第52話 謎の超絶イケメンお兄さん登場です!
「死ね……シャイニーフェニックス……!!」
振り上げられた腕が私の身体を周囲の景色ごと真っ二つに切り裂く……。
真っ赤に染まる世界の中を私は下へ下へと落ちて行く……。
嫌だよ……こんなのってないよ……。私、まだ死にたくないよ……!
だけど、もがいてももがいても私は落下を止められなかった……。
私の意識は徐々に薄れていく……。
もう、ダメなのかな……? そんな絶望感に支配されそうになったその時――
ふわっと誰かの手が私の身体を優しく受け止めた。
「大丈夫、怖くないよ……。君の事は俺が守る、必ず……」
優しい言葉と共に、そっと頭に置かれる温かい手の感触に、さっきまで私の中に渦巻いていた恐怖心は霧散していた。
これは……うんと小さいころ、ヒーローショーで私を助けてくれた思い出のヒーローさんがかけてくれた言葉……?
でも、そんなことあるわけない……あの人は思い出の中の人だもん……。
だけど、幻でも、妄想でも、恐怖心を抱えたままで死ぬことにならなくてよかった……。
私はそっと目を閉じ、意識を手放した――
ジージー……ミンミンミン……。
……うるさいなぁ……私、死んだのに、あの世でも蝉の声が聞こえるの……?
ミンミン……ジリジリ……。
うるさいなぁ、もう……!
「うるさぁい!!」
私はカッと目を見開きそう叫びながら、勢いよく身体を起こす。
そして、そのままキョロキョロと辺りを見渡した。
そこは、どこかの屋外のようだった、周囲に見えるのは青々とした木々と、そこから生い茂った草むら……。
そして、目を見開きこちらを見ている眼鏡の女の子……って、もしかして……。
「みう、目が覚めたの? いきなり大声出すからビックリしたよ」
そう呆れたような声を上げながら、手に持った濡れたハンカチを私の額にそっと乗せてくれるのは、間違いなく私の親友森野智子だった。
「と、智子……? なんでここに? もしかして智子も死んじゃったの? ていうかここはどこ?」
様々な疑問でパニックにる私に、智子は私の横に座りつつ苦笑しながらこう言った。
「ちょっとちょっと落ち着きなさいってば。ほら、深呼吸して、すーはーって」
智子に言われ、私は言われるがままに深呼吸をする。
そうしながら、周囲を見回していたらここがどこだかという事だけはわかった。
ここは駅前商店街近くの小さな公園だ、ヤーバンとの戦いの前変身する際トイレを借りた場所でもある。
どうやら私はそこの片隅のベンチの上に寝かされていたらしい。
しかし、場所を把握したことでさらに私の頭の中は疑問符で埋め尽くされてしまった。
どうしてここに? さっきまで駅前商店街でヤーバンと戦ってたはずだったのに……。
そうだ! ヤーバンはどうなったんだろう? というか私はなんで生きてるんだろう? 殺される寸前だったはずなのに……。
それに、智子がみうって呼んで私だと認識してるということは、私、いつの間にか変身解除したの? ダメだ、頭がこんがらがって全然状況が理解できない……。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「……ごめん、ダメみたい……何が何だかもう頭の中が増えるわかめちゃん状態だよ……」
智子に尋ねられた私はそう答える。
すると、智子は苦笑しながらこう言った。
「まあ、仕方ないわね。あたしだって色々と起こり過ぎてパニックになりかけたんだから。シャイニーフェニックスは負けちゃうし、ほんととんでもない一日だわ」
ハッと私は智子の言葉を聞いて顔を上げる。
“シャイニーフェニックスは負けちゃうし”彼女は今、確かにそう言った。
そっか、やっぱり私は負けたんだ……。
そうだよね……あの状況じゃ仕方ないよね……。
でも、だとしたら私はどうして生きてるの?
「ね、ねぇ、智子……」
問いかけようとして私は少し口籠ってしまう。智子に色々聞きたいことがある。だけど、彼女は私がシャイニーフェニックスだと知らない。
というか今もまだ知らないということは私の変身が解けたのは智子の前じゃないということに……ってそれはさておき、そんな事情もあって、起こったことについて上手く彼女から聞き出す言葉を見つけられないでいるのだ。
ああ、私がシャイニーフェニックスだと知ってて、何があったのかをズバッと教えてくれる人でもいれなぁ……。
……そう言えばルビィはどうしたんだろう? 私が生きてるなら彼もきっと生きててくれるはずだと信じたいけど……。
そんな不安に苛まれながらも、私はなんとか智子から状況を聞きだすべく言葉を選びながら口を開こうとしたその時。
「お待たせ。冷たいものを買って来たよ……おや?」
横の方から聞こえてきた声に、私はそちらへ顔を向ける。
わあ、カッコいい……。
私は思わずそう声を上げそうになった。
そこに立っていたのは、眉目秀麗という四字熟語がぴったりな、黒髪のイケメンだった。
短く切りそろえた清潔感の溢れる髪に、優しげな瞳と整った顔立ち。
すらっとしていて細身、だけどしっかりと筋肉の付いた、アスリートのような体型。
白いTシャツの上に青いジャケットを羽織り、黒いジーンズというシンプルながらにスタイリッシュな格好が、その魅力をより一層引き立てていた。
年齢は、多分20代中盤くらいかな? 私より一回り以上は年上だろう。
なんとなくだけど、学生ではなく、社会人っぽい気がする。
あくまでもただの印象だけど、纏う雰囲気が成熟した大人って感じで、物腰も落ち着いているからだ。
手にはコンビニの袋を下げており、言葉通りその中には冷たいもの――多分ジュースとかアイスが入ってるようだ。
それにしても、今のセリフ、まるで私たちに向けて言ったみたいだったけど……。
「あっ、伊勢さん! ほら、見てくださいよみうが目を覚ましたんですよ!」
私がそんな疑問を感じた刹那、智子が嬉しそうにそう言って、ベンチから立ち上がり彼の方へ駆けていく。
「ああ、そのようだね。よかった、これで一安心だよ」
伊勢と呼ばれたイケメンお兄さんは智子にそう返すと、こちらに視線を移して優しく微笑んでくれる。
ドキッ……。
その笑顔に私は思わず赤面してしまう。
だ、ダメだ……カッコいいよぉ……。
私は心の中でそう呟き俯く。
だって、こんなカッコいい人に笑いかけられたら誰だってドキドキしちゃうに決まってるよ!
って、違う違う! それよりも大事なことがある! この人何者!? ていうか智子の知り合い!? 智子ったらいつの間にどこでこんな超絶イケメンお兄さんと知り合ったのよ!?
そんな感じで次々と疑問が浮かんでくる。
その答えを探るべく、私は混乱した頭で、なんとか必死に言葉を絞り出し智子にこう尋ねた。
「ねぇ、智子……この人は一体……?」
私がそう尋ねると、智子は、「へ?」と首を傾げる。
「みうの知り合いでしょ? 何言ってるの? <伊勢 仁>さんよ、みうも知ってるでしょ?」
そして、続けて言うと不思議そうに私を見る。
え、えぇ? 私の知り合い!?
この超絶イケメンお兄さんと私が知り合い!? そんな馬鹿な! 私は今まで一度だってこんなカッコいい人と知り合った記憶はない。
というか、こんなスゴいイケメン、一度見たら忘れるはずがないよ!
でも智子は私がこの人と知り合いだって言うし……。
私は思わずまじまじと目の前のイケメンお兄さんを見つめてしまう。
すると彼は私の視線に気づき、再びにっこりと微笑んでくれた。
その瞬間、イケメンに見つめられた胸の高鳴りというのとはまた少しだけ違う、何かを感じる。
この優しげな瞳、確かに私は知ってる気がする……。
それに、さっき聞いた声もどことなく聞いたことあるような……。
だけど、どうしても記憶の奥底からそれを引っ張り出すことができない……。
私が首をひねっていると、イケメンお兄さんこと伊勢仁さんは智子に向かって言う。
「智子ちゃん、俺はみうちゃんと少し話があるんだけど、ちょっと席を外してもらってもいいかな?」
えっ!? いきなり謎のイケメンお兄さんと二人きりにされるの!?
ちょっと待ってよ! どうすればいいのよこの状況!?
そんな私の戸惑いと心の中の叫びが伝わったのか、智子は伊勢さんに顔を向けると幾分表情を険しくしてこう言った。
「あ、あの伊勢さん……。なんかみうかなり戸惑ってるみたいなんですけど、あなた本当にみうの知り合いなんですか? もしかして、知り合いを装ってみうと仲良くなろうとしている悪い人とかじゃ……」
智子が警戒した様子でそう言うと、伊勢さんは頭の後ろに片手をやりながら苦笑する。
「そんなんじゃないよ、俺は本当にみうちゃんの知り合いなんだ。みうちゃんはどうやら色々あって混乱してるようだ、みうちゃんと話させてもらえばすぐに誤解は解けるさ」
「でも、二人っきりにさせるのは……」
「話さえ聞かないでいてくれればいいんだ。心配なら俺たちの姿が見える場所から見てくれててもいい、俺が少しでも不審な動きをしたら、ほら、君のカバンについてる防犯ブザーをいつでも押せばいい」
そう言って伊勢さんは智子のカバンを指さす。
そして、彼はそのまま智子の肩に手を置くと彼女の瞳を真正面から見据えて優しく微笑んだ。
「俺を信じて欲しい。君の大事な親友を傷つけるようなことは絶対にしないから。約束する」
「あ、あ、あひ……」
イケメンオーラ全開の彼の笑顔に智子の顔が一気に赤くなる。そして彼女は慌てた様子で叫んだ。
「わ、わかりました! み、みう、もし何か変な事でもされそうなったらすぐに大声出しなさいよ! いいわね!」
智子はそう言い残すと、顔を真っ赤にしたまま走り去ってしまった。
す、凄い……智子が一瞬にして骨抜きにされちゃった……。
私は、去っていく智子の後ろ姿を見ながら呆然とする。
……そう言えば言ってたっけ、智子って年上のザ・大人って感じのイケメンが理想だって……。
この伊勢さんはまさにその理想のタイプのど真ん中って感じだもんね……って、私も彼女のこと言えないけど……。
だってこの人、私の理想のヒーローそのまんまなんだもん!
容姿にばかり注目しがちだけど、さっきから私の胸を熱くさせているのはこの人が纏うオーラとでも呼ぶべき何かだ。
まるでこの人の側にいるだけで、私の中の何かが満たされていくような……そんな不思議な感覚がこの伊勢というイケメンお兄さんからは感じられるのだ。
なんて、しみじみ思ってる場合じゃないよ! 智子が行ってしまったのは大問題だ。
優し気な、だけど謎だらけの超絶イケメンお兄さんと二人きりにされて、私一体どうすればいいの!?
「さてと、やっと二人っきりになれたね……」
私の混乱を知ってか知らずか伊勢さんは、言いながら私の横に腰をかける。
そして、私に向かって優しげな笑みを浮かべた。
あ、あううう、近い、近いよぉぉぉ!!
ヤーバンとの戦いとは別の意味で私、大ピンチかも……。
そんな事を考えながら、私の身体は初夏の日差しの暑さとは違う理由でどんどん火照っていってしまうのだった――……。
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