第31話 新部さんに怪人、追い詰められる私です!
私――新部文乃は焦っていた……。
あのシャイニーフェニックスの正体についてのスクープ記事を出してから一週間、一向に香取みうの尻尾を掴むことが出来ずにいるからだ。
私は当初、彼女がシャイニーフェニックスである証拠を掴むのは比較的容易いことだと考えていた。しかし、あれだけ目を光らせて監視し続けたというのに彼女がシャイニーフェニックスとしての本性を現すことなど全くなかった。
それどころか、観察すればするほど香取みうのドジっぷり、低スペックぶりが浮き彫りになり、シャイニーフェニックスでない証拠を積み重ねられているような状況であった。
だが、それで私が香取みうがシャイニーフェニックスであるという疑惑を消したのかというとそうではない。香取みうの観察を続けることで私はあることに気が付いたからである。
それは、香取みうという少女の心根の優しさと強さだ。彼女はヒーローマニアである、それはこの学園の多くの人が知っている。しかし、私はそれをただの道楽だと決めつけていたのだけれど、どうやらそうではなかったらしいのだ。
彼女は極めて強い正義の心を持っている。困っている人を放っておけず、悪い事には毅然と立ち向かう、身体的に劣っているにもかかわらず、正しく強くあろうと頑張っている、そんな少女なのだ。
(弱さに関しては説明なんていくらでも出来るわ……。だけどね、隠せないものがある、それは心よ! 香取みう、あなたは間違いなくシャイニーフェニックスの正体に相応しい心の輝きがある!!)
だからこそ、私の勘は絶対に間違っていないと確信しているのだ。
(……そんな子だから、氷川くんも好きになるのよね……)
ふと、私の頭にそんな思いが過る……。
幼馴染だから、昔から一緒にいたから。氷川くんが香取みうに向ける想いはそんなふうに形成されたものだと私は思っていた。あのハイスペックな氷川くんがあんなドジ娘に惹かれる理由なんてそれが全てだろうと。
だけど、それだけじゃなかった。氷川くんは香取みうのその優しさと強さを好きになったのだ。仮に香取みうが氷川くんの幼馴染じゃなかったとしても、きっと氷川くんは彼女を好きになっていたのだと思う。
……香取みうの正体を暴き出して、氷川くんから引き離そうとしている醜い私とは大違いだ……。
私は自嘲気味に笑う。
(だけど……それだけで私はシャイニーフェニックスの正体を暴こうとしているわけじゃない……!)
頭を振り私は心に再び炎を灯す。確かにそんな醜い計算はある、だが私は、新聞部として真実を知り皆に知らせたいという気持ちもちゃんとあるのだ!
そして私は今日も監視を続けていた。この一週間で香取みうについてもう一つ分かったことがある。
それは彼女は思った以上に精神的にタフだということだ。
私の記事によって香取みうがシャイニーフェニックスの正体なのではないかという話が学園中に広がり、追い詰められることで彼女が音を上げ自分から正体を晒すのではないかと思っていたのだが、その考えも甘かったようだ。
いや、確かに彼女は追い詰められていた。特に昨日(これは私も仰天したが)私の記事で雑誌記者が取材に来た時はかなり焦った様子で、もう少しで音を上げるところまで来ていた……と思う。
それが、今日になって登校してきた香取みうは昨日までとは打って変わって、妙なハイテンションで彼女に群がるシャイニーフェニックスファンたちを軽くあしらっている始末である。
これが何を意味するのかは私にはわからない、追い詰められすぎておかしくなったのか、あるいは何か秘策を考え出したのか。
もしくは……。
(本当にシャイニーフェニックスじゃないからこの騒ぎは一過性のもので終わると思っている……?)
そんな考えがふと頭をよぎる。しかしすぐに私は頭を振ってそれを振り払う。そんなわけがない! 香取みうはシャイニーフェニックスだ! 私の記事が間違っているなどあり得ない!! 他に誰がいると言うのだ、香取みう以外にシャイニーフェニックスに相応しい少女などこの学園、いや日本中どこを探しても絶対にいない!!!
(そうよね? 香取さん……!)
私は心の中で呟くと再び監視を続けるのだった……。
そして、その日の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったほとんど直後、その騒ぎは起こった。
「きゃあああああ!!」
どこからか聞こえてきた悲鳴に私はハッと顔を上げ周囲を見回す。
しかし、このクラスでは特に何も起こってはいないようだった。みんな悲鳴の出どころを確かめるかのようにキョロキョロと顔を揺らしていた。
(別の場所から聞こえたという事……? でも、限りなく近い場所から聞こえたような……)
その時、ガラッと教室の扉が開かれると、一人の生徒がこんな声を上げた。
「おい、B組にでっかい猫の怪物が現れたらしいぞ!! 例の香取みうを狙って来たんだってよ!!」
えっ!? と私はその生徒を鋭く見つめる。必死な形相の彼はどう見ても冗談で言っているようには見えなかった。
巨大な猫の怪物と言うのには心当たりがあった。少し前シャイニーフェニックスに撃退されたのをニュースで見聞きしていたのだ。
確か、探偵気取りでシャイニーフェニックスの正体を探してるふうだったとかなんとか……。
(まさか……怪人までもが私の記事を見て、それを信じ、香取さんがシャイニーフェニックスかどうかを探ろうとしているというの? そんな馬鹿な! いや、あり得るかもしれない……!)
雑誌記者が来たことからもわかるように、香取みうのシャイニーフェニックス疑惑はすでにこの学園内でのローカルなものではなくなっているのだ。いきなり乗り込んで来るなど想像だにしていなかったけれど、相手は宇宙人だ、常識なんて通用しないのだろう。
(も、もし……これでみんなが襲われたりしたら、その責任は私にあることに……)
私は恐ろしさで震え上がった。しかし、同時に悪い考えがムクムクともたげてくる。
これはチャンスなのではないだろうか……。香取みうがもし本当にシャイニーフェニックスであるならば襲われれば変身し戦うだろう。そしてそれは周囲に正体を晒すことになるのだ。そうなればもう言い逃れはできない、彼女は間違いなく自分がシャイニーフェニックスだと認めるはずだ!!
私は立ち上がり勢いよく教室を飛び出した! 素早くB組の方へと視線を向けると、ちょうど香取みうが氷川くんに手を引かれ教室から飛び出してきたところだった。
おそらく怪人から逃げようとしているのだろう。
その光景に私の心は酷くざわつく……。こんな時なのに私の視線は香取みうの手に繋がれる氷川くんの手へと注がれていた。
(暴く……! 絶対に香取みうの正体を!! そして……)
氷川くんを香取みうから引き離す……!!
「どけどけ!!」
氷川くんと香取みうは集まった生徒たちに阻まれなかなか先へと進めないようだ。今なら先回りできる!!
私は二人とは反対方向へと駆け出すとそちら側の階段から一気に1階へと降りる。そして、二人が降りて来るであろう階段を駆け上ると、その踊り場で待ち構えた! やがてバタバタと足音が聞こえてきて、ついに二人は姿を現した!
「ん……?」
氷川くんが足を止める。そんな彼の肩越しに香取みうが顔を出し、私の顔を確認すると「あ……」と小さく声を上げた。
腕を組み彼女を睨みつける私に、香取みうは、「新部さん……」と私の名を呟くのだった……。
「どうして逃げるの? 香取みう、いいえ、シャイニーフェニックス! あなたが変身して怪人を倒せばいいじゃない!」
そう叫ぶ私の言葉に、彼女はビクリと肩を震わせた……。
「新部、まだそんなこと言ってるのかよ!?」
そんな彼女を守るように氷川くんが一歩踏み出し、怒りとも呆れとも取れる表情で私を睨んできた。
うぐ……好きな人にこんな顔で見られるのは辛い……だけど、ここで引いたら真実なんて永遠にわからないままだ……! 私はグッと奥歯を噛み締めて、氷川くんを睨み返す。
「氷川くん、あなたは騙されてるのよ、この子に!」
私は香取みうを指差しながら叫ぶ。そうだ、香取みうは……シャイニーフェニックスは、幼馴染である彼にすら正体を隠しているのだ!!
「騙されてるってなんだよ……。みうはシャイニーフェニックスじゃないと言ってるんだ、オレはそれを信じることにした! それに……たとえシャイニーフェニックスだったとしてもそれを言わないのは理由があるはずなんだ!」
「理由って何よ!?」
噛みつくように言う私に氷川くんはあくまで冷静に返す。
「今日の事で分かったんだ、疑惑が出ただけで敵が襲ってくるんだぜ? もしみうが『私はシャイニーフェニックスです』なんて公言したらどうなると思う?」
それは確かにその通りだけど……! でも……!! 言い淀んでしまった私に氷川くんはさらに続ける。
「だから、シャイニーフェニックスの正体暴きなんてするべきじゃないんだ。みうが正体であっても、そうじゃなくてもな……」
言い負かされそうになる私だが、グッと拳を握りしめ反論を試みる。
「シャ、シャイニーフェニックスは宇宙人なのよ! それに普通の人にはない力を持っている! そんな子が平然と学校に入り込み生活しているのよ! そんなのおかしいじゃない!」
そうだ、そもそも正体を隠し学校に入り込んでいるから問題なのだ! 彼女が香取みうという仮面を脱ぎ捨て正体を明かしこの学園から立ち去れば問題は解決するのだ! しかし私の言葉を聞いてなお氷川くんは言う。
「シャイニーフェニックスは正義の味方だ、悪い奴じゃない、仮にみうがシャイニーフェニックスでも、学校にいて何が悪いんだ!」
「悪いわよ! シャイニーフェニックスが学校にいれば問題が起こるでしょう!! それに、正義の味方というのもどうかしらね、本当はギーガーク帝国の仲間で自作自演で私たちに取り入ろうとしているんじゃないの?」
あれ……違う……私、こんなこと言うつもりじゃないのに……シャイニーフェニックスが正義の味方であることを疑った事なんてないはずなのに……。
私の言葉に、氷川くんも、香取みうもショックを受けたような顔をしている。まさか、シャイニーフェニックスに対してこんな事を言う者がいるなんて夢にも思っていなかったのだろう。
だけど、氷川くんが香取みうを庇うのが嫌で……なんとかしてそれをやめさせたくて……。
「それに、おかしいじゃない、シャイニーフェニックスが正義の味方ならなんでこの状況で出てこないの!?」
私の口は止まってくれない。しかし、これに関しては純粋な疑問だ。もしも、シャイニーフェニックスと香取みうが別人であるならば彼女は学校に怪人が出現したというこの危機的状況でも現れないというのはおかしな話なのだ。
「そ……それは……」
氷川くんが初めて口籠る。やはり彼もそれに違和感を覚えていたのだ!
「それに聞いたわよ、香取さんの所に雑誌記者が来たらしいわね、シャイニーフェニックスは何故香取さんと自分が別人であることを主張しに出てこないの!?」
先ほどより幾分冷静になったおかげで私は理論的な思考でもって指摘することが出来た。
この指摘はかなり的を射ていたようで、氷川くん、そして香取みうも黙り込んでしまう。
「ふはは、なかなかの名推理だな、我輩の助手にしてやってもいいぞ」
その時、唐突に第三者の声が割り込んできた。それと同時に何者かの影が階段の上から私と氷川くんたちの間にドーンという音を立てながら着地する。
それは、二足歩行の巨大な猫の怪物だった!!
し、しまった……。元はと言えばこいつが学園に乗り込んできたからこんな事になっているのだ! こんなところで足を止めて話し込んでいたせいでこいつに追いつかれてしまったのだ!!
「あ、あう……」
私はペタンと地面に座り込み、うめき声を上げる。ニュースで画面越しに見た時は可愛らしい猫ちゃんだと思ったが実物は全然可愛くない! いやむしろ怖いよ、だって目が血走ってるもん、口から牙が覗いているもの、全身毛むくじゃらだもん、こんなのが目の前にいたら誰だって腰を抜かすに決まっているじゃないか……!
だがそんな私の恐怖などお構いなしにその巨大生物はゆっくりとこちらに近づいてくる。そして懐に手を入れるとそこから一枚の紙を取り出し私の前に突きつけた。
「ふふふ、君がこの記事の製作者だね? おかげでシャイニーフェニックスの正体にたどり着けたよ、ありがとう」
こいつが取り出したのは私の書いた記事が載る学校新聞の切り抜きだったのだ。
ギリッと私は奥歯を噛みしめる。ありがとうですって……!? 私はあんたなんかのためにあの記事を書いたわけじゃないわよ!!
「あ、あんたなんかに、お礼を言われる筋合いなんてないわよ!!」
私がそう叫ぶとそいつはニヤリと笑って言った。
「いやいや、なかなかいい仕事をしてくれたよ、礼として我が帝国に連れ帰り、改造し私の助手として使ってあげよう」
な、なんですって……!? 怪人の助手なんてのだけでもごめんこうむりたいのに改造までされるっていうの!? そんなの絶対に嫌だ!
だけど、私の口からは反論の言葉も出てこない。恐怖で口が回らないのだ。
「新部を離せよ、猫野郎!!」
その時、怪人の登場にショックを受けていた氷川くんが我に返ったのかそう叫びながら、怪人の背中に蹴りをぶちかました!
ああ、氷川くん……あなたはこんな私でも助けてくれるんだ……! そう思うとなんだか嬉しくなってきちゃう……! しかし、そのキックを受けたはずの怪人は全くダメージを受けた様子もなく平然としているではないか! そして、ゆっくりと振り返るとにやりと笑う。
「くくく、二度は通じんぞ、少年!」
そう言ってぶんと腕を振るう。
「ぐあっ……!」
氷川くんはその一撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられ血を吐いた。どさりと床に倒れ伏す。
う、嘘だ……。氷川くんはスポーツ万能、格闘技にも秀でていて並大抵の相手では敵わないはずなのに……!! そんな彼がこうも簡単にやられてしまうなんて!! 私はあまりの衝撃に言葉を失ってしまう。出てくるのは意味不明の呻き声だけだ。
「さあ、来るんだ。と言っても大人しく来てくれそうにないな。仕方ない、痛い目に合わせてからにするか……」
そう言って怪人は腕を振り上げる! 私は動くことも出来ずにただその一撃を待つ……。
「新部さん!!」
しかし、再び助けが来た。呆然と吹き飛ばされた氷川くんの方を見ていた香取みうが素早くこちらに駆け寄り、私を押し飛ばしたのだ。
ゴッシャアアアン!!
怪人のチョップが床に叩き込まれる。
「きゃああ!?」
私は悲鳴を上げながら、ゴロゴロと床の上を転がった。
「あ、危なかった……! 大丈夫、新部さん?」
香取さんが私に手を差し伸べてくれる。私は彼女に目をやりハッと気が付いた、彼女の額からつつっと血が流れていたのだ! さっき私を庇った時に出来た傷に違いない!
「か、香取さん……なんで私を……?」
私は彼女をシャイニーフェニックスだと疑い追い詰めた、今回の件だって元はと言えば私が原因なのだ。それなのにどうして……? 彼女は私の問いかけに対して、当たり前のように言った。
「友達を助けるのは、当たり前でしょ!?」
少しだけ怒ったような口調だ。何を馬鹿なことを言ってるの? とでも言いたげな表情である。そして、そんな彼女の言葉に胸が熱くなるのを感じた。同時に自分が情けなく、より醜く感じてしまう。私は、この子を、こんなに良い子を疑っていたのだと思うと涙がこみ上げてくるのだった。
「ごめん、なさい……。ごめんなさい……私、あなたの事を……」
だけど、だけど……この期に及んで私は思ってしまう。香取さんはシャイニーフェニックスだ、間違いない……と。
だって、彼女はあまりにも正義の味方過ぎるのだもの……。
「くくく、美しい友情というやつかな、流石はシャイニーフェニックスと言うべきかな」
「私はシャイニーフェニックスじゃないって言ってるでしょ!」
怪人に言い返す香取さんを見て私は考える。香取さんはどうしても正体を明かせないんだ、理由はもうどうでもいい、おそらくさっきの氷川くんの推測が限りなく正解に近いのだろうし。
仮に香取さんがシャイニーフェニックスだと確定したとしても、もう私にはそれを告発する気はない。だけど、それを言ったところで香取さんはきっと変身はしないだろう。
おそらく他人に知られたらおしまい、そう考えているはずだから。
しかし、次に私の耳に飛び込んできた声がそんな考えを全て吹き飛ばした。
「待て!」
私が! 怪人が! 壁に叩きつけられたままの氷川くんが! そして香取さんがその声の方に顔を向ける。
そこには一人の少女が立っていた。
ピンク色のロングヘアー、白と赤を基調としたフリル付きのドレスのようなコスチューム。
顔立ちは香取さんそっくりだ、だから疑ったのだけど……。
香取さんを除くその場の全員が、香取さんとその人物を交互に見つめる。
う、嘘でしょ……? 何もかも、私の勘違いだった……の?
「き、貴様、何者だ!?」
怪人が叫んだ、幽霊でも見たかのような表情である。私だってそうだ、というか氷川くんもそのはずだ。この事態に驚いてないのは香取さんただ一人である。
ともかく、その人物は少し困ったような、そしてどこか恥ずかしそうな表情で名乗りを上げた。
「え、えーと、転生の炎は悪を……えーと、焼き尽くす業火だっけ? と、とにかくシャイニーフェニックス参上! さあ、ボクが来たからにはお前たちの好きにはさせないぞ!」
……彼女って一人称ボクだったけ? というか、いつもはもっとスラスラと名乗りを上げてなかった? ポーズもちょっと違う気がするし……。
しかし、その顔、声、それは紛れもなく、香取さんの変身した姿だと思われていた、シャイニーフェニックスその人だったのである。
お読みいただきありがとうございました。
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