第8話 翔くんにドキドキさせられちゃいます
ギーガーク帝国移動要塞基地――
司令官シィ・レガーンは怪人製造室に向かう通路を歩いていた。作戦遂行のための怪人の製造が完了したとの報告を受けたためだ。
ギーガーク帝国の戦力は各惑星から精鋭を集め構成された幹部・上級戦闘員の他は全て生体工学、機械工学を応用したクローンやアンドロイドで構成される。
その中でも最下級に位置するのが、ギーガーク兵である。
彼らは製造コストも維持費も掛からず大量生産可能だが戦闘力的には心もとない。
だが、強化改造を施すことによって、知能、戦闘能力を飛躍的に増大させることができる、そうして生み出されるのが怪人である。
しかし、引き換えに製造、維持コストは跳ね上がるので、大抵の場合はギーガーク兵のままで運用される。
戦力的に心もとないとはいえギーガーク兵はプロの格闘家以上の力を持ち、並の人間では太刀打ちできない程の強さを誇っている。S.P.Oの宇宙戦士などの強敵に対抗するといった目的でもない限りギーガーク兵だけで事足りるのである。
だが、地球には現在その宇宙戦士であるシャイニーフェニックスがいる。作戦を遂行しようとすれば邪魔をしてくるのは確実だ、今回の作戦の目的はシャイニーフェニックスの抹殺ではないがギーガーク兵に担当させあっさり撃退されるなどという事態に備え、怪人の出番となったわけである。
ちなみに惑星に住む生物にオドエネルギーを浴びせ怪物化させることで生み出されるオドモンスターというのもいるのだが、これは知能が低く運用するためにはサポート悪が必要となってしまう。
破壊活動には向いていても今回のような作戦行動には向かないのである。
レガーンが怪人製造室に入ると、白衣を着た研究者がレガーンを怪人改造カプセルの前へと案内する。
「これが今回の新怪人か」
「はい、例の作戦用に特化した造りとなっております、また対シャイニーフェニックス用として今まで以上の戦闘能力を付加しております」
そう言って研究者は自慢げに胸を張る。
「よし、では早速怪人を目覚めさせよ」
「ハッ!」
研究者がパネルを操作するとカプセルがゆっくりと開く、中からは巨大な翼を持つ怪人が現れた。
全身緑色で全裸ではあるが体には性器も何もなくつるりとしていて、そのせいで逆に不気味な印象を与える。
顔は人間に近いが瞳はなくまるでガラス玉のように虚ろで口だけが裂けるように大きく開いている。
「アグダプトスでございます」
研究者が紹介すると怪人――アグダプトスは恭しく首を垂れる。
「お初にお目にかかります、レガーン様」
ギーガーク兵は言葉を喋れず判断能力も低いが怪人へと改造されることで言葉も操れるようになる、改造前とは比べ物にならないほど使い勝手がいい兵士となるのだ。
「作戦は理解しているな?」
アグダプトスは僅かに考えを巡らせるような仕草を見せる。
カプセルの中で頭脳にインプットされた情報を確認しているのだ。
「はい、理解しております」
「よし、では早速出撃せよ」
「ハッ!」
そう言って部屋を出て行こうとするアグダプトス。レガーンは思い出したように怪人を呼び止めた。
「待て、お前に一つ言っておく。シャイニーフェニックスという小娘が邪魔をしてくる可能性が高い、お前には対抗できる戦闘能力は与えてあるが、決して油断はするなよ」
レガーンの言葉にアグダプトスが振り返る。
「ご心配なく、レガーン様。作戦の遂行、ならびにシャイニーフェニックス抹殺も成し遂げて見せましょう」
「期待しておるぞ、行け!」
「ハッ! ギーガーク帝国のために!!」
そう言うとアグダプトスは敬礼し、再び歩き出す。
「さて、俺は自室で吉報を待っているとしよう」
扉の向こうへ消えていくアグダプトスを見送りながら満足気につぶやくと、レガーンは怪人製造室を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
キーンコーンカーンコーン……。
チャイムが鳴り響き授業の終わりを告げる。
私は帰り支度を終えると、教室を後にする、そして下駄箱でちょうど靴を履き終えたところで後ろから声を掛けられた。
「よう、みう、今帰りか?」
あまり聞きたくない声に私がぎぎぎっと音がしそうな感じで振り向くとそこにはおなじみ、意地悪幼馴染の翔くんが立っていた。
「なんだよ、そんな嫌そうな顔して」
どうやら顔に出てたらしい、彼は不満げな表情でそう言ってきた。
嫌そうな顔してるって? そりゃそうだよ!
翔くんのちょっかいは止むことはない、それどころか最近さらに頻度を増してきているような気がするのだ。
こんな状況でニコニコと笑えるほど私の神経は図太くない。
「別に……嫌そうな顔なんてしてないよ」
肯定すれば「なんでだよ?」「意地悪するからでしょ」「いいだろ別に」みたいないつもの流れで言い合いになって面倒くさいことになるのは目に見えてるからね……ここは否定しておくに限る!
そう思いながら答えた私の言葉に彼は納得いかないような表情でブツブツ文句を言っていたけど無視だ!
「それはともかく、さっきの質問の答えは“イエス”だよ。私はもう帰るの、じゃあね」
そう言って私は片手を上げて逃げるように翔くんに背を向けた。
「今日は森野とは帰らないのか?」
別れを告げたというのにあろうことか翔くんは小走りで追いかけてくると、私の隣に並んで歩きながらそんなことを聞いてきた。
よっぽど無視してやろうかと思ったけど、またしつこく絡まれるのも嫌だし仕方なく答えることにする。
「智子は放課後何か用事があるんだって。一人で帰ってって言われたから今日は一人で帰ることにしたの」
「へぇ、そうなのか。珍しいな、お前が森野と別々に帰るなんて」
翔くんは興味深げにそんな事を言った。
確かに、私と智子はしょっちゅう一緒に帰っている、親友だし家も近い、おまけに帰宅部同士なのだから、それは当然ともいえる、だけど……。
「別に……そういうこともあるよ、智子は私より趣味が多いし」
そっけなく答える私だったけど、言ってることは本当の話。
智子とは親友同士だけど、趣味嗜好は全然違う、智子が得意なゲームは私は苦手だし、逆に智子はヒーローにはあまり興味を持ってない。
そして、智子の趣味の中で私が絶対に理解できないものがある。
それはオカルト趣味だ。特に心霊系とかそう言う話が大好物なのだ、智子は。
さらに智子の特徴として、非常にアグレッシブだというのがある。
大好きなゲームのために放課後ゲーセン巡りをしたり、信じられない話だけど、心霊スポット探訪なる行為までしているらしいのだ。
だけど、智子は私がそれらが苦手なことを知っている、だから、私をそれに巻き込んだりはしないのだ。私はその智子の気遣いに感謝と共に、そりゃあ誰からも好かれるはずだよねといつも思っているのだ。
そんなわけで、智子と一緒に帰れないからといって別段寂しいとかそう言うことは思わないし、そこまで特別なことだとも思わないのである。
翔くんの目には私と智子はいつも一緒にいるように見えてるのかもしれないけど……。
「そっか、まあそりゃそうだよな。いくら親友でも四六時中は一緒にいないよな」
私の言葉に翔くんは納得したように言う。
まあ、智子と一緒に帰れなかった残念さが一切ないかと言えば嘘になるけど、それよりも今の私にとって大問題なのは、そのせいで翔くんと肩を並べて歩いてるというこの状況である。
なんでよりによってこのタイミングで翔くんと遭遇しちゃうかなぁ……。
とはいえそれももう少しだけの辛抱だ、何故なら私はさっきも言ったように帰宅部、だけど翔くんはきっちりと部活に所属している、つまり彼はこれから部室に行くはずなのだ、だからそれまで我慢すれば良いだけの話なのだ、頑張れ私!
自分を励ます私だったけど、何故か翔くんは一向に私から離れて行こうとしない。
「ちょっと、翔くん、なんでいつまでも私についてくるのよ!? 翔くん部活でしょ、さっさと行きなさいよ!!」
私は足を止めて翔くんに向き直ると、少し強い口調でそう問いかけた。
「今日は休みだよ」
「休みって……そんな話聞いてないけど……?」
私は訝し気な表情で聞き返す。すると、翔くんさらりとこう返してきた。
「そりゃそうだろ、オレが自主的に休んだんだから」
自主的……? それって……
「つまりサボりってことね……」
半眼で睨みつける私に彼は悪びれる様子もなく肩をすくめる。
「そういう言い方もあるけどな、疲れてんのは事実。ほら、オレって基本的には野球部だけど色んな部活に助っ人として行ってるだろ? それが最近結構ハードなんだよな」
スポーツ万能の翔くんは様々な部活から勧誘されている、一応野球部が本命らしいのだけど、「まだ中一だし色々経験を積むってのも悪くないかなと思ってさ」と言って色々な部活に顔を出しているらしい。
「それ自業自得じゃない……」
私は呆れた声で言った。わざわざ不必要な重労働を自分に課しておいて疲れたから全部サボりますだなんて、そんなのただのわがままだと思うんだけど……。
「そう言われたらそうなんだけど、オレって頼まれると嫌とは言えない性質だからな。みんな――先生まで言うんだぜ、たまに顔出すだけでもいいからうちの部に所属していてくれって」
なるほどね、形だけでも所属していれば大会に翔くんを参加させられる、翔くんがチームに入ればそれだけで戦力アップだもんね。
「だけどな、顔出すだけでチームメイト面ってなんか悪いだろ? だから、ついつい練習にも付き合っちまうんだよ。それで疲れが溜まっちまったってわけだ」
結局自業自得じゃないと思うけど、その理由がチームメイトに悪いからだなんて、やっぱりこの人は根っからのお人好しなんだなって思う。
「そんなわけで今日は自主的な休み。そこで、今日は久しぶりに幼馴染同士仲良く下校と洒落込もうなんて思ったわけだ。森野がいないならさらにちょうどいい、昔みたいに手でも繋いで帰るか?」
顔を綻ばせたかけた私に、翔くんはニヤニヤ笑いながらそんなふざけたことを言ってくる。何が仲良く下校よ、何が智子がいないからちょうどいいよ、からかうのもいい加減にしてっての!
「そんなの誰かに見られたらどうするのよっ!」
思わず顔を赤くしつつ怒鳴る私に、彼は、「冗談だよ、冗談。まあともかく行こうぜ?」と返すと歩き出した。
(一緒に帰ることを許した覚えはないんだけど……)
そう心の中で呟きつつも、何故かそれを口に出すことはできず、私は彼の後を追ったのだった――。
**********
「へぇ、森野ってゲームだけじゃなくオカルト趣味なんてもんまであるのか」
「それで心霊スポットとか行ったりしてるのよ。私智子のあの趣味だけはどーしても理解できない!」
結局あのままなし崩し的に翔くんと共に下校することになった私だったけど、なんだかんだ言ってやっぱり私たちって幼馴染みたい、案外楽しくおしゃべりしながら歩いていた。
ともかく、私の言葉に翔くんは、わずかに遠い目をしながら懐かしむような口調で言う。
「お前は昔っからそっち方面は大の苦手だったもんなあ……」
彼の言葉に、私は思わず顔を赤らめ俯く。
(翔くんの前では散々なところ見せちゃってるもんね……)
昔からそうだったのだけど、私はお化けとか幽霊とかそう言うのの類が大の苦手だった。
明らかに作り物だと分かっている安っぽいお化け屋敷ですら悲鳴をあげて逃げ惑っていたぐらいだもの……。
い、いや、今は違うよ今は。流石に作り物ってわかってるお化け屋敷ではそこまで怖がらないよ、うん、本当だからね?
「昔オレたちがまだ幼稚園に通ってた頃、秋桜学園の学祭でやってたお化け屋敷に遊びに行った時のこと憶えてるか? あの時は大変だったよな。お前と来たら逃げ惑いながらお化け役の人を殴り倒すわ、仕掛けはぶっ壊すわ。由希奈さんがあそこまで怒ったところを見たのは、オレ後にも先にもあの時一回だけだぜ」
くぅぅぅ、翔くんってば、余計な事を思い出してくれちゃって……!
確かにあの時は大変だった、お化け(作り物だけど)も怖かったけど、鬼と化したママの方はもっと怖かった。翔くんの記憶に残ってるのもうなずける、だけど、もういい加減忘れて欲しいんだけど!
「そ、その事は言わないでよっ、恥ずかしいんだからっ!」
恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にしながら叫ぶ私に、彼は楽しそうに笑う、そして、ふと何かを思いついたようにニヤリと笑うと、こんなことを言ってきた。
「そうだ、今度森野の心霊スポット探訪に付き合ってみるか?」
ちょっとちょっと、とんでもないことを言いだしたよ、この人!?
いやいやいやいや、冗談だよね? まさか本気で言ってるわけじゃないよね……?
そんなところに行ったりしたら私は間違いなく心臓発作で死んじゃうってば!!
そんな私の動揺をよそに、彼はさらに続ける。
「森野も親友のお前が同じ趣味に目覚めてくれれば嬉しいだろ」
やめてぇ! 智子とは親友だけど、その趣味だけは共有したくないのぉ!!
「絶対無理、絶っ対っに嫌っ!!」
断固拒否の姿勢を貫く私に、翔くんはやれやれといった様子で肩をすくめる。
「そんなに怖いもんかねぇ、大体お前幽霊とか信じてるわけでもないんだろ? だったら平気じゃないか」
「信じてないけど、完全にいないと断言できないでしょ? だから怖いのよ。それに、私がそう言うとこに行きたくない理由はもう一つ、単純に危ないでしょ」
心霊スポットなんて場所はそもそも危険な場所なのだ。そんなところに行くだなんて自殺行為に等しい。私は絶対に行きたくなかったのだが……
「だけど森野が一人で行ってるような場所だろ? 何も怖いことなんかありゃしねーさ」
翔くんはあくまで気楽な口調で言う。
(それは……そうだけど……)
彼の言うとおり、心霊を抜きにした危険な場所なら智子が気軽に行けるわけはない。なので基本的には安全な場所なのだろうという推察は私にだって出来る、けど……それでもやっぱり嫌なものは嫌だ!
そんな私の心を知ってか知らずか、翔くんは「それに……」と言葉を続ける。
――さっきまでとは表情と口調を変えて……。
「もし何かあったとしてもオレが守ってやるよ」
ドクンと心臓が跳ねる。顔が熱くなる。
いつもの私をからかう時の口調と表情じゃない……。心の底から私を安心させるような優しい笑顔……。
普段はあんまり意識しないけど……翔くんってやっぱりカッコいいんだよね……みんなにキャーキャー言われるくらいには……。
そんな幼馴染の男の子から真面目な顔であんなことを言われたらドキドキしないわけがないじゃないか……! もうっ、ずるいよ……!
私は恥ずかしさのあまり顔を俯かせつつ、消え入りそうな声で、「そ、そう……ありがと……」と返すしか出来なかった。
鼓動静まれ! と自分に言い聞かせつつ自分の胸に手を当て深呼吸をする私だったけど、次に翔くんが発した言葉にドキドキは一気に吹き飛んでしまった。
「オレはお前の保護者だからな、保護者として当然の務めだよ」
ほ、ご、しゃ……? 保護者ぁ!?
ドキドキの代わりに私の中からは一気に怒りが込み上げてきた。
「な、何が保護者よ! そうやってまた人を子供扱いして! 同い年でしょ!!」
私は子ども扱いされるのが大嫌いだ、特にこの幼馴染からそれをされると余計に腹が立つ。私は思わず声を荒げてしまう、しかし翔くんは人差し指を立てると「チッチッチ」と振り、余裕の表情でこう返してきた。
「オレの誕生日知ってるだろ? オレは今お前より一つ年上だぜ?」
うぐっ! 痛いところを突いてきた……!
翔くんの誕生日は4月でついこの間13歳になったところだ。対する私の誕生日はそれよりずっと遅い11月でそれまでは12歳だ。
同学年とはいえ実に7か月もの間私は翔くんより年下の期間を過ごさなければならいのだ!! これは絶対に覆しようがない事実なのである……!
(あうぅ~っ、悔しいぃ~!)
私は心の中で地団駄を踏んだ、そしてそんな私を見て翔くんがニヤニヤしているのを見て更に悔しくなる。くそう……。
何も言い返せない私を見て翔くんはさらに調子に乗る。
「みうちゃ~ん、いつでも『お兄さん』に頼ってくれていいんだからねぇ~」
完全にふざけた口調でそんなことを言いながら幼児相手にやるように私の頭をポンポン叩く翔くんに対して、私の怒りは爆発した! 許さん!! もう怒ったぞぉ~~!!!
「うるさい! バカッ!!」
「キャーーーー!!!」
それはあまりにも突然だった、私の怒りの叫び声に被せるように、絹を裂くような女性の悲鳴が周囲に響き渡ったのだ。
「え? な、なに?」
いきなりの悲鳴に私の怒りは一瞬で引っ込んでしまった。そして驚き戸惑う私に構わず翔くんは、「悲鳴……こっちだ!」と真剣な表情で言うと、その方向へと走り出した。
「ちょ、ちょっと翔くん、危ないよ!?」
慌てて引き留めようとする私だったけど、翔くんは止まらない。
「お前はそこで待ってろ! すぐに戻る!」
こちらを振り向き、それだけ言い残すと、彼はそのまま走り去ってしまった。
もう……翔くんってば……相変わらず、お人好しで、正義感が強いんだから……。
そう、彼は私にだけは何故か意地悪だけど、本当は私の大好きなヒーローみたいな気質を持った人なのだ。
こんな状況なのに私は口元が緩んでくるのを感じていた。
けど、それはともかく……。
「待ってろなんて言われても……無理だよっ!」
私も走り出す。翔くんがヒーロー『みたいな人』なら、私は本物のヒーロー、シャイニーフェニックスだもの! 誰かの叫び声を聞いて、黙ってるなんてできないよ!
「なっ!?」
ほどなくして、前方から翔くんの驚きに満ちた声が聞こえてくる。
彼に遅れて現場――一棟のマンションの前――に到着した私も、そこで繰り広げられていた光景に絶句し、硬直してしまう。
なんと一匹の羽の生えた全身緑色の怪物が幼い女の子を抱え、今まさに飛び立とうとしているところだった!!
少し離れた場所では、女の子の母親らしき女性が膝をつき泣きながらその子の名前らしきものを叫んでいた。
「待ちやがれ!」
私より早く我に返った翔くんが、叫び声を上げながら怪物に向かって突撃する。
怪物は一瞬だけこちらに視線を向けたものの、その呼びかけを無視してその身体を浮き上がらせる。
「待てと言ってるだろ!」
間一髪! 翔くんは怪物が完全に飛び立つより早くその足を掴むことに成功する!
「おわっ!」
バランスを崩しビターンと顔面からアスファルトに叩きつけられる怪物、倒れこむ前に翔くんはきっちりと女の子をそいつの腕から救い出していた。
「逃げろ!」
女の子を立たせつつそう叫ぶ翔くん、女の子はビクッと一瞬身体を震わせたものの、すぐに彼の言葉に従い母親の元へと駆けだし、その身体に縋り付き泣き叫ぶ。
女の子もお母さんの方も外傷はなさそうだけど、精神的ショックが大きいようで身体を震わせていた。
「大丈夫ですか!」
そこでようやく我に返った私は、親子の元へと駆け寄り言葉を掛ける。
「あの怪物が、いきなり舞い降りてきて、娘をさらおうと……」
私の声に反応した女性が震える声で説明してくれる。
その時、倒れこんでいた怪物が「ぐうっ」といううめき声を上げつつ、顔面を抑えながら立ち上がる。
「てめぇ、なにもんだ!」
翔くんがそいつに向かって叫ぶ。
「貴様こそ何者だ、この俺様がギーガーク帝国怪人アグダプトスと知っての行動だろうな!?」
「ギーガーク帝国だって!? お前、最近この辺に出没しているっていう宇宙人の一味か!」
驚きの声を上げる翔くん。
そうじゃないかと思っていたので私はその事についてはあまり驚きはしなかったけど、まさかギーガーク帝国の怪人が幼女誘拐なんてしようとするなんて……。
「宇宙人が幼女誘拐なんかしてどうしようってんだ!?」
翔くんも私と同じ疑問を持ったのだろう。そう叫ぶと一歩前に踏み出しつつ、拳をギュッと握りしめる。
「はっはっは、子供は様々な使い道がある。洗脳し奴隷、もしくは兵士に仕立て上げる。そして……」
とアグダプトスと名乗った怪人は未だに母親に縋り付いて泣いている女の子へと視線を向けるとペロリと舌なめずりをする。
「その手の趣味を持つ好事家に高値で売り付ければいい資金源となるのだ」
「なにぃ!?」
翔くんが絶句する。私もあまりのことに言葉を失ってしまう……。
ギーガーク帝国……人身売買までしてるなんて……やっぱりこいつら、とんでもない悪党だったんだ……。
怒りが込み上げてくる……すぐにでも飛び掛かりたい、だけど、香取みうのままじゃダメだ……。
「邪魔をするなら容赦はせん! いや……貴様もまだ子供だな、なかなか生意気な性格をしているようだが、それだけに洗脳すればいい兵士にできるかもしれんな……」
そう言うとアグダプトスはニヤリと笑う、その笑顔を見た瞬間ゾッとした私は思わず体を震わせる、それは本能的な恐怖からだったと思う、こいつはヤバい奴だ……!
「ふざけんな! そう簡単にやられるかよ!」
言うが早いが、翔くんはアグダプトスに向かって殴り掛かる。
「おっと、ははは、いいパンチだな」
アグダプトスはひらりと身をかわすと、からかうようにそんな言葉を投げかける。
「くうっ!」
侮辱されたと感じたのか、翔くんは顔を真っ赤にしてもう一度殴りかかるけど、それも同じ結果だった。
まずいよ、このままじゃ翔くんは連れ去られてしまう……なんとかしないと……!
幸い、アグダプトスは今は目の前の翔くんしか見えていないようで、私のことは気にしていない。
翔くんも、誘拐されそうになっていた子とその母親も、私のことは意識から外しているようだし、今しかない!
私はゆっくりとその場を離れると、人気のない建物の影へと移動する。
よしっ、周りには誰もない! 待っててね翔くん、今正義のスーパーヒロインが助っ人に行くからね!!
「Start Up! シャイニーフェニックス!!」
光のオーロラを身に纏い、私は戦う人になる……!!
お読みいただきありがとうございました。
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