第57話 激戦の予感
「みうー!」
しばし、ぼーっとしていた私だったけど、仁さんと入れ違いのようにやって来た智子の声にハッと我に返りそちらに視線をやる。
「伊勢さんが公園から出て行くのを見たわ、どうやら話は終わったようね」
「うん、ごめんね智子、まるで邪魔者みたいに扱っちゃって……」
謝る私に、「別にいいわよ」と前置きしてから智子は言う。
「それよりも、聞かせてくれない? あのイケメンお兄さんとあんたとの関係を! 知り合いだったってのは本当だったの? もしそうならどこで知り合ったのよ? あんたとあのイケメンお兄さんってどういう関係なの!?」
「え、えっと……それは……」
目をキラキラと輝かせながら問いかけてくる智子に私はたじろぎながらも考える。
さて、どうしようか……。もちろん宇宙戦士関連の話は智子には出来ない、かと言って一切説明しないのでは智子は納得しないだろう。
ここは上手くぼやかして説明していかないと……。
「えーと……仁さんとはね……」
そう切り出した私に、智子はいきなり口元に手を当て喜色に満ちた様子で叫ぶ。
「まっ、仁さんですって! 名前呼びとか随分と親密じゃない!」
うっ……しまった……ついうっかり……。思わず顔が熱くなっちゃう……。
でも、呼んでしまったものは仕方がない。私は気にせず冷静を装いつつ説明を続ける。
「ちょ、ちょっと前にね、私が悪い人に襲われたことがあって、その時に助けてもらったんだ」
ここまでの説明で私は一切嘘を言っていない。
実際仁さん……シュナイダーさんとの出会いはそうして始まったのだから。
「ひゃわー! 何よそれは! まるで漫画みたいな展開じゃない!」
大興奮の智子。彼女の頭の中ではきっと、悪人たちを蹴散らし私を救い出す仁さんの図が浮かんでいるに違いない。
まあ、あながち間違ってはいないんだけど……。
それにしても、漫画みたいな展開かぁ……。確かにそうだね、改めて自分で口にしてみてそう思う、しかも、実際に起こった出来事は智子の想像を遥かに上回るほどファンタジックな出来事だ。
「でね、仁さんちょっと特殊なお仕事をしてて、それが私の大好きなヒーローみたいなもので、それで色々とお話を聞いたりして……まあそんな感じで親しくなったんだけど、その時仁さんはサングラスで顔を隠してたから、さっきは一瞬誰だかわからなくて、それで智子を混乱させちゃった、ごめんね」
「なるほどね~。よくわかったわ、あんたが最近妙にご機嫌だったわけもね」
「え?」
そう言えば騒動前、喫茶店でそんな話をしてたっけ……。
「あの時は否定してたけど、やっぱり素敵な出会いが原因だったのね……。ま、なんとなくわかってたけどね」
智子はどこか嬉しそうに言う。
「ち、違うってば! 確かに仁さんとの出会いは素敵と言えば素敵だけど、そんなんじゃないから! 仁さんの年齢知ってる? 26歳だよ、私より14歳も年上! ありえないって!」
私は慌てて否定する。
確かに仁さんは素敵な人だ、でも恋愛対象とかじゃない、憧れの人って感じだもん! 私が仁さんに憧れてるのは恋愛的な感情じゃなくてあくまでヒーローへの憧れだから!
「あら、好きな気持ちに年齢なんて関係ないわよ。というかあたしは年上だったら余計にウェルカムよ、年の差カップルも素敵じゃない」
そりゃあ智子は年上好きだからそう思うんだろうけど……私だって好きなら年齢は関係ないって意見には同意する部分もあるけど……。
でも、仁さんはそんなんじゃないんだ。きっと……多分……。それに、私の方はともかく仁さんはこんな子供なんて……。
「まあ、でも、あんたとあの人の関係がまだまだだってことはわかったわ。仕方ないわね、あんたはまだ恋もよくわかってないお子ちゃまなんだしね」
そう言って智子は意地悪そうに笑う。うう……やっぱり子供扱いされてるよ……。でも、反論できないのが悔しい……。
「しかし勿体ないなぁ、あたしだったら積極的にアピールしてもっともっと仲良くなれるよう頑張るのに……」
智子は心底残念そうな表情を浮かべて言う。
「だから! そんなんじゃないってば!」
私は思わず叫んでしまう。すると、そんな私の様子に智子はニヤッと笑う。
あ、これ何かよくないこと考えてる顔だ……。
「ふ~ん、じゃあさ、あたしが伊勢さんにアピールしてもいい? あの人あたしの好み超どストライクなのよね。みうが全然その気ないなら、あたしが彼女になっても問題ないわよね?」
「それはダメッ!!」
私はついつい顔を赤くして叫んでしまった。
「あらぁ? なんでかしらねぇ、好きじゃないならあたしがアタックしてもいいわよねぇ?」
そんな私に対して我が意を得たりとばかりに意地悪そうに言う智子。うう……やっぱりそう来たか……。
「そ、それはね……。そ、そう! さっき言った仁さんの特殊なお仕事が関係してるんだよ! 彼と付き合おうとするってことは、かなりの危険に晒されることになるんだよ! だから私は反対なの!」
かなり言い訳っぽく聞こえるけど、これは紛れもない事実だ。仁さんは宇宙戦士だから必要以上に親しくなればその人にも危険が及ぶかもしれない。
そうだ、私がここまで必死になってるのはそれだけが原因なんだ、決して智子と仁さんが仲良くしてる姿を思い浮かべ猛烈に不快な気分になったからとかじゃない……はず。
私の必死の様子に智子は考え込むような素振りを見せた後、口を開く。
「ふ~ん……なるほどねぇ……まあ、それなら仕方ないわね」
よかった、納得してくれたんだ……私はホッと息を吐く。
「あんな殺気に満ちた目を向けられちゃあねぇ……それにしてもこの子自分があの人に恋してるのに気が付かないでいるのね……やっぱり子供だわ……」
「何をブツブツ言ってるの?」
首を傾げる私に智子は、「なーんでも」と言うと心底楽しそうに笑いながら私の肩をポンと叩く。
「頑張ってね、みう」
「あ、うん……」
何を頑張ればいいかわからないけど……取り合えず頷いておく私。
そんな私に智子はウィンクすると、そのまま私の横を通り過ぎて行く。
「じゃ、またね」
智子は軽く手を振りながら去っていくのだった。
「ふう……色々とあったけど、最後がこんな話で終わるなんて、やっぱり私って緊張感が続かないなあ……」
ヤーバンに殺されかけたり、その恐怖で戦いを辞めようと考えたりしてたのに、最終的には恋バナらしき話題で盛り上がるなんて……。
でも、いいよね。この日常を守るためにも私は頑張るんだ。
そのためにも……。
私は空を見上げる。そしてその先の宇宙空間のどこかに浮かんでいるであろうギーガーク帝国の基地のヤーバンに向けるように鋭く睨みつける。
ヤーバン……次は負けない……笑ってられるのも今のうちだよ……。
私はそう心の中で呟いたのだった。
*
「なんだ、この感覚は……? 今一瞬俺の身体が震えた……」
ギーガーク帝国要塞基地、通路を歩くヤーバンは突如襲った感覚に思わず立ち止まる。
「ククク、ヤーバン殿でも震えることがあるようですな、やはりシュナイダーは恐ろしいですかな?」
からかうような口調で言ってくるノーハーを鋭く睨みつけるヤーバンだったがすぐに小さく息を吐く。
(言われても仕方のない事か……確かに俺はもう少しでシャイニーフェニックスを殺せたところを奴を放置して逃げ帰ってきた。シュナイダーの登場が想定外だったこともそうだが、あのままシュナイダーと戦っていたら、俺は確実に殺されていた……)
シュナイダーの強さは知っていた、しかし、あの時シュナイダーが見せた殺気と憎悪、あれはヤーバンの想像を遥かに超えていた。
(シャイニーフェニックスを傷つけたことが原因だろうな……。あの男と戦ってみたいが、正直あれには勝てる気がしない……俺の奥の手を使ったとしてもな……)
ヤーバンは自分がガタガタと震えていることに改めて気づく。
とはいえ、それは恐怖によるものだけではない。
(この震えは……武者震いだ……!)
強敵を前にした高揚感、ヤーバンはその感情をよく知っている。そう、今までに何度も味わってきた感覚だ。
「なあに、奴と戦えると思うと嬉しいのだ……」
答えヤーバンは歩き出す、ノーハーは特に何も言うことなく彼の後を追った。
「ところで、シャイニーフェニックス抹殺にやらせたアオ・イットリーが倒されたようだな」
「ええ、情けない奴です、せっかく私が無人戦闘機でシュナイダーを引き付けてあげたというのに……」
ノーハーはやれやれと肩をすくめた。
「ふむ、あの小娘、俺に徹底的に叩きのめされ戦う意思をなくしたかと思ったが……」
興味深げに唸るヤーバンとは対照的にノーハーはほとんど興味を示さずに言う。
「あんな小娘はどうでもいいのですよ、どうせヤーバン殿には勝てませんから。今我らが気にしなければならないのはシュナイダーだけです」
ノーハーの言葉が終わると同時に彼らは一つの扉の前にたどり着いていた。
上部プレートに司令官室と書かれたその扉はヤーバンとノーハーが近づくと音もなく左右に開き、中へと彼らを誘った。
「ヤーバン、そしてノーハーよ、貴様らに新たな指令を与える。協力しシュナイダー必殺作戦を遂行せよ」
彼らが部屋へと入るとほぼ同時に、中央で椅子に腰かけていた司令官シィ・レガーンが二人へとそう言葉を投げかけた。
「協力……ですか……」
「不服か? ヤーバン」
内心の不満が顔に出てしまっていたらしい、ヤーバンは司令官の言葉に慌てて取り繕う。
「いえ……そのようなことはありません……」
だが、レガーンはヤーバンの考えなどお見通しだと言わんばかりに薄く笑う。
「構わん。貴様の気持ちも理解できる。しかし、シュナイダーは強敵かつ我らにとっては絶対に倒さねばならぬ相手だ。ヤーバン、貴様も実力は認めるところであろう?」
「……はい」
奴の殺気に当てられ逃げ帰ってしまったことは事実だ。ヤーバンは素直に頷くしかなかった。
「奴を抹殺できれば、本星の連中に対するいいアピールになる。もう帝国最弱の部隊などとは呼ばせぬ。しかし、それにはシュナイダーを確実に仕留められるだけの戦力を整える必要があるのだ」
「というと?」
尋ねるノーハーにレガーンは重々しい口調で答える。
「場合によっては基地の全戦力の投入も辞さない。ノーハー、ヤーバン、とにかくあらゆる手段を尽くしシュナイダーを抹殺せよ。失敗は許されぬ、決してしくじるな」
「「はっ!」」
ノーハーとヤーバンは同時に返事をするのだった。
*
こうしてシュナイダー必殺作戦は開始されたのである。
果たしてシュナイダーは無事生還できるのだろうか? そして、シャイニーフェニックスは……。
地球の命運を掛けた最大の戦いが、始まろうとしていた――……。
第9章
完
【次回予告】
仁「ノーハーと手を組んだヤーバンによるシュナイダー必殺作戦が開始された! 追い詰められる俺だが、ヤーバン、お前は大事なことを忘れている、地球を守る戦士はもう一人いるってことをな! 次回、シャイニーフェニックス、『超決戦! シャイニーフェニックスVSヤーバン・ジーン!!』俺とシャイニーフェニックスの活躍、絶対に見逃すなよ!!」
お読みいただきありがとうございました。
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