第28話 胃の痛い日々が続きます……
私の名前は新部文乃。
誰!? 『しんぶぶんの』とか言ってるのは!! 『にいべあやの』! 私の名前は『にいべあやの』よ! 今度間違えたら承知しないからね!?
ともかく、この秋桜学園新聞部のホープ、それがこの私。
そんな私が今追っているのは、紗印市が誇るスーパーヒロイン・シャイニーフェニックスの正体だ。
思いがけず聞いてしまった氷川翔平くんと香取みうの会話、そこで得た情報を元に調査した結果、私は確信していた。シャイニーフェニックスは、間違いなく香取みうだと。
大手マスコミ、ネット、ありとあらゆる情報機関が調査してもその正体を掴めなかった謎の存在シャイニーフェニックス。私がそれを突き止めたとなれば一躍有名人! 新部文乃の名は日本中……いや、世界中に知れ渡り、将来はジャーナリストとして大成功間違いなしだわ……!
それだけじゃない。香取みうがシャイニーフェニックスということはつまり彼女は普通の人間ではないということだ。つまり氷川くんとは釣り合わないという事!
彼女の正体を暴くことさえできれば、氷川くんと香取みうの仲を引き裂くこともできるかもしれないという訳だ。
……そう、私は氷川くんの事が好きだ。カッコ良くて優しくて、頭もよくてスポーツ万能。好きにならない方がおかしいくらいだわ!
だけど、彼には香取みうという幼馴染の女の子がいた。お互いに否定し合ってるけど、どう見ても相思相愛、傍から見てもお似合いの二人だった。だから諦めていたんだけど……。
(でも、もう我慢しないわ)
このスクープがあればきっと彼は香取みうに幻滅し、私の事を見てくれるようになるはずよ! ……そして、いつかは私が彼の隣に……!
そんな黒い感情と記者としての使命感に突き動かされあの記事を書いたのだけれど、他ならぬ氷川くんから注意を受けてしまった……。
まあ、先走りが過ぎたのは確かだけど、私はあの記事には自信を持っている。香取みうがシャイニーフェニックス、これは間違いない事実だと確信しているからだ。
(とはいえ、確たる証拠がないのも事実……。さあて、どうやって攻めていこうかしら?)
とりあえずは香取みうの監視をしてみることにしましょう。必ずボロを出させてみせるんだから!!
*
新部文乃がそんな決意に燃えている頃、香取みうは――
*
休み時間になり、私は机の上に肘を突きつつぼんやりとしていた。
(それにしても、必ず証拠を見つけ出してみせるって、新部さん一体どうするつもりなんだろう……?)
脳裏に浮かぶのは朝の事だ。私は新部さんについてはあまり知らないけれど、その噂だけは聞いている。
こうと決めたら絶対に引き下がらない、猪突猛進タイプの女の子だって事を。
そんな彼女に目を付けられてしまった。果たして彼女はどんな手段で私をシャイニーフェニックスと認めさせるつもりなのだろう?
私はたとえ何を言われてもされても、自分がシャイニーフェニックスだと公言するつもりはないけど……これから自分に対して行われるであろう激しい追及を思うと、頭が痛くなった。
その時だ、私は自分に向けられている視線を感じた。
振り返ると、教室のそこかしこから私に視線が集まっているのがわかった。
(やっぱりみんな私がシャイニーフェニックスじゃないかって思ってるんだ……!)
そんな視線に晒されていると、なんだか胸がチクチクしてきた気がしたので、慌てて顔を伏せたのだった……。
(もう……いい加減にしてよぉ……。落ち着くどころかどんどん酷くなってくるじゃない……!)
さらに次の休み時間、私は机の上で非常に居心地の悪い時間を過ごしていた……。
「あの子がシャイニーフェニックスなのか? 確かに似てるような気がしないでもないけど……」
「あの子って初等部の頃からヒーロー好きで有名な子でしょ、ヒーローが好きすぎて自分でヒーローやりだしちゃったのかしら?」
そんな声が廊下から漏れ聞こえてくる。とうとう他クラスから私の事を『見物』にやってくる生徒が出始めたのだ。
クラスメイトの注目を浴びるだけでも辛いのに、こんな風に他のクラスの子たちからまで見世物扱いされるなんて耐えられない! 注目されるにしたって可愛いと評判になるとかなら全然いいんだけど、これじゃあ世界に一匹しかいない珍しい動物みたいじゃん!!
「シャイニーフェニックスってことは宇宙人なのかな? どー見ても普通の人間にしか見えないけど……」
「わからんぞ、皮を剥げば中からエイリアンが出てくるかもしれん!」
またヒソヒソと話し声が聞こえてくる……もうやめてよ……!
というか何よその想像は! 確かに私はシャイニーフェニックスだけど、れっきとした地球人よ! SPスーツを纏ってスーパーパワーを得ているだけなんだから……!
とはいえこれもある意味自業自得かも知れない。シャイニーフェニックスは宇宙人ということにしておけば地球人香取みうがその正体だと考える人が出てくる可能性を減らせると考えて一切否定をしなかったんだから……。
「ちょっとちょっとあんたたち、みうは見世物じゃないのよ? あんなデタラメ記事を信じてわざわざ他のクラスから見物に来てんじゃないわよ」
私が心の中で頭を抱える中、智子が彼らに対して注意してくれた。
ありがたいと思う反面、やっぱり智子を騙してるような気分になり胸が痛くなる。
「あら? デタラメ記事と決めつけるのはどうかしら? 私は100%信じてるわけではないけど、同時に完全なデタラメだとも思っていないわ?」
「そうだぜ、デタラメかどうかを確かめるためにも、俺たちは様子を見に来たんだ。別に休み時間に他のクラスの様子を見に来ちゃいけないなんてルールはないんだ、注意される筋合いはないぜ?」
そう反論してくる彼らに智子は、「むぅ……」と怯む。しかしすぐに気を取り直すと、「だけど、みうは迷惑してるのよ? 人に迷惑を掛けるような事をしちゃダメでしょ!」と言い返した。
そして私の方に顔を向けると、「みうも嫌なら嫌だとハッキリ言った方がいいわよ」と言ってきた。
……困った。どう答えよう? 確かに迷惑と言えば迷惑だし嫌だと言えば嫌なのだけど、私は彼らの気持ちがわからないではないのだ。それに、自分が本当はシャイニーフェニックスなのにそれを隠しているという後ろ暗さがあるせいで、強く拒否できないというのもある。
「え、えーと……。ま、まあ嫌というかなんというか……。とりあえずこそこそ様子を伺うようなことはしないで欲しいかな~なんて思ったり思わなかったりするんだけど……」
結局曖昧な返事をしてしまう私だった。そんな私を見て智子がため息をつく。
「はぁ……まったくもう! そんなんだからつけ込まれるのよ!? 少しは毅然とした態度で断りなさいって!」
そんなこと言われても私は波風を立てたくないんだよ~。それに下手なことを言えばより私のシャイニーフェニックス疑惑が深まるかもしれないしさぁ……。
「ま、まあまあ智子。どうせみんなすぐ飽きるって。私みたいな特にとりえも何にもないような女の子を見ててもつまらないだけだしさ」
そう言って何とかこの場をおさめようとするものの、智子は納得いかない様子だった。しかしこれ以上騒ぎを大きくするのもまずいと思ったのか、「……わかったわ」と渋々頷いてくれたのだった。
そして、この騒ぎのきっかけ私の事を見物に来ていた他のクラスの子たちはと言えば、バツが悪くなったのか自分たちのクラスへと戻って行った。
とりあえずは良かった……。毅然とした態度でとは言い難いけど、一応はこそこそ覗き見染みた真似をされることに関しては注意できたしこれで良しとしよう。あとは休み時間が終わるまで大人しくしてれば大丈夫よね? そう思っていたのだけど、事態はより深刻さを増していくことになるのだった……。
(勘弁して……)
あれから3日ほどが経った……。
確かに私に対する、こそこそとした覗き見染みた行為は収まった。そこまではよかったのだけど……。
「あ、あの! 私シャイニーフェニックスの大ファンなんです、頑張ってください!!」
そう言って目をキラキラさせながら私に向かって手を差し伸べてくる初等部低学年の女の子。
騒ぎは収まるどころか学園中に広がり、今や別学年の生徒にまで知れ渡ってしまっていたのだ。しかもそのほとんどが私の事を本物のシャイニーフェニックスだと信じて疑わない様子で、こうして握手を求めてくる子まで現れる始末だ。
「え、ええと……。他の子にも何度も言ってるんだけどね、私はシャイニーフェニックスじゃないんだよ……。だからさ、もうこんな真似するのはやめて欲しいんだけど……」
私がそう説明するも、目の前の少女はなおさら顔を輝かせてこんなことを言ってくる。
「か、カッコいいです、正体を隠して平和を守っているなんて!」
ダメだこりゃ……。話が通じない……。だけどこの子の言ってることはある意味事実なので質が悪い。こう言われると私は内心嬉しくて嬉しくてうっかりニヤけてしまいそうになるのだが、それをぐっと堪えて何とか平静を保つことに全力を注ぐのだった。
だけどこの子みたいなタイプは全然いいのだ、シャイニーフェニックスであるという肝心な部分は否定しつつも笑顔で答えてあげれば満足して帰ってくれるのだから。
対応に困るのは……。
「シャイニーフェニックスさん、ぜひ僕にその戦闘技術をご教授願いたい!」
そう頭を下げてくるのは空手部の主将の男子生徒だ。
「だから、私はシャイニーフェニックスじゃないの、あなたに何かを教えたりとかは出来ないの……」
私はそう言って断ろうとするものの、相手はなかなか引き下がらない。それどころかどんどんこちらに詰め寄ってくる。
「僕はもっと強くなりたい! シャイニーフェニックスさんに学べばきっと強くなれると思うんだ!!」
彼は真剣な眼差しでこちらを見つめてくるが、正直言って私にどうしろと言うのか? そんな私の困惑をよそに彼がさらに言葉を続けてきた。
「頼むよ、この通り……!」
「シャイニーフェニックス、勝負しろ!」
空手部主将の言葉を遮り教室に飛び込んできた厳めしい顔をした男子生徒が私に指を突き付け叫ぶ。
その生徒には見覚えがある、秋桜学園10大変人の一人、『喧嘩屋』の異名を持つ少年だ。
「しょしょしょ、勝負って、私が!? なんで!? というか私、シャイニーフェニックスじゃないし!!」
(いやいやいやいや! 勘弁して欲しいんだけど!!)
私は慌てて拒否しようとするも、向こうはすっかりその気になっているようで、突き付けた指先を私の鼻にくっつけるような勢いで言ってくる。
「おれは強い相手と戦わずにはいられないんだ、お前だってそうだろ? シャイニーフェニックスさんよぉ!」
「そ、そんなこと言われても……」
私は困惑して思わず椅子に座ったまま上体を逸らす。
別に私は戦いが好きなわけじゃない。というかむしろ嫌いな方だ。ただ悪い奴らが許せないから戦うだけだ。特に悪人でもない普通の人に危害を加えるつもりはないし、ましてや喧嘩なんてもってのほかだ。そもそも変身時ならともかく、素の私じゃ喧嘩なんてしたところで勝ち目はないだろうし……。
だけど相手はそんなことはお構いなしといった様子でなおも迫ってくる。そしてついには私の手を取り強引に立ち上がらせようとする。
「ちょ、ちょっと痛いってば!?」
「問答無用! 戦う気がないのならその気にさせてやる!!」
ひいいいっ! 何するつもりよぉ! もう嫌だぁ!! 誰か何とかしてぇ!!
そんな私の心の声が通じたのか、少年の腕が横から伸びてきた手に掴まれる。それはさっき彼に押しのけられた空手部主将の少年の伸ばした腕だった。
「やめたまえ! 嫌がってるじゃないか!! それに、シャイニーフェニックスさんはこの僕に教えてくれると約束してくれたんだぞ!? それを邪魔するのは許さないぞ!」
そう言って空手部の主将君は『喧嘩屋』の少年を睨みつける。
(そんな約束してないし……!)
もうめちゃくちゃだよ! 空手部主将の方がマシとは言えどっちも私にとっては迷惑極まりないよ……。
「面白い! シャイニーフェニックスの前にお前を叩きのめしてやる!」
「暴力は嫌いだが、降りかかる火の粉は払わねばならん、来い!!」
もう好きにして……。私は諦めの境地で睨み合う彼らを見つめるしかなかった……。
「ぐっ!」
「むっ……」
まさに二人がぶつかり合う寸前、両者ともにうめき声を上げる。
突き出された二人の腕を誰かが掴んでいたのだ。
「人のクラスで喧嘩してんじゃねー! 大迷惑なんだよ!! みうをシャイニーフェニックスだと疑ったり覗きに来たりするのまではギリギリで許すけどよ、迷惑かけるような真似はすんなって何度も言ってるだろうが!?」
そう彼らに怒鳴りつけるのは翔くんだった。
翔くんは騒動のきっかけとなったあの記事が出た日以来、私に対してちょっかいを掛けるどころか話しかけることすらなくなっていた。
おそらく自分がすべての発端であることを気に病んでいるのだろうと思う。
そんな彼が今こうして私の為に怒ってくれていることが嬉しかったし、同時に申し訳なくもあった。
(ごめんね……)私は心の中で謝る。
その間にも、彼らの話は進む。翔くんに言われて反省したのか、空手部主将君も『喧嘩屋』君も存外素直に拳を引くと恥ずかしそうな顔をしながら帰って行った。
「あ、あの翔くん……。ありがとう……」
「別に、こんなのなんでもねーよ……」
おずおずとお礼を言う私に翔くんはぶっきらぼうに答えると、自分の席へと戻りどっかりと座り込む。そしてそのまま黙り込んでしまったので私もそれ以上何も言えず黙ってしまうのだった。
とまあ、こんな感じで翔くんや智子のフォローもありつつ、胃がキリキリ痛む生活を送る私なんだけど、やっぱり一番私の頭を悩ませてるのは、新部さんの存在だった。
彼女はあれ以来私に対して何もしかけてこない。しかし、教室で、廊下で、トイレに至るまで、ありとあらゆる場所で彼女からの視線を感じるのだ(流石に学校外まで来ることはなかったけど)。それもかなり粘着質な視線だ。
おそらく彼女は待っているのだ、私がボロを出すのを。シャイニーフェニックスとしての本性を現すその瞬間を虎視眈々と狙っているのだと思う。だからこうして隙あらば私を監視しているに違いないんだ……!
(うぅ~っ! もう勘弁してよぉ~!)
そんな彼女の執念深さに辟易とする日々が続く中、私の方も何もしなかったわけじゃない。ルビィとも何度も相談し、なんとかシャイニーフェニックスと私を別人だと認識させる方法はないものかと知恵を振り絞った。
だけど、どうしてもいい方法は思い浮かばなかった。
合成技術を使って、シャイニーフェニックスと私が同時に映った写真を作ってばら撒くとかの現実的なものから、私に分身の術を習得させるとか言う非現実的な方法まで色々考えたけど、前者は新聞部の新部さんなら合成と見抜いてしまうだろうとの理由で却下、後者はバカバカしすぎて話にならないということでこれもボツとなったのだった。
結局私は頭を抱えながら日々を過ごしていたのだった……。
ああ……このままじゃ私、胃に穴でも開くかも……。正義のスーパーヒロインが悪との戦いじゃなくてストレスで倒れるなんて笑い話にすらならないよぅ……。誰か助けてぇぇぇ……!
嘆く私はまだ気づいていなかった、本当に恐れるべき相手は、別のところにいたということに……。
お読みいただきありがとうございました。
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