第46話 ガールズトーク! 理想の人ってどんな人?
「ところでみう、あんた最近やけに機嫌がいいようだけど、なんかいい事でもあった?」
パンケーキもあらかた食べ終え、紅茶を啜る私に智子がそんな言葉を掛けてくる。
「ん~? そう見える? 別にそんなこともないんだけど」
確かに最近私は浮かれまくっている。
その原因はもちろんシャイニーフェニックスとしての活動が極めて順調だからなのだけど、智子にそれを言うわけにはいかないので適当に誤魔化すことにした。
「嘘おっしゃい、何か楽しい事でも見つけたんでしょ?」
「さ~、どうかな~? だけど、ここ最近自分の中で色々な事が上手くいってる気がするのは確かだと思う。だからそれが顔に出てるんじゃないかな~」
「ふ~ん、なるほど……。色んな事が上手くいってる、か……」
私のはぐらかすようなしかし別段嘘を言ってるわけではない返答に、智子は何事か思案する様子だったけど、やがて顔を上げるとにやあっと不気味な笑みを浮かべる。
「わかった。男の子でしょ?」
「はい?」
私は思わず間抜けな声を上げてしまう。私の曖昧な返答は智子に変な誤解をさせてしまったようだ。
「だってそれ以外に考えられないじゃない? そうやってはぐらかそうとするのなんてさ。相手は誰? やっぱり氷川くん?」
「ちょっとちょっと、勝手に変な勘違いしないでよ……。というか、なんでそこで翔くんの名前が出てくるわけぇ?」
私が抗議すると、彼女は意外そうな表情を浮かべる。
「ん? 違うの? あたしはてっきりあんたと氷川くんの仲が一気に進展でもしたのかと思ってたんだけど……」
「進展って何よ、進展って! 私と翔くんはそんな関係じゃないって何度も言ってるでしょ? 大体翔くんの意地悪は収まる気配もないんだよ? あいつのことで不機嫌になることはあっても、機嫌が良くなることなんてありえないから!」
シャイニーフェニックスとして順風満帆な生活を送る私だけど、女子中学生香取みうとしてはそれなりに悩み多き身だ。
勉強、運動、そして幼馴染の氷川翔平……。
まあ、これらの悩みの種はあまりにも私の生活に当たり前のように存在しすぎていて、意識することすらほとんどないんだけどね。
「相変わらずね、あんたたち……。でも、その様子だと氷川くんじゃないのだけは確かなようね。じゃあ誰なの? ねぇ、教えてよ、ねぇねぇ」
しつこく食い下がる智子に対し私は辟易しながら、
「だから違うってば。そもそもなんで機嫌がいいイコール男の子関係になっちゃうわけ? そんなわけないじゃん……」
と返すと彼女は、
「そっか~。残念、みうにも春が訪れたと思ったんだけどな~」
と残念そうに肩を落とす。
「何が春よ……私には、多分そんなのまだ早いんだよ……だって、まだ恋とか愛とかそういうの良くわからないし……」
視線を落とし、紅茶をスプーンでかき混ぜながら言う私に、智子が呆れたような表情を見せる。
「相変わらずお子様ね、あんたは。あんたって可愛いし、氷川くんみたいなイケメン幼馴染も近くにいるのにほんともったいないと思うわ」
「別に可愛くないし……。翔くんは確かに顔はそれなりかも知れないけど、性格がアレ過ぎるし……。むしろ翔くんの実態を知らずにきゃーきゃー言える子たちは幸せ者だよ」
私はそう言ってため息を吐く。そんな私を見て彼女は苦笑を浮かべた。
「ところでさ、私の事ばっかり言ってるけど智子はどうなの?」
「ん? 何が?」
「つまり、智子には好きな相手とかいるのかって事。私の事お子様とか言うからには智子はさぞかし素敵な恋愛してるんだろうな~って思って……」
私がそう言うと彼女は、あっさりと、
「別にいないわよ。恋人はもちろん好きな相手もね」
と言ってのける。
「はぁ!? 何それ? 人の事お子様とか言っといて自分は好きな人もいないの!?」
思わず声が大きくなる私に、智子は指を一本立てて、ちっちっちっと振りながら答える。
「あたしに今好きな相手がいない理由はズバリあたしの理想に合致した相手がいないからよ。あんたみたいに恋そのものが良くわからないってわけじゃないわ」
そう言って得意げな顔をする彼女に僅かにムッとするも、さっき自分でも言った事なので反論できない。
それよりも私は智子が口にした言葉が気になった。
「そう言えば、智子の理想っていうか好みのタイプってどんな感じなの?」
「あたしの理想は一言で言うと大人の男ね」
尋ねる私に智子は即答する。
「それって、年上が好みって事?」
「ちょっと違うかな~。あたしが重視してるのは実年齢より、精神的な物ね。仮に同い年でも年下でもそこらの大人よりしっかりとした考えと行動力を持った人ならあたしのストライクゾーンに入るわ」
「ふーん……そうなんだ……」
彼女の言葉に答えながら、私は少し考えてみる。
なるほど、確かに智子という女の子を冷静に分析してみれば、なんとなくわかるような気がする。
まず、智子自身同年代の子の中では大人っぽく、しっかりとした考えを持った子だ。
そんな彼女だから、必然的に恋愛対象にもそれを求めているのだろう。
ここで私は智子があの翔くんにときめかない珍しい女の子であることを思い出しその理由がわかった気がした。
私に対する態度を見れば分かるように翔くんは(私が言うのもなんだけど)精神的に幼い。乱暴な言葉で言い表すなら“ガキっぽい”のだ。
そんな翔くんが、いくら見た目が良くても大人っぽい人が好きという智子のタイプではない事は明白だった。
「ここまで言えば、あたしに今好きな人がいない理由もわかるでしょ? あたしの理想とする大人との出会いなんてそうそうあるわけじゃない。それに大人は大人でもおじさんではダメなの、当然顔もある程度良くないとあたしは満足できないわ」
そう言って彼女は肩をすくめる。
彼女の言う通り、中学生である私たちが普通に接することのできる大人は限られているし、出会いがないと彼女が嘆くのも無理はないだろうと思う。
それにしても……。
「智子って理想が高いんだねぇ……」
しみじみという私に智子は、「何言ってんの」と言うとびしっと指を突き付けてくる。
「あんたこそ凄まじく理想が高いじゃない」
「え? 別に私理想高くないよ?」
急にそんな事を言われ戸惑う私に智子はさらに言う。
「高いでしょ。あんたいつも言ってるじゃない、理想はヒーローだって。これって要するにあたしの理想の上位版みたいなもんじゃないの?」
指摘され私は考える。それは、言われてみればそうかも知れない……。
智子の理想をまとめてみると、優しくて頼りがいがあって、しっかりとした考えを持ってて、カッコよくて……。と言った感じだろうか。
一方私が理想とする『ヒーロー』というのは、それに加えて、悪を許せない正義の心を持ってて、強くて、誰かを守れる力を持っていて……と、彼女が自分の理想の上位版というのも頷けるぐらいだった。
そっか……私って実はめちゃくちゃ理想高かったんだ……。
ヒーローという存在を自分の理想像として定義しちゃった結果だけど、改めて並べてみるとその高望みっぷりには自分でもビックリだ。
唯一智子との違いとして、私は所謂イケメンじゃなくても別にいいと思ってる(何しろ仮面ファイターの変身後の姿でもいいぐらいだし)という点があるのだけどそれにしたってこれらに当てはまる相手なんて滅多にどころかいないだろうと思う。
私が恋とかよくわからない理由ってこの理想の高さにも原因があるんだねきっと……。
「ま、あんたの理想の話はさておき、そんなわけであたしの理想は高いわけだけど、妥協するつもりも諦めるつもりもないわよ、だから出会いを求めてうちの学校のいい感じの人をピックアップしてたりするのよ」
「そ、そうなんだ……」
私は智子の恋愛に対する積極性に若干引きつつもそう答える。
「だけどさ、私たちってまだ中一なんだよ? そういうのって早いと思うし、そんなに焦る必要はないと思うんだけど……?」
私の疑問に対して智子はやれやれといった風に肩をすくめると言った。
「甘い甘い、その考えさっきのジャンボパンケーキ並みに大甘よ! 青春は一瞬で過ぎ去ってしまうものなのよ! あたしたちは貴重な時間を無駄にしないためにも行動しなきゃいけないの!」
確かにそうかもしれない……。別に恋愛とかに限った話じゃなくて、今この一瞬は二度と戻ってこない大切な時間なんだ……。
だから、私たちは後悔しないように精いっぱい“今”を生きないといけないんだ……。
とはいえ、私は智子みたいに恋愛に積極的にはなれそうにない。
まだ恋というものがどういうものかすらわかってないこんな私でも、いつか誰かと恋をする日が来るんだろうか……?
何もかも理想通りとはいかなくても、ヒーローと呼べる人に出会って……出会……って……って、あれ?
そこまで考えて、ふと気が付いた。私……理想通りのヒーローと、出会って、る、よね……?
私の手首でキラリと光るSPチェンジャー……これを私に与え、シャイニーフェニックスにしてくれた夢のヒーロー……。
そう……シュナイダーさん……。
優しくて頼りがいがあって、しっかりとした考えを持ってて、カッコよくて、悪を許せない正義の心を持ってて、強くて、誰かを守れる力を持っていて、私の事をいつも気にかけてくれる素敵な人……。
ドクッドクッドクッ! あの人の事を思い浮かべた瞬間、心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。顔が熱い……! 胸が苦しい! なんで!? どうして急にこんな事になっちゃったの!? 今までだって何度もシュナイダーさんの事を思い出してドキドキしたりしてきたけど、今日のは何かが違う、智子と恋愛話をしてるせいかもしれない……。
もしかして、これって、これって……。
「みう、どうしたの? 急に顔を赤くしたりして?」
首を傾げる智子に私はあははと苦笑いを返す。
だけど、彼女に構っている余裕はなかった。私は自分の心を整理するのに必死だったからだ。
違うよ、シュナイダーさんへの“コレ”は恋とか愛じゃない。
彼は私にとっていわば神様みたいな人で、そういう次元で捉えていい存在じゃないんだ。
大体シュナイダーさんは年が離れすぎてるし、詳しい素性だってまだまだ全然知らないし、それどころか素顔すら見たことが無いんだよ!?
だから、これは恋なんかじゃない。憧れなんだ。そう、きっとそうに違いない。うん。そうに決まってる。
「みう……やっぱり、あんたのご機嫌の理由って、素敵な出会い、なんじゃないの?」
シュナイダーさんとの出会いが素敵な出会いであることは間違いない、だけど、それは恋愛とかそういうものじゃない。そんなんじゃないんだ……。
「だから、違うって……」
これ以上この事について考えると頭がクラッシュしてしまうかもしれない。
眼鏡を光らせながら尋ねてくる親友にそう答えると、私は紅茶の残りをグイッと飲み干し強引に話を終わらせたのだった。
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