尾がボワッと膨らんでいるのが見えたから。
――第一、第二住人発見!! ……とはいえ、言葉は通じるのか? これが定番なら神様からスキルとか授かってて――。
「あれ?」
「こんなところで何してる!!」
俺に向かって威嚇する女の子と、ちょっと不思議そうに俺を見る男の子の様だ。
「日本語!? よ、良かった!! とりあえず言葉は何とかなるな……」
ほっと一息ついていると、俺の直ぐ近くにきらりと光る物が目に入った。
「あなた誰だ?」
「見たこと無い人」
「ひっ!!」
第一・第二住人に遭遇そうそう刃物を突き付けられる俺であった。
「――というわけなんだ」
「へぇ~……」
「そういう話聞いたことある」
あれから何とか事態を説明すると、二人は納得したのかしてないのか分からないが、とりあえずは町まで一緒に行ってくれることになった。
因みに二人は狐の獣人さんと狼の獣人さんで、なんとどちらも女の子らしい。
威勢のいい声と共に、俺に刃物を突き付けて来たのがアルマという名前の狐さん。ハッキリしっかり女の子を強調しているボディを持っているので、アルマに関しては直ぐに女の子だと分かったのだけど、狼さんのクルルは何というか……ペッタンでストーンな感じなので、男の子だと思ってしまった。
本人の前では言えないけれど、たぶん俺の雰囲気でソレを感じているようだ。その辺りはさすが獣人の嗅覚というところだろう。
あまり会話が弾んでいない事もあって、俺は話題を変える事にした。
「ところで、これから行く街はどういうところなの?」
「えぇ~っとね……」
「サンゲンチャって名前の町で、それなりに人は多いところかな」
「サンゲンチャ? ん?」
のほほんとしているクルルよりも先にアルマが答えてくれた。
――サンゲンチャねぇ……。
「近くにはその……サンゲンチャの町以外には無いの?」
「あるにはあるけど……」
「シジュクが次に近い町。しかもかなり大きな町」
「シジュク……」
なんというか聞いたことのあるような名前が有って少しほっとしてしまう。
「そうか……近くに町が二つもあるのか……」
「ん。なかなか行く機会は無いけど」
「そうなの?」
「シジュクは人族しかいないから……」
「……人族しか?」
前を歩いていたクルルの尻尾が、それまでは左右に揺れていたのに急にぺたんと下がった。
「そう……。私達は認められてないんだ」
「仲良くないよねぇ~」
アルマとクルルは少し顔をしかめながら話している。
「え? じゃぁ俺は?」
「お兄さんも信用しているわけないじゃない」
「いつでもヤれるよ?」
ニコッと俺に笑顔を見せるクルルだったけど、その瞳は笑ってはいなかった。
「え? でもこうして話しできるし……。あれ? そういえばどうして言葉が分るんだろう?」
「何を言ってるの? 言葉? 当たり前じゃない。今はこれが世界共通語なんだもの」
「世界……共通語?」
「そうよ?」
それから町に着くまでここがどういう世界なのかを二人から聞いたのだけど、聞いただけではとても信じられなかった。
「君達が進化した存在? え?」
「魔法があるのか!!」
「ドラゴンが最強でしょ? え? 本物のドラゴンはそんなにいないの? よく見かけるのはトカゲが進化したモノ……」
などなど、面白い話もあれば不思議な話もあった。
「あ、見えて来た!!」
「どれどれ……」
元気に指さすクルル。その方向へと視線を移すと――。
「え? ……ビル? とアレは駅か?」
そこで目にしたものは慣れ親しんだ建物たち。
「そうよ。あれがサンゲンチャの町のシンボル。行ってみてみる?」
「…………」
俺はコクンと一つ頷いた。
町に入り、人間も獣人も色々な人達が行きかう道路を二人の後ろをついていく。
――道路……だよな?
踏みしめるたびにジャリっと音が返って来るが、ところどころで剥げてしまっているけど、それはまごうこと無きアスファルトの道路に見える。
そして――。
俺は見つけてしまったのだ。
『三軒茶屋駅』
そう表示されている掲示板とその下にしっかりとアルファベットで駅名が書かれているのを。
――おいおい!! ちょっと待てよ!! これってもしかして……。
改めて辺りを見回した。そこは俺がいつも通勤時に通っていた通りにある店の外観が残っていたし、街並みは何かに破壊でもされたのか、原型が分からなくなっているものまであるけど、間違いない。
――まさか……、まさかまさか!! ここは日本……なのか? そして東京?
「アルマ!! クルル!!」
「なに?」
「どうしたの?」
大きな声を出して二人を呼ぶ。
「ここって……この国の名前は?」
「国? ニポンだよ」
「ニポン?」
「うん」
コクコクと頷く二人。
「今って……何年かわかる?」
「今? 確か……4583年だったかな?」
「4千……」
顎に指を添えながらうぅ~んと考えて答えるクルル。
俺はどうやら異世界転移・転生したのではなく、未来の地球へ飛ばされたらしい。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
このお話は『続き』を考えずに、こういうお話しだったら面白いかもな? という思いの元で構想していたものを文章化したものとなります。
物語の冒頭部分みたいな感じですけど、実際ここまでしか考えていません(笑)
この先? ご興味あります?
うぅ~ん……。