第42話 偽りの輝き、本当の輝き
「さあ、俺と共に来い、シャイニーフェニックス!!」
ブーミは腕を広げ私を迎え入れようとする。いいよ、お望み通り行ってあげるよ!!
私はダッシュを掛けると、そのにやけ面に思いっきりパンチを叩き込む! バキッという音と共に鼻っ柱が折れる感触が拳に伝わる。
「が、があっ……。な、なんで……お前の心は、クリスタルの力で完全に支配したはず……!?」
鼻を押さえながら困惑した様子で言うブーミに私は静かに答える。
「ル……みうちゃんが言ってたでしょ? 私の正義の心はそんなもので操られるほど安くはないって。ううん、違うわね。誰の心だってそうなんだ、そんなクリスタル一つで支配できるほど弱くない!」
「そ、そんなことあるわけ……!」
「あんたみたいな下衆にはわからないでしょうね。でも、私にはわかるの……! だから私の心は絶対に負けないし負けられないのよ……!!」
そう言って睨みつける私に、ブーミは驚愕の表情を浮かべていたが、やがて笑い出した。
「何、今度は? まだ何か手でもあるの? それとも、とうとうおかしくなっちゃった?」
私が挑発気味に言うと、ブーミは笑いを止めて言った。
「違うさ、やっぱりお前は俺が目を付けただけあって、凄い女だって思っただけだ。最初はただの可愛らしい娘だから欲しいと思ったんだが今は違う、心の底からお前を屈服させたいと感じるぜ!!」
「そう、だけどそれは無理ね……」
「無理じゃないさ。確かに、クリスタルでお前の心を支配するのは不可能だ。だけどな、これの使い方はそれだけじゃないんだぜ?」
私はハッとなる。ブーミはにやりと笑うと、再びクリスタルを掲げ叫んだ。
「さあ、シックザールクリスタルよ、その力を示せ!」
再びクリスタルが不気味に輝くと、ブーミの身体が変化していく……!
そうか、自分の力を強化するためにクリスタルの力を使ったんだ……! 自分に使うのなら他の力に阻害されることはないから……でも! それでも……!! 私の決意は変わらない!! 絶対に勝ってみせるんだから!!!
そして、ブーミの変化は完了した。
全体のシルエットに変化はないけど、一回り大きくなり、全身が真っ黒に染まっている。
胸の部分にはシックザールクリスタルが埋め込まれ鈍く輝きを放っていた。
そして、その全身からはさっきまでとは桁違いの邪悪なオーラを感じる……! これがパワーアップしたってことなの……? 私は警戒しながら身構える。
「ははっ、いい感じだ。行くぞシャイニーフェニックス!!」
消えた……! そう感じた瞬間、目の前に現れたブーミは私のお腹を蹴り上げた! 衝撃と共に吹き飛ばされ、空中で体勢を立て直そうとするも、背後に出現したブーミにさらに殴り飛ばされ地面に叩き付けられる。
「な、なんて速さと強さ……。もしかしたらシュナイダー様クラス……いや、それ以上かも……」
ルビィが冷や汗を浮かべながら呟く。確かにスピードもパワーも桁違いだった……。私は殴られた腹部を押さえつつ立ち上がる。
「そ、そっか……へへ、シュナイダーさんってこれぐらい強いんだ……。なら、こんなの耐えて見せないと彼と肩を並べられないよね……!」
そんな軽口を叩きつつファイティングポーズを取る私に、ブーミは不快感も露わに言った。
「シュナイダーか……奴が何だってんだ。あんな奴よりも俺の力の方が上だ!」
そう言って再び突進してくるブーミに対し、私も地面を蹴って駆け出す! そして一気に距離を詰めると拳を振りかぶる! しかし私のパンチが届く前に、逆にカウンターの一撃を受けて吹き飛ばされてしまう……! 地面に叩き付けられゴロゴロ転がる私を見下ろしながら、ブーミは言った。
「どうした? もう終わりなのか?」
その言葉にムッとするものの、実際問題としてこの戦いは圧倒的に不利だった。
流石シックザールクリスタルの力と言うべきか、今のブーミは私の数十倍のパワーを持っているのだ。
私がまだ五体満足でいられるのは、あいつが自分の力を持て余して手加減してくれているからに過ぎないだろう。
それでもなおこの差だ、とてもかなう相手じゃ、ない……。
だけど、一つだけ勝てる可能性がある。しかし、それをやれば……。
「何やってるんだシャイニーフェニックス! そいつの弱点は明白だろ? 胸のクリスタルを破壊するんだ!!」
そう、ブーミのパワーアップの原因はシックザールクリスタル。そのクリスタルは今はあいつの胸の中心で輝いている……。なんとかあれを破壊することが出来れば、ブーミを元に戻し弱体化させられる。
もちろんあいつのガードがあるから狙うのは容易じゃないけど。
ただ、それとは別として私がクリスタルを狙わない……狙う気になれない一番の理由は……。
「や、やめ、やめて……。あたしの、あたしの水晶を壊さないで……」
ルビィの言葉を受けて、ずっと黙って戦いを見守っていたきらりちゃんが顔を真っ青にして叫んだ。
そうだ、あれはきらりちゃんにとって、命と同じぐらい大事な物……。あれを壊してしまえば、きらりちゃんはアイドルじゃいられなくなる……。
……出来ない、私には出来ないよ……。きらりちゃんのアイドルとしての夢を潰すなんて……! でもこのままじゃ負けちゃうし、どうすれば良いんだろう……? 私が悩んでいる間にも、ブーミの攻撃はさらに激しくなる一方だ。私は防戦一方で反撃すら出来ずにいる有様だった。
「きらりちゃん……。このままじゃシャイニーフェニックスがやられてしまう……。勝つ方法はただ一つ、あのクリスタルを壊すしかないんだ……。だけど、シャイニーフェニックスは君に気を使ってあれを壊すことが出来ないんだ。君があれを壊してもいいって言わない限りはね」
私たちの戦いから目を逸らそうとするきらりちゃんの肩を掴みながら、ルビィが諭すように語りかける。しかしそれでも彼女は首を左右に振りながら泣き叫ぶだけだった。
「いやっ! いやだよ! だってアレがないとあたしはただの惨めな小娘に逆戻りだもん!! そんなの耐えられないよぉ!!」
「そんなことない!」
怒鳴るように叫んだルビィに、きらりちゃんはハッと顔を上げる。
「さっき、シャイニーフェニックスがあのクリスタルの力に操られそうになったけど、彼女はそれから脱出できたよね? つまりあのクリスタルでは人の心は完全に支配しきれないんだ。なのに、君が今まで大勢の人の心を掴み、トップアイドルとしてやってこれたのはどうしてだと思う?」
きらりちゃんは、ふるふると首を振る。彼女にはルビィが何を言いたいのかよく分からないようだった。
だけど、私にはよく分かった。そうだ、そうだよ……!
「それはつまり、きらりちゃんのアイドルとしての成功は、決してクリスタルの力だけのおかげでじゃなかったから……」
私は、ゆっくりと立ち上がりながら、ルビィの言葉を引き継ぐように言った。
ルビィは私の言葉に頷くと、さらに続ける。
「クリスタルは君のアイドル活動の手助けはしたかもしれない。だけど、それだけだ。あれが無くなったからといって、君がアイドルとしてすぐにダメになっちゃうわけじゃない。君はこれまでずっと努力してきたじゃないか! だから大丈夫!」
その言葉を聞いた瞬間、きらりちゃんの表情が変わったような気がした。しかし、彼女はすぐに俯いてしまう。
「あたしの……力……? だけど、クリスタルのないあたしには、アイドルとしての輝きなんて……」
「何言ってるの、今きらりちゃんはクリスタル持ってないでしょ? だけど、キラキラと輝いてて、まぶしいくらいだよ!!」
私は振り下ろされるブーミの拳を避けながら叫ぶようにそう言った。そうだ、きらりちゃんの輝きは、決してシックザールクリスタルの輝きなんかじゃない。本当の輝きは彼女の心の中にこそあるんだ……!
「……あたしにはわからない……自分にそんな輝きがあるのか……。だけど、そんなこと考えたこともなかった……それはきっと水晶に頼りきりで自分自身を見つめようとはしていなかったからなんだ……!」
そう言って顔を上げた彼女は涙を流しながらもその目はしっかりと前を向いていた。どうやら迷いは吹っ切れたようだ。私はホッと胸を撫で下ろした。
「シャイニーフェニックス。壊して……。もうあたしには必要のないものだから……。お願い!」
その言葉を聞いた瞬間、私の胸に熱いものが込み上げてくるのを感じた。そして同時に決意を固めたのだった。
(もう迷わない!)
私は大きく頷くと、ブーミに向き直り叫んだ。
「そんなわけで、持ち主の許可が出ちゃった以上、思いっきりやらせてもらうよ!!」
「ハッ、そう簡単に壊させるか!! 食らえ、シャイニーフェニックス!!」
雄叫びを上げながら突進してくるブーミ。私は繰り出される腕を体を横にずらしなんとか避ける。
ピッと私の頬に一筋赤い線が走り、ブーミの口元がニヤリと歪む。
何を笑ってるのかな……? さっきからただ好き勝手させてたわけじゃないんだよ? 私は攻撃を受けながらあなたの癖を観察してたの、そして分かったの、あなたには拳を引くときに大きな隙があるって事がね……!!
「ショックバイブレーション!!」
超加速能力で一瞬にして懐に潜り込んだ私の右手が奴の胸、シックザールクリスタルの上に置かれ、激しい振動を送り込む!
ピシッピシッと亀裂が入る音が鳴り響き、その音が大きくなるにつれブーミの表情が苦痛に歪んでいく! そしてついに……バキンッと音を立ててクリスタルが砕け散った! 粉々になった結晶の破片が飛び散りキラキラと輝きを放つ……それは、さながら夜空を彩る星のように美しかった……!
「さよなら……あたしの、夢の……欠片……」
一筋の涙と共にきらりちゃんの呟きが風に流れ、消えた……。
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