第80話 ハートに火が付く燃え上がる! ある意味私の悪い癖!?
一瞬、私の全機能が停止し、頭が真っ白になってしまう。
蘭ちゃんの突然の発言に私は激しく動揺する。
挑戦状を叩きつけに来たという発言自体も衝撃だけどそれよりも何よりも、まるで私がシャイニーフェニックスだと知ってるかのような物言いだったから……。
隠されていた秘密の露見という相が出ている……
朝にゆうなちゃんから言われた言葉が私の頭を過る……。
「あんた何を馬鹿なこと言ってるのよ……? 挑戦状って……。それに、なんでシャイニーフェニックスに挑戦するのにみうのところに来るわけ?」
言葉を発することも出来ず硬直する私を余所に、智子がまたも呆れた様子で蘭ちゃんに問いかける。
すると、蘭ちゃんはフッと鼻で笑うと、
「馬鹿なことじゃないわ、これはアタシにとっては重要なことなの」
と言った。そして一泊置いてこう続ける。
「何故シャイニーフェニックスへの挑戦状をみうに叩きつけるのかと言えば、それはね……。ふっふっふっ、アタシは知ってるからよ、いいえ、この超天才王尾蘭はその天才的頭脳ゆえに気づいてしまったというべきかしらね」
そして蘭ちゃんは私の方に顔を向けて勝ち誇った顔でこう言った。
「そう、香取みう! あんたが噂のスーパーヒロインシャイニーフェニックス……」
ががーん! バ、バレた……! 嘘でしょ……!?
ショックを受ける私だったけど、蘭ちゃんは気にせずさらに続ける。
「シャイニーフェニックス……と、親友だという事はアタシにはお見通しなのよーーー!!」
「……へ?」
私は思わず間抜けな声を上げてしまう。親友……? シャイニーフェニックスと私が……親友……? 確かにそんな『設定』を作ってたような記憶があるけど……。
あ、あれ? ということは、バレてるわけじゃ、ない?
困惑する私を余所に蘭ちゃんはさらに続ける。
「いかな天才であるアタシと言えども、シャイニーフェニックスに直接連絡を取るのは不可能よ、だからあんたを通して挑戦状を叩きつけに来たというわけ。わかった?」
得意げな表情を浮かべる蘭ちゃんに私はへなへなと全身の力が抜けていくのを感じた。
よ、よかったぁ……そっか、そうだよね、蘭ちゃんが私の秘密を知ることが出来るわけ……ない、よね……。
ホッと一安心の私だったけど、次の瞬間にハッとする。
よく考えてみたら全く安心してる場合じゃない、正体云々とは関係なく、蘭ちゃんはとんでもない事を言っているのだ。
「ら、蘭ちゃん……自分が何を言ってるかわかってるの? シャイニーフェニックスは本物の、正義のスーパーヒロインなんだよ? そんな相手に挑戦状って……いくら蘭ちゃんが悪役ごっこが好きだからって、それは……」
恐る恐る言う私に、蘭ちゃんはぴくぴくっとこめかみに青筋を浮かべる。
「ごっこ? あんたまだアタシの事をわかってないわけ? アタシは昔から一度たりとも悪役『ごっこ』なんてしてないわ。アタシは常に本気だったの、本気で世界征服を目論んでいたのよ!!」
「え……ええ!?」
蘭ちゃんの言葉に私は思わず絶句する。
そ、そんなぁ……確かに昔から悪だくみはしてたけど、それはあくまでもごっこ遊びだと思ってたのに……。まさか本気で世界征服をしようとかしてたなんて、そんなのアリ!?
「何を驚いてるの? あんただって同じでしょ? あんただっていつも本気でヒーローになりたいと言ってたでしょ。それはごっこ遊びではなく、本気だったはずよ。本気でヒーローを目指そうとしていたはずよ。それとも何? あんたはもうあの時の気持ちは忘れヒーローの夢は捨て去っちゃったってわけ? 本気でヒーローを目指すのをやめたってわけ?」
蘭ちゃんは私にずいっと顔を近づけながらそう問い詰めてくる。蘭ちゃんの迫力に私は思わず後ずさる。
が、すぐに足に力を入れ踏ん張ると力強く答える。
「そ、そんなことはないよ! 私は今だってヒーローになりたいって本気でも思ってる。小学校、中学校と成長していく中で、バカにされたり、現実に打ちのめされたりして、ちょっと心が折れかかったことはあったけど……でもやっぱりヒーローになりたいっていう気持ちは失ってないよ!」
「よく言ったわ、それでこそアタシのライバルよ。ならわかるでしょ? アタシがシャイニーフェニックスに挑戦する意味が。本物であるシャイニーフェニックスに勝てばアタシもまた本物になれる。そして足掛かりに世界征服もできる。アタシはそう考えてるのよ!!」
ごおおおおっと、バックに炎を背負いながら蘭ちゃんはそう宣言する。
「な、なんて恐ろしいことを……!!」
私は思わず身震いする。そして改めて思う、やっぱり蘭ちゃんはとんでもない子だ!
「やっぱり馬鹿じゃないの……」
「ふんっ、言ってなさい凡人。だけどあんたもすぐに気づくことになるわ、この地球が生み出した奇跡、神すらもその才能を恐れ、因果律の操作によって、両親が応募した火星入植募集に当選させ、地球追放という処置を取るほどのスーパー天才、王尾蘭がどれほどの天才なのかを!!」
「因果律の操作……? 地球追放? 何わけのわかんないことを言ってんのよ……。偶然が重なって火星に引っ越すことになっただけでしょ……」
呆れた様子の智子に一気にまくしたてる蘭ちゃんだったが、さらに智子を呆れさせる結果に終わった。
「ふんっ、アタシは火星になんて行きたくなかったのよ! それに偶然にしては出来過ぎじゃない、応募者多数で競争率が滅茶苦茶高かった火星移住に当選する確率なんて、それこそ奇跡じゃない! これはもう神の御業よ! 神がアタシの事を疎み地球から追放したのよ!」
「な、何よそれ……」
蘭ちゃんのあまりの言いように智子は言葉を失う。まあ……蘭ちゃんらしいと言えばらしいけど……。
智子が沈黙したことに満足したのか蘭ちゃんは、再び私の方に向き直りビシッと指を突き付ける。
「ともかく香取みう! シャイニーフェニックスに伝えなさい、この超天才があんたと戦いたがってるとね!」
「蘭ちゃん、落ち着いてよ、シャイニーフェニックスと戦うなんて無理に決まってるでしょ!? 言ったら悪いけど、彼女には蘭ちゃんに付き合ってる暇はないというか、なんというか……」
「はぁん? つまり逃げるのね?」
「な、なんでそうなるのっ!?」
蘭ちゃんの言い方に私は思わずカチンと来て言い返した。
「正義の味方が悪から叩きつけられた挑戦状を無視するわけ? そんなことが許されるとでも思ってるの!?」
蘭ちゃんは私の言葉にそう反論してくる。私は思わず言葉に詰まる。確かにそれはそうなんだけど、でも蘭ちゃんは友達だし、いくら蘭ちゃんが天才で本気で世界征服を企んでたとしても、所詮は一人の女の子にしか過ぎないわけで、わざわざシャイニーフェニックスが出張らなくても……。
そんな私の考えを見透かしたかのように蘭ちゃんはすうっと大きく息を吸うとニヤッと笑う、そして、私に問いかけてくる。
「香取みう! 悪の天才が野心を抱いて、世界征服を夢見た時に、あんたならどうするの、えぇ!? どうするどうするどうする、君ならどうする!?」
「え……それは、もちろんデン……」
途中からなんか違っちゃってるせいで思わずとある人たちに任せると答えようとする私。
「ちっがーう! 合ってるけど違う!! あんたはチューニングされて黙ってるのかって聞いてんのよ!」
「蹂躙でしょ……」
「ふん、そうとも言うわね」
ああ、懐かしいな……この感覚……。やっぱり私と完全に同じレベルで話せるのは、蘭ちゃんだけだ。
智子も大親友だけど、こればっかりは無理だもんね。
現に私たちのやり取りに何が何だかわからないって顔をしている。
私が勝手に懐かしさに浸っている間にも蘭ちゃんは続ける。
「とにかく! チューニングでも蹂躙でもいいけど、悪に好き勝手にさせていいかのって聞いてるのよ!? 平和を愛する心にはアタシが許せないでしょ!? 未来を夢見る正義なら悪は許せないはずよ!」
「で、でも……」
もちろん悪は許せない……でも、蘭ちゃんは……。
「あーーーーもうっ! ぐずぐずするなよっ!!」
ピクッと蘭ちゃんが苛立たし気に発した言葉に私の中の何かが反応する。
「いい加減胸のエンジンに火をつけなさいよ!!」
「!?……っ」
私は息を飲む。蘭ちゃんの言葉で私の中の何かが熱く燃え上がるのを感じる。
ああ、そうだ……そうだよ、私、何をためらってたんだろ? 悪は許せない。悪は倒すべき敵。その思いに噓偽りなんてありはしない、そうでしょ? 私はヒーローなんだ! 正義の味方が悪を見逃すことなんてできないんだ!
「……わかった、戦うよ……。親友である蘭ちゃんと戦うのは辛いけど、私はその辛い涙や蘭ちゃんと親友だった昨日にアバヨって別れを告げて勇気と未来にヨロシクって挨拶する! 若さって振り向かない事だもんね! 勝負よ、蘭ちゃん!!」
ついに私は覚悟を固めて、蘭ちゃんにそう言い放った。
「ふっふーん! それでこそアタシのライバルよ!」
私の言葉を聞いた蘭ちゃんはにやっと笑みを浮かべると、高らかに宣言するように言った。
「それじゃあ、勝負は一週間後! 場所は秋桜学園のグラウンドよ! しっかりとシャイニーフェニックスにそう伝えておきなさい。じゃあね」
そしてくるっと背を向けて颯爽と去って行く蘭ちゃん。
あ、しまった……そうだ、戦うのはシャイニーフェニックス……私じゃないって体だったはずなのに、熱くなり過ぎてまるで自分が挑戦受けたかのような言い方になっちゃった……。
なんとか蘭ちゃんにはバレなかったみたいだけど、危ない、危ない、気を付けないと……。
「みう……なんというか、あんた上手く乗せられたわね」
私がホッと胸をなでおろしていると、智子が呆れ顔で声をかけてくる。私はぎくっとする。
「え、えっと……」
思わず視線を泳がせる私だけど、智子はやれやれと頭をかくと、
「ま、いいわ。みうはそういう子だもんね」
と肩をすくめた。智子の言葉に私は少しホッとして笑う。
「でも流石ねあの子、あんたの幼馴染ってだけあるわ。どう言えばあんたが動くかをちゃんとわかってる」
智子の言葉に私は思わず苦笑する。確かに蘭ちゃんは私の扱い方を心得てるなぁ……。
「でも、勝手に挑戦受けちゃったけど、あんたシャイニーフェニックスにどうやって説明するつもり?」
ああそうか、智子目線で見れば、単なる仲介役でしかないはずの私が勝手に蘭ちゃんの挑戦を受けたようにしか見えないんだ。
「あー、えーと、それはまあなんとか説得してみるよ……」
「説得失敗したらどうするつもり? あんだけ大見得切っといてシャイニーフェニックスに断られたので蘭ちゃんとは戦えません……なんてカッコつかないわよ?」
「それは大丈夫。シャイニーフェニックスはちゃんと勝負の場所に現れるよ」
だって私だからね、私が受けた以上、シャイニーフェニックスは100%絶対に現れる。それは当たり前の話なのだ。もちろん智子にそれを言うわけにはいかないけど。
「ふぅん? 随分自信満々ね。まあいいか、シャイニーフェニックスには迷惑な話かもしれないけど、あの子がそれで納得するならね」
智子はそう言って肩をすくめた。
「とにかく帰りましょうか? なんかどっと疲れたわ、どっか寄り道でもしていこうと思ったけど、そんな気分じゃなくなったわ」
「そうだね。じゃあ帰ろっか?」
智子の言葉に頷きつつ、私は歩き出した。
歩きながら私は考えていた、蘭ちゃんに乗せられてとんでもない約束をしちゃったなぁって……。
でも、同時に激しく胸が高鳴っていた。
一瞬そのことに疑問を持つのだけど、すぐにわかった。
同じなんだ、昔と、まるっきり……。蘭ちゃんが悪役に成りきって喧嘩を仕掛けてきて、私がそれにヒーローとして立ち向かう、あの毎日と同じなんだ。
遠い昔、蘭ちゃんが引っ越したその時に失くした、もう二度と戻らないと思っていたあの毎日。
それが今、再び私の目の前に現れたんだ……。こんなの嬉しくないわけ、ないじゃない……。
私は思わずニヤッと笑ってしまう。
蘭ちゃんは私の親友でライバルなんだ! 絶対に負けられない! だって、そうでしょ? ヒーローは悪には負けないんだから!!
「智子、せっかくだし、家まで競争しようよ!」
私はそう言って、智子に笑いかける。
「はぁ? どうしたのいきなり」
「いいでしょ、それじゃ行くよ、よーい、ドン!」
戸惑う智子に私は問答無用でスタートの号令をかけると走り出した。
「あ、ちょっと……。やれやれ、仕方ないわね……。ま、やるとなったらあたしは本気でやるわよ、運動苦手なあんたが勝てるわけないでしょうけどね!」
後ろでは智子がそんなことを言いながら私を追って走り出す。
私はふふっと笑うと、さらにスピードを上げるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
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