第47話 敵と遭遇するのは私の運命みたいです……
「さーて、それじゃ次はどこいこっかー!」
お会計を済ませ、喫茶店を後にした私は、さっきの事を頭の中から追い出そうと努めて明るく振る舞った。
「あんたどうしたの? なんか変よ、さっきから……」
言いながら智子は不審げな視線を向けてくる。まあわかるよ、そう言いたくなるのは。もし今の自分を他人の立場で見ていたら私もそう思うだろうから……。
でも今の私にはこうするしかないのだ、ちょっとでも気を抜くとシュナイダーさんの事を考えちゃうし……ってダメダメ! また頬が熱くなってくるじゃない!!
私はなんとかすべくキョロキョロと周囲に視線を巡らせる。するとちょうどいい場所の看板が目に入ってきた。
「なんでもないなんでもない! それより、次はあそこ行かない?」
そう言ってその場所へと向けた私の人差し指をたどって智子がそちらを見る。
「カラオケか……まあ悪くはないけど、どうせならもっと大人数の時に行きたかったわね……」
それは同感だけど今私に必要なのは、何かこう気分を一気に発散させるような行為だ、カラオケというのはまさにうってつけの施設と言えるだろう。
「二人でも十分楽しいよ。行こ行こ! ほら、私の美声聞かせてあげるからさ、いつもみたいに合いの手入れてよ!」
そう言う私の言葉に智子は、「えぇ~?」とあからさまに嫌そうな声を上げる。
「合いの手って、またいつものあれ? あんたがあの歌を歌うのは別にいいんだけどさ、あたしを付き合わせないで欲しいんだけど……」
「でも、あれは合いの手がないと意味ないんだよ。合いの手がないと単に『私は強い』とか『走る見事に』みたいになって面白さが半減しちゃうんだもん」
私の言ってる歌というのはスーパーヒーローが活躍するアニメの主題歌なのだけど、このヒーローは普段ドジで間抜けと私にとって非常に共感を覚えるキャラクターなので、数あるヒーローの中でも好き度合いがかなり高くカラオケでは毎回必ず歌うようにしているのだ。
それにこの主題歌の中のある一節は私にとってのヒーロー感を決定づける名言だったりするので、その部分を歌いたいという気持ちもあるのだ。
「う~ん、そんなに嫌なら諦めるけど……」
「全く、たかがカラオケでなんて顔してんのよ、そんな顔されたら付き合わないわけには行かないじゃない……あ~あ、あんたの親友やるのも楽じゃないわ~」
しょんぼりしてる私にそう言うと智子は肩をポンと叩きニヤッと笑ってみせた。
「智子……!」
私が瞳を輝かせて見つめると彼女はやれやれといった表情で軽く肩をすくめる。
「付き合ってあげるから、その代わり、あたしが歌う時にはあんたがちゃーんと合いの手入れるのよ?」
そう言って笑う彼女に、私は親指を立てて応えたのだった。
「ささ、それじゃ早速……」
そして、私がカラオケボックスに向けて歩き出そうとしたその時だ、喧騒にあふれる駅前商店街の人々のざわめきの中からこんな声が聞こえてきたのだ。
「おい、寿司屋でなんか揉め事だってよ。しかも騒いでるのはあのギーガーク帝国とか名乗ってる連中らしいぜ!」
え、ええええ? フラグ回収!? まさか本当にあいつらが出てくるなんて……。
私は昨夜のルビィとの会話を思い出し心の中で頭を抱えてしまう。
まったく、せっかくの智子との楽しい時間に水を差さないでよ……。
「みう、今の聞いた?」
「聞いたけど?」
尋ねてくる智子に私はげんなりとした表情で答えた。
「これは見に行かない手は、ないわね!」
まるで楽しいイベントが起こったかのように瞳を輝かせる智子に私は目を見開く。
「ちょ、ちょっと何言ってんの? ただの喧嘩でも危ないのに、相手は宇宙人だよ? もし巻き込まれでもしたら……」
「何言ってんのよ、あたしたちにはスーパーヒーローが付いてるじゃない!」
慌てて言う私にそう自信満々といった感じで智子は答える。
彼女の言うスーパーヒーローというのは多分シャイニーフェニックスの事だ……。
私がシャイニーフェニックスだとは知らない智子だけど、怪人が暴れてもシャイニーフェニックスが必ず駆けつけ助けてくれると信じているからこんな強気な事が言えるのだろう……。
そして、その認識は何も智子だけが持っているわけじゃなく、私が連勝続きなこともあり、紗印市の住人たちはみんなそう考えているのだ。
その証拠に、ギーガーク帝国の連中が出現し騒ぎを起こしているらしいというのに、街にはどこか弛緩した空気が流れているように感じる。
だけどそれは当のシャイニーフェニックスである私も同じだった。
(ま、いっか……。昨夜言った通り、瞬殺すれば楽しい一日に華を添えられるし……)
敵の出現という事態に対してこんなことを頭の中で考えていたほどに、私はすっかり油断しきっていたのだ。
「そうだね、それじゃ行ってみよう!」
私がそう答えると、智子はにっこり笑って駆け出し、私もその後を追って走り出したのだった――。
私と智子が寿司屋の前にたどり着いた時には、すでに店の周りには人だかりが出来ていた。
「あの……、一体何が……?」
私が近くにいた人に声をかけると、その人は困惑した様子でこう答えた。
「ああ、怪人と大将が揉めてるんだ。マナーの悪い行為で追い出されそうになった怪人が客を追い出すのかと言い出してね。挙句の果てには自分が怪人だからって差別するなとかなんとか……」
「何よそれは……。完全な勘違いクレーマーじゃない! 大体大将は最初は普通にお寿司を振るまってあげてたんでしょ? 差別どころか怪人であろうともちゃんとしてればちゃんと持てなくしてくれるいい店主だったって事じゃないの」
話を聞いた智子が目尻を吊り上げて怒り出す。
私は智子の言う通りだと思った。普通のお店だったら怪人が入ってきたら即追い出されても文句は言えない。
怪人という存在を考えれば、そんな対応をされても仕方ないはずなのだ。
だけど、寿司屋の大将はそれはせずに店に招き入れ、寿司を振舞ったのだ。そんな大将の善意を踏みにじるような事をしてるなんて、なんと最低な怪人なんだろう……。
そういう怪人には、きっつーいお仕置きをしてあげないといけない。
私は店の中を覗き込むべく入り口の方に歩き出した智子に向かって、「ちょっと待って!」と声を掛ける
「どうしたのみう? 中覗いてみましょうよ?」
「あ~、ごめん。私急にトイレに行きたくなっちゃった」
私の唐突な言葉に智子はガクッとずっこける仕草をする。
「ちょっとあんたねえ、こんな時に何言ってんのよ! もうっ!」
ズレた眼鏡を直しつつ、ツッコミを入れてくる智子に私は、「あはは」と苦笑を返す。
「ごめんごめん、でも緊張するとしたくなるって気持ち智子もわかるでしょ? とにかく私行ってくるからここで待っててよ」
そう言って手を振る私に、彼女は呆れた様子でため息をつくのだった――。
私がやって来たのは、さっきの場所からほど近い位置にある公衆トイレだった。
私はまず周囲を見回し誰もいないことを確かめると素早くトイレの中へと入る。
ちょっと前にこの作業を怠り正体がバレかけたので、今回は念入りに確認したのだ。
予想通りトイレの中にも誰もおらず静かな空間が広がっていた。
さて、私がここにやって来た理由はもちろん用を足すため……ではなく、人目に付かずに変身する為だ。
私は大きく息を吸い込むと、体全体を使って変身ポーズをキメる! そして大きな声で叫んだ!
「Start Up! シャイニーフェニックス!!」
変身は僅か0.001秒の一瞬で完了するが、私の意識はその一瞬の中で引き伸ばされてまるでスローモーションのように感じられるようになる。
纏わりつくように装着されていくSPスーツの感触を味わいながら、私はぼんやりと考えていた。
(それにしても、お寿司屋さんでクレーマーみたいなことやってるなんて、あいつら何を考えてるのかなぁ……)
いや、何も考えてないのかもしれない。
シュナイダーさん曰くあいつらは恐ろしい宇宙の侵略帝国の一員なのだけど、正直馬鹿っぽいところも多々あり、どこかお笑い集団のような印象もあるのだ。
だからこそ住民たちも怪人たちのことをあまり恐れていないのだろう。まあ、それはそれでいいことなのだけれどね――。
……まあいいやどうでも、どうせ弱い怪人だろうし。
今日もまたこのスーパーヒーローシャイニーフェニックスさんの華麗なる活躍の糧になってもらうとしよう!
私は気づいていなかった、いつの間にかギーガーク帝国との戦いをゲームか何かのように楽しんでしまっていることに。
そして、それはとても危険な兆候なんだという事に……。
「シャイニーフェニックス!」
変身を完了し、トイレから出てきた私に上空から声が掛かる。
ハッとして見上げると、深紅の翼を持つ鳥がバサバサッと翼をはためかせながら、私の眼前に舞い降りてきた。
「ルビィ……来てくれたんだね!」
そう、それは私の頼もしい相棒であるルビィだった。
「住人たちの会話から状況はわかったよ。それにしてもお寿司屋さんでクレーマー行為とかあいつら一体何考えてんだろうね?」
私の肩にちょこんととまったルビィの言葉に、私は肩をすくめながら答える。
「さあ……。あいつらの考えなんてわかるわけないし、きっと考えても無駄だと思うよ」
「それもそうだね……。ところでシャイニーフェニックス、今日はどうする? またみうちゃんの姿に変身して君の身代わり努めようか?」
尋ねてくるルビィに私は少しだけ考えてから、「今日はいいや」と返す。
「戦いはすぐ終わるだろうし、すでに香取みうとシャイニーフェニックスは別人だって認識はみんなの間には広まってるから、私が戦ってる間香取みうの姿が見えなくてもそれで同一人物とは思われないでしょ」
「そっか、それもそうだね。っと、そろそろ行かないと、怪人が暴れ出して被害が出てしまうかも……」
ルビィの言葉に、私は怪人のいる方向をキッと睨む。
「そうだね……。それじゃあ行くよ!」
そう言って私は駆け出す。ルビィもそれに並走するように飛んでついてきた。
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