第36話 え! 嘘!? まさかの役者デビュー!?
日曜日、今日は待ちに待ったテレビ局に行く日だ。
私はワクワクを抑えきれないまま急いで朝食を食べるとそのまま家を後にする。
「みうちゃん、あんまりはしゃぎ過ぎないようにね。きらりちゃんに会いに行くのはシャイニーフェニックスとしての任務のためでもあるんだからさ」
私に並走するように飛びながら、ルビィが言ってくる。
今回は彼も一緒なのだ。といっても、彼は皆にはバレないよう少し離れた上空からついてくることになっている。
「うん、わかってるよ、ルビィ」
そう答えつつも、私の足はどんどん速くなっていく。そんな私を見て、やれやれといった様子でため息をつく彼だった。
「おせぇぞ、みう。相変わらず時間にルーズな奴だ」
「なによ、遅刻はしなかったでしょ」
待ち合わせ場所である学校前にやって来た私とそんなやり取りを繰り広げるのはおなじみ幼馴染の翔くん。
須根くん主催のこの『ドラマ撮影現場見学ツアー』には結局10人ほどが参加することになった。
その中には、翔くんや智子、中川好美ちゃんと言った私と仲のいい子たちも参加していた。
そして、その中に一人だけ別のクラスから参加する意外な人物の姿が……。
「ドラマ撮影現場にお邪魔できるなんてめったにない機会だわ! しっかりと取材して、いい記事を書くわよ!」
そう言って鼻息荒く気合を入れているのは、新聞部の新部文乃ちゃんだ。
この間の私の正体バレ騒動以来、彼女とはちょくちょく話すようになり友達と呼べる間柄になったのだけど、私が今度ドラマ撮影現場見学に行くということをポロッと漏らしたところ一緒に行きたいと言い出したのだ。
私はいいのかな? と思ったんだけど、須根くんに尋ねたところ女の子の参加者が増えるのは大歓迎ということであっさりと許可してくれたのだった。
しばらくして、プップーというクラクションの音が聞こえてくると、私たちの目の前に一台のバスが停車し、須根くんが顔を出した。
当初は須根くんはリムジンで私たちを送迎するつもりだったみたいだけど、参加人数が増えたことでバスを一台貸し切りそれで行くことになったのだ。
流石はお金持ち、スケールが違うわ……。
そんなことを考えているうちにバスのドアが開き、私たちは順番に乗り込んでいくことになった。
そして、最後に乗車した私は運転手さんに挨拶して座席に座る。
チラリと窓の外に視線を向けると、ルビィの姿が見えた。おそらく彼はバスの屋根に飛び乗りそこで待機するつもりなのだろう。
私の視線に気づいたのか、彼はこちらを向いて軽く翼を振ってくる。私もそれに応えるように小さく手を振り返したのだった。
「ん? みう、誰か見送りにでも来てるのか?」
隣から翔くんが身を乗り出して窓の外に視線をやりつつ尋ねてくる。
私は、「ん? いや、別にそういうわけじゃないんだけど」と曖昧な言葉で誤魔化し口笛を吹くのだった。
しかし、翔くんってば、当然のように私の隣に座ってこないでよね……。まぁ、席は自由なんだから仕方ないんだけどさ……。
「ところでさぁ、翔くんはどうしてついて来る気になったの? 翔くんってアイドルとかあんまり興味ないタイプだし、ドラマの撮影現場なんて見ても面白くないと思うんだけど……」
バスに揺られながら隣の彼に尋ねてみることにする私。
彼は少し考える素振りを見せた後で答えてくれた。
「いや……なんつーかさ……ほら……あれだよ……えっと、お前は警戒心薄いから須根の奴に騙されてるんじゃないかって心配になってな! だからオレが監視してやろうと思ったんだよ!」
そう言ってそっぽを向く彼だったが、その頬は少し赤くなっているように見えた。どうやら彼は私のことを心配してついてきてくれたらしいのだ。
まったく、相変わらず私の事を幼稚園児か何かと勘違いしてんじゃないかしら……。
彼の心配性っぷりに呆れつつ、子ども扱いに腹を立てつつ、私は口元が緩むのを抑えきれなかった。だって、彼が私を心配してくれているのが嬉しかったんだもん。
ああ、我ながら単純、これだから翔くん私への子ども扱いが止まないのよねぇ……。
そんな感じで和気あいあいと過ごしつつ、バスに揺られること30分ほど。私たちは『テレビ夕日』というテレビ局に到着したのだった。
須根くんがバスの中で渡してくれた許可証を首からぶら下げ、私たちはぞろぞろとテレビ局の入り口に向かって歩いて行く。
須根くんが警備員さんに、「どうもー、今日はよろしくお願いします」と言って挨拶すると、その方はにこやかに笑って返してくれた。どうやら顔見知りのようだ。流石はお金持ちね……。
「あああああああ!!!」
建物に入った途端、私は視界に飛び込んできたあるものに興奮のあまり大絶叫を上げだ!
そうだ、ここはテレビ夕日、テレビ夕日と言えばアレが放送されてる局だ、だからこれがここにあるのは当然の話だったのだ!
私は周りが制止する声も聞かず、一直線にそれに向かって走り寄るとスリスリと頬を摺り寄せる。
「ああ、仮面ファイター……」
それは、大好きな特撮ヒーロー番組仮面ファイター……正確に言うなら今やってる『仮面ファイターガチヤロウ』の番専用の等身大パネルだった。
ああ、やっぱりカッコイイなぁ~♡
「まったく、あんたは相変わらずねぇ……」
「仕方ないよ、智子ちゃん。これが『超ヒーローオタク』香取みうちゃんだもん」
智子と好美ちゃんの呆れたような声が背後から聞こえてくるが私はそれを無視してパネルにへばりつくのだった……だって……こんな機会滅多にないんだもん!
ともかく、こんな感じで『見学ツアー』は幕を開けたのだ。
「いやはや、お恥ずかしい姿をお見せしました……」
そう言って頭の後ろに手をやる私にみんなは苦笑していた。うう~ん、流石にはしゃぎすぎちゃったかなぁ……? いやでもしょうがないよね? 憧れの仮面ファイターの等身大パネルなんて見たら誰だって興奮するでしょ!? そんな言い訳を心の中でしつつ私がみんなと共にしばらくロビーで待っていると、やがて奥の方から一人の女性が姿を表した。
「あなたたちが、今日やってくる予定だって見学者一行ね? 局内の案内はこの私が担当させてもらうわ、よろしくね」
女性の言葉に、私たちは「よろしくお願いしま~す!」と元気よく挨拶を返す。
「特別な場所で興奮するのもわかるけど、あまりうるさくしたり、勝手にどこかに行ったりしないように注意してね」
そう言って彼女は私にチラッと視線を向ける。ううっ、さっきのことで『この子には要注意だ』と認識されてしまったみたいだ……ごめんなさい、もうしません……!
ともかく、私たちは歩き出した女性に先導される形でテレビ局の中を見学することになったのだった!
「あっ、あの人! 人気芸人の……!」
「しーっ!」
通路でいきなり遭遇した有名人に思わず大きな声を出しそうになる智子、私はさっきの自分の二の舞にならないように慌てて彼女の口を塞ぐ。
そんな私たちを見て女性は呆れたようにため息を吐いた後、苦笑しながら口を開いた。
「まだ歩き始めたばかりだというのに、こんなことでいちいち驚いてたら身が持たないわよ? これから行くスタジオの中ではさっきの芸人さんと同じかそれ以上に有名な人たちが大勢いるんですからね?」
その言葉に私と智子はゴクリと唾を飲み込むとお互いに顔を見合わせる。そして覚悟を決めたように頷くと再び女性の後に続いて歩き出す。そうしてしばらく歩いていくとやがて廊下の突き当たりに大きな扉が見えてきた。
「さあ、ここが撮影スタジオよ、今は新作ドラマの撮影中だから邪魔しないように静かにね」
そう言って彼女は扉をゆっくりと開けると中に入っていくので私達もそれに続くように中に入る……するとそこにはたくさんのスタッフさんたちがいて忙しそうに動き回っていた! その迫力ある光景に圧倒されていると女性はそのまま奥へと進んでいくので私達はその後をついていくことにしたのだった……!
そして、私たちはスタジオの片隅で撮影風景を見学することになった。
セットの中では私も知っている有名な役者さんが迫真の演技をしている。私はググっと拳を握りしめてその光景に見入っていたのだけど、ハッと我に返った。
そうだ、興奮で私は自分がなぜここに来たのかをすっかり忘れてたよ……!
私はキョロキョロと周囲を見回す……と、いた!
セットの外、椅子に座り台本を読んでる私と同年代の美少女。アイドルの星野きらりちゃんだ!
彼女の胸には、シックザールクリスタルが付いたペンダントが輝いている……!
やった! 目論見通りきらりちゃんを目と鼻の先に捉えるところまでは来れたよ。後はどうにかして彼女に近づき、シックザールクリスタルの話を聞ければ……!!
だけど、それがまた難しそうな気がするなぁ……。さっき釘を刺された以上あんまり勝手なことは出来ないし、いくら許可を得て見学している立場とはいえ、気軽にタレントさんに話しかけるのは止められそうな雰囲気だもんねぇ……。うーん、どうすれば良いんだろう……? そんなことを考えているうちに撮影はどんどん進んでいき、とあるシーンの撮影になった時、急にスタジオが慌ただしくなった。
「なにっ? 役者が来てない!?」
「はい、どうやら交通事故に巻き込まれてしまったらしく、怪我は大したことはないらしいんですが……」
スタッフさんたちのそんな会話が耳に入ってくる。なんと出演予定の役者さんが事故に巻き込まれて出られなくなってしまったみたい! それってかなりマズい状況なんじゃ!? だって今日撮る予定なのはドラマの中でも重要な場面みたいだし、その代役を探すだけでも大変そうだもんね……。どうなるんだろう……?
「撮影も押してるし、予定をずらすわけにはいかんしなぁ、さてどうするか……」
監督さんは頬をポリポリと掻きながら、周囲を見回す。そして、彼はスタジオの片隅で見学している私たちに目を留めた。
「おい、あの子たちは確か撮影現場の見学に来た子たちだったな?」
監督は近くにいた撮影助手さんに声を掛けると何やらヒソヒソと話し始める。
「ええ? そ、それはまずいんじゃ……」
「いいや、俺の直感が告げている、むしろこれはチャンスだと……! よし、あの子に手伝ってもらおう!」
そう言ってニヤリと笑うと、監督は私たちの方に向かって歩いてきたのだった! え!? もしかして、今の会話って、私たちの誰かを役者さんの代役としてドラマに出す相談だったの!? それ無茶苦茶にも程があるよ!! そんな私の内心など知る由もなく、監督はニコニコしながらこちらに近づいてくる……。
「あ、あの~?」
須根くんが恐る恐る監督さんに声を掛ける。そんな彼を半ば無視するかのように監督さんは私の前まで来ると、まっすぐこちらを見据えて言った。
「君……名前は?」
「えっ……? あ、はい、私は香取みうです……!」
いきなり話しかけられてビックリしたけど、とりあえず聞かれたことに答える私。すると彼は満足そうに頷いてから言葉を続ける。
「そうか、君、来れなくなった役者の代わりにドラマに出てくれないか? いやなに、そんな難しいもんじゃない、セリフもたった二言だけだしね」
え!? そんな無茶な!! そんなの無理に決まってるよ!! だって私演技なんてやったことないし!! というかそもそもなんで私が代役に選ばれるわけ!? 私より美形の智子や好美ちゃん、文乃ちゃんなんかもこの場にはいるんだよ!? そんな子たちを差し置いてどうして私が選ばれたのか全く分からないよ!!
「そんなのむ……」
「すごーい!! みう、あんたとんでもないチャンスを掴んだわね!!」
断ろうとした私の言葉を遮るように突然大声を上げたのは智子だった! そんな彼女に続いて今度は翔くんが興奮した様子で口を開く。
「まさか、みうが代役に選ばれるなんてなぁ、お前の何が監督さんの心を掴んだのかわからねぇけど、これは凄い事だぞ!」
翔くんはそう言って目を輝かせながら私の手を取る。そして彼はそのままブンブンと上下に振り始めたのだった……ってちょっと痛いってばぁ~!
「あいたたっ……! もう翔くんったら……」
さらに、その場にいたみんなが口々に言う。
「すごいよ~みうみう!」
「やるじゃん♪」
「頑張ってね~!」
みんなからの声援を受けて私は思わず、「う、うん……頑張るよ……」なんて答えてしまうのだった! そんな私の肩をポンと叩く監督さん。そして彼はスタッフを呼びつけると、私を楽屋へと案内させるのだった……。
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