第55話 友情パワーで恐怖を乗り越えろ!
「決めた……シュナイダーさんが戻ってきたらこれを返そう、そして私はただのヒーロー好きなだけの女の子、香取みうに戻るんだ……」
私は左手首のSPチェンジャーをそっと撫でながらそう呟く。
「……ふう、心を決めたら何だかスッキリしちゃった」
私はベンチから立ち上がると、グッと背伸びをして空を見上げる。雲一つない青空だ。
「そう言えば、智子はどこ行ったんだろ? 仁さんが特に怪しい人じゃないとわかって安心して帰ったとか? う~ん、でも一言も言わずに帰るのも変だし……」
私は智子がどこに行ったのか考えを巡らせる。その時、周囲に響き渡るような大きな声が私の耳に届いた。
「シャイニーフェニックス! アタシの声が聞こえたら出てきなさーい! あんたの大事なお友達はアタシが預かってるわ! もし、アタシの言うことを聞かないならどうなるかわかってるわよねぇ?」
その声を聞いた瞬間、私は自分の血の気がサーッと引いていくのを感じた。
この声は……アオ・イットリーとかいう怪人の声だ……そして、大事なお友達って、まさか……智子!?
私の正体は知られてはいないはずだけど、シャイニーフェニックスとして智子とは何度か親し気に話した事があった。
だから智子を人質にすれば私をおびき出せると考えて……くぅっ、なんて卑怯なの!?
私は拳を握りしめて駆けだそうとする、しかし、足が動かない……。
あ、あれ……おかしいな……体が震えて……。
行けば……当然戦いになる……そ、そうなったら、またさっきみたいに、う、腕を折られたり、頭を割られたり……。
「うっ……」
再びこみあげてきた吐き気に私は口元を押さえる。
何とか吐かずに堪えることはできたけど、今にも吐き出してしまいそうだ。
「ううぅ……こ、怖いよぉ……」
私は頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
さっきの怪人の声を聞いてから恐怖で体が震えて止まらないんだ……。
もう戦うのは嫌だ……怖い、恐いよ……!
そ、そうだ、シュナイダーさんに任せればいいんだ……。
だけど、彼が敵機を倒して戻ってくるまでにどれだけ時間が掛かるか……。
「早く出てきなさい、出てこない気なら……」
「う、い、いやぁ……」
智子の声……! 苦しそうだ、何をされてるの!? 痛い思いをさせられてるの!?
……何をやってるのよ、私は……!!
怖いから何? 智子はもっと怖いんだよ? 他の人だって……。
それなのに、戦う力を持ってる私がここで怯えて、うずくまっててどうするの!? 私は震える足を殴りつける。痛みで恐怖が吹き飛んだ……気がする。
「Start Up! シャイニーフェニックス!!」
変身ポーズを決め叫ぶ!
シュナイダーさん、ごめんなさい。私やっぱり今さら普通の女の子になんて戻れません。
変身を完了させ、正義のスーパーヒロインシャイニーフェニックスへと姿を変えた私は飛ぶ、親友を、みんなを救うために!!
「ほーらほーら、この黒くて太くて先端がちょっと尖った物体を智子ちゃんの恥ずかしい部分に突っ込んじゃうわよ~」
「や、やめてぇ!! そんなの突っ込まれたら裂けちゃうわよ!!」
ヤーバンとの戦いの痕跡が残る駅前商店街の広場では、怪人が智子に向けてそんなことを言っている。
「やめなさい!!」
怒りに燃え指を突き付ける私の言葉に、怪人はこちらを振り向きながら智子の鼻の穴に突っ込もうとしていた棒を引っ込める。
「来たわね、シャイニーフェニックス。ヤーバン様にやられた恐怖で怯えて出てこられないんじゃないかと心配したわよ?」
怪人は棒の先端をペロリと舐めながら私を挑発してくる。
「そ、そんなことあるわけないでしょ! わ、私は正義の戦士よ!?」
強がってそう叫ぶものの、私の声は微かに震えている。
「ふふん、強がっちゃって可愛いわねぇ……でも、いつまでそうやって強気でいられるかしらね?」
「そ、そっちこそ……ヤーバンならいざ知らず、あなたは一度私に負けているのよ? よくそんな大口叩けるわね!」
怪人の言葉に私は言い返す。そうだ、こいつは一度私に倒されているんだ……! そんな弱い奴に負けるはずがない!
「ほほほ、残念だけどアタシはもうあんたにやられたアタシじゃないのよ。基地でエネルギーをたっぷりと注入してもらったからねぇ、戦闘能力は約3倍よ!」
「なっ……」
怪人の言葉に私は絶句する。戦闘能力が3倍って……そんなにパワーアップ出来るものなの……?
「ふふ、引き換えに寿命が残り一週間程度にまで減ってしまったけど、アタシはあんたに復讐出来ればそれでいいのよ。セミの成虫のように人生太く短くってね! さあ、改めて勝負よ!!」
そういうと怪人は腕の中の智子を私に向かって投げつけた!
「きゃああああ!!」
「智子!」
叫び声を上げる智子を私は慌てて受け止める。
「人質がいたから負けたとか言い訳されても困るからね、返してあげたわよ」
人質をあっさり解放したことに驚いた顔を見せる私に怪人はそう言って笑う。
随分と正々堂々とした行動を取っているようだけど、それだけ自分の力に自信があるということなのだろう。
「シャイニーフェニックス……大丈夫なの……? ヤーバンって奴にあれだけやられたのに……」
うっ……出来ればヤーバンの名前は思い出したくない……。
だけど、智子の心配そうな声に私は彼女を安心させるよう力強く答える。
「大丈夫! 私はシャイニーフェニックス!! 名前の通り不死鳥なの、やられても復活するのよ!」
「そっか、よかった……」
私の答えに智子は安心したように頷く。そんな私たちの様子を見ていた怪人がつまらなそうに口を開く。
「何をごちゃごちゃ言っているの、早く始めましょうよ」
「言われなくてもわかってるわよ!」
私は怪人の言葉にそう返すと、智子を地面に降ろし怪人に向かって駆けだす!
「はああ!!」
「甘いわ」
気合を込めて繰り出した拳は、しかしあっさりと怪人に受け止められてしまう。
「そんな……さっきは簡単に殴り飛ばせたのに……!」
私は拳を引き戻し、今度は蹴りを繰り出すがそれもあっさりと受け止められる。
「ふふん、今のアタシはさっきとは一味も二味も違うわよ!!」
どうやら3倍というのはハッタリでも何でもなく、本当にそれぐらいパワーアップしているらしい。
それに、気合の入り方が全然違う、残り一週間の命を燃やし尽くすつもりなんだろう……。
でも、だからこそ!
「負けるわけにはいかないのよ!」
私は大きくジャンプをすると、怪人の頭上を飛び越す! そして背後に着地すると同時に怪人の後頭部めがけて回し蹴りを放つが……!
「遅いのよ!」
しかし、怪人はそう言うとクルリと回転し蹴りを躱す。そして振り返りざまにカウンターパンチを放ってくる!
「きゃあっ!!」
私は咄嗟に腕でガードするが衝撃は殺せない。そのまま吹っ飛ばされてしまう!
「うっ……」
何とか空中で体勢を立て直し着地するも、腕に残る衝撃と痛みに私はヤーバンの攻撃で折れた腕の事を思いだし顔を歪める。
……ま、まただ……また体が震える……吐き気が、込み上げてくる……。
お、落ち着いて……落ち着いてよ私……。確かに強いけどヤーバンほどじゃないでしょう? 攻撃だってしっかりガード出来た……だから大丈夫……大丈夫だから……!!
そう自分に言い聞かせ、私は何とか恐怖を押さえ込む。
しかし私の動揺を見逃さず怪人は一気に距離を詰めてくる!
「ほらっ、どうしたのよ!!」
怪人のパンチが私の顔面に向かってくる。私はそれを何とか躱すけど……避けた先には回し蹴りが迫っていて……!!
「ぎゃふっ……」
腹部への強烈な一撃に私は吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。そして怪人はそんな私の髪を掴んで顔を無理矢理上げさせると、もう片方の手でお腹を何度も殴りつけてくる……!!
「うぐっ……げほっ……」
「ほっほっほ、どうやらヤーバン様に手酷くやられたことで戦いへの恐怖を植え付けられたようね」
「そ、そんなこと……ない……!」
図星を突かれ一瞬言葉に詰まるものの、私はそれを何とか否定しようとする。
しかし怪人は私の髪から手を離し立ち上がると冷たく言い放った。
「強がっても無駄よ、あなたは今恐怖に震えている」
怪人は私の前にしゃがみ込むと私の顎を掴み、無理やり自分の顔の方へと向けさせる。そして私の顔を覗き込んだ後ニヤリと笑った。
「シャイニーフェニックス、あなたの心をさらなる恐怖で支配してあげるわ。そうすればあなたは戦えなくなるでしょう?」
「そ……そんなこと……」
怪人の言葉に私は必死に否定しようとするも言葉が上手く出ない。
そんな私の様子に怪人は満足そうに頷くと立ち上がった。
「うふふ、どうやら効果バツグンのようね……。今のあなたじゃアタシには勝てないわよ?」
余裕綽々といった様子で笑う怪人に私は恐怖心を抑えながら言い返す。
「か、勝てない……? そんなのやってみないとわからないじゃない!」
そうだ……恐怖に飲まれちゃダメだ……! 私は自分の中の恐怖心を吹き飛ばすように叫ぶと怪人に向かって突進する。
しかし、ヤケクソのような攻撃なんて当たるはずもなく怪人は容易く私の攻撃を避けると、カウンターで強烈なパンチを繰り出してきた!
「きゃうっ!!」
衝撃に吹き飛ばされ地面に倒れる。そんな私に容赦なく蹴りが飛んでくる!
「うぐぅ……ぐはっ……」
背中を思いっきり蹴られ、私は地面を転がる。
痛い……苦しい……怖い……。
なんで、こんな思いをしなきゃいけないの……?
私の心が恐怖に支配され、またも弱音を吐いてしまう。
「うふふ、シャイニーフェニックス、辛そうね? だけど、すぐにそれは終わるわ、何故ならあなたは死ぬのだから」
怪人は私に近づくとしゃがみ込み、私の髪を掴み顔を上げさせる。そして顔を近づけてきた……!
「ねえ? もう諦めて楽になりましょうよ?」
楽に……なる? 諦めれば……恐怖に負ければこの苦しみから解放されるの……? 私は怪人の言葉に一瞬心が揺らぐ。
しかし、そんな私の耳に誰かの声が聞こえてきた。
「だ、ダメよ……シャイニーフェニックス! 諦めちゃ! あなたはスーパーヒーローでしょ!? そんなやつに負けないで!」
それは智子の声だった。そうだ……私が諦めたら智子が危ないんだ……! もう泣かないって決めたんだから……!
「うるさい子ね、そこで大人しく見てなさい、諦めようが諦めなかろうが、シャイニーフェニックスは死ぬのよ!」
怪人は吐き捨てるように智子に言うと、私の背後に回り込み両腕で身体を羽交い絞めにしてきた!
「くっ、は、放して……!」
私は必死に抵抗するけどまるでビクともしない。それどころか怪人はさらに力を込めてくる……! く……苦しい……背骨が折れそう……!
「さあ、終わりにしてあげる!」
怪人はそう言うと私の首に回した腕に力を込めた! ぐぇ……く、苦しいよ……! あ、ああ……意識が遠のいてく……。
「シャイニーフェニックス、お願い! 負けないで!! 悪のパワーに負けたら最後、未来が闇に閉ざされるのよ!!」
……!!!!
再び智子の声が聞こえ、私の意識が覚醒する!
私はそのまま智子へと視線をやる、彼女は私をしっかりと見据えていた。
眼鏡の奥のその瞳には私への信頼と、そして勇気と希望の光が宿っている。
智子……それにしても、今のフレーズって……。そっか、私、毎回カラオケで歌ってたもんね……だから覚えちゃったんだ。
そして、私にエールを送るために言ってくれたんだ。
ありがとう! 今の私にピッタリな曲だよ!!
「愛する友の眼差しが……倒れるたび傷つくたび私を強くする!!」
「何を言ってるの?」
怪人が訝し気な声を上げる、ふん、別にいいのよわからなくても、これはヒーロー好きな人だけがわかればいいんだから……。
ちなみに、遠巻きにこの戦いを見守っていた人たちの中でも、50代ぐらいのおじさんたちはわかってるらしくうんうんと頷いている。
それはさておき、私は智子に頷くと、気合を入れるために叫ぶ!
「はああああああ!!」
これぞ火事場の馬鹿力! 私は全身に力を入れると、怪人の拘束を一気に振り払う!!
「ゲェー!? ば、馬鹿な……!?」
私の拘束から逃れられ、驚愕の声を上げる怪人。
私はそんな怪人に向かって言い放つ!
「さあ、お遊びはここまでよ!!」
私は怪人に肉薄すると、その体を掴み持ち上げる!!
「ちょ、放しなさい……!」
もがく怪人を無視し、私は怪人を逆さまに肩に担ぎあげ、両足を抱えしっかりと固定する。そして大きく息を吸い込むと一気に跳躍した!
「くらええええええ!!」
叫び声と共に、怪人を抱きかかえたまま急降下する!
ガアン! と私はお尻から地面に着地する! って、痛った……。前から思ってたけどこれって自分のお尻へのダメージも半端ないんだけど……。
テンションに任せてついやってしまったけど、やっぱり漫画の技なんて現実で使うもんじゃない!
それに、これじゃまたただヒーローごっこやってるだけじゃん!
反省したのに、ついついやっちゃうあたりが私らしいというかなんというか……。
だけど、私は真剣なのだ! ヒーローごっこ? いいじゃない! 本気で取り組めば、それはもうごっこじゃなくなるんだよ!
それに、暗く沈んで悩むよりも、今私に必要なのはこういうバカげたことなんだと思う。
恐怖はまだある、だけど乗り越えられる……! 私は『超ヒーローオタク』香取みう! 大好きなヒーローの真似をして、怪人をやっつける! それが私に今出来ることだ。
そして、いつか本物になる! そのためにも、今はもう少しだけ、ヒーローごっこを続けよう。
私は自分の心でそう決意するのだった。
「ぐ、ぐぐぐ……いつまでも調子に乗ってんじゃないわよ!」
怪人は私の頭の上で呻くと腕の拘束を一気に振り払い飛び退き距離を取る。
しかし、やはりダメージは大きかったのか、怪人はフラついている。
今がチャンスだ! 私は両手を掲げエネルギーを集中する。
「シャイニーファイナルエクスプロージョン!!」
両手から撃ち出された光弾が怪人に向かって突き進む!
ヤーバンには通じなかった技……だけど、そのトラウマごと恐怖も吹き飛ばして!
「ふ、復讐も果たせずに……やられるなんて……アタシの人生、いや鳥生なんだったのよおおおおお!!」
カッ! ドオオオオオオオン! 私の放った必殺技は怪人を包み込むと大爆発を起こす!! やった、勝ったんだ……。
は、はは……なんだ、結構やれるじゃん……私……。
もう完全には大丈夫とは言い難いけど……まだヤーバンへの恐怖は消えてないけど……大丈夫、私はこれからも戦える、強くなれる。
私の大好きなヒーローたちみたいに……。
お読みいただきありがとうございました。
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