第37話 スーパーアイドルとお話ししちゃいました!
「少しだけサイズが大きいけど、これならすぐに調整できそうですね」
用意された衣装に袖を通す私にスタッフさんがそう言って微笑む。確かにちょっと大きいけど、これなら裾上げをする程度で済むかな?
私は衣装の調整の作業をされながら、渡された台本に目を通す。
私が代役を務めることになってしまったのは、きらりちゃん演じる主人公の女の子の過去の回想シーンで登場するいじめられっ子の女の子の役だ。
その子が登場するのは、主人公のキャラクターを際立たせるための大事な場面だった……。
その子がいじめられているところにきらりちゃんが通りがかり、「助けて」とその子が叫ぶんだけど、きらりちゃんは一度それを無視してしまう。
しかし、きらりちゃんは勇気を振り絞り彼女を助けに入り、その子はきらりちゃんにお礼を言って去っていくというのがその場面の概要だ。
って、これ大丈夫なの……? 確かにセリフはたった二言、「助けて」と「ありがとう」だけだし、いじめシーンでは小突いたりしてくるいじめっ子役の役者さんのされるがままになってればいいだけだから簡単なお仕事だけどさ! 役としてはかなり重要だと思うんだけど、そんなのを素人の私にやらせるなんてどうかしてるよ!! でも、もうここまで来ちゃった以上やるしかないよね……! それにこれはチャンスなんだ……!! きらりちゃんと大接近できるということなんだから!!
しかし……台本見て思ったんだけど、もしかして私が選ばれたのって、いじめられっ子役として違和感がないのが私だけだったからなんじゃ……。
智子も好美ちゃんも文乃ちゃんもどっちかと言えば活動的かつ、自己主張の激しいタイプだしなぁ~。
うう、ヒーローを目指す私がいじめられっ子役が適役だなんてあんまりだよぅ~! 同じ役者をやるにしても、ヒーロー役の方が良かったのにぃ~~!!!
そんなことを考えつつも私はスタッフさんに言われるままに衣装に着替えると、早速撮影現場へと移動するのだった……。
「緊張してるの? まあ、当然よね。でも大丈夫よ、あなたは自然体でいてくれればいいのだから」
セットの片隅で出番を待つ私に、背後から声が掛けられる。
こ、この声、まさか……!
恐る恐る振り返るとそこにはなんと! このドラマの主演にして人気アイドル、そして私がここに来た目的であるところの星野きらりちゃんがいた……!!
「あ、あわわわわ……」
この展開を期待していたとは言え、いざ目の前に現れるとその破壊力は凄まじかった……。
(き、キラキラしてるぅ~!!)
そんな私の心情など知る由もなく、彼女はそのまま言葉を続けるのだった。
「それにしても、災難だったわね。見学に来ただけなのに、役者が来られないってハプニングと監督さんの思い付きのせいで代役なんてやらされる羽目になっちゃってさ」
そう言って苦笑する彼女に対して私は慌てて返事をする。
「い、いえそんな……! わたくしのような若輩者がきらりちゃん……きらり様と共演できるなんて光栄の極みでございまする……!!」
パニックのあまりわけのわからない口調になってしまった! でも仕方ないよね!? だって目の前にあのきらりちゃんがいるんだもん……!! あ~~もうどうしよう……! 緊張しすぎて心臓が爆発しそうだよ……!! 顔が熱い……きっと今私の顔は真っ赤になってなってるんだろうなぁ……。
きらりちゃんはそんな私の様子にきょとんとした表情を浮かべていたけど、やがてクスッと笑うと、「あなたって、面白い子ね。なんだか見ていて飽きないわ」と言って微笑んだ。
ああ~その笑顔も素敵すぎるぅ~! もうダメぇ!! これ以上は私の心臓が持たないよぉ……!!
「あ、ありがとうございます……」
なんとかそれだけ返すと、きらりちゃんは頷き返し、私の横に並んだのだった。
どうやら、ここで出番を待つようだ。ちょっと待ってよ、このままじゃ私緊張で爆発するかも!!
「香取みうちゃん、だったっけ? あなた、年齢はいくつ?」
「え!? あ、はい! 12歳です!」
突然の質問に慌てて答える。すると彼女はニッコリと笑って言った。
「そっかぁ……じゃあ私より2歳年下なんだ。小学6年生?」
「い、いえ、中一です。誕生日11月なんで……」
「なるほどなるほど、学年的には一つしか違わないのね」
そう言ってうんうんと首を縦に振るきらりちゃんはなんだかすごく楽し気だ。もしかして、普段から大人に囲まれてお仕事をしているから、同年代の子と喋る機会が少ないのかな……?
そんな事を考えつつも、私は今そこ最大の好機だと思った。というか、この機を逃したら、きらりちゃんへの接近はもう二度と出来ないかもしれない。
私は今回最大の目的、シックザールクリスタルの話を聞くべく慎重に言葉を選びつつ口を開いた。
「だけど、凄いです……私と同年代なのに、芸能界で活躍されてて、それだけじゃなくてデビューからたった1年ばかりで一気にトップアイドルになられて……!」
「え? あ、あはは! いや~それほどでもないわよ!」
私の称賛の言葉に彼女は照れたように笑いながら頭を掻く仕草を見せる。その動作すら可愛らしく見えてしまうのだから本当に美少女というのは恐ろしいものだ。
しかし、ふと彼女の表情が曇る。
「本当に、それほどでもないのよ……。あたしは元々勉強も運動も何もかも駄目で、おまけに地味で目立たない存在だったし……」
そう言って自嘲気味に笑う彼女の表情はどこか寂しげだった。そんな彼女を見て思わず胸が締め付けられるような気持ちになる。
「そ、そうなんですか。今のきらりちゃん……きらりさんからは想像も出来ませんよ」
「ふふ、きらりって呼び捨てでいいわよ。敬語もいらない、せっかく知り合えた同年代の女の子なんだから仲良くしましょう?」
「あ、ありがとう、ございます。じゃなくて、ありがとう。でも、呼び捨てはちょっと……だから、きらりちゃんって呼ばせてもらってもいい……?」
私が恐る恐る尋ねると彼女はニッコリと笑って頷いたのだった。
「ところで、さっきの話なのだけど……」
きらりちゃんとの仲が一歩進展した喜びに浮かれながらも、私は再び慎重に口を開く。
「ん?」
「元々運動も勉強も出来なかったって言うきらりちゃんが、ここまでの実力を得るためには、相当の努力をしたんでしょうね……」
ピクッと、一瞬きらりちゃんの眉が動いたような気がしたが、気のせいだろうか?
「んー……まあね……」
答えながら、きらりちゃんは胸元のペンダント、シックザールクリスタルに指を這わせる。
やっぱり、これって……。
「そのペンダントにくっ付いてる水晶、綺麗だね。パワーストーンって言う奴? きらりちゃんの大躍進の理由は、才能や努力だけじゃなく、それのご利益もあるのかな……?」
私がそう言うと彼女はハッとした表情でペンダントから指を離す。まるで、急にそれが熱を宿したかのような仕草だった。
そして、彼女は私の瞳を見据えると、小さく低い声で言った。
「あなた、まさか気づいてるの……?」
「な、なにが……?」
私は誤魔化すように首を傾げるが、彼女の目は真剣そのもので私を捉えて離さない。私は思わず視線を逸らしてしまうが、それでもなお彼女からの圧を感じずにはいられなかった。
「……誤魔化さないで、おかしいじゃない。何故いきなりこの水晶の話をしだしたのよ?」
そう言って彼女が一歩詰め寄ってくるので私もまた一歩後退する。しかし、その時。
「星野きらりさん、香取みうさん、出番ですよ~!」
呼びかけられ、私ときらりちゃんはハッとそちらに顔を向ける、見るとすでに他の役者さんたちはスタンバっていた。
「……とりあえず今は撮影に集中しましょう。あたしの楽屋に入れるようスタッフさんに話を通しておくわ、後でそこに来てちょうだいね!」
それだけ言うと彼女は自分の持ち場へと歩いて行くのだった。
「ふうう、緊張したあぁぁ」
「みう、なかなかやるなお前、芝居の才能あるんじゃないか?」
私の出演シーンの撮影が無事終わり、額を拭いながら息を吐く私に、翔くんが声を掛けてくる。
「全然……5回もNG出しちゃったし、他のプロの役者さんの手助けがあったから何とかなっただけだよ……」
実際きらりちゃんを始めとするプロの役者と言うのは凄いもので、私はただ流れに身を任せるまま、言われるままに動いていただけだったのだが、それでもなんとか形になってしまったのだ。
私が褒められることなんて何もないと力なく首を振るが、彼はそれでも褒めてくれていた。それがなんだか嬉しくて思わず笑みがこぼれてしまう。
「でも、これをきっかけに、もしかしたらみうの芸能界への道が開かれるかもね? 今のうちにサインとか貰っとこうかしら?」
「やめてよ、もうっ!」
冗談めかして言ってくる智子に返しつつ、私は次のシーンの撮影に入っているきらりちゃんに視線を向ける。
さっきのあの反応。きらりちゃんは間違いなく自分の持ってる水晶が特別な力を持ってると知ってる……。それのおかげでトップアイドルになれたって自覚があるんだ……
そして、それの秘密を探ろうとする相手に対して恐怖心を抱いている……。秘密がバレたら、アイドルとしての地位を追われると思っているから……。
だからあんなにも警戒していたんだ……。私はそう確信し、この後彼女の楽屋で繰り広げられるであろうやり取りを想像し、思わず身震いしてしまうのだった……。
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