第92話 みんなドキドキ? 美少年『羽鳥 陽』くんと屋台巡りです!
7月7日、七夕当日、時刻は午後5時。
お祭りの会場にしてみんな――翔くん、智子、文乃ちゃんのおなじみのメンバー――との待ち合わせ場所である駅前商店街の入り口へとやって来た私を出迎えたのは翔くんのこんな言葉だった。
「遅ぇぞ、みう。まったくお前は相変わらずノロマなんだからよ」
呆れた口調で言われ私は思わずムッとしてしまう。
まったくこいつってば、そりゃあ待ち合わせ時間に遅れたのは私だし悪かったと思ってるけど、今の言い方は酷いんじゃない? いくら幼馴染だって言っていいことと悪いことがあるんだから。
言い返そうと口を開く私だったけど、それより早く彼は何かに気づいたように首を傾げながら言った。
「ところで、その子、誰だ?」
彼の視線は私の背後に向けられている。そこには背中に隠れるように立つルビィの姿があった。
鳥の姿では何度もみんなと会ってるはずだけど、この姿出会うのは初めてということでどうやら緊張しているようだ。
「この子はね……」と翔くんに答えつつ私は背中のルビィに語り掛ける。
「ほら、恥ずかしがってないでみんなに顔を見せて。紹介してあげるから」
促されルビィはゆっくりと私の背中から姿を現す。
「は、初めまして……」
緊張の面持ちでルビィが挨拶の言葉を口にすると、みんなの口から感嘆のため息が漏れる。
「な、なんだよこのめちゃめちゃ可愛い子は! おい、みうこの子どうしたんだ?」
ん……? 興奮気味に尋ねてくる翔くんの様子に私は少しだけ違和感を覚える。頬も少し赤く染まってるような気もする……まさかとは思うんだけど翔くんってば……。
もしそうなら彼にとっては非常に残念なことになるわけだけど、ともかく私は考えておいた『設定』通りに答えることにした。
「この子はね、私の遠い遠い遠ーーい、翔くんすら知らないような親戚の子で、<羽鳥 陽>くんって言うの。たまたま遊びに来ててさ、お祭りに行きたいって言うから連れてきたのよ。ち・な・み・に・男の子だからね」
「え? あ、ああ。そうなのか……」
私の説明に翔くんは少し残念そうな様子でそう返す。やっぱり! 翔くんってばルビィ――陽くんのことを女の子だと思ってたな!?
まあ、気持ちはわかるけどね……髪も長いし、服装も中性的って言うかどっちでも通用しそうなものを着てるし。
それにしてもう~ん、女の子にはあんまり興味を示さない翔くんすら魅了してしまうとはルビィの人間バージョン恐るべし……!
しかし、彼に魅了されたのは翔くんだけではなかったらしい。
「えっ、嘘!? この子、男の子!? 超美少年じゃない!」
「ほんと、ほんと! 可愛い!」
智子と文乃ちゃんがうっとりとした表情でルビィを見つめる。
こらこら、智子、あなたは大人っぽい男の人が好きだったんじゃなかったの? 文乃ちゃん、あなたが好きなのは翔くんでしょうに……。
「ど、どうも……。よろしくお願いします」
完全に肉食獣を前にした小鳥のように縮こまっているルビィは、それでもなんとか挨拶の言葉を絞り出した。
「う、う~ん、あたしショタは守備範囲外だったはずなんだけどなぁ」
「くっ、不覚……氷川くんがいるのにこんな子に目を奪われるなんて……」
「あれは男……あれは男……」
三者三様の呟きを漏らす親友と幼馴染たちに、私は頭に手をやりため息を吐くのだった。
そんなある意味お間抜けなやり取りをしてから、私たちは商店街の中へと入って行った。
商店街の中央にはこの日のために用意された超巨大笹飾りが設置してあり、左右には様々な屋台が立ち並んでいる。
「じゃあ、ボクちょっと屋台を見てくるよ!」
そう言ってさっそく駆け出す陽くん。
「あ、ちょっと、陽くん! 走らないの!」
その背中に声をかけるも、彼は「はーい!」と元気な声で返事をするだけで足を止めようとはしない。
まったく、もう……。
クスクス……。
腰に手を当てて頬を膨らませる私の耳に小さな笑い声が聞こえてくる、見ると智子たちが笑いを堪えている。
「な、なに? 何を笑ってるの?」
「いや、まるで姉弟みたいだなって思ってね。それにあんたのそんな姿って結構新鮮だから」
「確かになぁ、いつもだったら、真っ先に飛び出して注意されんのはお前の方だからな」
そう言って笑い合う智子と翔くん。
むぅ、確かにその通りだけどさ……。
それにしても、姉弟かぁ。私は一人っ子、それに(自分で言いたくないけど)子供っぽいところがあるから、他人から妹的に扱われることはよくあるけど、姉として見られることってほとんどない。
だから、ちょっと新鮮でなんだか嬉しくなってしまう。
「えへへ……」
そんなことを考えていたら自然と笑みが零れた。
「ともかく私たちも行きましょ、こんなとこでぼーっと突っ立ってても仕方ないし、私、実は結構お腹空いてんのよ」
文乃ちゃんの言葉を受けて、私たちは屋台巡りへと繰り出したのだった。
「「ああー美味しい、幸せ~!」」
「ホントにお前ら姉弟だな……まあ、親戚なら仕方ないのかもしれないけど……」
声を合わせて屋台の食べ物にかぶりつく私と陽くんを見て、翔くんは呆れたような声を上げる。
遠い親戚というごまかしを何の疑いもせずに受け入れてくれてるのはいいけど、私と陽くんってそんな似てるのかな?
方や地球の中学生、方やS.P.Oのバイオロイド、立場から何から全然違うと思うんだけどねぇ。
しいて共通点を上げるとすれば、ドジなところ、食いしん坊なところ――
……似てるかもしんない。いや、でもだけどさ、ドジはさておき食いしん坊についてはむしろ翔くんとか他のみんなが食に対して無頓着すぎるだけだよ! 私なんて普通だもん、うん。
「翔くん、智子もそうだけどさ。なんか微妙にテンション低くない? こんなに美味しいのに」
私はそう言って、再びたこ焼きを頬張る。
「いや、そんなことはないんだけど、ほらこの間蘭との一件で学園に出店とか出たりしてただろ? あん時に祭りグルメ的なもんは堪能しちまったから、今一つ食指が動かないというかなんというか……」
「8月には大夏祭りもあるしね。それを考えると、屋台にそこまで必死にならなくてもいいかなって」
ドライな意見を飛ばす翔くんや智子に私は信じられない気持ちになる。
確かに蘭ちゃん騒動の時にも屋台グルメを堪能したよ? 8月の大夏祭りも控えてるよ?
それでも、それでもおおおおっ!!
「何よりだ、今日は七夕祭りなんだぜ? 食うことよりあっちを優先したいとオレは思うね、新部みたいにな」
そう言って翔くんが指差すのは商店街の中央にデーンとそびえる笹飾り、そこにぶら下がる色とりどりの短冊だ。
近くには短冊に願い事を書くためのスペースも用意されている。
文乃ちゃんは記者魂が刺激されたのか一足先にあちらに行っており、パシャパシャと写真を撮っている。
「早く行かないといい場所取られちまう、奥の方に埋もれちまった短冊じゃ効力が薄れちまうかも知れないだろ?」
「そっか、そうだね。屋台グルメは他のお祭りでも食べられるけど、七夕の短冊はここだけのものだもんね」
そう言うと私はたこ焼きの最後の一つを口に放り込む。
「陽くん、行くよ」
「う~ん、ボクはまだ食べたりないんだけどぉ、でもあれにも興味あるし、まあいいか。ただし短冊飾ったらすぐ戻ってくるからね!」
そう言うと、陽くんは私の手を引いて商店街の奥へと駆け出す。
「ちょ、ちょっと待ってよ! もう」
そんな私たちを翔くんと智子は微笑ましそうに見守っていたのだった。
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