第51話 砕ける心…… 私、勘違いしてました……
「どうよ! 私の最強技の味は!! 偉そうなことを言ってたけど、やっぱりわ……た……」
私は得意げにそう叫んだんだけど、途中から言葉が出なくなってしまった。
何故なら、爆炎が晴れて現れたヤーバンの姿が全くの無傷だったからだ……。
マントは燃え尽き、身体のところどこから煙を立ち昇らせているものの、肉体そのものには一欠けらのダメージも見受けられない……。
な……なんで!? 私の最強技は間違いなく直撃したはずなのに!! 狼狽え、動揺のあまり私は無意識にその身を震わせる。
なんで……!? なんで効かないの!? そんな事あるはずないのに……。
シャイニーファイナルエクスプロージョンは、無敵の技のはずなのに……。
頭の中ではひたすら“なんで?”“どうして?”が繰り返される。
そんな私を気にすることもなくヤーバンは、「フム」と顎に手をやりながら鼻を鳴らす。
「なかなかの技だ、小娘が繰り出したとは思えん。だが、あれが最強技では話にならんな」
「そ、そんな……」
私はショックを隠しきれなかった。
無傷に見えるのは何かの間違いで、本当はダメージを受けているんだという最後の希望すら打ち砕かれたのだから。
私の……最強の技が破られるなんて……!
「残念だ……。実に残念だ……。久しぶりに楽しい戦いが出来ると思い喜び勇んでやって来たというのに……貴様には失望させられた。ここまで弱いとは……」
ヤーバンは心底残念そうに首を振ると、私をギロリと睨みつける。
「う、うあ……」
思わず後ずさる私だったけど、なんとか踏みとどまって拳を構える。
「ま、まだ……勝負はついてない!!」
そう自分に言い聞かせるように叫ぶ私をヤーバンは鼻で笑う。
「その胆力だけは褒めてやろう。しかし、それだけではな……」
そして、一旦言葉を切ると、真正面から私を見据える。
「さてと、そろそろこちらからも攻撃させてもらおうか」
そう言って、ヤーバンは拳を握りしめた。
来る……! 私は全身に力を込め攻撃に備える!
……消えた……? 思った瞬間凄まじい衝撃が私を襲う!
「きゃああああああああ!?」
私は悲鳴を上げて後ろに吹っ飛ばされ、ドガーン! と、お店の壁に激突しそのまま壁を突き破り外壁の破片とともに店内に倒れ込む。
「うう……ぐ……」
あまりの衝撃に私は上手く立ち上がることができない。
そんな私を見てヤーバンはフンと鼻で笑う。
「どうした? もう終わりか?」
そう言ってゆっくりと近づいて来るヤーバン。私はギリッと歯を軋ませる。
「い、一撃当てただけでいい気にならないで!!」
それでも気力を振り絞り、身を起こした私は技を繰り出すべく片腕を振りかざす! だけど……そんな私の目に信じられないものが飛び込んで来る。
あ、あれ……おかしいな。私、幻でも見てるのかな……? なんか、右腕が途中から変な方向に曲がってぷらんぷらんと揺れてるんですけど……。
こ、これって……まさか……?
「いぎゃあああああああああ!?」
折れた……そう認識した瞬間に激痛が走り私は悲鳴を上げる。
う、腕が……私の腕がぁ……!
私の右腕は、肘の関節があらぬ方向に曲がってしまっていた。
ヤーバンの一撃はガードを突き抜け、バリアも突き抜けマッチ棒でも折るみたいにあっさりと私の腕をへし折ったのだ。
幸か不幸か、今まで私は平穏無事な人生を送って来たので、骨が折れるなんて経験はこれが初めてだった。
知識としては知ってたけど、まさか……まさか……こんなにも痛いものだったなんて……。
ハッキリ言って私は痛みに対する耐性はかなり低いと思う。
なにしろ変身前の香取みうは運動オンチかつ華奢で小柄と同年代の女の子と較べても身体が弱い方なのだ。
さらに自分で言うのもなんだけど、周囲からは結構大事にされてきたので怪我とかとは無縁な生活を送ってきた。
シャイニーフェニックスに変身してるときは、SPスーツによる身体能力の強化に加え、常に全身を覆ってくれているバリアがダメージを軽減してるからこそ激しい戦闘に耐えられるのだ。
そのバリアがある限り、多少の怪我はあっても骨折とかはあり得なかった。
……そう、思ってた……だから油断もしてた……。
そんな私が腕の骨を砕かれてしまったのだ、その痛みと精神的ショックたるやまさに筆舌に尽くし難かった。
「い、いだい……いだいよぉ……」
私は激痛にポロポロと涙をこぼしながら地面をのたうち回る。
痛い! 腕が痛いよぉ!!
腕の痛みと精神的苦痛の中で私を襲うのは激しい後悔。考えてみれば当たり前だったんだ……バリアはあくまでダメージを軽減してるだけ。
それ以上の威力の攻撃を受ければ突き破られ、出血だってするし骨だって折れる……。
勘違いしてたんだ、私、自分は無敵のスーパーヒーローなんだって……。
でも、現実は違った……。私はスーツの力でちょっと強くなっただけのただの中学一年の落ちこぼれの女の子なんだ。
痛いよぉ、怖いよ~……! 私は泣きじゃくりながら痛みに悶える。
「ふっふっふ、なかなか良い声で鳴くではないか。だが、まだまだこれからだぞ」
ヤーバンは苦しむ私を見てそう笑うと、さらに攻撃を加えてくる!
「ぎゃああ!!」
蹴り飛ばされ私は絶叫を上げて地面を転がる。
「う、嘘だろ……シャイニーフェニックスがあんな簡単に腕を折られてしまうなんて……」
呻くように言うルビィの声が聞こえてくる。
ル、ルビィ……助けて……。あなたならヒールビームでこの腕治せるでしょ……。
私は声なき声でルビィに助けを求める。
その想いが通じたのか、ルビィはハッとした様子で私に向けて回復光線を放つ体勢に入る。
「おっと、させないわよ!」
しかし、そんなルビィの身体が何者かに掴まれた。
「お、お前は!?」
「これは、ヤーバン様とシャイニーフェニックスの戦いなの、邪魔はさせないわ」
それは気絶していたあのアオ・イットリーとかいう怪人だった。
怪人はルビィを掴んだ腕を大きく振り上げ、彼を地面に叩きつける。
「ぶきゅ……」
そんな声と共に、ルビィの動きが止まる……。
まさか、死んじゃった……の……?
いや、そんなわけない!! ルビィだって立派なサポートアニマル。あの程度で死ぬわけはない!! 意識を失ってしまっただけに決まってるよ……!
だけど、ルビィの事を気にしている場合じゃなかった、今は私自身も絶体絶命のピンチなんだから!
「さあ、ヤーバン様、これで邪魔は入りません! 思う存分戦ってください!」
アオ・イットリーはルビィを放り投げると、意気揚々とそんな声を上げる。
「フム、別にそいつに回復させてやっても良かったのだが……。どうせ腕が治ったところで何も出来ん、逆に苦痛の時間が長引くだけだろうからな」
ヤーバンはつまらなそうに言うと、再度私に向けて拳を振りかざす。
「うぐっ……」
私は呻くとなんとか残った左腕でヤーバンの拳をガードする。
今度は受け止めるのではなく、横から弾く形で拳を逸らす。
「ほう、学習能力はあるようだな」
「あ、甘く見ないで……私は、私は……正義のスーパーヒロインシャイニーフェニックス……そう簡単には、やられないんだから……」
私はそう言うとフラフラと立ち上がる。
まだ腕はジンジン痛むけど、慣れというのは恐ろしいものでこの程度の痛みなら耐えられるようになってきた。
「フェ、フェニックスヒーリング……」
私は試しに自分の回復技で骨折を治そうと試みる。しかし、発動した技は私の全身の傷の何割かを癒すだけに留まってしまう。
エネルギーが、足りない……。体力も……。
フェニックスヒーリングはその特性上自分に使っても効果が薄い。
エネルギーが大量にある状態ならともかく、ヤーバンへの攻撃と防御でさっきからエネルギーの消耗が激しいのだ。
「強がって見せても、回復すら出来んようでは勝ち目はないぞ。さて、では再び行かせてもらおう」
ヤーバンは私に向けて拳を構えながらそう宣言する。
……また、消えた……!
次の瞬間、私はヤーバンに頭を鷲掴みにされ、地面に叩きつけられる。
「ぐはっ!」
そして、ヤーバンはそのまま私の頭を地面に押し付けその状態でぐりぐりと腕を動かし始めた……。
痛い! 頭が割れるように痛い……! ヤーバンは私の顔面を地面に擦り付けるようにして頭を掴んでいるのだ。
まるで、私の頭をトマトみたいに潰そうとしているみたい……。
そんなの嫌だよ……! 止めて! もう許して! 私は痛みから逃れようと必死で暴れる。
「シャイニーフェニックスよ、貴様は俺を失望させた……。わかるか? この辺境の地で久方ぶりに楽しく戦えそうな相手を見つけたと感じた時の俺の喜びが、そしてそれが裏切られたときの失望が!」
知らない……勝手にそんなこと言われても困るよぉ!! 私は戦いなんて望んでない!! 痛いのも怖いのも嫌なんだよ……!!
ただ、ただ……みんなのために、地球のために、平和のために頑張って来ただけで……。
そこまで考えた時に私はハッと気づく。
そうだ……そうだった、はずなのに……。いつの間にか、ヒーローとしてみんなに認めてもらえることが嬉しくて、私は……自分から、怪人の出現と戦いを……求めるようになってたんだ……!
そっか……。だから、私今こんなに苦しい目に遭ってるんだ……。忘れちゃってたから、大事な気持ちを……だから、罰が当たったんだ……。
私は今になってようやく自分の愚かさに気づく。
私は今までゲームとかヒーローごっことか、そんなのをやってきたことと同じ感覚で戦いを楽しんでいたんだ。
それが、どれだけ危険なことかも考えずに……。
そして今、そのツケを払わされているのだということを……! 私はヤーバンに頭を掴まれながら、自分の浅はかさを痛感していた。
「シャイニーフェニックス……しっかりして、負けないでーーーー!!」
「負けない、よね……ヒーローだもの、これはただのピンチの演出だよね……?」
「お願い、またいつもみたいに私たちを救ってくれるんだよね!?」
そんな声が耳に届く。戦いを見守るみんなの声だ……。
だけど、私の身体には力なんてちっとも湧いてこない……。
特撮なら、アニメなら、漫画なら、映画なら、ゲームなら、みんなカッコよく立ち上がれるのに……。
あは……まだこんなこと考えてる……ダメだなぁ、私……もうヒーローごっこに興じる時間は終わりをつげてるのに……。
意思はあるんだ、立ち上がりたいって、負けたくないって……。ヤーバンに勝ちたいって。
だけど、身体が全然言うことをきいてくれないんだ……。
「ほう、もう抵抗は終わりか?」
ヤーバンが私を見下ろしてそう呟くと、私の頭を掴んだままで腕を持ち上げる。
私はヤーバンの腕一本で地面から持ち上げられ、まるで人形のようにブラブラと力なく揺れる。
「俺を失望させた罰だ、さらなる痛みに苛まれるがいい」
ヤーバンはそう呟くと、空いている手で私の左足を掴んだ。そしてそれを……
バキィ! ボキィ! そんな鈍い音と共に圧し折った……! あ、あ、ああ……
私はあまりの痛みに絶叫することすら出来ないまま、ただただ涙を流していた。
右腕と左足が折れ砕け、さっき地面に叩きつけられたことで、頭からは大出血……
ドクドクと流れ出る血が私の身体を伝い、ポタポタと地面に落ちて染みを作っていく。
見物人からひいっと恐怖に引き攣った悲鳴が上がる。
きっと私の姿はとんでもないことになっているんだろう。
こんなのスプラッタ映画でもなかなか見れないよ……。
どこが正義のスーパーヒロインなんだろう? こんな姿、とてもじゃないけど人に見せられない……。
だけど、今の私にはそれを気にする余裕も全くなかった……。
だって、もう身体中が痛すぎて意識を保つのもやっとなんだもん……。
「ではそろそろ終わりにするか。このまま頭を潰せば貴様はもう終わりだ」
ヤーバンはそう言うと、手に力を込める。
「う、あ、あああああああ……!」
頭部を襲う激しい痛みに私の口から呻き声が漏れ出る。
頭蓋骨がミシミシと軋み、今にも砕けそうだ……。
「やめてえええええええ!!」
「いやああああああ!!」
「シャイニーフェニックスを、あたしたちのヒーローを殺さないでぇぇぇぇぇ!!」
そんな悲痛な叫びが周囲にこだまする。
最後のは智子の声だ……。
智子、ごめん……。私、これまでみたい……。
私はただ涙を流しながら、心の中で親友に謝罪の言葉を送った……。
パパ……ママ……今頃何してるかな……? ってお仕事だよね……。
二人とも家族のために一生懸命働いてくれてるんだもん……。
だけど、私がこんな目に遭ってるなんて、きっと想像すらしてないんだろうな……。
一人娘が知らない間に死んじゃったなんて知ったら、パパとママどんな顔するかな?
きっと泣くんだろうな……。それも大泣きしちゃうんだろうな……。
翔くんは何してるかな? まだ寝てたりして? 流石にそれはないか……。
翔くんもきっと泣いてくれるよね……。意地悪なところもあるけど、本当はとっても優しい男の子だもんね……。
ルビィ……ルビィは無事なのかな? 動かなくなったのはただの気絶だって信じたいけど……。
でも、もしも彼も死んじゃってたら、あの世とかで会えるのかな……?
そんなふうに、薄れゆく意識の中で私の頭は様々な想いを巡らせていた。
「終わりだ!」
ヤーバンの声が響き、私の頭を握る手にさらに力がこもる。
もう悲鳴すら出てこない、痛みも感じなくなってきた。
死……その一文字が私の頭の中に浮かぶ。
……嫌だよ、そんなの……私、まだ12年しか生きてないんだよ……。
やりたいことだっていっぱいあるのに……。恋もまだ知らないのに……。
そんな時、場違いにこの事態が起こる前、喫茶店で智子と話していた時の会話が頭をよぎる。
……最後に、一目だけでいいから、もう一度会いたかったな……。
そう思うと同時に私の意識は闇へと沈む……最後に視界の端に映った青い残像を残して……。
第8章
完
【次回予告】
智子「う、嘘でしょ……シャイニーフェニックスが負けちゃうなんて……! だけど、あたしは信じてる、シャイニーフェニックスはその名の通り、不死鳥のごとく何度でも甦るって……! だからお願い、もう一度立ち上がって! 次回、シャイニーフェニックス、『甦れ不死鳥!』絶対に読んでね!」
お読みいただきありがとうございました。
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