第44話 敵が本格的に動き出しちゃったみたいです……!
ギーガーク帝国要塞基地内部の作戦会議室。
本日のその場所には、いつもと違う重苦しい空気が漂っていた。
「さて、定例会議を始める。すでに分かっていると思うが、本日の議題はこれについてだ」
この基地の最高責任者、司令官シィ・レガーンがその言葉によって会議の口火を切る。
彼の言葉に応えるように会議室のテーブルの真ん中に一つの映像が投射される。
それは、先日のシックザールクリスタルを巡る騒動での第一部隊長ブーミ・ダインとシャイニーフェニックスの戦闘記録映像であった。
「我らの悲願シックザールクリスタル。その情報を得たブーミはそれを手中に収めることに成功した……そこまでは良かった。しかし、奴はシャイニーフェニックスとの戦いで敗北、それどころか貴重なクリスタルを破壊されるという大失態を犯したのだ!」
レガーンの口調は怒りに満ち満ちていた。何度もチャンスがありながらそれをふいにしてしまった部下に対しての苛立ちだろう。
しかし、彼は声を荒げてしまった事を恥じるように、二、三度息を吸うと声を低くし落ち着きを取り戻す。そして、再び話し始める。
「もちろん、失敗の責任を取らせ奴は部隊長から降格、本星の地獄の新兵訓練所送りにしてやったが、それはどうでもいい。それよりも重要なのはシャイニーフェニックスという存在がそろそろ我らにとって看過できない脅威となりつつあるということだ……」
「そうですね。ブーミくんは人格面、頭脳面には問題を抱えておりますが決して弱くはなかった。そんな彼がクリスタルの力でパワーアップしてもなお敗れたのです。その時点でシャイニーフェニックスは低く見積もっても我が帝国の部隊長クラスの実力を持っていると言っていいでしょう」
レガーンの言葉に対してそう答えるのは、作戦参謀のズゥ・ノーハーである。
「そろそろ我々も本腰を入れて奴への対処を考えなければなるまい」
ノーハの言葉を受けレガーンは険しい顔でそう答える。
先ほどから彼らのやり取りを黙って聞いていたヤーバン・ジーンはこの話の流れにほくそ笑んだ。
将軍という立場である彼は戦いたいからと言って簡単に出撃するわけにはいかない。しかし、このままいけば間違いなく将軍にしてこの基地の中でもトップクラスの実力を持つ自分にシャイニーフェニックス討伐任務のお鉢が回ってくるだろうと確信していたからだ。
(身体が疼く……早く直に奴の力を体感したい。映像には映らぬその力を……!)
しかし、少なくともこの日の会議では彼の思い通りの流れにはなってくれなかった。
ノーハーがこんなことを言い出したからだ。
「レガーン様。シャイニーフェニックスへの対処、このノーハーに任せていただけないでしょうか」
「貴様がか? 何か考えでもあるのか?」
意外と言ってもいい申し出にレガーンは驚いたような声を上げる。
「もちろんです。ククク……」
嫌らしい笑みを浮かべながらレガーンに答えるノーハーにヤーバンは内心で舌打ちをする。
(むぅ、ノーハー殿に先を越されてしまったか。しかし、珍しい。ノーハー殿が積極的に邪魔者の排除などという汚れ仕事を引き受けるとはな……)
ノーハーは作戦参謀であるが、彼は主に惑星制圧後の占領政策を担当しているため、それより前段階の工作活動などは基本的に部下任せにしていることが多いのだ。
そんな彼が自分から進んでこの任務を引き受けたことに驚くヤーバンであったが、ノーハーがチラリと自分に視線を向け口元を歪めたのを見て彼の思惑を理解した。
(なるほど、ノーハー殿は出来るだけ俺に手柄を立てさせたくないのだな……。くだらんプライドだ……まあ心情は理解できなくもないが……)
ノーハーがヤーバンを疎んじるのは何も彼の上昇志向だけが原因ではないとヤーバンは考えていた。
それはヤーバンの出自に関係のある話だ。ギーガーク帝国は建国以来様々な惑星を侵略し支配下に収めその勢力を拡大し続けているのだが、元々は惑星アクノスという一つの星で始まったものだ。
皇帝アーク・ノヴォスは実力主義者であり、出自に関係なく帝国の要職に取り立てるのだが、一部のアクノス人は被征服惑星の者が自分たちの上に立つことを快く思っていない。
そして、ノーハーはその意識を持つ純アクノス人であり、ヤーバンはそうではなかったのだ。
もちろん、表立って差別意識を露わにすることはないノーハーであるが、ヤーバンに手柄を立てさせ大きな顔をされるのを面白く思わないという意識があるのは容易に想像できた。
(まあいい。ノーハー殿がどんな作戦で挑むのかわからんが、それを乗り越えられんようでは俺が戦う価値などない……)
ノーハーと無駄に争う気もないヤーバンはとりあえずは彼の手並みを拝見することとに決めた。
(それに、これを乗り越えればシャイニーフェニックスはより成長するだろう。豚は太らせてから喰うに限るからな。クックックッ……!)
*
「ファイアショット!」
私の放った一撃が、怪物に炸裂し苦痛の呻き声を漏らさせる。だが致命傷には程遠く、怒り狂ったように突進してきたので慌てて回避行動を取った。
私は今、秋桜学園のグラウンドでギーガーク帝国が繰り出してきた怪物と戦闘を繰り広げていた。
学校帰りに出現した3体の敵、それはいつもの怪人ではなく久しぶり――というか初回以来のオドモンスターだった。
戦闘能力は高いけど、野生動物を怪物化させたものらしく知性がなく使いづらいということで投入が避けられていたらしいそいつらの複数同時出現に驚きつつも、変身し迎撃、この場所にまでおびき出したのだけど、そんな私の目の前でその3体のオドモンスターは融合、巨大化、改めて戦闘再開となったというのが今の状況だ。
「あんなとんでもないオドモンスターを繰り出してくるなんて。どうやら今回の敵の目標は完全に君のようだね……」
怪物の攻撃をかわして距離を取る私に、近くを飛ぶルビィがそんな言葉を掛けてくる。
「前回ブーミを倒してシックザールクリスタルまで壊したからね。あいつらちょっと本気モードになってるのかも……」
ルビィに答えつつ、私は怪物へと視線を戻す。
どこから調達してきたのか知らないけど、ライオン、山羊、蛇の3体の動物を怪物化させたオドモンスターの融合体であるそれは、ファンタジーに出てくる『キマイラ』と酷似した姿になっていた。
見た目にもかなり強そうだけど、この間のパワーアップブーミよりはマシな相手のはず。やれる! 私なら!!
最近の戦いで私は自信を深めつつある。今までの未熟な新米宇宙戦士から、一端の戦士として戦えるようになったと思う。だから今回もきっと大丈夫……!
そんな思いを胸に秘めながら、私は敵に突っ込んでいくのだった。
背中の山羊の口から吐き出される火球をかわし、振り上げられるライオンそのままの腕に鋭く光る爪をすり抜け、噛まれたら毒でも注入されてしまいそうな尻尾の蛇の剥き出しの牙をも華麗に避け、怪物に肉薄すると私は一瞬身を屈め、合成オドモンスターの下顎に向けて拳を繰り出す!
「フェニックスアッパー!!」
全身のバネを使った私の拳がその顎を捉え、鈍い音と共に敵の巨体が浮き上がる。5メートルほどの高さまで浮かび上がると重力に従って落下し地面に叩きつけられた敵は苦しげに呻き声を上げた。
わーっと、まだ学校に残りこの戦いの現場に居合わせた生徒たちから歓声のような声が上がる。その中には部活のために残っていた翔くんも含まれている。
私は彼らが向ける、羨望と期待と勝利への確信に溢れた視線に戦闘中だというのに口元が綻ぶのを止められそうになかった。
だって、だってだって、嬉しくてしょうがないんだもん! こうやってみんなのために戦ってみんなの視線を一身に集めるとき、ああ、私って本当にヒーローなんだなって実感できるから……!
「さあ、オドモンスターさん! 悪いけど一気に決めさせてもらうよ!!」
指差し宣言する私の言葉の内容までは理解できないだろうけど、なんとなく自分が目の前の小娘に挑発的な言葉をかけられたことは理解できたらしい。
怒りの表情で空に向かって一言咆哮し怪物はさっきの数倍の大きさはあろうかという大火球を吐き出してくる。
あんなのの直撃を受ければ黒焦げだろう、だけど……。
「フェニックスリフレクション!!」
片手をかざし、私が生み出した光の障壁にぶつかった火球は180度反転し、それを吐き出した怪物自身に襲い掛かった。
これぞ相手の放ったエネルギーをそのまま反射させる防御奥義フェニックスリフレクション! タイミングが難しいのと相手の攻撃の特性によっては反射不可能な場合もあるから使いどころが限られるけど、今回は上手くいったみたい……!
自身の攻撃をまともに食らって怯んだ敵を見据えながら私は両腕を打ち合わせるとエネルギーを集中する。
「シャイニーファイナルエクスプロージョン!!」
ご存じ、両腕から放たれた負け知らずの最強必殺技は、まっすぐ正確に怪物へと向かいその体に接触した途端大爆発を巻き起こす!!
今回は相手がオドモンスターなので、ちょっとだけ威力を押さえてある。もし、素体となっている動物の生命力がまだ残っているのなら元に戻ってくれるはずだからだ。
そして私の目論見通り、爆発が収まると、そこには怪物から元の姿に戻った、ライオン、山羊、蛇さんたちがキューッと目を回して倒れていたのだった……。
「ははっ! すげぇぜ!! やっぱりオレたちのシャイニーフェニックスは最強だ! これからも頼むぜ、オレたちのヒーロー!!」
翔くんが叫ぶと、他の生徒たちも口々に歓声を上げながら私に拍手を送ってくれた。
ああ……! もう……! そんなキラキラした目で見られたら私……!!
えへへへ~っ♪ あーっもう幸せすぎて死んじゃいそう……!
思わずその場で飛び跳ねて喜びを表現する私と、その私の周りを飛び回り、「凄い凄い!」と興奮した様子で褒めてくれるルビィなのであった。
ちなみに動物さんたちは動物園から連れ出されたものだったらしく、しばらくしてやってきた職員さんに無事回収されていったのでした。
*
「実に素晴らしい作戦だったなノーハーよ。見事にシャイニーフェニックスの評価を高めるという目標が達成できたようだな」
皮肉気な口調で言うレガーンにノーハーは俯き、肩を小さく震わせた。
そんな彼の様子を伺いながら、ヤーバンは考える。
(案の定失敗か……しかし、オドモンスターを利用した合成獣を作り上げ差し向けるというのは、どこかノーハー殿らしからぬ力押しなやり方だ……)
焦っていたのかもしれないと、ヤーバンはノーハーの心情を推察する。
シャイニーフェニックスの成長速度を考えれば、一刻も早く倒してしまいたい。さらに、モタモタしていたらしびれを切らしたレガーンがノーハーに見切りをつけヤーバンに命令を下してしまうかもしれないのだ。
彼にとってそれは何としても避けたいところだったのだ。だからこそ、じっくりと時間をかけて作戦を精査する余裕もなく、強引な手段に出たのだろう。
(自分の持ち味を見失い功を焦るとは……。しかし、おそらくこれで俺の望む展開になるはずだ……)
「ヤーバン」
レガーンの言葉が、ヤーバンの思考を中断させる。
来た。そうヤーバンは確信した。ついにこの時が来たのである。
顔を上げたヤーバンにレガーンは重々しい口調で指令を下す。
「あの小娘の対処は貴様に一任する。準備ができ次第出撃し、その力でもって確実に仕留めろ」
「レガーン様!?」
しかし、ヤーバンが何かを答えるより早くノーハーが非難めいた口調で声を上げる。
レガーンは面倒くさそうに彼へと視線をやると諭すような口調で言う。
「ノーハーよ。一度下された指令を取り消されるという貴様の屈辱もわかるがな、貴様が新たな作戦を立案し、必要な戦力を整えるのには時間がかかるだろう? 時間を置けばあの娘は強くなる、際限なくな。今必要なのは即座に動けて奴を確実に仕留められる実力を持つ者なのだ」
(ふ……レガーン殿もなかなかどうして、部下の使い方を心得ていらっしゃる、この言い方ならばノーハー殿のプライドを傷つけずに納得させられる……)
伊達に一つの軍を率いる司令官を任されてはいないと、ヤーバンは心の中で感心するのだった。
「わかりました……。ならば私は万が一ヤーバン殿が失敗したときのために新たな作戦を練っておきます……」
渋々といった様子で頷くノーハーを見て、ヤーバンはやれやれと誰にも気づかれぬよう肩をすくめた。
しかし、これで邪魔立てするものはいなくなった。あとは自分が出撃するだけだ。
(シャイニーフェニックスよ。俺を失望させてくれるなよ……?)
ピクッピクッと全身の筋肉を震わせながら、ヤーバンは戦いへの興奮に胸を躍らせるのだった。
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