第78話 ゆうなちゃんからの警告、私の秘密がバレる!?
朝――天気は快晴、体調もすこぶるいい。
なのに私の心はほんの少しだけ曇っていた。
理由はわかっている、昨日の出来事――仁さんとの別れの余韻が未だに残っているのだ。
また会えると信じてるし、いつまでも引きずってられないとは思うのだけど、流石に昨日の今日で切り替えるのは無理があった。
(特に朝からこんなの見ちゃったらねぇ……)
心の中で呟きながら、私は食事の手を止めテレビに視線を移す。
そこには朝のニュース番組が映っており、昨日のヤーバンとの戦いの様子が報道されていた。
何故異次元空間で行われた誰も知らないはずの戦いがニュースとして流れているのかというと、それはシャイニーフェニックスの勝利をみんなに知ってもらいたいというルビィによってその映像がテレビ局へと送られたからだ。
私は恥ずかしいからやめて欲しいといったのだけど、「みんなからヤーバンに負けたままって思われてていいの?」と言われてしまったので仕方なく了承したのだ。
まあ、それはいいのだけど、昨日の戦いという事は、当然仁さんことシュナイダーさんの戦いの映像も含まれているわけで、それを見てしまったことで、私は再び仁さんとの別れを思い出してしまい、寂しさがぶり返してきてしまったのである。
(ダメだなぁ、私……これじゃ笑われちゃうよ……)
苦笑しつつ少しだけ俯くと、一つ深呼吸をしてから一気に顔を上げニッと口元を笑みの形に変える。
(よしっ! 元気だそ!!)
「なぁに、みう。急に笑ったりして、あなた昨夜からちょっと変よ?」
「ううん、何でもないよ、ママ。それより見てよこのニュースに映ってるヒーロー。カッコいいよね~」
誤魔化すようにママに向けて言いつつ、画面を指差すとママは「そうね」と返してくれる。
「それにしても、改めてこんなのが現実にいたとは信じられないわね」
ママの言葉に私はご飯を口に運びつつ、うんうんと頷く。
本当に、今でも信じられないくらいなんだもの……今でも私は夢の中にいるんじゃないかと思うこともあったりする。
「しかし、本当にかっこいいわね~。正直私はあなたの言うヒーローのかっこよさってあんまりピンと来てなかったんだけど、こんな感じならあなたが憧れるのもわかる気がするわ」
「えぇ? 嘘でしょ!? ママだって前に一緒に仮面ファイター見た時にカッコいいって言ってたじゃない!」
ママからの信じられない一言に私は愕然となり聞き返す、するとママはなんでもない顔でこう答えた。
「それは変身前の姿――つまり俳優さんがカッコいいって話よ。変身後の姿には私はあんまり興味ないからむしろ変身するなーってずっと思ってたわ」
なんてことだろう! 私と全く真逆じゃない! 確かにヒーローは変身前もカッコいいけど、変身してこそヒーローでしょう!
「ママはわかってないなぁ……」
「まあ、そう言われたらそうかもね……。でも、私は普通だと思うわよ? むしろみうがちょっと変わってるのよ、本来はああいうのって男の子向けでしょう?」
ママの言葉に私はうぅと唸る。まあ、確かに私が変わってるというのは自分でも認めるところだ。
ヒーロー物の良さをいくら説いても、女の子たちの食いつきは極めて悪く、それ関係で話が合った子は片手で数えられる程度しかいない。
更に言うならその子たちですら、私がよりディープなヒーロー談義を始めると、みんなドン引きして逃げてしまうのだ。
一人だけ……遠い昔に一人だけ私と同じレベルでヒーローについて語れる子がいたけど、その子は事情があって今は遠い星だし……。
最もその子が好きだったのは正確に言えばヒーローじゃなくて……。
「みう」
ハッと我に返ると、ママがテレビ画面の時刻表示を指差している。
「もうそろそろ出た方がいいんじゃない? せっかく久しぶりに早く起きたのに、出るのが遅くちゃもったいないでしょ」
「あ、そうだね。それじゃ行ってくるね!」
私は急いで朝食を食べ終えると、鞄を手に取り玄関へと向かう。
意識が完全に学校へと向いたことで、私の頭の中からは、さっき思い浮かべた遠い昔の思い出はどこかに吹き飛んでしまっていた。
学校に向かう通学路、ふと前方に見覚えのある、そして実に珍しい後姿を見かけ、思わずその背中に向かって声をかけた。
「おーい、ゆうなちゃーん!」
私の声に前を歩いていた人物が振り返る。それはやはり私の友達の一人西条ゆうなちゃんだった。
ゆうなちゃんは私を見ると、少し驚いたような表情を見せる。
「みうさん、奇遇ですね、朝からあなたとお会いするなんて。でも、みうさんにしては珍しいですね、こんな時間から登校なんて……。いつも遅刻ギリギリなのに」
「うん、ちょっとね……」
ゆうなちゃんの言葉に私は少し言葉を濁す。
もう乗り越えたとはいえ、早く目が覚めてしまった原因は間違いなく仁さんロスなのだけど、そんなことをゆうなちゃんに言えるわけがない。恥ずかしいし……。
「それより、ゆうなちゃんこそ珍しいね。いつもだったらこの時間にはもう学校にいるはずなのに」
ゆうなちゃんは私の言葉に少し困ったような表情を浮かべた後、少し考えるような仕草を見せてからこう返した。
「そうですね……。確かにいつもならもう学校にいる時間ですね」
そう言って苦笑すると、彼女は言葉を続けた。
「実は昨夜ちょっと夜更かしをしてしまって……。それで少し寝坊してしまったんです」
「夜更かしって、何してたの?」
私の疑問に彼女はニヤッと笑みを浮かべる、そして「聞きたい、ですか? 本当に?」と私に尋ねてきた。
その実に意味深な様子に私は思わず息を飲む。
「あ、え、えと……」
「私のあだ名、それを思い出したうえでなお聞きたいというのなら止めませんが……」
ゆうなちゃんのあだ名……『ゴーストガール』……。
「い、いやいいや! やっぱり聞きたくない!」
私は慌てて首を振る。すると彼女はククッと笑いをこぼした。その笑みはどこか不気味だ。
「残念ですねぇ、せっかくみうさんにも神秘の世界を体験させてあげようと思いましたのに」
そう言って彼女はまたもクスクスと笑う。
うう~ん、色々偶然が重なり友達になったとはいえ、やっぱりこの子とオカルト関係超苦手の私は相容れないのかもしれない……。
基本的にはいい子なんだけどなぁ……。実際私が怖がるとわかってるからこそ、彼女の話を聞くかどうかの選択肢を私に与えてくれているわけだし……。
「まあ、脅しておいてなんですけど、そこまで怖い話ではないんですけどね、どちらかと言えばみうさんの好むようなヒロイックな話ですよ」
私の考えが表情に出ていたのか、彼女はそんなフォローを入れてくれる。
「そ、そうなの?」
と私が返すと彼女は小さくうなずいてから続けた。
「要するに街に出て悪霊退治をしてたんですよ、それで夜更かしをしてしまったんです」
「え? 悪霊退治!?」
私は驚いて聞き返す、確かにゆうなちゃんは『ゴーストガール』なんて言われていて、霊感があるという噂は聞いたことがあったけど、まさか本当にそんなことがあるなんて……。
「信じるか信じないかはみうさん次第です。まあともかく、私にはそういうことが出来るのです。だから、みうさんも必要以上に霊などを恐れる必要はありませんよ、もし万が一……みうさんに限ってないと思いますが、霊関係のトラブルに巻き込まれたら私に相談してください、力になれるかもしれませんから」
そう言って彼女は微笑む。その笑みはとても優しげで、彼女の言葉には妙な説得力があった。
「うん……ありがとう、ゆうなちゃん」
彼女の優しさにやっぱり友達になってよかったと改めて実感しつつ私はお礼を言う。
とはいえ、ゆうなちゃんが助けてくれるくれないにかかわらず、私はオバケという存在そのものがダメなので、今後も彼女のお世話になったりするような事態が起こらないことを祈るばかりだ。
その後は、ゆうなちゃんと(霊関係以外の)他愛のない話をしながら登校し、私の教室の前までやって来た。
「では私はA組なので、これで……」
そう言って背中を向けるゆうなちゃんだったが、ふと「ああ、そうそう」と何かを思い出したよう言ってもう一度こちらに振り返った。
「私の気のせいならばいいんですけど、みうさんの顔にとある相が浮かんでいたようなので、念のためにお伝えしておきます。」
「相? それってどんな……?」
「隠されていた秘密の露見……。そんな相がみうさんの顔に浮かんでいました」
「秘密の露見……? それってどういうこと?」
「それは私にもなんとも言えません。とはいえ、私の思い過ごしかもしれませんし、100%当たるわけではないのであまり気にしないでください。それでは私はこれで失礼します」
ゆうなちゃんはペコリと軽くお辞儀をすると、そのままA組に向かって歩いて行った。
秘密の露見……か。私が人に隠したい秘密と言えばもちろんシャイニーフェニックスのことだけど……まさか、これが誰かにバレる?
まさか……いざとなればルビィという身代わりがいるし、正体がバレるなんてことはないと思うけど……。
となると、別の事とか? まあ、私もそれなりに隠したい事はあるし、秘密の露見が何を指しているのかはさっぱりわからないけど。
ま、なんにせよ、アドバイスをもらった以上ちょっとは気をつけよう。
私はそう決意して教室の扉を開けるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、評価やブックマーク、感想お願いします。




