第77話 帰ってきた天才
「ご搭乗のお客様にお知らせします、当機は間もなく大気圏に突入致します、シートベルトをお締めになり座席の背もたれ、もしくはテーブルをしっかりとお掴みください。繰り返します……」
機内アナウンスが響き渡る中、その少女は窓から見える青い地球を眺めていた。
年齢は13歳程度、短い赤毛の髪、鳶色の切れ長の瞳、目鼻立ちの整った顔立ちとなかなかの美少女である。
「ふっふっふっ……地球よ、アタシはついに帰って来たわよ……。この溢れ出る才能に嫉妬した神によって火星にまで追放されるという憂き目に遭わされたけど、それも今日で終わり! アタシの新たなる伝説が始まるのよ!」
少女は不敵な笑みを浮かべつつそう呟くと、その小さな拳を天に掲げた。
「もうすぐよ、もうすぐ地球にこのアタシの旋風が吹き荒れるのよ!! おーっほっほっほっほっほっ!!」
ゴチーンと、テンションに任せてその場に立ち上がり高笑いを始めた少女のその頭に拳が振り下ろされた。
「うるさいっ、他のお客さんに迷惑でしょ! 全くこの子はいつもいつも恥ずかしいんだから……すいませんねぇ、どうもこの子自分を特別な人間だと思い込んじゃってるみたいで……」
そう言ってペコペコと頭を下げながら、少女を押さえつける女性。
「ママ! アタシは本当に超天才でぇ!」
「わかったわかった、超天才なら機内では大人しくするのが正しいとわかるよね、だから静かにしようね」
そう言って少女の母親らしいその女性は暴れる少女を無理やり座席に座らせる。
「わかったわよ……大人しくしてればいいんでしょ……」
少女は不貞腐れた表情で言う。だが、その目には悔しさが滲んでいた。
「ふんっ、天才はいつの時代も理解されないもの……だけど見てなさいよ! 必ずアタシの才能を世間の連中に認めさせてやるんだから……!」
そう叫ぶと少女は座席に深く座り込み、腕を組みながら目を閉じ、そのまま動かなくなる。どうやら寝る態勢に入ったようだ。
少女の母親は一つため息を吐くと改めて座席へと座り直ししっかりとシートベルトで体を固定する。
そして、ほどなくして機体の窓から見える景色が赤く染まり、しばしして元に戻る。
大気圏を抜けた宇宙船はそのまま空を駆け抜け目的地へと向かって行った。
**********
東京宇宙空港――日本と宇宙を繋ぐ玄関口であるその建物のロビー、そこに設置された長椅子に座りながら、少女はスマホをいじっていた。
宇宙船が予定より早く着いたために、空港まで迎えに来ているはずの父親の車が到着しておらず、暇を持て余しているのである。
母親はここにはいない、空港のカフェで時間を潰しているはずだ。
少女が付いて行かなかったのは簡単でただそんな気分ではなかったため、ただそれだけである。
彼女は気分屋であり、やりたいようにしかやらない。母親もそれをわかってるからこそ、自由にさせているのだ、もちろん、他人に迷惑を掛けない限りはという前提条件付きではあるが。
「相変わらずつまらないニュースばっかりね……」
少女は指と目を物凄い速度で動かしながらそう呟く。
久しぶりの地球、日本である、何か目新しいニュースがないかとスマホで検索をかけたのだが、出てくるのは代わり映えのしないニュースばかりであった。
「つまんない……何か面白いことないかなぁ……」
再び呟く少女だったが、ふとその指が止まる。
一つだけ、彼女の目を引く見出しがあったのだ。
『自称宇宙人テロ集団ギーガーク帝国、謎の美少女ヒロインシャイニーフェニックスによって撃退!』
その見出しには、シャイニーフェニックスとギーガーク帝国のヤーバン・ジーンが戦う写真が掲載されており、彼女は思わずスマホの画面を食い入るように見つめた。
「何これ……アニメの話? でもそんな感じじゃないし……という事は現実の話?」
その時、彼女の脳内のスーパーコンピューターが高速稼働し、ある答えを導き出した。
「なるほど、どうやらアタシの推論は正しかったようね……。広い宇宙には地球以外にも様々な星や銀河があって、そこには地球人が知らないような生物や技術が当然存在している……。そして、とうとうそいつらが地球までやってきた……という事ね……」
自分の考えが正しかったことに満足し、彼女はフッと笑みを浮かべた。
そして、スマホを操作し、記事の中に挿入されているシャイニーフェニックスの写真を拡大表示する。
「そして、これがシャイニーフェニックス……。ふむ、まるでプチピュアみたいな見た目をしてるわね。宇宙からやって来た戦士が日本の変身ヒロインアニメに似た姿をしているとは実に興味深いわ」
彼女はそう言うと、その写真を保存し、スマホをポケットへとしまった。そして、再び暇を持て余した子供のような仕草で足をブラブラとさせる。
「それにしても……シャイニーフェニックスにギーガーク帝国か……あの子の好きそうな話じゃないの……。きっと狂喜乱舞してるんでしょうね、ヒーローが現実にいた―とか言って……」
彼女の脳内にかつて彼女が唯一認めたライバルの少女の満面の笑顔が浮かび上がる。
微笑ましそうにしていた彼女だったが、とある記憶を思い起こしギリッと歯ぎしりをする。
「……気に食わないわね……。何もかもがあの子の思い通りになるのは……」
彼女はそう呟くと、ゆっくりと立ち上がる。
「どちらにしろこのアタシの計画にはこのシャイニーフェニックスって子が邪魔になるのは間違いない……。なら、アタシの起こすべき行動は一つしかないわね……」
ニイッと彼女は獰猛な笑みを浮かべる。
「シャイニーフェニックスを倒す! このアタシがね!! 大好きなスーパーヒロインがアタシの前に跪く姿を見せてやるわ……。首を洗って待ってなさい! かと――」
ゴチーンと、機内の時と同じように彼女の頭に拳が振り下ろされる。
「空港のロビーで大きな声で何をわけのわかんないこと言ってるのよ、恥ずかしい……。それよりパパが来たわよ、早く新しいお家に行きましょ」
拳骨を振り下ろしたのは彼女の母親である。
「ばんばかばんばか叩かないでよ、ママ!! アタシの天才的頭脳がおかしくなっちゃうでしょ! それに、アタシは天才なんだから、空港で叫ぶくらい許してよ!!」
「天才なら親に恥ずかしい思いをさせないような行動をしなさい。ほら、パパを待たせたら悪いから、早く行くわよ」
そう言って母親は娘の手を引いて空港の外へと出ていく。
「くぅ……天才は……天才は……こんなことじゃくじけないわ……」
彼女は涙目でそう呟きながら、ズルズルと母親に引きずられていくのであった。
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