第84話 覚悟しなさいレディーR! 私かなり強いのよ?
「とーーー!!」
私はコーナーポストからジャンプすると空中で一回転しリングの中央に降り立つ。
わあああっと歓声を上げる観客たち、両手を上げて彼らに答えつつふふんと胸を張る。
「ふんっ、何よ得意げな顔してくれちゃって!」
レディーRは憎々しげに私を睨み付ける……が、すぐにニヤッと口元をゆがめる。
「だけどね、シャイニーフェニックス! アンタはすでにアタシの用意した罠にハマってるのよ!」
「え?」
レディーRのその言葉に私は思わず固まってしまう。
そんな私にレディーRはビシッと指を突きつけると、勝ち誇った表情で語り始める。
「忘れたの? これはアタシとアンタの戦いじゃない、超頭脳帝国スーパージーニアスとアンタとの戦いなのよ、つまり!!」
さっとレディーRが片手を上げると、どこからともなく現れた集団がリングを取り囲むように立ち並び、その集団がサッと横一列に並ぶ。
「アタシの用意したこの超頭脳帝国スーパージーニアスの戦闘員の皆さんがアンタを完膚なきまでに叩き潰してやるわ!」
こ、この人たちがスーパージーニアスの構成員? だけど……。
「ら、蘭ちゃん……こんな人たちをどうやって集めたの?」
「アタシはレディーR! そこんとこ徹底してよね!!」
思わず本名を口走ってしまった私に、蘭ちゃんは間髪入れずにそう叫ぶ。
「あ、ご、ごめん、ってそうじゃなくって!」
「フン、まあいいわ。彼らはアタシのカリスマに魅了され進んでアタシの手下になったのよ!」
カ、カリスマって……ほんとかなぁ? 蘭ちゃんはある意味カリスマ性に溢れてるとは私も思うけど、でも……。
「なーにが、カリスマだよ、どーせ金かなんかで釣ったんだろ? そいつら、よく見りゃこの辺りじゃ有名な不良グループの連中じゃないか……」
観客席で翔くんが呆れたように呟くのが聞こえてくる。
確かに、彼の言う通り、リングを取り囲む集団の構成員は超頭脳帝国という名前からは程遠いような人たちばかりだ。
「うっさいわよ氷川翔平!! アンタはそこで黙って見てなさい、シャイニーフェニックスがアタシに倒される様をね!!」
レディーRは蘭ちゃんとしての素丸出しで翔くんに向けて怒鳴ると、私に向けてビシッと指を突きつける。
「いい? アタシの用意したこの超頭脳帝国スーパージーニアスは、アンタが今まで戦ってきた連中とは格が違うわ!」
そう宣言すると、構成員に向けて号令を掛ける。
「さあ、アタシの元へと集ったスーパージーニアスの精鋭たちよ! 今こそ戦いの時よ! シャイニーフェニックスをエロ同人みたいな目に遭わせてあげなさい!」
エ、エロ同人って……私はあんまりよく知らないけど、例えばプチピュアのキャラとかがエッチな目に遭っちゃう本の事でしょ?
嫌だよ、私、そんな目に遭うのは!!
ってか蘭ちゃん、いくらなんでも悪ふざけが過ぎるよ!!
しかし、私の心の中の抗議の声など届くはずもなく、構成員たちは一斉に叫び声を上げる。
「おおーー!!」
そして彼らは一斉にリング上へとなだれ込んでくると私を取り囲むように展開する。
「へへへ、悪く思うなよ、シャイニーフェニックスさんよ」
リーダー格の少年がニヤニヤと笑いながら私にそう言ってくるので思わず頭を抱えてしまう。
それに、それだけじゃなかった、レディーRのさっきの宣言から、どうも会場を包む雰囲気が少しおかしい。
『みうちゃん、なーんか観客……特に男の子たちの様子が変だよ?』
サイキック・コミュニケーション能力でルビィが私に語り掛けてくる。
ああ、やっぱりぃ! みんな私がエロ同人的な目に遭わされるって期待してるぅ!
まさか翔くんもそっち側だったりはしないよね!?
いや、一応信じてるけど、翔くんってけっこーすけべなとこあるからなぁ……。って、そんなこと考えてる場合じゃないか。
とはいえ……。
「ほーっほっほっほっ、どうやら観客の皆さんはアタシの味方みたいねぇ! さあ、正義のヒロインなら期待には応えなきゃねぇ!」
勝ち誇ったように言ってくるレディーR、だけど私はやれやれと首を振りひょいと肩をすくめる。
「残念だけど、あなたや観客の男の子たちの期待通りにはならないよ……」
「なんですって?」
私の言葉が意外だったのかレディーRが驚いた声を上げる。
「ははは、聞いたか、こいつ僕たちを舐め……」
私に迫りながらそう言いかけたリーダー格の少年の言葉が途中で途切れクタっと崩れ落ちる。
そして、そのまま床にうつぶせに倒れてしまった。
「え?」
何が起こったか分からず呆然とする観客とレディーRの目前でさらに他のメンバーたちも次々と崩れ落ちていく。
「な、何よこれ……」
レディーRは信じられないといった様子でそう呟く。私は頭に手をやりながらため息を吐く。
「レディーR……私を誰だと思ってるの? 宇宙の侵略者と戦うS.P.Oの宇宙戦士シャイニーフェニックスだよ? そこらの不良グループが何万人集まったところで私に勝てるわけないじゃない」
そう、それは当然の話なのだ、一般人ならともかく、私はヒーロー。
そして相手はただの不良グループ。勝負になるわけがないのだ。
今のだって彼らからしたら何が起こったのかわからなかっただろうけど、私はただゆーっくり近づいて対象無力化用のごくごく弱い電気ショックを与えてあげただけなのだ。
しかし、超天才である蘭ちゃんが作り上げた組織だって言うからもうちょっと手ごたえがあるかと思ったけど……。
もしかしたら万が一にでも負けちゃうんじゃないかと思った戦い前の不安な気持ちを返して欲しい……。
「ま、まさかシャイニーフェニックスがこんなに強いだなんて……アタシの計算をはるかに超えているわ……」
なんだか、頭脳キャラが負けそうになった時によく言うようなセリフを呟くレディーR。
「ふ、ふんっ! だけど、こんなものはほんの小手調べよ! 所詮あんなのはただのバイト! 時給1000円で雇ったような連中には最初から期待していないわ! やっぱり駄目ね、凡人どもは! こうなったらアタシ自ら相手になってやるわ!」
しかし、気を取り直したようにそう叫ぶと、彼女は私に向かって飛びかかってくる!
私はひらりとかわすと彼女の背後に回り込みその背中をトンと押す。
「え?」
レディーRはバランスを崩し、前のめりに倒れ込んでしまう。
「どべっ……」
そして、そのまま顔面を床にぶつけてしまった。
「レディーR、もうやめよ? 実力に差があり過ぎるよ。やっぱりいくら超天才でも本物のヒーローである私に勝つなんて無理なんだよ」
私は哀れみを込めた目でレディーRを見下ろす。
そんな私に対して、彼女はガバッと立ち上がると、拳を握り締め炎を背負いつつ叫ぶ。
「ふざけんじゃないわ! アタシはまだ負けてない!! 勝負はこれからよ!!」
「そう……なら仕方ないね……」
私はため息を吐きつつ顔を一旦下げ、そしてキッとレディーRを睨みつける。
「あなたの覚悟は分かった! なら、私もそれに全力で応じるよ! レディーR! 愛を知らない悲しいあなたに正義のパワーで遥かな眠りの旅を捧げてあげる!!」
「え、えぇ? それってつまりころ……いや、出来ればもうちょっと穏便に済ませて欲しいんですけど……」
私の迫力に押されたのか、レディーRは一歩後ずさる。
「あ、そう? なら、優しい心を思い出させてあげる! 行くよ! ダダッダーシュ! 青春爆発ファイアー!!」
生きている素晴らしさを教える若さに溢れた私の拳が唸りを上げてレディーRに襲い掛かる。
「うひぃっ!?」
レディーRは身をかがめて私の拳を避けると、そのままゴロゴロと転がっていく。
「殺す気か!! アンタ、シャレになってないわよ!」
「戦いを挑まれた以上全力で応える、それが私の流儀なの。場合によっては大怪我ぐらいは覚悟してもらうわ!」
青い顔で怒鳴りつけてくるレディーRだけど、私は不敵に笑いながらそう言い切る。
なーんてね、もちろん私は本気でなんてやってない、目的はレディーR――蘭ちゃんを大人しくさせること。
そのためには、圧倒的な力を見せつけ抵抗する気をなくさせるのが一番なのだ。
「くうううう!!」
「レディーR、もう一度言うよ、もうやめよう。世界征服ごっこもおしまい、もう満足したでしょ?」
諭すような口調で私はレディーRに語り掛ける。
すると彼女は俯きぶるぶると肩を震わせ始めた。
「う……うう……うううう」
え? まさか……泣いてる? あの蘭ちゃんが……!?
しまった、ちょっとやり過ぎちゃったかな……。
「ら……」
心配に思い、レディーRの顔を覗き込もうとする私だったけど……。
バッと顔を上げた彼女の表情を見て思わず後ずさる。
彼女は泣いてなんかいなかった! 笑っていたのだ!
もしかして、おかしくなっちゃったのかとまた心配になってしまうが、それは杞憂だったようだ。
「うふふふ、あーっはっはっはっはっ!! やるわね! それでこそアタシのライバルってね! だけど、そろそろお遊びは終わりにしましょうか? 出来ることなら使いたくなかったけど、アタシのとっておきを見せてあげるわ! 行くわよ! シャイニーフェニックス!!」
そう言ってレディーRは腕に巻かれた時計に向けて叫ぶ。
「さあ、今こそ出撃よ!! 我が最高傑作! 究極のスーパーロボット、キシンガーズェェェェェェェットォォォォォ!!」
は、はい? 今彼女は何て言ったの? スーパーロボット? キシンガーZ??
なんか正義のスーパーロボットみたいな名前なのはさておいて、そんなのがこの会場にあるって言うの!? 私は周囲を見回すけど、それらしいものは見当たらないし、何かが起こる様子もない。
「な、なーんだ、驚かせないでよ……。そ、そうだよね、いくら蘭ちゃんが超天才でも、そんな……ロボットなんて……」
ズシーン! ズシーン!
『!?』
会場に地響きが鳴り出す。そして、その音はどんどんと大きくなっていき……。
「な、なんだ!?」「じ、地震か?」
そんな声が観客席のあちこちから聞こえてくる。
そして、次の瞬間! ズシーン!!
「きゃっ!?」「な、なんだ!?」
突然地面が揺れる。私は思わずバランスを崩してしりもちを付いてしまった。
「痛たた……一体、な……」
お尻をさすりながら顔を上げた私は言葉を失う。
何故なら、校舎の影からにゅっと巨大なロボットがその上半身を現したからだ。
「う、う、う、う、うっそーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!?」
それは誰の叫び声だったのか……いや、レディーR以外の全員の叫びだったのかもしれない。
私の目の前に現れたのは、身長40メートルを超える巨大なロボットだったのだ!!
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