第54話 君はもう戦わなくてもいい……
「さてと……じゃあそろそろ本題に入ろうか……」
しばしして、そう切り出した仁さんの言葉に私はハッとする。そうだ、伊勢仁という名前の謎は解けたけど肝心なことは何も聞けてない。
私は気持ちを切り替え小さく頷くと、自分から彼に問いかけた。
「まず聞かせてください。私が生きてるのは、やっぱり仁さんが助けてくれたからなんですか?」
半ば答えは想像しながら、私は彼に尋ねる。すると、彼は優しく微笑みながらゆっくりと頷いた。
「ああ、そうだ。危ないところだったけど、なんとか間に合ってよかったよ」
やっぱり! 私のピンチに駆けつけて命を救ってくれたんだ!! これで彼に命を救われるのは二度目だ! 私は感動で胸がいっぱいになった。
「ありがとう……ございます……! それにしても仁さんは凄いです、まるで私のピンチを予知してたみたいに……やっぱりヒーローって凄いんですね!!」
私は興奮気味に仁さんに話しかける。しかし、彼は小さく首を振る。
「凄くなんかないさ。君のピンチに駆けつけられたのはただの偶然みたいなもんだし、俺が再び地球に来られたのは君の頑張りのおかげでもあるんだ。だからある意味君を救ったのは君自身の行いなんだよ、みうちゃん」
「え? それってどういうことですか?」
気になっていたことの一つ、宇宙で戦いを繰り広げているはずの仁さんがどうしてまた地球に来られたのかという疑問が解決しそうだったのだけど、私はその答えに更なる疑問符を浮かべた。
すると仁さんは私に微笑みかけながら言う。
「実はね、S.P.Oでは今ギーガーク帝国に対する反撃の機運が高まっててね。宇宙戦士になりたての女の子、しかもかなり年若い君が地球でこうして頑張っている。負けてられないって事で正規の宇宙戦士たちの戦意も高まってるんだよ。おかげで俺も少しだけ余裕が生まれてね、こうして地球に来ることが出来たってわけさ」
「そ、そうなんですか!?」
私は興奮気味にそう返す。なんだか凄い事になってるみたい……! でも、宇宙戦士の皆さんが私を見て闘志を高めているだなんて……ちょっと恥ずかしいな……。
そんな私の反応を見た仁さんはクスリと笑うと言った。
「君という存在は君が思っている以上に多くの人に影響を与えてるんだよ。俺ももちろんその中の一人だ。君が地球で頑張ってる姿を見て、俺も頑張らなきゃって思ったよ」
「仁さん……」
私は心の底から嬉しさが込み上げてくるのを感じた。
私の頑張りが誰かを奮い立たせることが出来るなんて、こんなに嬉しいことはない。
「私も……仁さんが地球に来てくださったおかげでこうして生きていられるんだって思うとすごく嬉しいです……!」
私はそう素直に伝える。すると仁さんは再び笑顔を見せ私の頭をくしゃっと撫でてくれた。
「まあ、そんなわけで君を助け、安全な場所まで運び変身を解除させ、俺の能力で君の怪我を回復させたんだ」
頭から手を離し説明してくれる仁さんの言葉を聞き私はハッとなる。
そう言えば……さっきから全く痛みも何もないんで忘れていたけど、私……右腕、左足を砕かれ、頭を割られて酷い怪我を負っていたはず……。
私は慌てて自分の頭部をペタペタと触る。だが、そこには傷一つない綺麗な肌があるだけだった。
右腕も問題なく動いてるし、左足も違和感すらない。
「驚くことはないさ、君のフェニックスヒーリングだってこれぐらいは出来るからね。S.P.Oの超技術の賜物だよ」
え、えぇ!? わ、私のフェニックスヒーリングもこんな凄い力あったの? S.P.Oの技術ってホント凄い……。まるで魔法みたいだ。
なんだっけ? 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない……だっけ? つまり、そういうことなのだろうか……?
「それで、回復させ変身を解除させたところで、ちょうど君の友達――智子ちゃんと鉢合わせてね。気絶してた君を抱きかかえてたことで危うく少女誘拐犯として通報されそうになったのは参ったけど……」
な、なるほど……智子からしてみればトイレに行くと言ったきり戻ってこない私がいきなり男の人に抱きかかえられてたんだもんね、いくら仁さんがイケメンで優し気な感じの人でも驚愕して当然だ。
「君から色々と君の事を聞いておいてよかったよ。あれがなければ俺が君の知り合いだと信じさせることは難しかっただろうからね」
そう言って仁さんは苦笑する。
う、う~ん。私が意識を失ってる間にそんなことがあったとは……。
まあ、仮に通報されてたとしても、私が目を覚ませばすぐに誤解は解けてただろうけど、それでも色々と面倒な事になりそうだったからその状況が回避できてよかった。
「なんか……本当にごめんなさい……仁さんには色々と不必要な苦労までかけちゃって……」
私は改めて仁さんに頭を下げる。すると仁さんは笑いながら言った。
「謝ることじゃないさ。むしろ俺は安心したよ、君にはあんなに君の事を想ってくれる大事な友達がいるってことがわかったからね」
「はい! 智子は私の一番の親友です……!」
私は満面の笑みで仁さんにそう答える。
「さて、とりあえずこれで君が意識を失ってから何があったのかは理解できたかな?」
「はい、ありがとうございます」
仁さんの言葉に私はペコリと頭を下げる。
「他に何か聞きたいことはあるかい?」
さらに尋ねてくる仁さんに私は少し考えてからハッと気づき慌てて尋ねる。
「ル、ルビィは!? ルビィは大丈夫だったんですか!?」
私が意識を失う前怪人によって地面に叩きつけられ動きを止めたルビィ、彼のことが心配になり私は思わず仁さんに尋ねる。
「ああ、ルビィも無事だよ。ただ、叩きつけられた影響で少しだけ機能障害を起こしててね、今は俺の宇宙船の中で修理と強化改造を施させてもらってるよ。まあ、明日の朝には終わるだろうさ」
仁さんはそう言って私の頭を優しく撫でてくれた。ルビィが無事だと知り私はホッと胸をなでおろす。
だけど、それはそれとして強化改造という素敵な響きの単語に私は思わず目を輝かせてしまう。
「強化改造!! ということはルビィは強くなるんですか!?」
思わず身を乗り出す私を仁さんは苦笑しながらやんわりと押しとどめる。
「みうちゃん、落ち着いて落ち着いて。強化改造って言ってもそこまで大したものじゃないんだ。ただ、少なくとも今後は並大抵の事じゃ機能障害なんて起こさないようになるってことさ」
「つまり、頑丈になって壊れにくくなるってことですか?」
私の質問に仁さんは頷く。
「まあ、簡単に言えばそういうことだね」
そっかぁ、よかったぁ、これでルビィが死んじゃう心配もグッと低くなるよね!
これで気になることはなくなった。……ただ一つの事だけを除いて……。
「あ、あの……もう一つだけ、いいですか……?」
私はおずおずと口を開く、そんな私の様子を見て仁さんは私が何を聞きたいのか察したようだった。
「ヤーバンの事だね」
ゾクン! とその名前を聞いただけで私の全身に悪寒が走った。
「わ、私を助けてくれたってことは、ヤーバンを倒したって事ですよね?」
私は仁さんに尋ねる。すると彼は少し難しそうな顔をして言った。
「いや、逃がしてしまった。というより奴は俺の姿を見ただけで君を解放して去って行ったんだ」
……え? 逃げた……? あのヤーバンが……? 私が手も足も出せずにやられたあのヤーバンが!? 仁さん――正確には彼の変身した宇宙戦士シュナイダーの姿を見ただけで!?
私は唖然として言葉を失う。
「ヤーバンという男、戦闘狂のようだが同時に強かさも兼ね備えている。準備もなしに上級宇宙戦士とやり合うのは不利と判断したんだろう。まあ、賢明な判断だね」
仁さんは苦笑しながらそう言った。
「そう……ですか……」
私は歯切れの悪い返事をしてしまう。あのヤーバンが逃げたという事実にまだ驚きを隠せずにいた。
そんな私の様子を伺っていた仁さんだったけど、ふと表情を真剣な物に変えた。
「それにしても危ないところだった、俺が助けに入るのがもう少し遅かったら、君はヤーバンにやられて死んでいただろう」
ズキン! その言葉を聞いた瞬間私の頭の中にあの時の情景がフラッシュバックする。
あらぬ方向に折れ曲がった腕……額から流れ出る大量の血……怒りに満ちた表情で私の足を掴んだ時の奴の顔……二度と元には戻らないんじゃないかと思うほどに粉々に砕けた私の足……。
恐怖が、痛みが、絶望感が私の全身を包み込み冷や汗が吹き出してくる……。
「……う……!」
込み上げてきたモノに口元を押さえ私は慌ててベンチの横のゴミ箱に向かう。
そして、胃の中の物を吐き出してしまう。
「げほっ! うぇ……! おえ……!!」
ビチャビチャと音を立ててゴミ箱の中に私の吐瀉物が落ちていく。
「みうちゃん、大丈夫だ。ほら、怖くない、怖くない……」
そう言いながら仁さんは私の背中を優しくさする。
「う、うぐぅ……ひぐ……! ぐす……!」
だけど、そんな彼のやさしさに触れてもなお私の中の恐怖は薄れることはなかった。
「わ、私……調子に乗って……自分は本当に正義のヒーローに……なれるんだって……思って……!」
私は仁さんに背中を擦られながら、涙声で必死に言葉を紡ぐ。
「し、知ってたはずなのに……ギーガーク帝国は本当にとても恐ろしい奴らなんだって……その気になれば、ひ、人を殺すことだって、地球を滅亡させることも難なく行えてしまえるような……そんな奴らなんだって……!」
そうだ。私は知っていたはずだったのに……! いつの間にかあいつらの事をテレビやゲームの悪役……正義のヒーローの引き立て役のお笑い集団か何かだと思い込んでいたんだ……あいつらは、そんな生易しい存在じゃない。本当に……心の底から恐ろしい奴らなんだ……! 私の目から大粒の涙が零れ落ちる。それは恐怖と後悔の涙だった。
「……」
仁さんは黙って私の独白を聞いている。
「いつの間にか……ゲームになってたんです……ごっこ遊びに変わってたんです……! 誰かのために戦ってる自分に酔って……最初の気持ちを……本当に望んでいたことを忘れて……ただ、ヒーローごっこがしたかっただけの子供になってたんです……!」
仁さんは黙って私の背中を擦り続ける。その手の温もりが私の心を落ち着かせてくれる。
「ごめん……なさい……ごめんな……さい……。最初に仁さんに言われたのに……宇宙戦士になれば苦しい思いも辛い思いもするかもしれないよって……死ぬ可能性だってあるんだよって……なのに、私……バカだから……!」
私は仁さんの胸に顔を埋め泣き続ける。その間もずっと背中を擦ってくれていた。
「君は馬鹿なんかじゃないさ……。馬鹿なのは俺の方だ……」
「え?」
仁さんが口にした言葉に私はハッと顔を上げ彼の顔を見る。その顔には深い悔恨と自責の念が浮かんでいた。
「君が戦いには向いてない、戦わせるべき存在じゃないって、君の適正値が0を示した時点で分かっていたはずなのに……俺は君を宇宙戦士に任命して地球防衛の任を負わせてしまった……」
「それは……私が強引にお願いしたからで……」
半ば泣き落としのような事までして私は仁さんに宇宙戦士にしてもらったのだ。だから、それは私の責任であって仁さんは悪くないのに……。
しかし、私の言葉に仁さんは首を振る。
「違う。そうだったとしても結局俺が決めたことだ。俺はいくらでも突っぱねられたはずだったんだ……。だけど、俺は君の言葉に甘えて君の事を戦わせてしまった……」
「仁さん……」
「それに、それだけじゃない……。本来なら俺は先輩として君を導かなければいけなかったはずなのに、宇宙での戦いが忙しいことを言い訳にしてろくにアドバイスも指導もせず、君一人に地球を守らせていた……。任命責任を放棄していたも同然だよ。正直俺も勘違いしていたんだ、君は稀代の天才戦士で俺やS.P.Oのサポートすら必要ないんじゃないかって……」
仁さんは自嘲するようにそう言った。
「だけど違った……いや、仮に君が天才戦士だったとしても、戦い続けていればいずれこうなることは予想出来ていた、今回の事は運が悪かったとかたまたま起こったことではなく、起こるべくして起こった事態だったんだ。だが俺のせいで君は覚悟すらなく“今日”を迎えてしまった。その結果がこのザマだ……!」
そう言って仁さんは私を強く抱き寄せる。その体は微かに震えていた……。
「みうちゃん、君は強い子だ……勇敢で賢くて可愛らしい女の子だ……。でも、まだ子供なんだ! それなのにこんな危険な戦いに巻き込んでしまった……! 本当にすまない……」
「そ、そんなことないです! 私は自分で望んでこの道を選んだんです! それに、仁さんが私を放置していたとも思ってません! 実際仁さんは私の正体がバレそうになった時アドバイスをくれたり、今だってこうして私を助けに駆けつけてくれました! 仁さんは私の事をちゃんと考えてくれていましたよ!」
私は必死になってそう叫ぶ。すると、仁さんの顔に少しだけ笑みが戻る。
「ありがとう……みうちゃん……」
そう言うと仁さんは表情を真剣なものに戻し、私を解放すると両肩にポンと手をのせる。
「だが、今回の事で俺は自分の愚かさに気づかされた、だから決めた、俺はもう二度と君を危険な目には遭わせない。安心してくれ、地球に来ているギーガーク帝国の連中は俺が倒す……。ヤーバンもレガーンもな」
「え?」
仁さんの発した言葉に私は一瞬耳を疑う。でも、その真剣な眼差しを見てすぐにその言葉が本気なのだと理解する。
「上の命令に逆らってでも俺は地球にとどまり、奴らの基地の場所を特定し、そこを叩く。そうすればしばらくは地球の安全は保障されるはずだ、後は奴らが再び戦力を整え地球に戦力を送り込む前に本星を潰す」
そう言って仁さんは私の頭を優しく撫でる。
「だから、みうちゃんはもう戦う必要はない。すべてを任せ普通の女の子に戻るんだ。いいね?」
そう言って仁さんは私に微笑みかける。
仁さんの言葉は私の中にスッと入ってきた。
そうか……そうだよね、それが一番いいんだよね……?
どうせ最初から無理だったんだ……、こんな落ちこぼれで怖がりのドジっ子がヒーローとして地球を守るだなんて……またヤーバンと戦う事を想像するだけで怖いし……。
仁さんの言う通り私は普通の生活に戻るべきなんだと思う。
……でも、本当にそれでいいのかな……?
ギーガーク帝国という宇宙の侵略者の存在を知って、戦っている人が、傷ついている人たちがいるのに、私はそれを見ない振りをして普通の生活に戻るの……?
それで本当にいいのだろうか……?
「みうちゃん?」
私が考え込んでいると仁さんが心配そうに声をかけてきた。
「あ、ごめんなさい……! ぼーっと、してて……」
「みうちゃん、気持ちはわかる……。君は優しい子で正義感も強い、すべてを忘れ平和な日常を送るなんて本当は嫌なはずだ。だけど、君はまた戦えるのかい? 今回の事で戦いの恐ろしさを知り、恐怖を抱いたはずだ。また、あんな思いをしたいのかい……?」
「それは……」
仁さんの指摘に私は言葉を詰まらせる。正直、私だって戦いたくなんかない! もう怖い思いはしたくない……!
「だから、俺に任せるんだ。大丈夫だ、君が考えている以上に俺は強い、地球防衛なんて余裕さ。だから……」
それは甘い誘惑だった。仁さんの言葉は今の私にはとても魅力的で、私が心のどこかで望んでいる事を言い当てるものだった。
「わ、私は……」
ピーピーピー!!
その時、私の言葉を遮るようにけたたましい警告音が鳴り響いた。
私がハッと音の発信源を探すと、それは仁さんの左腕に巻かれたSPチェンジャーから発せられていた。
「警戒信号……? これは……地球に向かって飛来する物体があるな、おそらくギーガーク帝国の攻撃機……俺を狙ってきたのかもしれん」
「え? そ、それって……」
「大丈夫だ、心配することはない。みうちゃん、君はここで待っていてくれ、俺はそいつを撃退してくる。さっきの話の続きはその後ですることにしよう」
そう言うと仁さんは駆け出す、そして少し離れた場所に立ち、誰かの視線がないことを確認すると全身を使い複雑なポーズを決める!
「Start Up! シュナイダー!!」
仁さんが叫んだ瞬間、一瞬の輝きと共にその姿が変わる……!
精悍な美青年の姿から、青いプロテクターに包まれた戦士の姿へと……!!
宇宙戦士の変身所要時間は僅か0.001秒にしか過ぎない。
変身中には意識が引き伸ばされているので、自分ではあまり実感がないけどこうして他人が変身する様子を見ていると本当に一瞬なんだと改めて実感させられる……。
そして変身が終わると同時に、仁さん――いや、シュナイダーさんは空へと飛び立っていく……。
シュナイダーさんが負けることはないだろう。これでいいんだ……こうやって今後も彼に戦いを任せ、私は無力なヒロインのごとくヒーローの戦いを見守っていればいいんだ……。
そう、これでいいんだ……これで……。
私は自分にそう言い聞かせながら再びベンチに腰を下ろすのだった。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、評価やブックマーク、感想お願いします。




