第40話 スーパーアイドル星野きらりの真実、そして……
「きらりちゃん、大丈夫だよ。シャイニーフェニックスが君を守ってくれるから……」
気遣うように言ってくれるみうちゃんの声に耳を傾けることなく、あたしは部屋の片隅でガタガタと震えていた。
怪人に対する恐怖からではない……。いや、もちろん怪人は怖いけど、シャイニーフェニックスが出てきた以上あいつは倒されあたしは助かるんだという確信があった。
あたしが恐れているのは今あたしの胸で輝く願いの水晶――みうちゃん曰くシックザールクリスタルを失うことだ。
いや、何も今日に始まったことじゃない。あたしはずっと恐れていたのだ。この水晶を手に入れ、アイドルになったあの日から、いつかこれを奪いに誰かが来るんじゃないかと……。
もしも……これを失ってしまったら、あたしは……。
あたしは目をぎゅっと閉じて思い出す、これまでの事を……。
あたしは、誰にも望まれずにこの世に生まれ落ちてきた……。
ろくに学校にも行かず遊び歩いていた不良娘が、悪い男に捕まり遊び半分で身体を重ねた結果できてしまった子供……それがあたし。
それでも一応産んで育ててくれようとした以上わずかながらにも愛情はあったのかもしれないが、それも長くは続かなかった……。
あたしが物心つくころにはすでに母はあたしに対する興味を失っていた。父はとうにいなくなっており、あたしは母が毎朝置いて行くお金を使って生活していたのだった……。
あたしは当然学校でも浮いた存在になり友達もできず、さらに、悪い生活が祟りブクブクと豚のように太っていたためいじめの対象になったのだ……。
そんなあたしにとって唯一の楽しみは、アイドル番組を観ることだった……。
画面の中で歌って踊るアイドル達はみんなキラキラ輝いていて、あたしもこんな風になりたいと思わせてくれた。だから、いつしか自分もアイドルになりたいと思うようになっていたんだ。
もちろん、そんなあたしの夢は嘲笑されるだけだった、まあそりゃ当然よね、可愛くもない、歌も踊りも出来ないただの豚がアイドルになれるわけなんてないのだから……。
だけど、その想いは馬鹿にされるたび、月日を経るたび、むしろどんどん強くなっていった。そして、ある日ジュニアアイドルオーディションの開催を知ったあたしは一念発起し、ダイエット、歌や踊りの特訓を開始したのだ。まさに血の滲むような努力を繰り返し、見違えるほどの自分を手に入れたあたしは、満を持してオーディションに臨んだ。
ハッキリ言って自信はあった、お母さん譲りで顔だけはそれなりにいいと思ってたから、痩せて綺麗になった今なら審査員の目には留まるはずだと思ってたし、何より特訓で身に着けた歌とダンスのスキルがあれば優勝だって狙えるはずだったからだ! しかし結果は散々なものだった……。
審査の結果、なんと最下位だったのだ……! でも、それは当たり前の事だったのかもしれない。オーディションに参加してた子たちは、みんなあたしと同じ、ううんそれ以上に可愛く、努力だって重ねてきたであろう子達ばかりだったんだから……。
そして、彼女らはあたしにない物を持っていた。それは輝きだ。あたしみたいな、卑しい生まれの人間じゃ到底手に入れる事ができないもの……。彼女たちにはそれがあったのだ……。
それを見せつけられたとき、あたしは悟った。ああ、あたしにはアイドルなんて無理なんだなって……。だからもう諦めようって決めたんだ……。
しかし、そんなあたしに奇跡が舞い降りた……。
オーディション会場からの帰り道、泣きながらとぼとぼと歩くあたしはゴミ捨て場でキラキラ輝く物を見つけた。近寄って見てみるとそれは小さな水晶の欠片。
思わず手に取ってしまったあたしは何の気なしにそれに願ってみた、だってそれはネットでよく見かける怪しげなパワーストーンに良く似ていたんだもの。
「アイドルになりたいです……。なんてね、こんなので願いが叶ったら苦労……」
~♪ その時、スマホが鳴り響き慌てて出たあたしの耳に聞こえてきたのは。さっきのオーディションの結果は手違いで、実はあたしはぶっちぎりの一位だったということを告げる事務局からの電話の声だった!
それからは何もかもが上手くいった。最初はただの偶然だと思っていた水晶の力も本物だったみたいで、あたしが願った通りに事は運んでくれたのだ。
歌のヒットを願えば日本どころか世界のヒットチャートを席巻し、ドラマに出演したいと願えば即座にオファーが舞い込み大ヒットを記録、映画に出たいと願いば、主演を勝ち取り数々の賞を総なめにしたのだった……!
あたしをいじめていた元クラスメイト達は羨望のまなざしを向け、あたしに関心のなかったお母さんは大金を稼ぎ出すあたしを自慢の種として可愛がってくれるようになったのだ!
あたしは手に入れたのだ、誰もが目を奪われていく完璧で究極なアイドルの座を!!
だけど、あたしの心には常に不安が渦巻いていた、それはいつかこの水晶を奪う誰かが現れ、また昔の惨めで情けない自分に逆戻りしてしまうのではないかという恐怖心……。
そして、それは、今日やって来た……。
ドラマ撮影の見学にやって来た子、香取みう。
色々あって来れなくなった役者の代役に選ばれた彼女に話しかけたのは、単に同年代っぽく見えて、大人に囲まれて仕事をしているあたしにとって新鮮な存在に見えたからだった。
そして、それなりに会話をした後で彼女が言った言葉があたしに衝撃をもたらしてくれた。
「そのペンダントにくっ付いてる水晶、綺麗だね。パワーストーンって言う奴? きらりちゃんの大躍進の理由は、才能や努力だけじゃなく、それのご利益もあるのかな……?」
……まさか、この子……知っている? あたしの秘密……この水晶の力について……。
そして、それは結果的に当たっていたのだ。彼女は、あたしの持つ水晶が特別なものだと考え、それを確かめるためにあたしの元を訪れたのだ。
その後楽屋を訪れた彼女が話してくれた内容は、荒唐無稽なものだった。
あたしの水晶がシックザールクリスタルというもので、どんな願いも叶えてくれるものだということ。
そして、それを狙っている悪い宇宙人の帝国があること。
だけど、あたしはそれを信じた、信じるしかなかった。実際にこの水晶はあたしを短期間のうちにトップアイドルの座に就かせるという奇跡を起こして見せたのだから……。
あたしは思った、とうとうこの日が来た、と。あたしの予想とは少し、いやかなり違っていたけど、この水晶を奪いに何者かがやってくるという恐怖と不安の予感は的中してしまったのだった。
「きらりちゃん……やっぱり、その水晶……」
あたしの追想を遮り、みうちゃんがおずおずと言ってくる。
「渡さないわ!!」
あたしは、先ほどと同じ言葉を彼女にぶつける。両手で胸元の水晶をしっかりと握りしめて。
「だけど、それを持っていれば、危険な目に遭うんだよ? 今回はすぐにシャイニーフェニックスが駆けつけてくれたからよかったけど、毎回そうとは限らないよ? 君は今後ずっとギーガーク帝国の奴らに狙われる生活を送らないといけないんだ! そんなの嫌でしょ? だから、早くそれを手放した方が身のためだよ!」
彼女は必死に説得してくるが、あたしはぶんぶんと首を振る。
「それでもいい! あの惨めな日々に戻るくらいなら、どんな目に遭ったって構わない!! それに……この力があれば、もう誰にも馬鹿にされない……見下されない……あんな思いをしなくて済む……! もう嫌なのよ……!! あの時みたいにまたいじめられるのは……!」
そう言いながらも、心の中では分かっていたのだ。これはただのわがままだ、子供の駄々と同じだと……でも、どうしようもなかった、どうしても手放す気にはなれないのだから……。
「きらりちゃん、君は間違ってるよ! そんなものの力に頼って栄光を手に入れたって本当の幸せを手に入れることはできない!!」
彼女の言葉に胸が痛む。確かにそうだ、あたしがやっていることはただ逃げているだけだということは自分でも分かっているつもりだったからだ。
「君もそれがわかってるんだろ? だから、水晶を奪われることを何よりも恐れている。仮にギーガーク帝国がいなくてもそうだ、君は一生それを君から奪うかもしれない何かの影に怯えながら生きていくことになるんだぞ!?」
「……っ!」
あたしは言い返せなかった、トップアイドルとして順風満帆な日々、だけどあたしの心の中には恐れしかない。
もし、この水晶が誰かに奪われてしまったら? ある日突然力を失ってしまったら? そんな不安が常に付きまとっていたのだ……。
そんなあたしの心を見透かしたように彼女は言うのだ……。
「……やっぱりね、もうやめようよこんなこと。辛いだけでしょ?」
「……い、や……。嫌……!!」
それでも、あたしは諦めきれなかった、手放すことなんてできなかった、だってこれを手放すということは何もかもを捨てるということだから……!
あたしはバッと立ち上がると、シャイニーフェニックスが蹴り飛ばした怪人が開けた大穴から外に飛び出した。
「あ、きらりちゃん待って……!」
後ろからみうちゃんが追いかけてくるけど、構わず走る。とにかく今はこの場から逃げ出したかった、一秒でも早く!
ドン! だけど、あたしは前方に突如出現した何者かに激突し思わず尻餅をつく。
痛たい……こんな時だというのに……何?
睨みつけようとして顔を上げたあたしの目に入って来たのは、恐ろしい形相の鬼に似た容姿を持つ男だった。
な、何……こいつ……? まさか、こいつもギーガーク帝国とか言う奴らの……。
「あ、お、お前は!?」
追いついてきたみうちゃんがあたしにぶつかった相手を見て驚愕の声を上げる。
「ははっ、ツイてるぜ。そっちの方から出てきてくれるとはな……」
そう言って笑うと、鬼のような姿をしたその男は、あたしに手を伸ばすのだった……。
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