第26話 この状況どうやって乗り切ればいいんでしょう!?
時間が……止まった……。
そう錯覚してしまいそうになるほど、今の私は完全に硬直していた……。
今翔くんは何を言ったの? 私がシャイニーフェニックスだって……?
まさか、バレた……!? 違う! そんなことあるはずない!! 私は変身中も、そうじゃない時も、いつだって最大限注意を払った上で行動しているもの! だから大丈夫っ! 絶対にバレたりしないはずなんだから……!!
(落ち着け、落ち着くのよ私……!)
私は必死に自分に言い聞かせた。そして何とか平静を取り戻すことに成功すると、ゆっくりと口を開く。
「な、なあに……? 変なこと聞いたりして……。な、なーんでそんな事を思っちゃったりなんかしちゃったりしたのかにゃー?」
自分でも驚くくらい動揺が声に出てしまっていたけど、それでも必死になって誤魔化してみることにした。だけど、そんな私の努力虚しく翔くんはますます険しい顔になってしまったのだった――。
「そうだな。いきなり何を言い出すのかと思うのは当然だな。実はな、昨日駅前での怪人とシャイニーフェニックスの戦いがあっただろ?」
翔くんは私の言葉を受けて語り出した。
昨日の戦い……あの探偵気取りのミケホームズとかいう怪人との戦いの事だろう。
そう言えば……確かあの時怪人が出てくる前、駅前の商店街で翔くんの姿を見かけたんだっけ……。
私はとりあえずコクリと頷いて見せる。あの件は『駅前に怪人出現! シャイニーフェニックスに撃退される!!』とニュースになっていたし、ここで知らないふりをするのは不自然だと思ったからだ……。
「オレはその戦いを見てたんだけど、戦いが終わった後、シャイニーフェニックスと話がしたくて彼女の事を追いかけちまったんだ」
そんな……!? 戦いを翔くんが見ていたことには全く気づかなかった……だけど今思えばそれは想定しておくべきだった、翔くんが駅前商店街にいたこと自体は確認していたのだから……!
とはいえ、戦いを見られただけならまだしも、翔くんが私と話をしたくてその姿を追いかけて来てたなんて……そんなことは想像もしてなかった。
「それでな、公園に着陸した後彼女はトイレに入って行ったんだ。その直後に出てきたのが……お前だった……」
真正面から鋭い視線をぶつけながら言ってくる翔くん。
私の頭は完全に真っ白になってしまうけど、言葉はしっかりと理解できていた。
(見られた見られた見られた見られた見られちゃった!)
私はあの時、トイレで変身解除をしてからすぐに外に出た、つまりトイレの中には10秒もいなかったということになる。
翔くん視点で見ればシャイニーフェニックスがトイレに入った直後に私――香取みうが何食わぬ顔で出て来たことになるのだ!
「状況的にお前とシャイニーフェニックスがトイレの中で顔を合わせないはずがない。だけど、お前も、トイレに入ったはずのシャイニーフェニックスも、声の一つもあげなかっただろ? だからオレはおかしいと思ったんだよ」
翔くんの指摘は的を射ていた。私とシャイニーフェニックスが別人だったとしたら、いきなりトイレに入ってきたスーパーヒロインに私は驚きの声を上げていただろう。
彼はその不自然さを見逃さなかったというわけだ……。
(ど、どうしよう、どうすればいいの!?)
冷静に状況を分析する自分とパニックに陥っている自分が心の中で暴れ回り、私は何も言葉を発せない。
そんな私を追い詰めるように、翔くんはさらに言葉を続ける。
「それに、やっぱりお前とシャイニーフェニックスって顔そっくりだしさ、お前のペットのあの鳥、ルーちゃんって言ったっけ? あいつとシャイニーフェニックスが連れてる鳥もどこか似てる、シャイニーフェニックスが鳥と行動を共にするようになった時期とお前が鳥を飼いだした時期も見事に一致してるんだ」
翔くんの口調は淡々としていた、それこそ事件の推理を披露し犯人を追い詰めていく探偵のように彼は私の逃げ道を一つ一つ塞いでいくのだ――!
「なあ、教えてくれよ、お前なんだろ? お前はシャイニーフェニックスなんだ、そうだよな?」
もはや言い逃れできない状況に追い込まれた私に、最後の一撃とばかりに言葉をぶつけてくる。
『みうちゃん。シャイニーフェニックスの正体が君であることは決して他人に知られてはいけないよ。正体がバレてしまえば君の周囲の人たちが狙われる可能性が非常に高い。それに、宇宙戦士やS.P.Oのことを知らない人たちにとってはシャイニーフェニックスは非常に奇異な存在なんだ。大騒ぎになるのは確実だからね』
あの日、シャイニーフェニックスになった後にシュナイダーさんから言われた言葉が私の中に響く……。
わかってるつもりだった、だから今まで細心の注意を払いながら生活してきたつもりだし、これからもそうするつもりだったのに……!
(うかつ、うかつ! 我ながらなんてうかつさだったの! こういうドジしてるからダメなんだよ!!)
頭の中はもうパニック状態で何をすれば良いのか全くわからない状態だったけど、ここで黙り込んでしまったら肯定したも同然だ。
「い、今翔くんの言った事って、ほとんど『状況証拠』って奴ばっかりだよね……。確実な証拠なんて一つもないんじゃなあい……?」
言いながら自分でこれは完全に『犯人』の言い分そのものだと思ってしまう。だけど、今の私にはこれが精一杯だった……。
「み、見た目とかが似てるのはただの他人の空似でしょ? ルーちゃんとルビィに至っては翼の色が違うじゃん。翔くんは私がシャイニーフェニックスだって決めつけてるから、ただの偶然の一致が怪しく見えちゃうんだよ……!」
「確かにお前の言う通りかもな……」
翔くんが静かに頷くのを見て私はホッと胸を撫で下ろす――しかしそれは束の間のことだった!
「だが、トイレの一件はどうなんだ? シャイニーフェニックスが入った直後にお前が出てきた」
「し、知らないよっ! 確かに私は公園のトイレには行ったよ? だけど、シャイニーフェニックスなんて見てないの! ほ、ほらあれじゃない? シャイニーフェニックスがトイレに入ったように見えたのは翔くんの見間違いで、実は彼女はトイレには入らなかったんだよ! それなら私がシャイニーフェニックスと鉢合わせしなかったのも納得できるよね!?」
苦しい……自分でもあまりにも苦しい言い訳だと思う。だけど、これを否定することは出来ないはずだ。
翔くんも男の子、変態扱いされるリスクがある以上女子トイレの入り口をそこまで凝視していたわけじゃないだろう。
なんなら、シャイニーフェニックス状態の私がトイレに入った段階で少しぐらい目を逸らしたかもしれないのだ。
(大丈夫、きっと誤魔化せるはず……!)
そう自分に言い聞かせながら翔くんと目を合わせていると、彼は再び口を開いた。
「確かに……その可能性がないことも、ないな……」
よしっ、ほんの少しだけでも彼の中の自分の事を灰色に近づけることが出来た! 99%黒だったのが95%の黒になった程度でしかないかもだけど、後はもう押し切るしか無いんだ……!! 私は最後の力を振り絞って畳み掛ける!!
「大体翔くんだって知ってるでしょ! 私がドジで間抜けで弱虫で、運動も勉強も苦手だってことを!! そんな私がシャイニーフェニックスみたいな正義のスーパーヒロインになれるわけないじゃん!!」
今更ながらに私は気づいていた。今朝から感じていた翔くんの私を観察するようなあの視線、あれは恐らく私がシャイニーフェニックスとしてのボロを出さないかどうかを見ていたのだ。
(素の私がダメダメでよかった……いや、よくはないけど今はその事に感謝するよ……)
いくら観察されたところで、変身しない限りはシャイニーフェニックスとして力なんて出せないのでそういう意味でボロが出ることはない、そこは安心点だ。
……我ながら情けないけど……。
「ま、まあ。確かにシャイニーフェニックスとお前はそこに関しては全然違うが……」
翔くんは僅かに怯むも、気を取り直したように続ける。
「だけど、それは演技で説明できることだ。それこそ証拠にはならない」
うっ……まるでさっきの言葉をそっくりそのまま返されたみたいだ。
言葉に詰まる私に翔くんは小さなため息を吐く。そして、今度はどこか泣きそうな顔で言う。
「なあ、みう。本当の事を教えてくれよ、本当はお前がシャイニーフェニックスなんだろ!? オレにだけは本当の事を言ってくれてもいいじゃないか! オレたち幼馴染だろ!? オレの事信用できないか? 他人になんて絶対に言いやしない、それどころか真実さえ知れたらオレはもう二度とこの件に関しては口にしないって約束するから……!」
(しょ、翔くん……!)
彼の悲痛な叫びを聞いて私は胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼は本当に私のことを心配してくれているんだ。そう思うとなんだか申し訳ない気持ちになってきてしまう。
でも、ダメなんだ……。翔くんに話せば、彼の口がどんなに固くても漏れる可能性がある。
たとえば、私がシャイニーフェニックスとして戦ってる時、ピンチに陥ったとしてその時彼は私の名を呼んでしまうかもしれないんだ。そうすれば当然その声は周囲に聞こえちゃうし、そうなるともうその時点でアウトだ。
それに、翔くんがシャイニーフェニックスの正体を知っているという噂が広がる可能性だって捨てきれない。
そうなったら翔くんを詰問する輩も現れるだろう。そして、その中にはギーガーク帝国の連中もいるかもしれない。
翔くんが捕らわれ、拷問を受けて私の正体を吐かされるような事態になったらそれこそ一大事だ!
そしてもう一つ、話せばきっと私と翔くんの関係は変わってしまう。
秘密を共有するということは、必然的に今より深い仲に発展してしまうということだ。
私は、翔くんとの関係を変えたくない……。
いつか変わらなければいけない日が来るとしても、それはきっとまだ先の話なんだ……!
(だからお願い、もうこれ以上何も聞かないで……!!)
そう心の中で叫びながら、私は精一杯の笑顔を浮かべて言うのだった。
「しょ、翔くんこそさー。幼馴染がこんなに必死に否定してるのに、それを信じてくれないなんて酷いよー?」
自分でもわかるくらいぎこちない笑顔だったと思うけれど、それでもなんとか笑ってみせることができたはずだ! そんな私の様子を見た彼は少し困ったように眉を下げると、小さくため息を吐いた後言った。
「……本当に、違うんだな……? オレはお前を信じていいんだな? お前はオレの知ってる、オレの幼馴染の香取みうなんだな? シャイニーフェニックスなんていう別人じゃないんだな?」
翔くん……そっか、彼は私がシャイニーフェニックスという別人に変わってしまってるかもしれないと思ってるんだ。
それは違うよ翔くん、シャイニーフェニックスと香取みうは別人じゃないの、両方確かに私なの。だから安心していいんだよ?
もちろん、そう言うことは出来ないけど……結局嘘を吐くしかないのだけど……。
「うん。私は香取みう。翔くんの幼馴染。ヒーロー大好きのドジで間抜けなただの女の子、だよ」
そう言って精一杯の笑顔を浮かべてみせるのだった。
「そ、そうか。そうだよな……! 変なこと聞いて悪かった、忘れてくれ!」
そう言うと、翔くんは安心したようにほっと胸を撫で下ろす仕草をした。
ズキンと胸が痛むけど、翔くんに真実を告げてそれで彼が危険に晒された時の胸の痛みを想像すれば無視できるほど些細なものだと思い直すことにした。
(大丈夫、これでいいんだ……これで良いんだよ……っ!)
「悪かったな、これから帰るとこだったのに引き留めたりして。この埋め合わせは後でするよ。それじゃオレは部活の時間だしもう行くぜ。また明日な……」
そう言って私に背を向けて歩いて行く翔くんの背中に向けて小さく、「ごめん」と呟くと私もその場を後にする。
よかった……これでなんとか誤魔化せた……。
けど、翔くんは自分の中の疑いを消したわけじゃないだろう。それに、今後似たような事があるかもしれない、ルビィに相談してなんとか対策を考えないと……。
そんな事を考えながら、私は家路につくのだった……。
*
氷川翔平と香取みうが去った校舎裏、近くの茂みががさがさと揺れると一人の少女がそこから姿を現した。
「これは……とんっでもないスクープよ……!!」
興奮気味に言う少女の片手にはカメラ、もう片方の手にはICレコーダーが握られていた。
翔平を誤魔化せたことに安堵のため息を吐くみうは気づいていない、これはこれから吹き荒れる嵐の前触れに過ぎぬことを……。
お読みいただきありがとうございました。
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