第61話 特訓、明日の勝利のために!!
【喫茶スペースシェリフ】を後にした私たちは、仁さんのバイクで紗印市郊外の山の中(ちなみにここは最初に仁さんと出会った思い出の場所だ)へとやって来た。
相変わらず仁さんとの二人乗りにはドキドキさせられたけど、今はそんなことを考えている場合じゃない! だって今からここで修行が始まるんだもん!! 私が気合を入れ直していると、前を歩いていた仁さんがふと足を止めた。
「ここだよ」
こちらを振り返りながら言う仁さんだったが、そこには何もない場所だった。
少し開けただけの木々に囲まれた空間が広がっているだけだ。
私が首を傾げていると、仁さんは再び前を向きすたすたと歩いて行く、すると……えっ!?
なんと、突如目の前の空間がズレて、その向こう側にSF映画に出てくる建物の内部のような光景が現れたのだ……!
「驚いたかい? 光学迷彩で見えないようになってるけど、ここに俺の宇宙船<ブラウファルケ>が泊まってるんだ」
驚きのあまり目を見開く私にそう言って笑いながら仁さんは、空間を握り拳で叩くような仕草をする。
すると、コンコンと何もないはずの場所から音がしたのだった! どうやら本当にそこに何かがあるらしい……すごい……!!
「上級宇宙戦士にはこのように自分専用の宇宙船が与えられるんだ。単なる移動手段としてだけではなく、戦闘能力、そして居住性も兼ね備えていてね、移動基地のような役割を持っている。これで宇宙の各地を回り任務をこなしてるのさ」
説明をしながら、仁さんは空間の切れ目――たぶん、宇宙船のハッチの中へと入って行ったので私もそれに続くように中へと入る。
「このブラウファルケは基本的にすべてコンピューターで制御されている、だから乗組員はおらず、俺一人で運用できるようになっているんだ」
無機質な通路を歩きながら説明してくれる仁さんの後を追いながら、私はキョロキョロと周囲を見回す。
目の前に広がるのはまさにSFの世界! やっぱり仁さんは本当にフィクションから抜け出してきたみたいな私の憧れのヒーローそのものだ、こんな凄い宇宙船まで持ってるんだもん!! そんなことを考えているうちに仁さんが一つの扉の前で立ち止まった。
扉の横には小さなパネルのようなものがあり、仁さんの手が触れた瞬間パッと光って扉が開く。
そのまま中に入るよう促されたので恐る恐る足を踏み入れる。
そこは四方を壁に囲まれた、何もない空間だった。広さはサッカーコートくらいはあるだろうか? 余裕で飛び回れるくらいに広いし天井もとても高い……ここが宇宙船の中だなんて信じられないくらいだ。
「ここがトレーニングルームだ、君の特訓はここで行うんだ」
「なるほど……でも、何もありませんよ?」
特訓をするのはいいけど、あまりにも何もなさすぎる。トレーニングルームというからてっきり体を鍛えるための器具とかがあるものかと思っていたんだけど、ここにはただ真っ白な床が広がっているだけだ。一体どうやって修行すればいいんだろう……? 私が疑問を口にすると、仁さんはふふっと小さく笑い入り口の扉の横についていたパネルを操作する。
すると、部屋が突然真っ暗になり、まるで暗闇の中に立っているかのような錯覚を覚えた。
カツーン、カツーン、カツーン……。
戸惑う私の耳にどこからともなく足音が聞こえてくる、誰かがこちらに向かって歩いてくるようだ……!
「……え?」
暗闇の中から現れた人物の顔を見て私は驚きのあまり固まってしまった。だってそれは……シャイニーフェニックス……変身した私と全く同じ顔だったのだから!
「これが君の特訓の相手だ。安心してくれ、怪しい奴じゃない、君のデータを解析して作られた君と全く同じ能力を持った立体映像さ。映像と言ってもこの空間の中では本物と同じように触れることも出来るし、君と同じように技も使えるよ」
「す、すごい……こんな技術があるなんて……」
驚きの声を上げながら、私はジロジロと目の前の『シャイニーフェニックス』を無遠慮に見回す。目の前にいるのは確かに私と同じ姿をした人間にしか見えない。本当にそっくりすぎて気持ち悪いくらいだ。まるで鏡を見ているかのようで落ち着かない気分になる。って言っても今の私は香取みうだから『彼女』とは違う姿だけど……。
「何をジロジロ見てるの? 私を観察してる暇があったらさっさと変身しなさい、時間はあまりないのよ?」
「ひょわっ!?」
まさか、言葉も話せるだなんて……! 思わず変な声が出ちゃったじゃないか! もうっ、びっくりするなぁ……!! 当たり前かもしれないけど声まで完全に同じだし……。
しかし、驚いてる場合じゃない、確かに『彼女』の言うとおりだ、のんびりしていられないし早く変身して特訓を開始しないとね!
「Start Up! シャイニーフェニックス!」
いつものポーズといつものワードで私は香取みうからシャイニーフェニックスへと変わる。
これで完全に『彼女』と私の姿は同じになった。立ち位置を入れ替えてどっちが本物でしょう? と仁さんに尋ねてもきっと答えられないだろう。それくらい私と彼女はそっくりだ。まぁ、当たり前だけど見た目だけじゃなくて能力も同じなんだよね。
そんな事を考えながら、『彼女』の様子を伺っていると、仁さんが口を開く。
「本物の君と彼女には一つ大きな違いがある。所詮作り物でしかない彼女は成長しないが、君は成長する、つまり戦いを繰り返せば差が生まれてくるって事だ」
「今の自分と同じ能力を持った相手と戦うことで、特訓による成長がより分かりやすくなるってことですね?」
「そういうこと。自分と戦うことで、自分の強さと弱さを知り、過去の自分を克服し強くなる……それが目的さ」
なるほど、確かにそれは理に適ってるかも……! 自分が弱いところを自覚しないまま修行しても意味ないもんね!!
この目の前の『シャイニーフェニックス』を簡単に倒せるぐらいに強くなることが出来れば、ヤーバンとも戦えるようになるはずだ……! そうすれば……みんなを守ることだって出来るはず……!! そうと決まれば早速始めよう!!
私はビシッと『彼女』を指差し宣言する!
「行くわよ、『私』!」
「来なさい! 私!!」
私と『彼女』は同時に駆け出した……! そして正面からぶつかり合うようにお互いの胸に向かって拳を放った……!! バチッン!!! 激しい衝撃音が響き渡ると同時に私たちは同じように後ろに吹っ飛ぶ!
そして、まったく同じ動きで体勢を立て直すと、睨み合う。
ほ、本当にまったく同じ能力なんだ……でも、それは今だけ! すぐに私の方が強くなってみせるんだからっ!! そう思いながら私は再び走り出すのだった。
*
本物と立体映像、二人の『シャイニーフェニックス』が激しくぶつかり合う音を聞きながら、俺はそっと部屋から出て行く。
この場で見ていてもよかったのだが、俺がいると集中力を削がれてしまうかもしれないし眺めていたところであまり意味はないだろうと考えとりあえずはこの場は彼女に任せることにしたのだ。
俺はリフレッシュルームまで移動すると、そこに置いてあったソファに深く腰掛けた。そして、両手を頭の後ろにやると天井を見上げながらふぅっと息を吐く。
「さて……ヤーバンが攻めてくるまでにみうちゃんはどれほど強くなれるか……」
みうちゃんは天才だ。かつて彼女の宇宙戦士適正値を計測したときに弾き出された0という数値が何かの間違いだと思えるほど、戦闘に関して天賦の才を持ち合わせている。
このまま特訓を続ければ確実に強くなるだろう。問題は時間だな……確かにヤーバンはすぐには攻めてはこない、さりとて悠長にしている暇もないわけで……。
奴らが戦力を整えるのにかかる時間は最短で3日ほど、長くても10日といったところだろう。
その短い期間の間に、果たして彼女はどこまでヤーバンに迫れるか……。
こればかりは蓋を開けてみるまで分からない、が……。
「自分が選んだ子に対する欲目か? 俺の心は不安に苛まれている……なのに確信しているんだ、彼女はヤーバンに勝つ、と……」
立ち上がり呟いて俺は近くに置いてあったタブレット型の端末を手に取ると起動させ、あるデータを表示する。
俺が本当に危惧しているのは……彼女がこの戦いに勝利した後だ……。
ヤーバンが倒れれば敵の地球方面部隊はガタガタになる、なんだったらシィ・レガーンも一気に叩けるかもしれない……だが、そうなればより強力な部隊が本星から地球に送り込まれてくることになるだろう。
……みうちゃんは知らない、奴らの本当の恐ろしさを……。ヤーバンとの戦いで彼女は恐怖を知った、だがそれは深淵のほんの入り口に過ぎないのだということを……!
タブレットにはギーガーク帝国の各部隊の戦力比較データが表示されており、そこにはとてもみうちゃんには見せられない恐ろしい情報が並んでいる。
彼女を本星の連中と戦わせることはあってはならないことだ……彼女にはこのまま実力の劣る地球方面部隊と遊んでいてもらうのが一番いい……。
……またみうちゃんと離れることになってしまうのは心苦しいが、この戦いが終わったら俺は早々に宇宙に戻るべきだな、俺が地球にいれば俺を狙って強力な敵が送り込まれてくることになるのだから……。
ピーピーピー! その時、俺のSPチェンジャーから電子音が鳴り響く。通信の着信音だった。見るとモニターにはルビィの名が表示されていた。
「どうしたルビィ?」
表面をタップし通話状態にしてから話しかけると、すぐさまルビィの声が返ってきた。
『シュナイダー様。みうちゃんとのデートはどうですか?』
開口一番、楽し気な声音で能天気なことを言ってくるサポートアニマルに俺は頭痛を覚える。
何がデートだ、勝手に勘違いをしてからに……俺もみうちゃんも敵の事で頭がいっぱいだというのに……!
「俺とみうちゃんは作戦会議をしていたんだぞ? 本来ならサポートアニマルであるお前にも同席してほしかったというのに勝手に帰ったりして……」
『え? そ、そうだったんですか!?』
「そうだよ……」
驚きの声を上げるルビィに俺は頭を抱えてしまった。こいつはぁ……想像すらしてなかったのか……。
変な事ばかり憶えてしまって困ったものだ……。大体俺とみうちゃんがデートなんかするわけないだろう。あの子は俺より14歳も年下なんだぞ? 彼女くらいの子からしたら俺はおじさんも同然で恋愛対象になんてなるわけがない。
俺の方にしたって彼女は可愛いとは思うが、正直子供すぎて妹か何かを相手しているような気分にしかならないのだ。
それに……俺は、まだ……。
『ご、ごめんなさいシュナイダー様。ボクはてっきり……』
自分の思考に沈みかけていたのを呼び戻され、俺はハッと我に返ると、申し訳なさそうな表情を浮かべるルビィに、「いや、もういい……」と返す。
しかし、ふと気になり疑問の言葉を口にした。
「ところでルビィ、お前わざわざそんなくだらないことを言うためだけに通信をしてきたのか?」
『ああ、そうでした。そろそろみうちゃんを家に帰した方がいいんじゃないかな~って思ったもんで。まだ少し余裕はあるとはいえ、彼女のパパとママが帰ってくる時間も近づいているわけですし』
みうちゃんのご両親は俺の事を知らない。やましいことは一切していないとはいえ、見ず知らずの男が一人娘を連れまわしていると知ったら……まあ間違いなく怒るだろうな。
最悪通報される恐れすらあるだろう。
「わかった、それじゃみうちゃんを送って行くよ」
『そうしてください。あの、ところで、気になったんですけど、みうちゃんは何をやってるんですか? 姿が見えないようですけど』
尋ねてくるルビィに、俺はみうちゃんの特訓の事を説明し通信を切ると、トレーニングルームへと向かうのだった。
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