第38話 きらりちゃんに危機迫る!
「いや~、貴重な体験させてもらったわ。須根くん。本当にありがとう!」
撮影見学が終わり、局内の喫茶店にやって来た私たち、智子のお礼の言葉に須根くんは、「局の社長の友達のパパの息子である僕にかかれば撮影現場の見学なんて朝飯前だよ」と言って胸を張る。……相変わらずの自慢屋だなぁ。でも、彼のおかげできらりちゃんに会うという目的の一つ目は達成できたわけだから、感謝しないといけないのだけど……。
「ところで新部、どうしたんだ? さっきからぶすっとした顔して?」
翔くんが彼の言葉通り、不機嫌そうな表情を浮かべている文乃ちゃんに尋ねる。確かに、一体どうしたんだろう?
「聞いてよ、せっかく撮影現場をこのカメラに収めて記事にしようと思ったのにさ。カメラ撮影はご遠慮願いますとか言ってカメラ取り上げられちゃったのよ。さっき返してもらったんだけど、おかげで肝心なシーンは一枚も撮れなかったのよね……」
そう言って彼女は悔しそうに唇を嚙んでいた。なるほど、そういうことだったのか。
「仕方ないわよ、見学を許可されたとはいえ、写真撮影ともなると、権利関係とか色々と面倒事もあるんだろうし」
そう文乃ちゃんに声を掛けるのは智子だ。
うん、まあそうだよね……。特に文乃ちゃんは、それを記事にしようとしていたわけだし。たとえ学校新聞の記事とは言え、その辺のことはきちんとしておかないと、後で問題になってしまうだろうし……。まあ、今回は仕方がないよね……。
「あーあ、せっかくみうが役者としてあの超アイドル星野きらりちゃんと共演するという大奇跡が繰り広げられたというのに、その場面を一枚も写真に納められないなんて……。本当に残念だわ……」
そう言ってがっくり肩を落とす文乃ちゃんに、私は、「その場面の写真ならあるよ。スタッフさんが撮ったものを記念にくれたの、ついでに私の出演シーンを切り抜いた動画も、ほら」と言いながら自分のスマホに送ってもらった写真と動画を見せびらかす。
そこにはさっきの私の演技シーンやきらりちゃんのアップなどが映っており、それを見た文乃ちゃんが目を輝かせる。
「ね、ねえ、みう。これ後で私のスマホにも送ってくれない!? これを使えば記事が書けるわ……。【我が学園のヒーロー香取みう、スーパーアイドル星野きらりと共演!】って!!」
「やめてよ、恥ずかしい……。それに私の顔を使うのはいいけど、きらりちゃんの顔を勝手に使うのはダメだよ? そこはちゃんとしておかないと、あとで怒られるかもしれないから」
そう私が注意すると、彼女は渋々といった様子で頷く。まったくもう、仕方ないなぁ。
しかし、文乃ちゃん、前回の騒動以来やたらと私の事をヒーローって持ち上げてくるんだよね。嬉しいことは嬉しいんだけど、正直むず痒くってしょうがない。
ヒーロー目指してて、そういうふうに扱われることを望んでるのにいざ私をヒーローって言ってくれる子がいるとどうしていいか分からなくなっちゃうっていうかさ……。
うーん、我ながら少し我儘かな……。
そんな感じでしばらく飲み物を飲みながら雑談していた私たちだったけど、頃合いを見計らい私は席を立つ。
「みう、どこ行くんだ? 勝手に動き回るなって言われてるだろ?」
そう言って私を引き留めるのは案の定翔くんだ、さて、どうしよう……。きらりちゃんの楽屋に呼ばれてるから行ってくるわなんて言えるわけがないしなぁ……。
まあでもここは適当に誤魔化すしかないか……。
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくるね!」
私はそう言うとそそくさとその場から立ち去るのだった……。
「えっと、こっちでいいのかな?」
私は渡されていた局内の地図を見ながらきらりちゃんの楽屋を目指す。その足取りはどこか重い。
アイドルの楽屋にお邪魔することへのドキドキもあるのだけど、それ以上に私ときらりちゃんの間でシックザールクリスタルの話がどう展開されるのかという不安が大きかったりするわけで……。
「困ります、いきなり来られても、星野があなたのような方に会うことはありません。取材でしたらまず事務所を通してアポイントメントをお取りください」
「そんなこと言わずにお話を聞かせてくださいよ……」
きらりちゃんの楽屋近くまでやって来た私は、聞こえてきた言い争うような声に思わずさっと身を隠しそちらを伺った。
見ると、きらりちゃんの楽屋の前で、一人の男が女性――確かきらりちゃんのマネージャーだったはず――と押し問答を繰り広げていた。
ん、ん、んんん!? あ、あの人、確かこの間の騒動で私にシャイニーフェニックスの話を聞きたいとかで学校にまでやって来た記者さんだ!
名前は……そう、岸谷だ。『週刊ギガック』とかいうあんまり聞いたことのない雑誌の編集者だとか言ってたっけ?
アポも取らずにアイドルに突撃取材をかましてるなんて、私の時も思ったけどかなり非常識な人だ……。
ともかく、その後しばらく――と言っても2~3分程度だけど――不毛なやり取りが続いていたのだけど、岸谷さんは、「わかりましたよ、出直しますよ」と吐き捨てるように言うと、その場を後にした。その後ろ姿を見送った後、ほっと安堵のため息を吐くきらりちゃんのマネージャーさん、そして、楽屋へと入って行こうとする彼女に私は声を掛けた。
「あ、あのっ!」
「あら? あなたは、確か、さっき代役でドラマに出演した見学に来てる子ね?」
「は、はいそうです」
「話は聞いてるわ。きらりと何か話があるそうね、ささ、入って頂戴」
そう言って私を招き入れてくれるマネージャーさん。私はぺこりと頭を下げるとその部屋に入ったのだった……。
「来たわね、みうちゃん。待ってたわ」
部屋の中央、きらりちゃんはそこにデンと座りながら私を待っていたようだった……。
私はゴクリと唾を飲み込む。なんというか、今のきらりちゃんにはアイドルとしてではなく、一人の人間としての凄みを感じるのだ。思わず気圧されそうになるが、それでもなんとか自分を奮い立たせる。
「すいません、少しだけ、席を外して貰えますか?」
きらりちゃんは、扉を閉めようとしたマネージャーさんに向かって言った。
「私が聞いてると困る話? まあ、いっか。それじゃ話が終わったらスマホででも呼んで頂戴」
そう言うとマネージャーさんは部屋を出て行った。部屋には私ときらりちゃんの二人きりになった……。
しばらくの沈黙の後、ようやく決心がついたのか、きらりちゃんは口を開く。
「……さて、まどろっこしい話は苦手だから、単刀直入に聞くわね。あなた、どこまで知ってるの?」
「……どういう意味?」
「とぼけないで、あなたはこれの秘密を探りに来た、違う?」
そう言ってきらりちゃんは、胸元のペンダントについている水晶――シックザールクリスタルをちょんちょんと指先でつついたのだった。
流石スーパーアイドル、勘の良さも人並み以上だね。それに彼女にとってシックザールクリスタルの秘密は命と同じくらい大切なものだものね……。そりゃ必死にもなるか……。
私がどう言おうか迷っていると、きらりちゃんはさらに言葉を続ける。
「この水晶の力で自分の運命を変えたあの日から、いつか、こんな日が来ると思っていた。あなたみたいな人が現れ、これについての話をしなければならない日が来るとね。しかし、あなたは何者なの? 悪魔? 天使? それとも宇宙人? 人の運命を操る魔法使いかしら?」
そう問いかけてくるきらりちゃんに、私は小さく首を振って答える。
「そのどれでもないよ、私はれっきとした人間でただの地球人、だけど、普通の人とは違うところがある。それはその水晶の正体について知っているという事」
私の言葉にきらりちゃんの表情が険しくなるのがわかった。そして彼女は立ち上がると私の前までやってきて言ったのだ。
「……それをどこで知ったのかしら」
その声は先程までとは違い冷たい響きを帯びていた。まるで別人のような雰囲気すら感じられる。そんな彼女の様子に気圧されながらも、私はなんとか言葉を返すのだった……。
「詳しく教えることはできないけど、私はある時知ってしまったの、どんな願いでも叶える不思議な水晶、シックザールクリスタルの存在を。そして、私はきらりちゃんが持ってるその水晶がそうなんじゃないかと考えた。それを確かめるために今日はここにやって来たのよ。まさか、役者さんの代役させられるとは思わなかったけどね……」
「なるほどね……それで、あなたはどうする気なの? この水晶をあたしから取り上げて、元の何の取り柄もない惨めな女の子に戻すつもり?」
そう言って睨みつけてくるきらりちゃんに、私は首を振って答えた。
「そんな事をするつもりはないよ! ただ、あなたに警告をしに来たの」
「警告?」
「そう、そのクリスタルを狙ってる奴らがいる。ギーガーク帝国って言ってね、宇宙を支配しようと企む悪の帝国なのだけど、それを成すためにそのシックザールクリスタルを集めているみたいなんだ」
私はきらりちゃんの胸元で光る水晶を指差しながらそう言った。
「ギーガーク帝国……。宇宙を支配……? とても信じられない話だけど、この水晶はあたしを瞬く間にトップアイドルの座にまで押し上げてくれた……そんな力を持ったこの水晶に、それだけの力があっても不思議じゃないわね……」
そう言うと彼女は再び水晶に視線を落としたのだった……。
「……つまり、あなたはこう言いたいわけね。この水晶を持っていれば、いずれそいつらに狙われる。そして、おそらくは殺される……と」
私の話を聞いた後、しばらく考え込んでいた彼女はやがて口を開くと言ったのだった。その言葉に私が頷くと、さらに言葉を続ける彼女。
「……それで? あなたはあたしにどうして欲しいのかしら?」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず口籠ってしまう。
彼女からクリスタルを取り上げるのかという質問にさっき私はNOと答えた。
クリスタルを手に入れる前の彼女がどうだったかは知らないけど、私は今のきらりちゃんの生活を壊したいとは思わないからだ。
だけど、ギーガーク帝国にクリスタルを渡さず、彼女を守る一番の方法があるとしたら、それは彼女からクリスタルを譲り受け壊すか保管するかだ。
でも、それは、要するにクリスタルを奪い、きらりちゃんをその力の影響下から解放し、彼女曰くの“何の取り柄もない惨めな女の子”に戻すということに他ならなかった。
「嫌よ……!」
私の考えが伝わってしまったのか、きらりちゃんは、両手で胸元の水晶を包み込むようにしながら私を睨みつける。
「これは誰にも渡さない……。あなたにも、もちろんギーガーク帝国とか言う奴らにもね……! せっかく、せっかくここまで来たのよ! あの、誰からも愛されてなかった醜い豚でしかなかったこのあたしが! 今じゃトップアイドルなのよ!? そんなあたしを形作るこの水晶を渡すなんてできるわけないじゃない!」
そう叫ぶ彼女の目には涙が浮かんでいた……。そんな彼女の姿に胸が締め付けられるような感覚を覚える……。
きっと彼女は今までずっと辛い思いをしてきたんだろう、そんな時、シックザールクリスタルを手に入れ、誰からも愛される存在になることを願ったんだ……。
そして実際に彼女はその願い通りになった。
私はきらりちゃんがシックザールクリスタルの力で作られた言わばドーピングトップアイドルだと知った時、正直彼女を軽蔑した。
そんな水晶の力に頼ってアイドルになって何が嬉しいのと本気で思ったのだ。
でも、それは違った、彼女がそうしたのは、今までの辛い自分を捨て去り、新しい自分に生まれ変わるためだったのだ。
今まで辛い思いをしてきた彼女には、その分だけ幸せになる権利があるはず、たとえそれが偽りのものだったとしても……。
だから、私には彼女を止めることはできない、いや、しちゃいけないと思ったのだった。
「あたしはこの力を使って、もっともっと輝くの! もう誰にも馬鹿にされない! 誰もあたしに逆らえない! だって、この力であたしはスターになれるんだから! この力を手放すなんて絶対に嫌よ!」
そう言って泣き崩れる彼女にかける言葉が見つからない……。
……出来ない……出来るわけないよ……こんな彼女から無理やりクリスタルを奪うことなんて私にはできないよ……だって私はシャイニーフェニックスなんだもの……。正義の味方シャイニーフェニックスは……誰かを守るために戦うべきなんだよ……!! たとえ偽りだろうとも、私は彼女の夢を守りたい!! 私は覚悟を決めると、きらりちゃんに向かって言ったのだった。
「わかったよ……。ごめん、あなたを苦しめるような話をして……。だけど、知っておいて欲しかった。その力は本当に危険だし、ギーガーク帝国を引き寄せる原因にもなるかもしれないってこと……」
私がそう言うと彼女は黙って俯いてしまった……。そんな彼女に私は続けて言う。
「……でも安心して? あなたの事は私が守るわ……! あなたがこれ以上苦しまなくていいようにね」
私の言葉にきらりちゃんがハッと顔を上げてこちらを見る。そして、彼女が口を開き何事か言葉を発しようとしたその時……。
「大きく出たな小娘! まるでシャイニーフェニックスみたいな言い草じゃないか、えぇ? ミケホームズのアホタレが勘違いするのも頷けるな」
言葉と同時に、ガシャーンと大きな音を立てて窓ガラスが割れる音がしたかと思うと、そこから一人の男が飛び込んできたのだ! 彼はそのまま空中で回転しながら私達の近くに着地すると言ったのだった。
「だが、残念だったな、その言葉はすぐに偽りへと変わる。何故なら貴様はここで死ぬからだ!」
え、え、ええええっ!? 私はその男の顔を見て驚愕する、それはなんとさっき楽屋の前から追い返されたあの岸谷という雑誌記者を名乗る男だったのだ。
なんでこいつが……? いや、さっきこいつはミケホームズの名前を出していた、まるで仲間かのように……つまりこいつは……。
「あなた、ギーガーク帝国の一員なの!?」
「えっ!?」
私の後ろで突然の展開に腰を抜かしているきらりちゃんが驚きの声を上げる中、私は目の前の男にそう問いかけた。すると男は両手を広げ高笑いしながら言ったのだった。
「その通り! 俺はギーガーク帝国諜報部のデバッガーメ! 普段は雑誌記者岸谷として地球の諜報活動を行っているのだ、この間貴様の元を訪れたのもシャイニーフェニックス疑惑を聞きつけたからよ!」
な、なるほど……。私ってば、知らないうちにギーガーク帝国の怪人と大接近してたんだね……。
危なかった……。って、今はそれ以上に危ない状態に追い込まれてるんだけどね……。だって、今この部屋には私と、そして目の前にいる怪人デバッガーメを名乗る男と、その後ろにいるきらりちゃんしかいないんだもん……。この状況、どう考えても絶体絶命だよね……。
「帰ったふりをして、楽屋裏に回り込んだ甲斐があったぜ、話はしっかりと聞かせてもらった。お嬢ちゃん、その水晶俺が貰っていくぞ」
そう言って怪人はきらりちゃんに手を伸ばす。私は慌てて彼女の腕を取ると庇うように前に出て叫んだのだった……!
「させない!! この子には指一本触れさせないよ!!」
しかしそんな私を嘲笑うかのようにそいつは言った。
「はっはっは、貴様に何が出来る!! シャイニーフェニックスの関係者なら知ってるだろう? 怪人の強さを」
その言葉に私はつうっと冷や汗を流す。だけど、奴の背後に目をやった時に視界に入ってきたあるものを見て私は自分の口元がニヤリと歪むのが分かった……。
「さあ、何が出来るのか、お楽しみだね……」
私が言った瞬間、部屋の中を突如発生した煙が包み込む。
「な、なんだこれは!? 火事か!?」
「え? え? え?」
怪人ときらりちゃんの戸惑いの声が響く中、私は鼻先すら見えない煙の中でポーズを取り叫んだ。
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