第75話 第1部完! 宴……そして、別れ……
「乾杯!」
「カンパーイ!」
「かんぱーい!」
部屋の中に三つの声が響き渡り、グラス同士がぶつかり合う涼しげな音が奏でられる。
ここはとある焼き肉店の個室席、異次元空間から帰還し変身を解いた私にシュナイダーさんこと仁さんが言った、「ヤーバン打倒を祝って祝勝会でもしようか」という言葉を受けて、やって来たのがここ、そしてさっそく運ばれてきたドリンクで乾杯をしたところだった。
ちなみにコップに入っているのは全員一致でウーロン茶、私は当然として、仁さんは20歳を超えているのでお酒も飲めるはずだけど、私に気を遣ってかそもそもお酒を飲まないのか、それはわからないけれど、とにかくウーロン茶を注文していた。
「それにしても……」
と私は自分の隣の席に目を向けながら口を開く。
そこにはニコニコとした顔でコップに口を付ける一人の男の子がいた。
外見は10歳前後。くりくりとした瞳に艶やかな長めの黒髪。女の子でも通じるような可愛らしい顔立ちをしている。
「ビックリしちゃった、ルビィがこんなかわいい男の子に変身できるなんて」
そう、その謎の美少年の正体は変身能力によって姿を変えたルビィだったのだ!
鳥の姿のままじゃ店に入れないし、香取みうやシャイニーフェニックスの姿になるわけにもいかないというわけで、彼がなったのがこの姿だったのだ。
「特に必要がなかったから今までならなかったけど、実はボクにはこういう姿があったんだよね~。どう、みうちゃん、見惚れちゃったかな?」
そう言ってウインクをするルビィ。見た目は美少年でも中身は相変わらずのルビィだ。
「う、うん、確かに可愛いけど……」
正体が鳥型バイオロイドじゃねぇ……。
と声には出さずに付け加える私。
「ふふ、ありがとう」
そんな私の内心になど気づくはずもなくルビィが嬉しそうに微笑む。
その笑顔はまさに天使の微笑みで、思わず顔が赤くなっちゃう。
うう~ん、私って特に年下趣味はなかったはずなんだけどなぁ……。
「ははっ、二人が楽しそうで何よりだ。しかし、そろそろお喋りはやめにして、食事を楽しもうじゃないか」
私たちのやり取りを微笑まし気に見ていた仁さんがそう言って、テーブルの上に並んだ焼肉やサラダに箸を伸ばす。
「そうですね、それじゃ私も一つ……」
そう言って私も箸を伸ばし、目の前にあるお肉を取り皿に移して口に運ぶ。
「んん~美味しい!」
口の中に広がる肉の旨味に思わず声を上げる私。
そんな私に仁さんが「だろ?」と得意げな顔をする。
「はい、とっても!」
私は笑顔で答えるとまた肉を口に入れた。
「代金の事は気にせず、どんどん注文し、好きなだけ食べてくれ。君の頑張りに対する俺からのささやかなプレゼントだ」
「えっ? いいんですか……? 私って、こう見えても実は結構食べるタイプですけど……」
お言葉はありがたいけど、逆に恐縮してしまう私である。
しかし、仁さんは何を言ってるんだとばかりに私の言葉を笑い飛ばした。
「みうちゃんは心配性だな。大丈夫だよ、これでも俺も大人だし正規の宇宙戦士だからね、懐には相当の余裕があるのさ」
そう言って仁さんは私にウィンクをしてみせた。
うう~ん、やっぱり仁さんってかっこいいなぁ……。
そんな私の思いを知ってか知らずか、彼は更に言葉を続ける。
「それにね、俺は君が美味しそうにご飯を食べてる姿を見ると、何だか幸せな気持ちになるんだ。だからこれは俺がしたいことなんだよ」
そう言って仁さんは優しく微笑んだ。その笑顔を見ているとなんだか胸の奥がポカポカしてくるような気がする。
「あ、ありがとうございます! それじゃあ……改めていただきます!」
私は仁さんにお礼を言うと、再び肉へと箸を伸ばすのだった。
「あっ、ルビィそれは私が食べようと思ってたのにぃ!」
ちょうどいい感じに焼けていたお肉を横から掻っ攫ったルビィに抗議の声を上げる私。
「ふふん、早いもの勝ちだよ」
そんな言葉などどこ吹く風と言った感じでルビィはそう言って悪戯っぽく笑う。このぉ……天使みたいな顔してイタズラ坊主なんだから!
そんな顔で誤魔化されないよ私は! 食べ物の恨みは恐ろしいんだから!
「むぅ、ルビィのイジワル……」
プクッと膨らませる、そんな私の様子を見て、仁さんがクスクスと笑う。
「こらこら喧嘩するんじゃないよ、肉はまだまだあるし、足りないなら追加で注文すればいいんだ」
「そーそー、みうちゃんはケチなんだよ、少しくらいいじゃないか」
仁さんの言葉に合わせそう言ってくるルビィだけど、私は彼をジト目で睨みつけながら言う。
「まだあるとかそう言う問題じゃなくてねぇ、せっかく自分のために自分で焼き上げた、いわば自分専用のお肉を攫われたことに私は怒ってんの、わかる?」
「みうちゃんって根に持つタイプなんだねぇ、わかったよ、ごめん謝るよ、お詫びのしるしとしてボクが焼いてたお肉あげる」
口を尖らせつつも素直に謝り自分の前のお肉を指し示すルビィに私は二ッと笑い、「わかればよろしい。それじゃ貰っちゃうよ~」と、いい感じに火が通ったお肉を箸で取り、自分の口に放り込む。
その様子に私の怒りがただのポーズだったことを悟ったのだろう、ルビィはやられたとばかりに悔しげな表情を浮かべた後、すぐに笑顔に戻った。
「敵わないなぁ。みうちゃんには……」
その言葉にさらに機嫌を良くし、ふふんと鼻を鳴らすともう一切れ肉を取り口の中に入れる。
「それにしてもみうちゃん、君は本当に美味しそうに食べるね」
口の中一杯にお肉を頬張りながらもぐもぐと口を動かしていると、仁さんが感心したように言った。
その言葉に私はお肉を飲み込むと満面の笑顔を浮かべる。
「えへへ、私食べるのも作るのも大好きなんですよ」
「作るのも?」
首を傾げる仁さんに私は頷き返すと言葉を続ける。
「仁さんには言ってなかったですけど、私、お料理が趣味なんです。ママの影響なんですけど、お菓子から本格的な物まで、結構色々作れちゃいますよ」
「ボクもたまに食べさせてもらいますけど、みうちゃんの料理は絶品ですよ~」
私が胸を張って自慢げに言うと、ルビィが横からすかさず合いの手を入れてくる。
「へぇ、それは凄いな。是非食べてみたいものだ」
「えへへ、じゃあ今度仁さんのために腕によりをかけて作りますね!」
私はそう言って満面の笑みを浮かべる。
そしてそんな私の様子を見ていた仁さんが優しい、しかしどこか寂し気な笑みを浮かべて言った。
「ありがとう、楽しみにしてるよ。しかし、それは当分先の話になりそうだな……」
「えっ? どういうことですか?」
彼の発した言葉の意味するがいまいち理解できず首を傾げる私。
すると仁さんは悲しげな表情を浮かべたまま、ゆっくりと口を開いた。
「俺はこの後、店を出たらその足で宇宙へと発つつもりだ。本来の担当区域に戻らなければならないからね」
私はハッとする。そうだ、仁さんにはS.P.Oの上級宇宙戦士としての任務がある。
いつまでも地球に留まっているわけにはいかないんだ……。
「まだレガーンたちが残っているとはいえヤーバンが倒れたことで帝国地球軍はガタガタ、君一人でもそうそう負けはしないはずだ。それに俺はシャイニーフェニックスことみうちゃんを信頼しているからね」
仁さんは優しい微笑みを浮かべながら私に言う。そんな彼の笑顔を見て私の胸がズキンと痛んだような気がした。
わかっていたはずなのに……別れの時がやってくることなんて……
なのに錯覚していたんだ、仁さんはいつまでも地球に――私の傍にいてくれる、見守っていてくれるって……
「もちろん、宇宙へと戻っても俺は君のことを今まで以上にしっかりサポートさせてもらうつもりだ。だから……そんな悲しそうな顔をしないでくれ、そんな顔をされると俺も辛くなってしまう」
私、そんな顔してたの……? いけない……誓ったじゃない、宣言したじゃない、強くなるって、身も心もって……。
「あ、い、いえ。気にしないでください、ただ、突然言われたもんだから、少し驚いたのと、ちょっとだけ寂しくなるな、なんて思っちゃっただけですから……」
私は慌てて笑顔を浮かべて取り繕う。そんな私の様子に仁さんは一瞬ハッとした表情を浮かべた後、柔らかな微笑を浮かべた。そして私の頭にポンっと手を置くと優しく撫でてくれる。
「みうちゃん大丈夫だよ、ボクが毎日でも仁さんとの星間通信を繋いであげるから!」
仁のさんの手のぬくもりを感じながら、私は励ますように言ってくれたルビィに視線を向ける。
「そうだね、あは、私何を寂しがってるんだろうね。取ろうと思えばいつだって連絡取れる、ルビィもいてくれる、ちっとも寂しくなんかないよね」
私は自分に言い聞かせるようにそう言うと仁さんに向き直り笑顔で言った。
「ごめんなさい仁さん。仁さんは私なんかより遥かに辛く厳しい戦いの場へ赴こうとしているのに、私ったら……」
そしてそこで一旦言葉を切ると、すうっと一つ息を吸って二人に向けてなるべく明るいトーンで言う。
「さ、仁さんもルビィもせっかくの祝勝会なんだから、そんな暗い話は終わりにしてパーッと盛り上がりましょう! ね?」
「ああ、そうだな」
私の提案に仁さんが笑顔で同意してくれた。そしてそんな私たちを見てルビィも嬉しそうに笑う。
「よーし、しばらく地球の料理は食えないんだ、食いだめするぞ!!」
そう言うと仁さんは、箸で一気に肉を摘まむと、鉄板の上に並べていく。
私は仁さんらしからぬその異様なテンションに目を丸くしていたが、心の中で考えていた。
そっか、仁さんも同じなんだ、寂しいのは私だけじゃない。仁さんもまた同じように感じてくれていたんだ……
そう思った瞬間、私の胸に暖かいものが広がっていくのを感じた。
「えへへ……」
私は思わず笑みを浮かべてしまうのだった。
「私も負けませんよ! 仁さん、どっちが多く食べられるか勝負しましょう!!」
「ははは、いくら君が食べるタイプとはいえ、大人の男である俺に勝てるかな?」
「やって見なきゃわかりません!」
「やれやれ……ってみうちゃん、さっきからお肉ばっかり食べて野菜も食べないと……」
「もうっ、ルビィってば、ママみたいなこと言わないでよ~」
そんな感じで、焼き肉店での祝勝会は終始和やかなムードで進んで行ったのだ、目前に迫る、別れから目を逸らしながら……
「今日は本当に楽しかったよ、また俺が地球に来れたらその時はこうして一緒に出かけよう」
焼き肉店からの帰り道、バイクを押しながら仁さんが隣を歩く私にそう声を掛けてくる。
最後だから歩いて行こうという私の提案を仁さんは笑顔で受け入れてくれた。
ちなみにルビィは鳥の姿に戻りバイクのシートの上に乗っかっている。
「はい、楽しみにしてます」
私が答えると仁さんは「約束だ」と言いながら、手を差し出してきた。
その手を私はギュッと握りしめる。
「それじゃ俺はそろそろ行くよ。ルビィ、くれぐれもみうちゃんのことは頼んだぞ」
そう言って仁さんが空いている方の手でルビィの頭を軽く撫でると彼はいつもの口調でこう答えた。
「任せてください! ボクがついてる限り、みうちゃんは大丈夫ですよ!」
バイクのシートから私の肩へ飛び移り胸を張るルビィに仁さんは「その意気だ」と小さく笑うと、私から離した手をそのまま軽く上げ、「じゃあ」とだけ言うとそのままバイクに跨りヘルメットを被ると、エンジンをかけ走り去っていった。
なんてことない言葉。彼が最後にそれを選んだのはこれが決して永遠の別れではないとわかっているからだろう。
だから私も笑顔で手を振った。そして彼の姿が見えなくなっても、しばらくその場を動かなかった……。
「みうちゃん……」
そんな私にルビィが心配そうに声を掛けてくる。
私はそんな彼に向けて軽い口調で「それじゃ、帰ろっか?」とだけ言うと歩き出した。
悲しむ必要なんかない、泣く必要なんかない。
むしろ、楽しみが増えたんだ。今度また仁さんに会えた時、成長した私を見せて驚かせるという楽しみが。
ふと、何かを感じ取り私は空を見上げる、暮れかけた空にポツポツと輝き始める星の中を空に向かって流れていく逆流れ星……。
そっか、あれが彼の宇宙船の軌跡なんだ……。
三回、普通の流れ星にするように願い事を唱えてみる。
この願いは絶対に叶いますよね?
最後に大好きな夢のヒーローへと問いかけると、今度こそ私はしっかりと前だけを向き、歩き出した――
第10章【超決戦! シャイニーフェニックスVSヤーバン・ジーン!!】
並びにシャイニーフェニックス第1部
完
【次回予告】
??「ほーっほっほっほっほっ! 香取みうってば随分調子に乗っているようじゃない! だけどそれもここまでよ、超天才であるこのアタシがあんたの鼻っ柱を叩き折ってやろうじゃないの! 悪の天才が野心を抱き世界征服を夢見た時にあんたがどうするのかじっくり見せてもらいましょうか! 次回、シャイニーフェニックス『ライバル!? 超天才王尾蘭の挑戦状!!』あんたたちも絶対に見なさいよね!!」
お読みいただきありがとうございました。
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